エントリエ編集長エイミーが気になる人を訪ねて、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第4回目のゲストは、多摩地域の情報誌「たまら・び」をはじめ書籍の制作や自費出版をおこなうけやき出版の代表 小崎奈央子さんです。
出版社の枠を越え、
市民とまちのハブを目指す
小崎奈央子(おざき なおこ)さん。小さな頃から本が好きだったことから、編集者としての道を模索し大学卒業後、出版社に勤務。その後、2人の子どもに恵まれ専業主婦や雑貨店でのアルバイトなどを経て、けやき出版に編集者として入社。2015年7月にけやき出版の社長に就任。出版社の顔である地域の情報誌「季刊誌 たまら・び」は100号を迎えた。
編集、子育て、接客業を経て、けやき出版の社長に
もともとは編集者だったんですよね。
小崎さん:本が好きだったので、「本に関わる仕事がしたい!」というのは最初から考えていたのですが……。実は図書館司書を目指していた時期もあるんです。でも周りから「あなたは動き続けていないと死んじゃうんじゃないか」と反対されて(笑)。その後、編集という形で本に関わろうと片っ端から出版社を受け、編集者として働きはじめました。
それからは、ずっと編集のお仕事一本ですか?
小崎さん:いえ、子どもを早く生んだこともあり一度離職して専業主婦も体験しているのですが、ぜんぜん合わなくて(笑)。編集と子育ての両立が難しさも感じていたので、興味のあることをやってみようと雑貨屋や映画館でのアルバイト、派遣社員も経験しました。でも、やっぱり編集をやりたいなということで、12年前にけやき出版を見つけて中途入社しました。
ブランクもあったんですね。
小崎さん:はい。それでも、全部今に繋がりますよね。育児経験のおかげで今は、働く女性のためにというお話をする機会をいただくこともありますし。例えば、ネガティブな体験があっても、「嫌だな」って思って終わるのではなくて「この経験を活かして次からこういうところを改善しよう」と考えれば自分のためになるっていう考え方なのかな……。
見習いたいです……!
多摩エリアに根ざした出版社の社長としてお仕事をしていて良かったな、と思うのはどんなときですか?
小崎さん:「よかったな」しかないですね。自分の中ではすでに仕事という感覚ですらなく、ライフワークになっています。だから、個人的にも地域の活動をしますし、もちろんそれが、仕事に繋がったらいいなっていうビジネス的な視野もありますが。お仕着せにならないように気をつけてはいるんだけど、こんなに多摩が好きになるとは思わなかったなって(笑)。
経営者となって責任も増えて大変なこともありますが、時間的に自由になれた部分もあり、「自分で選択できる」という自由はありがたいなって思っています。編集者の頃は、常に実務があって、体力的な厳しさも感じていましたが、大変さの後には必ず思い描くものが本として形になるという楽しさがあり、使っているパワーが違いますね……。
思い描くけやき出版の姿
小崎さん:インターネットもなかった時代でこそ、多摩エリアに特化したガイドブックや情報誌を制作する出版社として愛されてきた側面もあるのですが……。
今現在も、2020年のオリンピックに向けて観光誘致のためのガイドブックを作成するという動きは活発ではあるんですよね。もちろん、そういうお仕事のお話をいただいた時に、いままでの蓄積がある私たちにとってはやっぱり強みでもあります。でも、それが表面的な情報だけを掲載して、数で勝負するというモノだったとき、これが本当に私たちのやりたいことなのかな?と疑問に思いはじめて。
そうではなくて、お店や人それぞれにストーリーや思いがあることを、ひとつひとつ丁寧に情報発信する会社にしなければなっていうのが、私が最近気づけたことなんです。
小崎さん:それこそ、エントリエのリノベーションと同じだなって思って。残す柱は残して思いをつなげつつも、これから住み続ける人がより豊かな暮らしをするには?を考えていくというか。今まであるものを生かしつつ、今の時代にあうものにより良い形に編集するのが課題ですね。
そうなんです!暮らしって、大切ですよね。
小崎さん:そうですね。だから、海外や市外に住んでいる人を多摩に呼び込もうとする必要性も感じる中で、地域に寄り添う私たちにとっては、今現在、多摩に暮らしている人たちの生活をより豊かにする方が大事なんじゃないのかなって、思いはじめているところなんですね。
今ここに住んでいる人たちがまちのことを知っているか、好きでいられるか。他にも、多摩エリアに住んでいても仕事は23区に通うという人も結構いて、生活と仕事が離れているのを感じます。
だから、もっと、今住んでいる人に対してもまちの中を見せたいって思っているんですね。出版社ではあるけれど、本作りだけではなく多摩のことなら全部やりたいし、出版社っていう枠は飛び出したいと思っています。
今後の展望ですね。
小崎さん:そうですね。今まさに個人的な地域の活動として、シビックプライド*をコンセプトに「まちの種」という、市民が自分の町を好きになって、自分たちの町を作ろうよ、という有志のプロジェクトを立ち上げたんですね。
(*市民がまちに対して誇りをもち自分自身が町を作る一員だという、19世紀のイギリスから広まった動きや概念)
そういう地域のプロジェクトをしていて思うのは、個々では「こういうことをやりたい」、「もっとこうなればいいな」と考えていることもあるのですが、やっぱりどうしてもその一つ一つがつながらなくて。いずれは、まちのなかにあるたくさんの可能性を繋げて、そういう人たちのやりたいことを情報発信したり、個人または企業をつなげるハブになるようなきっかけをけやき出版が担いたいなと……。今は、構想を企てているところです!
けやき出版から発行の『夏水組インテリア・コレクション』(著 坂田夏水)を元に、35年以上続く会社の壁や什器を社員みんなでDIY。マスキングテープやタイル、ペンキ塗りをしました。
出版社の社長であり編集や取材のプロである小崎さんに、私が取材をするなんて、大変恐れ多いことでしたが、とても丁寧に気さくに答えていただきました。会社や地域へのあたたかい想いや、働く女性としての姿勢が、とても魅力的で憧れます。今回は久しぶりのエイミーズトーク。これからは隔週金曜日に更新していきますので、お楽しみに!!
●編集 細野 由季恵