標高1000メートルの軽井沢で生まれる陶器のアクセサリー「天陶虫(Tentoumushi)」。四季折々に表情を変える浅間山や高原の風景を映し込んだ作品は、ひとつとして同じものがない唯一無二のかけら。制作するのは、20年間この地に暮らし、病気と向き合いながらも土に希望を見出した一人の女性です。「身につける人が、自分らしく、自信をもって前を向けるように」という願いを込めて、今日も静かなアトリエで土と向き合い続けています。
たんぽぽを登るてんとう虫が教えてくれたこと

いつも作業している家の庭には、毎年満開のたんぽぽが咲くんです。そこにはいつもたくさんのてんとう虫がやってきて、1番上を目指してたんぽぽを登っていきます。その明るく元気な姿と、上を目指して飛び立つ前向きな力にあやかって、天陶虫と名づけました。
陶(とう)の文字を重ねることで、「土から生まれたぬくもり」と「空に向かう希望」が重なり合う。何より、自分自身がそうなりたいという願いを込めています。
陶器のアクセサリーという表現にたどり着いたのは、人生の大きな転機がきっかけです。20歳で難病を患い、少しでも環境のよいところで療養を兼ねて仕事をしたいと軽井沢に移住してから20年。
3年前、病気が悪化し、いつ死んでもおかしくない状況から開胸手術を乗り越えた時、心境に変化が生まれました。長く病気と向き合う中で、自信をなくした日も、うまく笑えない日も。病気で顔が変わってしまったとき、鏡を見るのも嫌でした。

でも、たまたまプレゼントでもらったイヤリングが私を笑顔にして、自信をくれたんです。「自分も、誰かにとってそんな存在になれたら」と思ったのが、陶器のアクセサリーを作り始めるきっかけでした。
人生は一度しかない。
今しかできないことを後悔しないよう生きる。病気が教えてくれた「今を大切に生きること」、「自分らしさ」は、何ものにも代えがたい宝物になりました。
“均一ではない、美しい不完全さ”。同じものは二度と生まれない。けれど、だからこそその一瞬の出会いに意味がある。不完全さは、人間そのもの。身につける人の心にそっと寄り添うような存在になってくれたらと作陶しています。
一瞬の美しさを土に閉じ込めて
軽井沢の四季折々の風景は、作品すべてのインスピレーション源です。
雪どけの春先。
浅間山にうっすら残る雪と、溶岩石の大地。黒と白が織りなすマーブル模様の姿は、静寂と躍動、力強さといった活火山ならではの迫力と雄大な姿を見せます。この風景をみて、「残雪シリーズ」が生まれました。
凛とした雰囲気の中にも、包み込むようなやさしさと温かみを感じます。少しずつ春へと向かうように、前を向いて進む日々のそばにいつもそっと寄り添ってくれる存在になるよう

高原の夏。
標高1000mの空は、どこまでも青く澄んでいます。白く美しい形の入道雲とのコントラストは、自然が作り出す絵画のようです。刻々と表情を変える空、同じ瞬間は二度と来ない、だからこそ一瞬一瞬を大切に過ごしてほしいという思いを込めています。
濃い霧の神秘的な世界になる朝。
キャベツ畑に広がるベール、その隙間から差し込む朝日が、やさしく世界を照らし始めると、白のなかに淡い水色のニュアンスが混ざり、自然のグラデーションが生まれます。静けさのなかに息づく、幻想のベールのような風景から着想を得ています。

森の木々のあいだから差し込む光。
夜霧で生まれた小さな水の粒が、葉先にそっとたまり、朝日を受けて輝く。それはキラキラ輝くガラスの宝石。軽井沢の森の雫は、移ろう自然の透明感と静けさ、そして生命の瞬きを思わせます。

こうした瞬間を、艶やかな透明釉やリサイクルガラス釉で、光を受けてふわりと輝く質感で表現しています。
「ほんの一瞬の美しさ」を見逃したくなくて、心に留め、土や釉薬で表現するようにしています。
誰かの心に寄り添う、お守りのような存在
「身につけることで、自信がもてる、私らしくいられる気がする」そんなふうに感じられるアクセサリーをつくりたい──そう思うようになったのは、自分自身がそういう”支え”をずっと求めてきたからでした。
あるお客さまから、こう言っていただいたことがあります。「このブローチをつけると不思議と元気が出て笑顔になれます」。
それを聞いたとき、「もの」がただの「もの」ではなくなる瞬間を感じました。アクセサリーという小さなかけらが、誰かの心に寄り添い、静かに勇気を渡すことができるのだと。
私の作品は華やかさよりも、そっと寄り添う温かさを大切にしています。それはまるでお守りのように、「大丈夫、あなたはあなたのままでいい」と伝える存在であってほしいのです。

人と自然、人と人の出会いをつなぐ、アクセサリー
制作は、森の静かなアトリエで、ひとつひとつ土と向き合うところから始まります。特別なことをしようと思っているわけではなくて、日々の暮らしの中に、もうすでにある美しさを形にしている、そんな感覚です。

私にとって暮らしと作陶は、切り離せないひと続きのもの。土を触っているとなんだか自然と一体となって心が落ち着くのです。
これからは、もっと多くの方に《天陶虫》のアクセサリーを届けていきたいと考えています。これまでイベント販売が中心でしたが、現在はネット販売の準備を進めているところ。軽井沢という土地で生まれる、自然の色彩や空気感をまとった一点ものの作品が、地域を越えて、誰かの日常や大切な瞬間に寄り添えたらと願っています。
「アクセサリー」という枠を超えて、人と自然、人と人がつながる”きっかけ”を生み出す存在になれたら。これからも、《天陶虫》にしかできない表現を、丁寧に育てていきたいと思っています。
一人ひとりの心にそっと寄り添い、「私らしくいられる」と感じられるような、お守りのような存在になりますように。
これからも、自然と人、心と心をつなぐものづくりを、丁寧に続けていきます。

イベント情報
- 第16回 信濃追分ホンモノ市
会場:信濃追分文化磁場油や
日時:2025年10月12日(日)10:00〜16:00
2025年10月13日(月・祝)9:00〜15:00
詳細はこちら
天陶虫 標高1000m、軽井沢から生まれた陶器アクセサリー。四季折々に表情を変える自然の色や空を映し込み、ひとつとして同じものはない唯一無二のかけらを作り出す。「病気や困難があっても、人は輝ける」という想いと希望を、ひとつのアクセサリーに託し、身につける人の心にそっと寄り添うお守りのような存在を目指している。 |