注染てぬぐいや麻のふろしきを制作する「七梅(ななうめ)」。自身の生まれ月である七月と、好きな植物の梅を組み合わせて名付けられた屋号は、かつて読みやすく柔らかい雰囲気にしたいとひらがなで「なな梅」と名乗っていました。その後、麻布を縫い合わせた作品や繕いものなど、和の世界にとらわれない活動へと広がるにつれ、「ななうめ」という音の響きはそのままに、きりりと背筋を伸ばすような気持ちで漢字表記に改めたそうです。「万能な梅の実のように、暮らしを支える一枚の布でありたい」。てぬぐいが持つ歴史も大切にしながら、有機的に表現の幅を広げる七梅さんにお話しを伺いました。

古いてぬぐいを収集し始めたきっかけは、素朴さと愛嬌。特に昭和40年代まで盛んだった「配りてぬぐい」と呼ばれる、商店や個人が広告やご挨拶や名刺代わりに配っていたてぬぐいが好きです。

絵の中に店名や意味が隠されていたり、謎解きのようなものまである。当時は銭湯通いの家庭が多かったものですが、体を洗いながらてぬぐいを通じて会話が広がる光景が見えるようです。

配りてぬぐいのコレクション
「シンプルな絵柄の中に洒落が効いていて、見ていて楽しいのです」。

年始のご挨拶として手渡されるてぬぐい、そこに遊び心にあふれた柄があることで、ただの広告でも、道具でもない、ぬくもりのあるコミュニケーションツールになっているところが、とっても素敵だと思います。

分業で仕立てる注染てぬぐいと、即興性を楽しむ麻ふろしき

注染てぬぐいは、図案を描く人、型紙を彫る人、染める人…と、分業で仕立てていくのが基本です(なかには複数の工程を手掛けられる方もいらっしゃいます)。わたしは図案を描く者として、仕上がりの色や雰囲気の希望を伝えた後は職人さんに託します。

竜のてぬぐい(図案:七梅)
撮影:yukari takano

ですが制作をしているうちに、自分ひとりで始めから完成まで手がけることのできるものをつくりたいという気持ちが生まれました。

そこではじめたのが、麻布を縫い合わせたふろしきです。

麻布を縫い合わせたふろしき
「肌ざわりがよく、風や光を通して見える風合いが心地よい素材を選んでいます」。

自分で布の手触りを感じながら染め、色を組み合わせて縫い合わせるのは、その日その時の気分や、日々変わる季節の空気を反映させるなどの即興性もあるのが楽しいです。

麻ふろしきは、色の響き合いを大事に見ています。「もう少しだけ薄く」「柔らかく」「縫い糸だけビビットな色に」など細かく調整しながらも、おおらかな色の広がりが生まれるように構成しています。

麻布を縫い合わせたふろしきのエプロン

もともと、布というのは多様な使い方をするものでした。

切って縫って「何か」にしてしまう前の、1枚のプレーンな布だからこそ、こう結んだらこう使える、こうねじったらこんなふうにも使える、という「工夫のしどころ」を再発見していくのが楽しいです。

古い唄に、てぬぐいの使い道を何通りも連ねたものがあります。

読み人知らずの手拭いの唄

江戸から明治、昭和のはじめ頃の光景を唄ったものと思われますが、てぬぐいという1枚の布が、人生と暮らしのあらゆる場面に寄り添う道具であることがわかります。わたしのつくるものも、そうありたいです。

集まって、繕って、笑顔になる場所を

現在の屋号を名乗ってからの年月は長いのですが、活動の密度にはかなり濃淡が。出産後に体調を崩した頃、そしてここ数年は身内の介護が始まり、制作も活動もほぼ休止している時期がありました。

疲れてしまって、もう続けられないと思ったことも。

衣類を繕う

そんなとき、繕いものの作業に助けられました。傷んだ衣類を淡々と繕うことで、自分をいたわり、再生への力を蓄えていけたのです。ヘビーな時期は無理を重ねず、「できるようになる時が来る」と、静かに回復の時間を持つことも必要だと知りました。

わたしが開催している「繕(つくろ)いものをする会」は、穴が開いたり、擦り切れたり、シミがつくなどした衣類を持ち寄って、お茶を飲んだりおやつをつまんだり……

また、最近あった出来事などの気楽な雑談をしながら、針と糸でチクチクと繕います。お酒とおつまみをお供に、という時もあります(笑)。

繕いの会の写真
手近な糸と道具で手早く直す、昔の繕いのシンプルさ。ご自身で実践しているうちに、ご友人から「一緒にやりたい」と声がかかり、ワークショップが始まったそうです。

衣類のちょっとした傷みは、どうにかしたいと思いつつも、せわしない日々のなかで後回しになりがちですよね。それを、えいっと腰を上げて集まって、世間話をしながら手を動かし、最後は「直った!」と喜び合う。参加者さんたちがスッキリした笑顔で帰られるのを見送るのがうれしいです。

ご自分で繕ったものを「今までよりもっと好きになった」とおっしゃった方もいて、きっと、直した服と一緒に、直した自分のことも好きになれたのではと感じました。

ついてしまった傷を否定せず、きれいな糸を通して直し、ものや衣類との新しい関係を創造することが、自信と勇気になっていく。衣服のほころびが繕われるだけではなく、心や時間が再生していく瞬間にハッとします。

これからは、ものではなく「場」を作ることにも挑戦していきたいです。

オランダのアムステルダムから世界に広がっている「リペアカフェ」という活動を、身近な地域でできないかと考えています。アムステルダムでは、壊れたものを直してくれたり、直し方を教わったりする場がたくさんあるそうです。

そこで修繕されていくのは、ものだけではなくて、思い出や、地域のコミュニティ、消費社会への眼差しであったり…。そんな現地の様子を紹介したドキュメンタリー映画がとても素敵だったので、まずはその映画の上映会の企画を…と思うのですが、わたしひとりでは難しいことなので、これも、楽しんで関わってくれる仲間集めからですね。

毛糸の風景

お知らせ

2026年2月にネットショップを開店します。糸やてぬぐいなどのこまごましたものから、大きな麻ふろしきまでご覧いただけるよう、準備しています。また、札幌と東京を中心に、各地でダーニングのワークショップ(繕いの会)を開催しています。詳細は七梅のホームページやInstagramなどでの告知をご覧ください。

七梅(ななうめ)
注染(ちゅうせん)という昔ながらの技法で染めるてぬぐいと、麻布を縫い合わせたふろしきの制作、繕いもののワークショップなどの活動をしています。
☑ Instagram
@umenofu
☑ WEB(SHOP)
​​​​https://nanaume.handcrafted.jp/