エイミーことエントリエ編集長の鈴木栄弥(すずき・えみ)が気になる人を訪ねて、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第22回目の 認定NPO法人「アフリカゾウの涙」サイ・プロジェクト代表の今泉木綿子(いまいずみ・ゆうこ)さんです!

人生をかけて伝えたい、サイの愛しさと彼らを取り巻く現状

今泉木綿子(いまいずみ・ゆうこ)さん。慶應義塾大学でフランス文学専攻、当時は動物としてのサイに特に興味はなかったが、卒論のテーマは奇しくもイオネスコという劇作家の不条理演劇の代表的な戯曲「犀」。就職したくなくて早稲田大学の大学院に進学。文学研究科演劇学専攻修士課程修了。その後フランス外資系企業に就職。結婚後は子育てをしながら内職程度にフランス語翻訳業。現在、認定NPO法人「アフリカゾウの涙」理事。

「サイが好きすぎてサイになった女性がいる」と聞いて編集部が向かったのは、ゾウとサイの保護・啓蒙活動をしている認定NPO法人アフリカゾウの涙の「サイ・プロジェクト」代表 今泉木綿子さん宅。好きな人(サイ)を語るまっすぐな愛情と辛い現状を受け止めながらも、国内でサイの魅力を伝え続ける今泉さんにお話を伺いました!

サイのすべてが愛おしい! 魔法がかかったあの日のこと

自作した南アフリカの孤児サイ、リトルGのぬいぐるみと共に。

――サイを好きになったきっかけを教えていただけますか?

 今泉さん:もとから動物は好きでときどき動物園に行っていましたが、忘れもしない2011年3月6日、上野動物園で、突然サイに心を捉まれてしまいました。今、思ってもあのときいったい何が起こったのかと、不思議です……。

――思いがけない出会いだったんですね。 今泉さんの心を惹きつけたサイの魅力はなんだったのでしょうか? 顔とか、フォルムとか……

今泉さん:サイの何に惹かれたかはわからないのですが、その日、家に帰ってからもずっとサイのことが気になって仕方がなかったんです。ともかくもう一度、もう一度サイと会いたいという抑えられない気持ちがそこにはありました(照笑)。

――では、また、すぐに上野動物園に行かれたのですか?

今泉さん:そのつもりだったのですが、5日後に東日本大震災が発生し、東京の動物園も電力供給の問題で3月末まで閉園するという事態になってしまいました。あのとき誰もが強く感じたことでしょうけれど、「この日常はずっと続くとは限らないもの」と痛切に感じ、余計にそのときの(サイに対する)自分の思いを大切にしたいと思いました。そして、4月に動物園が再開されてすぐにサイに会いに行きました。

――なるほど……。それでサイとの再会は?

今泉さん:再会の瞬間は、3月6日から私がサイに持ち続けた思いを裏切らないものでした! 真ん中に角の生えた重そうな頭とぎっしりと密度の高い大きな胴体、毛皮で覆い隠すことなく直に世界に向き合うサイは私を惹き付けてやまず、サイとの運命に呼ばれているような気がしました。

――運命の出会いだったんですね。

豊橋市動植物園(のんほいパーク)のシロサイ。

頭の中がサイでいっぱい! “気になる相手のことって、知りたくなりますよね?”

――突然おとずれたサイとの出会いですが、どのように今のご活動に発展していったのでしょうか?

今泉さん:人間でも動物でも気になる存在のことは色々と知りたくなるものですよね。それで、サイのことをひたすら検索しました。サイについての日本語の情報はあまりなかったので、英語とフランス語で海外の情報を探したところ、野生のサイの大変な現実を知ってしまったんです……これは後ほど、お話しますね。

まずはサイの現状を伝えるためにブログをはじめました。転機が訪れたのは2014年秋のこと。ゾウとサイの危機的状況を広く知らせるための世界同時開催イベント「ゾウとサイのためのグローバルマーチ」に関わったことがきっかけで、現在、理事として活動している認定NPO法人「アフリカゾウの涙」に参画することに繋がりました。

――想いをもとにはじめられた活動が、少しづつ大きくなっていっているのですね。他には、どのようなことをされましたか?

今泉さん:サイが飼育されている動物園を調べて日本国中のサイに会いに行きました。はじめて出会ったサイの赤ちゃんは、愛媛のとべ動物園のクロサイのライくん。訪れた2011年7月当時、生後5か月でしたが、こんなに可愛いものが世の中に存在するの!? と、胸を打たれました!

1泊2日の滞在は2日間共、開園から閉園までのほとんどの時間をサイの近くで過ごしました。飼育員さんに「東京からライくんに会いに来た」とお話すると、特別にバックヤードに案内いただき、ライくんが柵越しに私の方に寄って来てくれたときには感激で胸がいっぱいでした。その後も、動物園でサイの子どもが生まれると必ず会いに行きます!

広島の安佐動物公園で2016年に生まれたクロサイの女の子のニコちゃんとお母さんのサキさん。

――とにかく、愛おしいんですね!

今泉さん:何度となく会いに通っている動物園のサイたちが私を覚えてくれることは決してない。毎日毎日、アフリカのサイたちの大変な現実が変わっていくことを心の底から願う私の愛がサイに届くわけもない。

でも「究極の片想い」だからこそ現実に裏切られることなく、自由に思いを募らせることができて楽しいんです。ある日突然、はじまったサイへの想い、当初はそう長くは続かないかもとも思っていたのですが。

――生活のなかにそこまで“好きな人”のために熱中できることがあるって、すごく素敵なことですね。

今泉さん:私のサイへの愛は片想いですが、サイはこの8年間に日本だけでなく海外からも私に思いがけない素敵な出会いをくれました。SNSの投稿から私を見つけてくれた南アフリカのサイ保護活動家、世界の動物園のサイの情報を集めたサイトを運営するイタリアの獣医さん……いまでは世界に仲間がいることが心強いし、嬉しいです。

知ってしまった、大好きなサイのツラい現実

――さきほどおっしゃっていた、世界で起きている大変な現実というのを詳しく教えてください。

今泉さん:実はね、約10年前から、アフリカでサイの密猟が急増しているんです。

《南アフリカ環境省発表の年間サイ密猟数の推移グラフ。2006年~2018年》

――(グラフを見て)本当だ、2008年を境に急増していますね。どうして……?

今泉さん:すごいでしょう? これはベトナムや中国の経済の急成長時と関係があるんです。これらの国々では、“サイの角の粉が万能薬になる”という迷信が今でも信じられているんですね。だからサイの角が漢方薬にするために超高値で売れる。

もうひとつは、サイは絶滅危惧種で角の売買もワシントン条約で禁じられていますが、高値の密売品を富裕層が盛んに買い求めるようになって。

その結果、困ったことにアフリカでサイの密猟が増えました。 このままでは、20年後にはサイは動物園にしかいない動物になってしまいます。

――とても胸が痛いです。

今泉さん:実は、ここに飾っている私が折り紙でつくったサイの数は、昨年、南アフリカで密猟された頭数を表したものなんです。数でいうと769頭。ものすごい数でしょ?

――なるほど! 可視化されることで、密猟がいかに多いのかが想像できます。今泉さんの大好きなサイが大変な状況に追いやられていると知り、心苦しい気持ちです。日本にいるわたしたちができることは何かありますか?

今泉さん:サイの現状を広く知ってもらうことが、サイの保護の後押しのために日本でできる第一歩だと思っています。サイの密猟の悲惨な状況から伝えてしまうと目を背けなくなるかもしれないので、まずはサイの恐竜みたいなカッコよさ、知る人ぞ知るサイの子の可愛さからでも、是非知ってもらいたいです。そして、もしもサイの角の消費国のベトナムや中国の方達と知り合う機会があったら、サイのことを話題にしてもらえたら嬉しいです。

――これまで知らなかったサイのかわいさも、辛い現状も含めて、私もすっかりサイに惹きこまれてしまいました!

今泉さん:ありがとうございました。この記事をご覧になって、「私もサイのことを想っています」という方がいらしたら、お気軽にご連絡ください。

「いつも折り紙を持って列車に乗り、サイをつくって一緒に車窓を楽しんでいます」

「サイ以外で?(笑)」と今泉さんが答えてくださったの至福のひとときは、「列車に乗って窓際の席に座って、ただただ流れていく外の景色を眺めていること」でした。

「サイのことが好きになってからは、地方の動物園にも行くようになって、そうすると、列車で移動することも増えました。列車に乗っている時間も幸せだし、さらにその先ではサイに会えると思うと、ますます至福の時間になりました」

今泉木綿子さん
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お話を聞いた人

●エイミー編集長

鈴木・栄弥(すずき えみ)。小さな頃から建築士に憧れ、建築模型つくりやチラシの間取りを見て生活を想像することが好きな暮らし妄想系女子。現在のホームテック株式会社では、2級建築士として働きながら『ライフスタイルマガジン エントリエ』の編集長を勤めている。

この記事を書いた人

●文 マジシュン
東京都生まれ。渡辺篤史の建もの探訪、テレンス・コンランのホームデザイン倶楽部を見て育ったインテリア好き。欲しいソファは剣持勇のRobin。 座右の銘は「ハードルは高ければ高いほどくぐりやすい」

●編集 細野 由季恵