第46回目のゲストは、スペシャルティコーヒー専門のバリスタ・金子智(かねこ・さとし)さんです。前回のエイミーズトークで取材した、神奈川県茅ヶ崎市の茅ヶ崎館。そこで「珈琲サロン」を主宰されているのが、バリスタの金子智さんです。取材時にいただいたコーヒーがあまりに美味しくて感激したところ、なんと金子さんの淹れているコーヒーは、「スペシャルティコーヒー」というものだそう。がぜん興味が湧いたライター・村田は、後日再度金子さんを訪ね、金子さんが主に扱う「スペシャルティコーヒー」や、金子さんご自身のご活動についてお話を伺いました。
金子 智(かねこ・さとし)さん
自動車、ゴルフ、建築などをテーマにした雑誌、書籍の編集者として活動するなかで、スペシャルティコーヒーショップをオープン。以来、 コーヒー本来の風味を知っていただくために、各地へ出向き、楽しいイベントの開催なども行う。
▷Instagram https://www.instagram.com/blueleafcoffee/
安心安全で美味しい「スペシャルティコーヒー」との出会い
――金子さんがコーヒーを好きになったきっかけは何でしょうか?
金子さん:中学生の頃、なぜか突然コーヒー豆を挽いて飲むことに憧れて、お年玉でハリオのコーヒーサイフォン(*)とカリタのコーヒーミルを買いました。今思えば、コーヒーを飲むことより、アルコールランプに火を付けて、沸騰したお湯が上に上がってコーヒーと混ざり、火を外すと下に落ちてくるという、理科実験的な現象にハマったんでしょうね。
――たしかにサイフォンって、見ていても楽しいですもんね。
金子さん:デザインも秀逸ですよね。当時はコーヒーの味と道具、どちらに惹かれたのかは覚えていないですが……。
あの頃飲んでいたコーヒーには、砂糖とミルクを入れていました。ストレートで飲めるようになったのは30歳近く。まさか自分がコーヒー屋になるとは思っていませんでした。
――意外ですね。コーヒーをお仕事にする前は、どんなお仕事をなさっていたんですか?
金子さん:フリーライターと編集者です。ランボルギーニやフェラーリといった、スーパーカーをテーマにした自動車雑誌を約20年つくっていました。他にはゴルフ雑誌を手がけたり、陶芸やスイミング、テニスといった趣味の本も多く書きましたね。
その頃、事務所として借りた場所がたまたま喫茶店だったんです。元々はコーヒー好きのオーナーが、自分でコーヒーを淹れて楽しむためにつくった場所だったんですが、あまり使わないということで貸し出して。書きながらコーヒーをつくれたら楽しいな、と思って借りました。
――執筆業の傍ら、カフェもはじめたんですね。
金子さん:はい。そこからコーヒーの勉強をして、「スペシャルティコーヒー」の存在を知りました。
――いま金子さんがメインで取り扱っているコーヒーですね。「スペシャルティコーヒー」とは、どのようなコーヒーでしょうか?
金子さん:1982年にアメリカで設立されたSpecialty Coffee Association of America(SCAA)が提唱しはじめた、スペシャルティグレードのコーヒーです。
生産地では毎年収穫したコーヒーを専門の資格を持った人たちが飲み比べて、フレグランス、アロマ、フレーバー、アフターテイストなど10項目で風味を評価。100点満点で80点以上になると、スペシャルティコーヒーとして認定されます。
総生産量の9%程度しかスペシャルティグレードにはなれないというくらい、狭き門なんです。
豆と焙煎の掛け算による味の広がり
――金子さんがはじめてスペシャルティコーヒーを飲んだときはどんな印象を受けましたか?
金子さん:最初に飲んだのは「ゲイシャ」という品種だったんですが、それまで飲んだコーヒーとまったく香りが違うことに驚きました。ジャスミンや白檀の香りがして、味もラズベリーやストロベリーなど、ベリー系が濃厚でした。
調べていくうちにすごく興味が湧いたので、スペシャルティコーヒー専門のコーヒーショップをやろうと決めて、都内に新たにお店をつくりました。それが、コーヒーをメインの仕事にしたはじまりですね。
――スペシャルティコーヒーの専門店を!
金子さん:まじりっ気のないストレートな、コーヒー本来の風味を楽しんでもらうため、コーヒーは全て、ペーパーフィルターを使ってハンドドリップで淹れることにこだわりました。
――スペシャルティコーヒーは、淹れ方にも推奨方法はあるんですか?
金子さん:生豆の状態でスペシャルティコーヒーとして日本に送られてきてからは、全て自由で決まりはありません。同じ原料でも、とりわけ味の違いの決め手になるのが焙煎能力です。そのためハンドドリップの技術以上に、焙煎ノウハウの勉強をしましたね。
焙煎によってどう変わるかのデータを取るため、苦味・酸味・塩味・旨味といった、人間の味覚を検知してくれる食味センサーを使って、自分のレシピで焙煎したコーヒーの味覚基準を出したあと、よそから購入した焙煎済みのコーヒー豆を同じようにセンサーにかけて結果を比較しました。
その結果、焙煎の技術によってコーヒーの酸味や塩味が変わることが分かりました。
――なるほど、焙煎で味の違いが出てくるんですね。
金子さん:焙煎が非常に重要な役割を果たします。
あとは、コーヒーフルーツ自体の品種によっても、
あとは、焙煎時間、火力、
――豆と焙煎の掛け算で味が変わるんですね。焙煎がそこまで奥深いとは知らなかったです。
コーヒーを通したコミュニティの広がり
金子さん:スペシャルティコーヒーのお店は4年ほど続けました。「ハンドドリップで淹れたコーヒー一杯でどれだけの人を感動させることができるかが勝負だ」と思ってやっていました。
カフェオープンというと、カフェ飯のような食べ物やスイーツなどを求めるお客さまが多く、コーヒーを主役にするのはなかなか大変でしたが、お客さんの中には、無言で一杯のコーヒーを飲んで、飲み終えると「働いてきて良かった」といってくれる方もいらっしゃいましたね。
――お店と並行してイベントの企画などもおこなっていたそうですが……?
金子さん:輸入車販売店のショールームでコーヒーをサービスしたり、自動車レース場や洋服屋さんのショールームなどでコーヒーをサービスするイベントを開催したりもしています。結構好評だったので、店舗がなくてもいけるかな、と思いはじめました。
現在は、箱根のバイカーズパラダイスというオートバイ乗りが集まる施設でも、カフェディレクターをつとめています。
――幅広く活動されているんですね。前回のエイミーズトークで取材した神奈川県茅ヶ崎市の老舗旅館・茅ヶ崎館でも、「珈琲サロン」がはじまりましたよね。
金子さん:はい。いま一番力を入れているのが、茅ヶ崎館での活動です。茅ヶ崎館の珈琲サロンにいらっしゃるのは、主に「茅ヶ崎館」という場所にいきたい人。そこに美味しいコーヒーで相乗効果を生み出すことが大きな役割です。
――今後やってみたいことはありますか?
金子さん:今はハンドドリップのコーヒーのみお出ししていますが、ラテやコールドドリンクなどのバリエーションを増やして、新しいお客さまやリピーターを増やしていきたいと思っています。
先日は珈琲サロンで、ピアノとビオラの演奏をしていただきました。そういう風に、イベントの中にコーヒーがあったり、コーヒーを起点に新しい事業やコミュニティが生まれて、それによって茅ヶ崎館にもっと人が来て、にぎやかになればいいですね。
コーヒーが、そのための役割を担えたらいいなと思っています。
――コーヒーは他の色々なことと掛け合わせられるから素敵ですね。
「コーヒーを淹れているときって、挽いているときの香り、お湯を注いでいるときの香り、飲んでいるときの香り、それぞれのステップで立ち上がる香りが変わるんです。そんな風に変化する香りを楽しんでいます。」と、金子さん。
珈琲サロンのご紹介
今回、取材場所として協力してくださったのは、神奈川県茅ヶ崎市の老舗旅館「茅ヶ崎館」。毎週水曜〜日曜の11:00〜16:00、大正ロマンな雰囲気ただよう旅館にて、金子さんのスペシャルティコーヒーを飲むことができます。
●茅ヶ崎館
住所:〒253-0055 神奈川県茅ヶ崎市中海岸3-8-5
電話:0467-82-2003
営業時間(珈琲サロン):水曜〜日曜 11:00〜16:00
HP: http://chigasakikan.co.jp/
●インタビュー・撮影・文 / 村田 あやこ
●編集 / 細野 由季恵