徳田 勇人
ゲスト
徳田 勇人 / Tokuda Yuto
​​Assemble代表/臨床心理士・コーチ
東京国際大学大学院卒業後、精神科、福祉施設勤務を経験。その後メンタルヘルス×IT のベンチャー企業(株)cotreeに入社し、オンラインカウンセリングサービス運営&提供カウンセラーとして従事。80名ほどの登録カウンセラーのマネジメントや、カウンセリングサービスの設計/改善に携わる。退職後フリーランスとして活動中。 活動内容:対人支援職向け団体「Assemble」主催、講師活動、コーチングやカウンセリング提供
ふるかわまき
記事を書いた人
ふるかわまき / Furukawa Maki
編集者/コンテンツディレクター
ライフスタイル系Webメディアの編集部勤務を経て、フリーとして活動。さま ざまなメディアでの企画・編集・執筆や、Webディレクションに携わりながら、住まいや暮らしをよくする情報発信を続けている。家の中も自然の中も好き。
細野 由季恵
編集・撮影
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

同じ出来事でも、人によってまったく違う意味を持つことがあります。
ある人にとっては安心する匂いが、別の人にとっては悲しい記憶を呼び起こすこともあるーー。そんな「感じ方の違い」への関心が、今回お話を伺う徳田さんが心理職を志すきっかけでした。
徳田さんは臨床心理士として医療の現場に立ったのち、オンラインカウンセリングサービスの運営を経て、現在は心理職をはじめとする支援職向けの研修事業団体「Assemble(あっせんぶる)」を主催しています。
クライエント*だけでなく、彼ら彼女らを支える人にもまた、支えが必要なのではないか。そうした問いから立ち上がった取り組みと、その背景にある思いについて伺いました。

*クライエントとは……カウンセリングやソーシャルワークを受ける相談者のこと

母のひと言で知った、同じ匂いが別の意味を持つこと

──臨床心理士を目指したきっかけをお伺いさせてください。

徳田さん:人によって感じ方が違うとか、物事の捉え方の違いがあることが、昔から不思議だったんです。
同じ出来事を見ても、ある人はポジティブに捉えるし、別の人はネガティブに感じる。その違いはどこから生まれるんだろうと。

──そういったことを考える中で、印象的な出来事があったそうですね。

徳田さん:確か高校生の頃、学校帰りに住宅街を歩いていると、夕飯を作っている匂いやお風呂の石鹸の匂いがしてきて、「帰ってきたな」とほっとしたことがあったんです。
その話を母にしたら、「それを嗅いで悲しくなる人もいるんだよね」と言われて。母の知り合いに、家庭の事情でつらい経験をしていた方がいたそうで、その人にとってはそれを思い起こしてしまう匂いであったと。
自分にとっては安心する匂いなのに、誰かにとっては悲しい匂いになる。母の話を聞いて、当時は衝撃を受けました。
それから、そういう背景を持つ人たちに対して自分が何かできることはないのかという思いが芽生えたのが、心理職を目指すきっかけのひとつだったと思います。

心理職とは、人の心の変化を支える仕事

Assemble代表 徳田勇人さん

──そんな思いを抱きながら臨床心理士となった徳田さんですが、そもそも心理職の仕事はどのようなものかをお伺いできますでしょうか。

徳田さん:心理職の活動領域は、医療、福祉、産業、司法、教育の5分野に分かれています。
医療機関ではカウンセリングや心理検査を行いますし、教育分野ではスクールカウンセラーとして学校に関わることもあります。働く場所によって役割はさまざまです。
ただ、仕事の本質を一言で言うなら、「人の心の変化を支えること」だと思っています。

──人の心の変化とはどういったものでしょうか?

徳田さん:人は年齢や環境の変化とともに、さまざまな局面を迎えます。学生から社会人になること、家庭を持つこと、職場での役割が変わること。そうした変化の中で、心も変えていきながら適応していく必要があると思うんです。

──環境の変化に合わせてうまく適応させていかないと、心の不調に繋がってしまうこともあるのでしょうか。

徳田さん:心に不調を来してしまう人の背景には、価値観や感情の変化を感じる機会が得られなかったと感じるパターンもあります。
昔は今ほど多様化していなくて、「こうあればいい」という正解が、ある程度見えていたように思います。もちろん、その中で適応しきれない場合もたくさんあったと思いますが。

Assemble代表 徳田勇人さん

でも今は、社会のあり方も働き方もさまざまで、正解が見えにくい時代です。問題がより複雑になってきているように思います。その中で自分はどう生きたいのかを、それぞれが探していく必要がある。
だからこそ、環境の変化に合わせて心を柔軟に変えていくことが、より大切になっているのではないかと。心理職は、その変化を支える役割を担っているのだと思います。

新人心理職時代に感じた、現場での違和感

Assemble代表 徳田勇人さん

──キャリアのスタートは精神科クリニックだったそうですね。

徳田さん:はい。精神科のクリニックでカウンセリングを担当していました。
ただ、来院される方の多くは辛い状態が長引いた状態で来院されることも多いんです。困りごとが長く続いて、「もうどうしたらいいかわからない」という段階になっていることも多い。
そうした状況から、自分たちの仕事と社会のニーズがうまく噛み合ってないのではないかと、なんとなく感じていて。
自分のキャリアを、カウンセラーとしてではなく、もうちょっと仕組みを変えるとか、きっかけ作りのような方面で使えないかなと思い始めたんです。

──その後、徳田さんはオンラインカウンセリングサービスに関わることになります。

徳田さん:オンラインでのカウンセリング提供によってハードルを下げ、機会創出をしていこうというビジョンのある会社でした。そこではカウンセラーとしてではなく、運営側としてサービス設計に携わりました。
カウンセリングを受ける人にとってオンラインではどんな体験になるのか、どんな支援が必要なのか。心理職としての専門知識を、サービスづくりに反映させる役割でした。それと同時にカウンセラーのマネジメントも行っていました。

心理職に携わる人たちにも支援が必要だと感じた

Assemble代表 徳田勇人さん

──さまざまな形で支援の現場と関わっていく中で、どのような課題を感じ、それが今のご活動へとつながっていったのでしょうか?

徳田さん:心理職は、常に学び続ける必要がある職業です。人の心は一人ひとり違うので、同じやり方が通用するとは限りません。ただ実際の学びの場は、座学中心のことも多いのが現実でした。
さらに、心理職は孤立しやすい仕事でもあります。スクールカウンセラーなどは、一つの学校に一人ということも多く、相談できる相手が身近にいないこともあります。
そうした状況を見て、実践につながる学びの機会が必要なのではないかと思うようになりました。

──そこから、現在運営してらっしゃる研修事業のAssembleの立ち上げへと繋がっていったのですね。

徳田さん:自分の経験を振り返っても、最初のクリニックでは医療の現場というのもあって患者さんの抱える問題もさまざまで。そこに新卒で飛び込んで、未熟な状態のままやらざるを得えない状況にいたと感じます。
何も学ばない状態で現場に出られてしまうシステムを、変えていくべきなんじゃないかなと思ったんです。

支援職から集まったさまざまな声

──Assembleを立ち上げた時のことをお伺いさせてください。

徳田さん:座学と実践の場の間を埋めるような機会が全然ないという実感はあったものの、独立した当初は、正直まだ何をするか明確ではありませんでした。
ただ、友人に勧められて試しに研修会を開催してみると、「まさにこういう学びを求めていた」という声を多くいただいたんです。それで、この取り組みを続けていこうと思いました。

──具体的にはどのような研修を開催されていくことになったのでしょうか。

徳田さん:研修テーマは、トラウマ、発達障害、不眠症など多岐にわたります。現場のニーズを見ながら幅広く企画していますね。社会的に注目されているテーマは、実際の支援現場でも困りごとが多い領域でもあります。

Assembleのホームページ
主催するAssembleのHP。

──Assembleは7年目を迎えるそうですが、続ける中で変化していくことはありましたか?

徳田さん:研修の内容については特にルールは設けていなくて、日々変化してます。
それこそ、トラウマや発達障害といったテーマは近頃SNSでもよく言及されますし、そうやって概念が認知されることでカウンセリング利用へとつながってきていると感じます。
社会的なトレンドともいえるような研修内容は人気がありますし、テーマとして継続的に実施するようにしています。

──参加される方はどのような方が多いのでしょうか。

徳田さん:実際に受けられる方は心理職の方が多いですが、他の支援職の方も参加してくださっていますね。例えば医師であったり、精神保健福祉士、社会福祉士といった福祉の資格をお持ちで現場で仕事されている方もいます。
あとは数は多くないですが、教員の方や看護師さんもいらっしゃいます。

──現在では1度の研修会に200名近くが参加されることもあるそうですね。

徳田さん:そうですね、でも最初の頃は4人ということもありました。徐々に増えていったのですが、転換点があって。
それは、「消えてしまいたいと感じているクライエントへの支援方法」というテーマの研修会で、一気に参加者が増えたんです。心理職をしている中でも特に慎重になりますし、専門的な知識が必要な場面でもあります。そういった現場の難しさも伝わってきた出来事でしたね。

Assembleのオンライン研修会の様子
キャプション:(イメージ画像)研修は現在、主にオンラインのビデオ会議ツールを使って行われています

──参加者からはどんな反応がありますか?

徳田さん:参加された方からは「明日から使ってみようと思います」と言っていただけることが多いです。また、「バーンアウトしかけていたけれど、勇気をもらえました」といった声もありました。
他にも研修会の講師をしている先生の「ファンになった」という声は印象に残っていますね。ファンになるってすごく大事だと感じていて、ロールモデルにもつながると思っています。主催側としても素敵だなと思う先生方にお声掛けしてるので、こういった声をいただけるとよかったと思います。

支援職をサポートすることは、その先にいる人々の支援にもつながる

Assemble代表 徳田勇人さん

──Assembleの研修会が、参加した支援職の方々にとってよい影響を与えていることが感じられますね。

徳田さん:実際に聞ける声は一部なので、同じように悩んでいる方はもっといるのではないかと想像しています。もっと多くの支援職の方々にアプローチしていきたいです。
それに支援する側が困り事を抱えたクライエントさんの気持ちに引っ張られないように整っている必要がありますし、それには境界を引く訓練も必要です。
支援職に携わる方々がよりよい学びの機会を得られるようになることで、現場の支援の質も高まっていくと思います。
それは結果として、クライエントさんの人生をよりよくすることにもつながるはずです。

──キャリアをスタートしたクリニックでは、困り事を長期に抱えた状態になってからやってくるクライエントさんが多いとおっしゃっていました。そういった状況を変えたいという気持ちもあるのでしょうか。

徳田さん:当時から、もっと早い段階でクライエントさんと関わることはできないのだろうかと思っていました。困り事を長期に抱えるとその分、回復にも時間がかかってしまいます。だから、予防的なアプローチもできないかと思っているんです。
今は支援職に向けた研修会を行っていますが、一般の方に向けたコンテンツの提供もゆくゆくはやっていきたい。それによって悩みが軽くなったり、心が変わるきっかけになればいいですし、必要に応じてカウンセリングや福祉サービスにつながる仕組みづくりも考えています。
そうして支援が循環していく社会を、少しずつでも作っていきたいです。

徳田勇人さんの至福のひとときをともにするゲーム機

一日の終わりに、軽くお酒を飲みながらゲームをするのが至福のひとときという徳田さん。ほろ酔いでゲームの成績は落ちるけど、楽しさは増すんだそうです。