手編みの小物を中心に制作する作家、nohara_de(ノハラデ)さん。活動名には、子どもの頃に農作業を手伝ったり、羊小屋で過ごしたりした経験から感じた「野原ですごす心地よさ」を作品にという思いが込められています。ハットやニット帽、草木染めのハンドウォーマー、編みぐるみなど、どれもやさしさと温もりにあふれた作品たちです。

作品作りのきっかけと広がる創作の世界

母から教わった「編み物」。母は縫い物や工作など、さまざまな手作りを私と一緒に楽しんでくれました。今も吊るし雛に夢中で、その姿から影響を受けています。また「草木染め」は、友人がりんご農家から枝葉を分けてもらい毛糸を染めてきてくれたことが始まりで、私も自然に興味を持つように。そして 「紡ぎ」は近隣の牧場での毛刈りの見学、そしてワークショップで羊毛を洗い、ゴミを取り、紡ぐ工程を学んだことから。

りんご染めの材料を分けていただいている、りんご農園さんでの一枚

糸が生まれる過程を知ることで、編み物の世界がさらに深まりました。 ここ数年、草木染めに使う材料は、身近な植物や食べ物、友人のりんご農家さんからわけてもらった枝葉や摘果りんご。草木からわけていただいた色を組み合わせて編むと、やさしい雰囲気が作品に宿ります。

印象深い、鳥の巣ワークショップでの1枚。羊毛や毛糸、枝葉を組み合わせて作る作業は、子どもたちが夢中になるほど魅力的でした。

自然とともにある暮らしと制作

展示やイベントをすると、植物や食べ物で染めた色に興味を持つ方が多いと感じます。糸になる前の羊毛や綿も少量ながら地元産であることや、それを活かそうとする人たちの活動やつながりについても伝えるようにしています。 このように自然との出会いや、自然を愛する人たちとのつながりが、今の私の作品の方向性を支えてくれています。

そして作品で大切にしていることは「心地よさ」を込めること。温かさや涼しさ、軽さ、締め付け感のない着用感はもちろん、自然の中で感じるあの落ち着きを大切にしています。 素材や色、形、その組み合わせやつけ心地、全身コーディネートのバランス——何より、身につけたときに少し元気が出るようなものを目指しています。

以前、ブナの原生林に救われたという方と森を歩く機会がありました。樹々は、隣の樹とぶつからないように枝葉を成長させて生きていて、それが今ある樹の形を作り出しています。樹々の成長と同じように、原生林に生きる、鮮やかな色、目立たない形、有毒なもの、無毒なもの、暮らし方や生き方は、千差万別、多様で、色や形に表れています。普段は気になる自分のことも、自然の中では「個性のひとつ」と思え、心地よさをもたらしてくれるような気がしています。

ふとした瞬間に見える思いがけない色や形、その組み合わせは創作の源です。自然からは、人間も自然も日々変化していることや知らないことを学んでいます。

つながりが生むコラボレーションの力

2024年5月には、初の個展を開催。最初は不安でいっぱいでしたが、編み会で知り合ったイラストレーターのirrma(イルマ)さんが快く力を貸してくれました。 irrmaさんが描いたキャラクターが被っている帽子を、実際に私が編んで並べた展示。

来場者からは「イラストがそのまま形になるのが楽しい!」と喜びの声をいただき、作品への新たな視点を発見できました。何を展示するか悩んでいたとき、irrmaさんがくれた「あなたの心地よさを追求しましょう」という言葉が心に響きました。 「誰かに必要とされるもの」を作らなければいけないわけではない——その気づきが制作を自由にし、展示に豊かさをもたらしてくれました。

お客さまが試着で笑顔になる瞬間が、最高です。作品を通じたやり取りや出会いは、私にとって大切な時間です。

広がる創作のかたちと、これからの挑戦

はじめての個展では、空間を編み物で飾る作業が思いのほか楽しく、来場者からは「何度も足を運びたくなる空間」と嬉しい感想をいただきました。作品一つひとつはもちろん、その集まり自体が一つの作品なのだと気づかされた体験でした。 帽子がファッションのアクセントになるように、編み物で空間を彩り、場全体が楽しく、心地よくなる——そんな展示に今後も挑戦したいです。

普段は定番の帽子を中心に制作していますが、「これがあったら楽しいな」と思えるユニークな作品づくりも続けています。最近では、空き瓶に編んだ埴輪風カバーや、キノコ型のバッグ、ヤーンボール、ダーニングマッシュルームのカバー、リンゴジュースの瓶の蓋に被せる小さな帽子など、遊び心を形にしてきました。 犬を飼っていることもあり、いつか犬用の編み物にも挑戦してみたいなと考えています。これからも、日常に心地よさと楽しさを添えられるような作品を作り続けていきたいです。

お知らせ

◯「うさたの編み会」(ほぼ毎月)
詳細はInstagramにて随時お知らせいたしますので、お楽しみに!

◯ 4月下旬 サンルイスハヤシ(長野県坂城町)での「春の装い展」に参加
◯ 6月 絆美保工房(長野県東信)・サンルイスハヤシとの1日限定「ツバメのキオスク」イベントを企画中!
◯ 11月 ウチデカフェ(長野県佐久市)irrmaさんとの編み物ユニット tricot connecte による展示会を開催予定

各イベントの詳細は Instagram をチェックしてください!

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