エイミーことエントリエ編集長の鈴木 栄弥が気になる人を訪ねて、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第23回目のゲストは日本のみならずフランスでもイラストレーターとして活動しているNozomilkywayさんです!
チャンスは世界中にあるから。
追求すべきは自分のスタイル
Nozomilkyway(ノゾミルキーウェイ)さん。東京都出身。イギリスのArts University Bournemouth卒業。フリーランスのイラストレーター・アニメーターとして活動中。2018年よりフランスに拠点を移し、フランス語を学びながら活動を行う。
人やまちの光景を、個性的なタッチでシュールに描く、Nozomilkywayさん。イラストの世界にはたくさんの人々が存在し、各々の振る舞いを見せています。それらをじっくりと見ていくうちに気付かされるのは、さまざまな人が生きる世界を、優しくも客観的に見つめる彼女の視点。現在語学留学を兼ねて、フランスに拠点を移して活動するNozomilkywayさんに、どのようにして自分らしいスタイルを見つけたのか、そして海外で活動する理由についてお話しを伺いました。
イギリスの大学で見つけた、自分らしさ
「赤い椅子プロジェクト」
――空間構成がどことなく不思議で、描かれている人も特徴的。独特な色使いも魅力的ですが、今のスタイルになったのはいつからなのでしょうか?
Nozomilkywayさん:自分のスタイルを見つけられたのは、大学生の頃。イギリスの南にあるArts University Bournemouth(ボーンマス芸術大学)でアートを学ぶうちに自分らしいスタイルを見つけていきました。
――海外の美術大学へ進学をきめた理由は?
Nozomilkywayさん:小さい頃から絵を描くことやぬいぐるみづくりなどが得意で、母は美術の先生をしていたことからアートに興味があって。海外に行こうと思うようになったのは中学生の頃からかな。きっかけは当時好きだった海外ドラマの影響で、プロムに憧れがあったの(笑)。最初の動機はシンプルかもしれないけれど、留学したいという気持ちは強かった。
中学・高校と両親に何度掛け合っても「目的がないまま行くのはダメ」って言われて、なかなか行かせてもらえなかったけれど、大学受験の時に「やっぱり海外でアートを勉強したい」と本気で思って。調べてみると、海外の美術大学専門の受験予備校があることを知って、説明会に母を連れていき説得しました。そこでようやく私の頑固さに折れてくれたという感じかな。
海辺のまちボーンマスでは、クラスメイトと浜辺でピクニックをすることも。
――本気が伝わったんですね。ボーンマスではどのようなことを学びましたか?
Nozomilkywayさん:主にイラストだけど、アニメーションや立体もやった。日本の美術大学や専門学校では、イラストはグラフィックデザイン分野の中で学ぶけど、イギリスではグラフィックとファインアートの中間というポジション。「自分が何を表現したいか」を大切にするアート的な考え方も同時に学べたと思う。
――ボーンマスで学んでよかったと思うことは?
Nozomilkywayさん:アカデミックすぎないところ。ヨーロッパでは自分のスタイルやオリジナリティ、コンセプトを重視するから、やりたいことを見つけて、それを表現するために必要な技術を学んで、時には別分野の人とコラボするの。だからこそ、頭でっかちにならずに自分のスタイルを見つけられたのは良かったかな。
――これまでイラストを書いていて、どのような変化がありましたか?
Nozomilkywayさん:はじめの頃はきれいにまとまった絵を描こうとすることが多かったけど、活動を続けるうちに、きれいかどうかよりも自分が一番しっくりくる絵を描きたいと思うようになった。
――しっくりくるというのは?
Nozomilkywayさん:落書きした時に不意に出てくる絵みたいな、自分の頭の中でコラージュされたイメージを描くこと。自分が感覚で生きているから、見たものをそのままきれいに描くことに楽しみは見出せないなって。きれいじゃないけれど、面白さや色使いを感じるものが自分にとってしっくりくる絵だと思う。そうやって自分が気に入った絵がかけたときはうれしい。
インスピレーションの源は
ヨーロッパ文化と八百万の神
「お年寄りのお出かけ美術館」
――Nozomilkywayさんのイラストは、異国のエッセンスが含まれているように感じます。インスピレーションはどのように得ていますか?
Nozomilkywayさん:好きな洋書の装丁や絵本、ポーランドやチェコなど東欧のオブジェ、アートを見る。美術館も好きで、フランスで行ったところだとパリのオルセー美術館やピカソ美術館、布の博物館が面白かった。
――イラストの展覧会にも行く?
Nozomilkywayさん:私はなるべくイラスト以外の作品を見るようにしてる。他の人のイラストを見すぎると自分らしいスタイルからズレてしまうから。彫刻やクラフト、洋服も好きだから刺繍とか、他ジャンルで興味があるものを見ています。
――イラストを見ていると、人も自然も町並みも平等に見えてくるというか。存在しているけれど思考が読み取りにくくて、どこか一歩引いたような視点があるように感じます。
Nozomilkywayさん:周りからも、「絵の中にいる人が何を考えているかわからなくて、そこがあなたに似ているね」って言われる(笑)。
私にとって、八百万の神的な日本の神道の自然や命、いろんなものを大切にする考え方がしっくりきていて。人も自然も相互に影響しあうから、生きるために生き物を殺したらちゃんと供養するような、客観的でありながら自己中心的じゃない考え方が好き。それに、神社の朱色も好き。
「福祉用具サービス計画書の意義」は、みんなで計画書を育てるように完成させる様子をイメージ。
――作業をしているときに大切にしていることは?
Nozomilkywayさん:身体的な感覚。絵だけ描いていると飽きてきちゃうから、いろいろな媒体で手を動かすようにしている。媒体はそのときによるけど、裁縫、粘土、仮面……どこか人間らしさを感じられる作業が好き。例えば銅版画なら、ローラーを転がしてインクの匂いを感じながら刷るけど、そんな一昔前の手仕事が自分にとって自然な作業。逆にパソコン作業は苦手だな。
ネットを使っていなかった小中高生時代は本を読んでいたのに、最近は本を読む集中力が低下したのを実感していて。資本主義社会によってテクノロジーが進化して生活も便利になったけれど、その分人間の本来の能力も衰えているな、と。そこで生きる意味を考えたときに、自分しかできないのは、「つくる」ことだなって改めて思う。
――アウトプットをするときはどこで?
Nozomilkywayさん:今は日本の福祉関係の雑誌などでイラストを描いていて、遠隔でも仕事ができるようにデジタルで描いてる。テーマに合わせてアイデア出しをするけれど、そのときは近くの好きなカフェへ行くことが多いかな。
お茶する時間ってPCも見ていないし、考え事に集中できる。知らない人を見ている時間もボーっとしている時間も大切で、そうしているとふとアイデアがと降りてくるんだよね。そしたら家に帰って作業、というスタイル。
透明な視点を手に入れることが
海外で活動する理由
――フランスで活動している理由は?
Nozomilkywayさん:ひとつは、一度海外に活動の場を広げてから日本にも売り込みたいという思いがあるから。以前日本の出版社に売り込みに行った時「このイラストのスタイルだと、日本でウケるか難しい。だから一回海外とかで活動してからの方が、日本で売り込みやすい」って言われたことがきっかけだった。
それに言語を学ぶことも大切だと思っていて。米原万里さんという尊敬するエッセイストが、こんなことを言っていたの。「ひとつ語学を学ぶとその言葉が自分のすべてになってしまって、その国が一番すごいみたいな感覚になってしまう。だから外国語は2ヶ国語以上学ぶことでやっと透明になれる」って。
――確かに、英語やフランス語を習得することで、新たな視点が得られそうです。
Nozomilkywayさん:フランス語って、音の響きがすごくいいんだよね。フランス映画のセリフの美しさや、ポエティックな言い回しもきれいだし面白いと思った。フランス映画をフランス語で観ることができるようになったらまた違う感覚で見ることができそう。
自分のペースを大切にしながら
新たな表現に挑戦したい
――今後の活動はどうされるのですか?
Nozomilkywayさん:そろそろビザが切れるから、一旦日本へ戻らなきゃ。これから取り組もうと思っているのはアニメーション制作。日本でも広島国際アニメーションフェスティバルが毎年開催されているから、今注目してる。
アニメーションをつくるのは、楽しいけれど苦しい作業。途中で飽きてしまうこともあるけど、動くのを見ると楽しくて。静止画で表現できないことも、動画なら表現できる。動きの面白さはもちろん、いろんな音や色をつけられる面白さがアニメーションにはあると思う。
それに、ファッションにも興味があるから服作りもしてみたいな。
――作品制作と仕事のバランスを取るのは大変?
Nozomilkywayさん:私はもともと普通の人より体が小さくて、どう頑張っても“標準”に追いつけない場面も出てくる。昔は普通の人ができることができないというプレッシャーがあって、かっこいい女性に憧れていたけれど、ある時からこれでいいかって。昔からあんまり周りに影響されない性格でもあるから、無理せず自分のペースでやっていけたらなって思う。
――帰国後の活躍も期待しています!
Nozomilkywayさんにとっての至福のひとときは、作業の合間のティータイム。ヨーロッパで手に入れた紅茶を、お気に入りのティーセットで丁寧に淹れてホッとひと息。鳥のくちばしからミルクが出てくるポットなど、とってもキュートなアイテムに癒されます♪
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Nozomilkywayさん
【Tumblr】https://nozomilkyway.tumblr.com/
お話を聞いた人
●エイミー編集長
鈴木・栄弥(すずき えみ)。小さな頃から建築士に憧れ、建築模型つくりやチラシの間取りを見て生活を想像することが好きな暮らし妄想系女子。現在のホームテック株式会社では、2級建築士として働きながら『ライフスタイルマガジン エントリエ』の編集長を勤めている。
この記事を書いた人
宇治田エリ
東京都在住のフリーライター&エディター。趣味はキックボクシングと旅行。ここ数年の夢は、海外でキャンプすることと多拠点生活。毎朝ヨーグルトに蜜柑はちみつをかけて食べることが幸せ。