


高尾山(八王子市)の麓にある自宅兼工房で、木工と陶芸の作品を生み出す「hanamame(はなまめ)」。夫の三浦 孝之さんは木工作品を、妻の潤さんは陶器を手がけ、ユニットとして活動しています。あたたかみのある作品が国内外で大きな人気を集める中、自らの手で作品を生み出し続けているhanamameのおふたり。活動を続ける秘訣は「無理のない範囲で、暮らしながらつくること」と穏やかに語ります。15年にわたるその道のりと、これからについて伺いました。
陶器と木工のユニークなコラボ作品

──こちらのシュガーポットは、hanamameさんの代表的な作品のひとつですよね。コロンとしてやわらかな手触り感があって、とてもかわいいです!活動初期からつくられているものなのでしょうか?
潤さん:最初はもっとちっちゃなシュガーポットをつくって。
孝之さん:かわいらしい形が多かったよね。
潤さん:最初は動物の絵ではなくて、ドットやモザイクなどのテキスタイル模様ばかりでした。そのうち個性を出すために絵を描き始めて、そうしたらクマのイラストのものがすごく人気を集めたんです。それでクマばっかり描くようになりました。
ポットのフタの部分も、最初は紐をつけていたんですが、陶器のクマをくっつけるようになって。私は自由につくって、孝之さんがそれに合わせて木工部分をつくってくれるんです。

孝之さん:手びねりだから、全部形が違うんです。僕はそれに合わせて木のフタをつくります。納品間近になると、パカッと口を開けたポットがずらっと並んでてぞっとする(笑)。
潤さん:「よろしくねー」って(笑)。
──その光景が目に浮かびます(笑)。一つひとつ、手づくりで生まれてくる作品たちですが、年間どのくらいになるのでしょうか。
潤さん:一回の個展で200くらいが目標ですね。手びねりだし絵付けも時間がかかるから、たくさんはつくれないです。
孝之さん:スプーンや箸置きなどの小物も入れると、トータルで年間1000いくかどうかくらいじゃないかな。
潤さん:数えたこともないね。
孝之さん:そうそう。それが僕らのいいところというか。
「ものづくりが好き」小さな活動から広がっていった作品世界

──いまや国内外で大人気作家であるhanamameさんですが、木工や陶芸を始めたきっかけについて教えてください。
孝之さん:出発点は、ふたりとも「ものづくり」が好きだった、というシンプルなところですね。僕は今も、本業は乳製品の研究者で。家で薪ストーブを焚くために丸太を集めていたときに「これ、燃やすだけじゃもったいないな」と思ったのをきっかけに、廃材を使ってマグカップをつくるようになったんです。
潤さん:孝之さんはチーズの専門家ですが、私は学生時代、生ハムの研究をしていました。陶芸は、大学院を卒業し一般企業で働きながら、趣味で教室に通うようになったのが始まりです。かなり本格的な教室で、生徒が自分でろくろや釜を買って家でつくることを奨めるような先生でした。それでだんだんのめり込むようになって、池袋の『雑司ヶ谷 手創り市』など、クラフトイベントで販売を始めるようになったんです。
孝之さん:自宅兼工房を構えている高尾は、ものづくりをしている人が多いんですよね。ほかの作家さんと知り合う機会が増えると、参加するイベントも増えていって。そこに来たギャラリーに声をかけてもらい、個展ができるようになっていきました。
潤さん:本当に少しずつ、少しずつ広がって、今があるという感じですね。

──ご自宅に工房が併設されていて、ご夫婦で作業をするにも良い環境ですね。
潤さん:小学生の子どもがふたりいて、子育てをしながら制作をしています。これでアトリエが別の場所にあったりしたら、とてもじゃないけど時間を捻出することはできなかったと思います。暮らしの中に「つくる時間」が組み込まれているから、続けることができるんですよね。
夫婦で共同制作を続ける秘訣は「仲良くすること」

──潤さんが陶器と絵付け、孝之さんが木工を担うhanamameさんの作品の中でも、やはりコラボ作品がユニークで人気もありますね。
孝之さん:活動初期はそれぞれで木工作品、陶器作品をつくっていて、その中でコラボ作品は一部だったんですよ。その中で人気が出たのもあって、コラボが増えてきました。
潤さん:最初は陶器のポットに木のフタのものだけだったかな。そこから少しずつ。コーヒードリッパー、クマのオブジェ、フラワーベース……。そんなに流行るとは思わなくって。でも意外と売れるんです。
孝之さん:この人は常に控えめなんです(笑)。
潤さん:お客さんが買っていってくださるから、じゃあ次はこんなものをつくってみようって、一つずつアイテムを増やしていく感じですね。
──クリエイターとしてご夫婦で長く共同制作を続けていく中で、意識していること、大切にしていることはどんなことですか?
孝之さん:仲良くすること、ですかね。
潤さん:うん。仲はいいです。やっぱり小さな子どもがいるから、暮らしている中でなかなか、作品についての話を改めてすることもできないんですよ。たまに時間を見てちょこちょこっと作品の話をして。
孝之さん:そうそう。それで、なんか違うな、と思ったらお互いに引きます。いったん話をやめる。一晩明けて、また話す。ケンカになることはないですね。

──そのバランスが、長年続ける秘訣なんですね。
潤さん:そうかもしれないな。静かに、静かに。気づいたら15年経ってました(笑)。
孝之さん:木工と陶器とジャンルが違うのも良かったんでしょうね。木工同士、陶器同士の作家夫婦だったら、同じなのにこだわりは違うから、ぶつかるかもしれない。
でも、ぶつかりを避けても妥協はしません。例えば僕がつくった木のフタのカーブを見て、妻がちょっと違うな、と思ったものは、すっと脇によけてあるんです。
潤さん:静かにね。
孝之さん:互いにそういう合格ラインみたいなものはあって。ユニットではなく作家さん同士が一時的にコラボすると、個性と個性を合わせたときにどこかちぐはぐな印象になることもあります。その点、hanamameはぴったり合っているかな。
15年の活動で変わるもの、変わらないもの

──hanamameとしての活動は15年になりました。長く続けている中でどんな変化がありましたか。
孝之さん:変わったことはたくさんありますね。大きく変わったのは絵付けかな。潤さんがお話ししたように、昔のテキスタイル時代のものを好きだと言ってくれる方もいるんですが、今はクマやかわいいイラストの路線の需要がものすごく大きいです。
潤さん:制作のペースはずいぶん変わりましたね。活動を始めた頃は、まだ私も仕事をしていて、子どももいなかったので、平日の夜と週末は自由に制作に没頭できていました。でも今は、平日に時間を見つけて手を動かしたり、孝之さんは仕事から帰ってきて子どもが寝てから夜に制作を始めたり。子どもと遊べるのは今しかないからその時間は大切にして、無理しすぎない範囲でやっていこうというスタンスでいます。
孝之さん:そうだね。「あんまり無理しない」がテーマだね。でも楽しみながらやっていますよ。
潤さん:そうそう。楽しみながらじゃないと、いいアイデアも出てこないから。

──楽しみながらつくる、素敵ですね。では、変わらず大切にしていることは?
潤さん:作品に対していわゆる「こだわり」は、私はまったくないんです。お客さんの反応を見て変えていきますし、それが新しいアイデアのもとにもなります。変わらないのは、一つひとつ手でつくるというところかな。今は手づくりの需要をすごく感じますしね。
孝之さん:僕たちの作品は、形も絵も全部違う。Instagramを見て「これがほしい!」と買いに来てくださる方もいますが、売れてしまえば同じものはもうなくて。申し訳ないなと思うんですが、もう一点ものみたいなものなので……。

──でもだからこそお客さんにとっては、一番好きな形の、一番好きなクマの顔の作品を迎える、そんな喜びがありますね。愛着も増すのではないかと思います。
潤さん:お客さんの存在には本当に支えられています。本当に初期の頃から、年に1回、必ず展示会に来てくださる方もいて。
孝之さん:嬉しいよね。だから続けられるところもある。お客さんももちろんですが、ギャラリーの店主やほかの作家さんとの出会いも、僕たちの世界をすごく広げてくれています。本業の仕事だけでは出会えないような人に出会える。
潤さん:面白いよね。自由な考えを持って生きている人も多くて。
孝之さん:そうやって見ることができた新しい風景を、また見たいから続けてるんだろうね、きっと。
限りある時間で少しずつ、新しいことを生み出していく

──すでに国内外で引く手あまたの人気作家であるhanamameさんですが、これから未来に向けて、どんな思いを持っていらっしゃいますか。
潤さん:未来ね……うーん。考えてない。今を生きています。
孝之さん:うん。でも、「続ける」、じゃない?続けられるだけ続ける。
潤さん:続ける、だね。あまり、今後こうしていきたいと自分自身で強い思いがあるほうではなくて。今やらなきゃいけないことに向き合うのでいっぱいいっぱい。でもそういう時がけっこう楽しいですね。ちょっと隙間ができたら、新しい作品のアイデアを考えたりして。
オーダーをいただくこともけっこうあって、なかなか新作に向き合うゆとりもない毎日ですが、それでもふたりで個展をやるときには、1アイテムずつでも新しいものを出していきたいです。
限りある時間でやれることをやるしかないんですが、かといって今よりも時間があったときにどんどん新しいものを生み出していたかというと、そんなこともないのかなと。今のほうが、集中して取り組めているかもしれません。
孝之さん:僕たちの技術も成熟してきたし、その分ギュッと集中できる感覚もあるね。
潤さん:それは感じるよね。今まで長く続けてきたものがあって、やっとこう形になってきたと思います。
──これから生み出されていく作品も、とても楽しみです。ありがとうございました!




今は子どもと過ごす時間がなにより至福のひととき。お子さんが好きだという城めぐりをしたり、海で釣りやシュノーケリングを楽しんだり。「今はウツボ釣りにどハマりしています。ウツボって怖いイメージですけど、面白いし、おいしい!みんなできゃーきゃー言いながらウツボと格闘して、このあいだは1メートルのウツボが釣れました」

hanamame
2010年より、八王子市高尾山麓の自宅兼工房にて活動を開始。… 木工作家・三浦孝之と陶芸家・三浦潤によるユニット。孝之さんは木の器や家具を、潤さんは手びねりの陶器を制作し、それぞれの素材を活かした作品づくりを行っている。陶器と木のコラボ作品は、夫婦だからこそ為せる一体感が特徴。 【展示会・活動歴】展示会・活動歴/【国内の展示】鬼子母神 手創り市(東京)/熊澤酒造 OKEBA ギャラリー(神奈川)/代官山 無垢里ギャラリー(東京)/自由学園 明日館(東京)/うつわとご飯 yorimiti(東京・蔵前)/丸善(東京・日本橋)/懐美館(東京・代官山)/アトリエ 宇(sora)(長野・安曇野)/エクレアキッチン ギャラリー(東京・文京区)/KoHo Herb&Garden(東京・国分寺)/【海外の展示】小院子的日常(台湾)/蘇州明・美術館(中国・蘇州)/海馬ギャラリー(中国・杭州)/布可ギャラリー(中国・江蘇省)/光屿集ギャラリー(中国・北京)/【メディア掲載】雑誌特集・作品掲載:『手作りする木の器』(西川栄明)、『ドゥーパ』、『Be-pal』、『ランドネ』、『Go-out』、『Peaks』/TV・ウェブメディア出演:昼飯旅(TBS)/A-STEP(TBS)/インテリアショップ訪問(Web特集)