オビキ ミヨ
ゲスト
オビキ ミヨ / Obiki Miyo
いたばしデザイン同好会
生まれ育ちは北海道。2002年よりフリーランスとなり板橋区に定住。 書籍のデザインを中心としたグラフィックデザインとイラストレーションで活動中。いたばしデザイン同好会のデザイナーであり自称日本初の暗渠デザイナー。
サイトー
ゲスト
サイトー / Saito
いたばしデザイン同好会
金融系SEを16年やったあと脱サラして家具作家へ。 食えて、時間が自由になって早く眠れて、あまり人に会わないで済むのであればどんな仕事でもよい。子どもの頃の将来の夢は木こり。板橋と日光を行ったり来たりしており、日光の木材を使用した家具を広めたいと思っている。いたばしデザイン同好会の発起人。
村田 あやこ
記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
細野 由季恵
編集・撮影した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

東京都板橋区を拠点に活動する、「いたばしデザイン同好会」さん。板橋区民6名で結成され、地元・板橋をモチーフにしたグッズ制作やイベントの企画を手掛けていらっしゃいます。偏愛あふれるマニアックな目線で、板橋という地域をさまざまな角度から面白がるグッズが魅力的です。今回は板橋区高島平にある活動拠点「time spot」にお邪魔し、同会の発起人であり広報周りを一手に担うサイトーさん(木工房アスカヤマワークス代表)と、デザイナー・オビキミヨさんに、お話を伺いました。

「暗渠って楽しそう!」がTシャツに

取材当日は、おふたりとも同好会のオリジナルウェアを着用して迎えてくださいました。右奥に見えるのは、「街区表示板アクリルキーホルダー」のタワーです。

──「いたばしデザイン同好会」結成のきっかけを教えてください。

サイトーさん:僕は39歳で脱サラして、家具職人になりました。10年ほど前に板橋に引っ越してきましたが、会社員時代は寝に帰ってくるだけのまち。日々付き合いがあるのは主に会社の人たちでした。「会社を辞めると友だちがいなくなるかもしれない」と思って、退職する少し前から、地元に友だちを作り始めたんです。

当時『いたばしTIMES』という板橋の人気ローカルメディアが運営していた、板橋在住の人たちがゆるくつながれる「いたばし部」というオンラインサロンがありました。そこに参加すると、少しずつ地元に友人が増えていったんです。

いたばし部員ではないのですが、そのつながりで知り合ったおひとりが、趣味で板橋区の地図をモチーフにしたTシャツを作ったんです。このTシャツを見てピンときて、「板橋モチーフのデザインを楽しむ」をコンセプトに活動したら、面白いんじゃないかとひらめきました。

友人数名に声をかけたのが「いたばしデザイン同好会」結成のきっかけです。

いたばしデザイン同好会さんはこれまで、メンバーたちがアイデアを持ちより数多くのオリジナルグッズを送り出してきました。なかでも板橋区の暗渠の地図がプリントされた「いたばし暗渠Tシャツ」は、暗渠好きやまちを愛する人たちに鮮烈な印象を与えています。

──このTシャツは、どういうきっかけで誕生したんですか?

暗渠マニアックス・髙山英男氏のデータを元に、メンバーが実地調査を重ねて完成させた「いたばし暗渠Tシャツ」。板橋の地下に眠る「見えない川」を可視化した、まち歩きにぴったりの一枚。(※地図データは類推を含みます)(画像提供:いたばしデザイン同好会)

サイトーさん:たまたま用があって近所を歩いていた時、ふと「ここは暗渠だ」と気づいた場所があったんです。といっても当時はせいぜい、玉川上水沿いに住んでいた祖父から聞いて暗渠の存在を知っていた程度。

脱サラしたてで、とにかくお金を稼がなきゃということばかり考えていた時期だったので、「暗渠をTシャツにしたら売れないかな」って何気なくXでつぶやいたら、ミヨさんが反応してくれました。

オビキさん:私自身、ブラタモリを見て「暗渠って楽しそう!」と興味を持ち、『暗渠マニアック!』(吉村生・髙山英男著、柏書房)という本を片手に、都内の暗渠を訪ね歩いていたんです。でも当時は、板橋区に暗渠があることには気づいていませんでした。

偶然Xでサイトーの投稿を目にして。「暗渠Tシャツ!作る、作る!」と飛びつきました(笑)。

サイトーとはもともと「いたばし部」で知り合ったのですが、このTシャツの制作がきっかけで、私も同好会に参加することになりました。

──Tシャツを見ると、板橋にこれだけ暗渠があったのかと驚きました。どうやって昔の川筋を明らかにしていったんですか?

オビキさん:それが驚いたことに愛読していた『暗渠マニアック!』の著者である暗渠マニアックスの髙山さんが、SNSの投稿を見て、板橋の暗渠の調査データを提供してくださると申し出てくださったんです!

髙山さんに提供いただいた地図をベースに、駅名や道路名はあえてなくして、川の名前だけを残したデザインにしました。デザインにあたって、地図を見ながら事前にすべての暗渠を歩きました。

サイトーさん:未知の暗渠も発見しましたね。

オビキさん:住んでいたのに知らなかった暗渠がたくさんあったんです。歩くことで、それまで行ったことなかったまちも歩けて、面白い発見につながりました。

※暗渠マニアックスとは…暗渠(地下に埋められている、かつてあった川)を愛し、探求する髙山英男さんと吉村生さんのユニット。暗渠を切り口に、執筆・講演から、展示・ツアーガイドまで、まちの再発見につながる様々な活動を行っている。特定暗渠を深掘りする縦軸(吉村さん)×多数暗渠を俯瞰してみる横軸(髙山さん)というアプローチが織りなし、暗渠の幅広い魅力に触れられることができる。『暗渠マニアック!』(柏書房、後にちくま文庫)をはじめ、著書多数。

マニアックに突き詰めるほど、誰かに届く

──暗渠Tシャツの反響はいかがでしたか?

サイトーさん:ものすごく売れました!今まで、板橋をテーマにしたグッズなんてなかったんです。でもおそらく、ニーズは潜在的にあったんだと思うんですよ。そこにうまく響いたみたいです。

オビキさん:コロナ禍でまち歩きやランニングが流行ったときには、暗渠を歩く・走る人たちにも刺さりました。みんなで暗渠Tシャツを着て、地図を見ながら走ってくれたランニングチームもいました。

サイトーさん:また暗渠マニアックスのおふたりが「いたばし暗渠Tシャツ」を気に入ってくださって、同好会のコラボで、板橋の暗渠をテーマにした展示「いたばし暗渠×水路上観察入門展」を開催するという展開も嬉しかったですね。

──「板橋」だけでなく「暗渠」というキーワードが刺さる人にもグッズが届いた。暗渠Tシャツ制作を機に、さまざまなご活動へと広がっていったんですね。

オビキさん:暗渠Tシャツの次は、「高島平マルシェ」という高島平のイベント出店にあわせて、高島平をモチーフにしたグッズを作ったんです。ただ、高島平の人はとても喜んでくれたんですが、それ以外の人にはあまりウケなくて。暗渠Tシャツも、地図に板橋区全域は載っていますが、あくまで暗渠好きな人向け。もっと板橋区の人たち全員がわかるものを作りたいと思ったんです。

どうしようかと悩んで、同好会のメンバーで自転車に乗っていろんなまちを巡っていたとき、ふと街区表示板が目に止まりました。これは全区民に刺さるだろう!と。

現地で撮影した公共施設の街区表示板に架空の番地を載せて、アクリルキーホルダーにしました。これは過去2年の大ヒット商品ですね。

ご自身が住んでいるまちだけでなくて、「推しのまち」とか「おばあちゃんが住んでいたまち」を買ってくださる場合もありますね。

板橋区内全134種の街区表示板を、実写ベースでグッズに。デビューと同時に1,400個が即完売したそうです。末尾の数字は、実在する番地の「次」の数字(架空番地)にするなどの配慮も。

──思い出やゆかりのある街区を手にとっていかれる方もいらっしゃるんですね。こうした数々のグッズのアイデアは、どうやって生まれるんでしょうか?

サイトーさん:イベントがきっかけになる場合もあれば、思いつきの場合もあります。

オビキさん:ときどき、私のこだわりが暴走することもあって……。例えばこの夏に頑張って作ったのは、「成増露頭Tシャツ」です。「露頭」とは、地層や岩石が地表に現れた部分のこと。昔、成増に武蔵野台地の断面が見られる「成増露頭」があって。今はコンクリートで覆われて見えないんですが、図書館やインターネットで徹底的に調べて、実際の地層の様子をロゴとして表現したものです。

地層好きにはたまらない!と思ったんですが、残念ながらあまり売れていなくて……。売れないかもしれないけど、やりたい。そういう気持ちを大事に、私がほしいものを作ってます。

サイトーさん:成増露頭はすごく面白いんですが、活動資金を稼ぐためには売れないと困る(笑)。なのでときどき、無理を言ってお願いして、「これは板橋区民の人たちに響きそうだな」と思ったものをデザインしてもらうこともあります。

かつて板橋区成増で見られた、武蔵野台地と荒川低地の境目の地層「成増露頭」を忠実に再現。現在はコンクリートで覆われている幻の風景を、Tシャツとして蘇らせたオビキさんの情熱がこもった1点。(画像提供:いたばしデザイン同好会)

──偏愛目線で突き詰める部分と、「これだと地元民に受けそうだな」という客観的な目線とが両方あるのは、チームだからこそのバランス感覚ですね。

サイトーさん:成増露頭に関しては「売れないと思う」と言いました(笑)。でも、こういうのって、突き詰めれば突き詰めるほど、人に響くと思うんですよ。デザインに関しては、ミヨさんのマニアックさをあまり邪魔しないようにしてますね。

面白がろうとすれば、まちは宝の山

マニアックな視点を持ちながら、まちを楽しんでいるおふたり。活動において大切にしているマナーやまち、住んでいる人との関わりかたを伺いました。

イベント出店中の様子(画像提供:いたばしデザイン同好会)

──実際にお住まいの地域を題材にする際、大事にしていることはありますか?

オビキさん:どのまちもディスらないようにしてます。例えば街区表示板を撮影したとき、場所によってボロボロのところもあったんです。このまま使ってしまうと、まちの人が悲しくなるだろうな……という場合は使用を避けるなど、お住まいの人の気持ちには配慮しています。

イベント出店中の様子。ハロウィンの仮装で、いたばしの公式キャラ「にりんそうの妖精りんりんちゃん」にちなんで、「にりんそうの妖怪ソんソんちゃん」になる、メンバーの皆さん。(画像提供:いたばしデザイン同好会)

──さまざまなグッズ制作を通して、地元に対する印象の変化や新たな発見はありましたか?

サイトーさん:板橋はそんなに特別で面白いまちじゃないと思っていましたが、面白がろうとすると面白がれるんだなと、強く思うようになりましたね。

板橋の人は、割とフレンドリー。イベントで直接お客さんと話す機会も多いんですが、こういう活動を面白がってくれる人が多いとも感じます。活動を続けるうちに、この地域の人たちを好きになっていきました。

──おふたりから見て、住んでいる地域を楽しむ第一歩として、何から始めるとよいでしょうか?

サイトーさん:知り合いを増やすことだと思います。住んでいる地域に、一緒にご飯に行ける人がいるだけでも、見える景色はガラッと変わると思います。子どもがいると、学校を通して親同士のつながりはできるものの、子どもありきだと、卒業後に会わなくなってしまうこともあるから。

特に僕世代の人たちって、忙しく働いていたりして、地域に友だちを作りづらいと思うんです。誰かひとりでも自分を起点とした知り合いや、挨拶できる人がいれば、全然違ってくる。そういう思いで、いたばしデザイン同好会ではときどきオフ会も開催しています。今は50人くらいの人たちが集まっていますね。

グッズだけでなく、リアルに人が集まる場作りも行っています(画像提供:いたばしデザイン同好会)

オビキさん:私は自分の住んでいる地域の古地図を見るのをおすすめしたいです。その土地が昔なんだったかを知ると、自分が住んでいる場所に興味が湧いて、もっと好きになるんじゃないかなと思います。古地図は宝の山。いろんなことが書かれています。

古地図を見るのは、自分の中で完結できること。人とのつながりを作りながら、縦に縦に潜っていくように、地域を深堀りすると楽しいですよ。

画像提供 いたばしデザイン同好会

普段は木工作家として働いている、サイトーさん。昼休みに工房で、1時間もののヤクザ映画を見るのにハマっているそうです。

画像提供 いたばしデザイン同好会

一方オビキさんは、おうちの窓辺に訪れる鳥たちを観察するのが、至福のひとときだそうです。

イベント告知:板橋区の暗渠にまつわる展示「いたばし暗渠マニアックス展 Vol.2 蓮根川水系編」開催中!

板橋区立中央図書館で、板橋区にかつて流れていた蓮根川の暗渠にまつわる展示を開催中。暗渠マニアックス&といたばしデザイン同好会がタッグを組み、パネル展示や顔ハメ看板、ぬりえコーナー、物販など盛りだくさん。詳細はこちら

開催日時
2025年11月24日(月・祝)~12月5日(金)※12月1日は休館日
9時~20時(図書館の開館時間に準拠。最終日の展示は16時まで)2025年11月23日(日)12:00〜17:00

会場:板橋区立中央図書館 1階図書館ホール(東京都板橋区常盤台4-3-1)

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