本は好きだけど、「読書」にはずっと劣等感を抱いている。 書いてあることをすべて理解しなければ意味がない。言葉一つ取りこぼすことなく読み込まないといけない。そんなことを気にしていると、本を読むことが窮屈になる。
あるとき、読書好きな友人が「本って、1ページ目から読まないといけないと思ってるとしんどいよね」と話してくれた。友人は、読みたい章だけ、気になった言葉だけ、それを見つけるだけでも読書だよという。
1文だけが心に残って、どうしても手放せない本。 表紙が好きで、並べてあるだけの本。 買ったけれど、難しくて読めないままになっている本。うちの本棚には、そんな本がいくつもある。
先日、長野を訪れたとき、『Beauty for All(美しさをすべての人に)』という本を見つけた。著者はエレン・ケイ。1899年にスウェーデンで出版されたもので、日本語版は、長野にある一般社団法人konstという団体から2025年5月に刊行されたらしい。

きれいな装丁とタイトルに惹かれて手に取ってみたら、珍しくページをめくる手が止まらなくなった。
内容は、美しさは一部の人のためのものではなく、すべての人の暮らしにこそ必要なものだというもの。美しさを感じる力は、特別なセンスではなく、誰の中にもあるものだと書かれていた。
私は美術を学んできたけれど、「これは美しくない」「これは良くない」と判断する基準が、いつの間にか増えていたように思う。知識を得たことで視野が広がったはずなのに、むしろ狭くなっていた。 そして自分の生活がその枠から外れたとき、「自分はもう美しさに触れてはいけない」と思ってしまうことさえあった。我ながら極端だけど、こうやって「美しい生活」(あるいは「丁寧な生活」みたいなものも?)を諦めてしまう部分って、少なからず他の人にもあるんじゃないかと思いたい。
美しさを見つけだすための条件は、それを探し求めることです。美しさについて考え、知るための条件は、それを愛することです。そんなふうにして、私たちは毎日少しずつその本質に触れ、本当の美しさの価値を見いだしてゆくのです 。(エレン・ケイ『Beauty for All ― 美しさをすべての人に』松村和子訳、konst、2025年、132頁)
この本は自分が頭でぐるぐると考えていたことへの答えがあるように思えた。そもそも「美しさ」は、決まった形をしているわけではない。どんな場所にいても、どんな境遇にあっても、自分自身の知性や感性で見出していくものだ。
100年以上前の本が、それを言葉にしてくれていた。こういう、自分の悩みの答えを見つけると「なんだ、誰かがもう教えてくれていたんだ」と拍子抜けするような感覚になる。これまで自分で狭めてきた世界を、もう一度広げてもいいのだと、静かに背中を押されたようだった。
こういう本に出会うと、本棚にある積読も、“いつか”必要な本だと思えてくる。自分にとって本は自分がそのタイミングでなければ頭に入ってこないし、必要としたときには自然と読めるものでもある。
無理に読み切らなくてもいい。飾っておくだけでもいい。そばにあるだけで、十分に意味がある。
と、大量の積読を横目にしながら、そういうことにしておこう。

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鈴木 栄弥 / Suzuki Emi
2級建築士、カラーコーディネーター、福祉住環境コーディネーター、ファイナンシャルプランナー
静岡県富士市出身、1990.7.27生まれ。
日本女子大学 家政学部 住居学科 卒業。…
小学生の頃から間取りやミニチュアが好きで、建築模型がつくりたい! と、建築士になることが夢に。
ビルや建物ではなく、人が住む家のことを中心に学びたいと思い、住居学科で学び、
「人が楽しく暮らす住まいをつくりたい」という思いで就職しました。
現在は、エントリエで設計営業 兼 マガジン編集長として所属。気軽に「エイミー」と呼んでください!
わたしの手掛けるお家は、どれも決まったテイストはありません。
住まい手の体温を感じられるテイストに仕上げることが得意です!
●全国ジェルコデザインリフォームコンテスト
2024年 玄関・ホール部門 全国最優秀賞 受賞
2023年 リビングダイニング部門 全国最優秀賞 受賞
2020年 一般社団法人住宅リフォーム推進協議会会⾧賞 受賞
2020年 個室部門 全国優秀賞 受賞
2019年 リビングダイニング部門 全国優秀賞 受賞
●ジェルコ関東甲信越支部リフォームコンテスト
2022年 デザイン部門 キッチン賞 受賞
2021年 デザイン部門 優秀賞 受賞
2020年 デザイン部門 優秀賞 受賞
●RoomClip全国理想の住まいコンテスト
2022年 1000万円以上部門 全国最優秀賞 受賞
2021年 500万円以下部門 特別賞 受賞
2020年 500万円以下部門 全国優秀賞 受賞