#03 三鷹編
まちのミカタ3回目。今回はエントリエの編集長エイミーこと2級建築士鈴木が気になるまち、三鷹です。前回は「散歩の記事なのに食べすぎ」という感想をもらい、世の中をザワつかせましたが今回はいかに。嗅覚だけであるいた三鷹は、「秘密基地を作りたくなるまち」でした。
嗅覚のみでお散歩スタート
開始5分でシャンプー!?
この日の待ち合わせは、JR中央線 三鷹駅。電車で向かう途中、SABOTENSのよっちゃんこと藤田泰実さんからLINEが入りました。
▷寝落ちしてしまったSABOTENS藤田さん
本職はデザイナーの藤田さん。なんと、登録者数100万人超えで今話題になっている、江頭2:50さんのYouTube「エガちゃんねる」のデザインをすべて手掛けています。取材の日は、ちょうど公開の日。朝まで徹夜で作業をしていたのでした。よっちゃん、お疲れさま!
▷「エガちゃんねる」のTシャツで登場した藤田さん
▷眠い目をこすりながら、いざ出陣!
駅を出て、まずは三鷹駅南口側へ。
藤田:私たち、絶対晴れ女だね!
村田:たしかに。「まちのミカタ」のお散歩はいつも晴れてるね!
細野:……そしてまた、二人とも自然に脇道に入っていったね。
村田:無意識に進んでた(笑)。
藤田:何もいわずに。
細野:この企画3回目にして、二人が進む場所の予測がついてくるようになった。
村田:あ、理容室だ。
藤田:こういうところでシャンプー体験してみるのもいいよね。男性だけかな。
細野:……行く?
藤田:私、徹夜で髪洗ってないからさ。
村田:実は私も朝時間なくて、シャンプーできなかった。
細野:私もそういえば昨日、髪の毛洗ってない。
藤田:みんな!? でもいつも切ってくれる美容師さんが、冬は毎日洗わなくていいっていってた。
村田:うちのおじいちゃんも同じこといってた……あ、でもうちのおじいちゃんハゲてた。
ポン菓子の爆発音がこだまする
「みたか消費者まつり」
始まって5分でいきなり理容室に入るのはやめて、少し歩いてみることにしました。
村田:あ、イベントやってる。「みたか消費者まつり」だって。
スタッフの方:はい、どうぞ、「ポン菓子」です。無料ですよ。
村田:ありがとうございます。
村田:これは何のお祭りですか?
スタッフの方:三鷹市消費者活動センターの運営協議会が、毎年やっているお祭りなんです。三鷹の散策マップいりますか?
藤田・村田:わー、ありがとうございます!
スタッフの方:三鷹はジブリ(※)だけじゃないんですよ。
※ジブリ……東京都三鷹市 井の頭恩賜公園西園内には、かの有名なジブリ関連の作品を多数収蔵・公開している「三鷹の森ジブリ美術館」の所在地であり、連日多くのファンで賑わっている。
村田:この辺で古い住宅街や昔からあるエリアってどのへんですか?
スタッフの方:このあたりは、明暦の大火の時に江戸から移住してきた人たちが定着したところなので、三鷹の中では比較的古いエリアですよ。
▷消費者まつり会場の一角では、職人さんによる包丁研ぎも行われていました
スタッフの方:この辺は昔、太宰治がよく歩いていたんです。太宰治がよく通っていた酒屋さんの跡地が「太宰治文学サロン」になっていますよ。
村田:そうなんですね!
▷太宰治が行きつけだった酒屋さんは、「太宰治文学サロン(伊勢元酒店跡)」という記念館になっています(三鷹市下連雀3丁目16-14)
ここでいきなり「ピーーー」という笛の音が鳴り響きました。
スタッフの方:あ、耳、耳、耳! 耳塞いで。
細野:え? 耳!??
次の動画は、ポン菓子が出来上がる大きな音がするのでご注意ください
「パーーーン!」すぐ近くから、大きな音が。
村田:今のはなんの音ですか?
スタッフの方:ポン菓子だよ。圧力かけて作るから。
藤田:荷物持ってたから、耳塞げなくてパニックになっちゃった。
村田:いやーびっくりした。
勝手に生える木に、妖怪・植物神隠し
三鷹のまちにも、はみだす緑
「みたか消費者まつり」をあとにして、付近の路地をお散歩する一行。さまざまな路上園芸に心を奪われながら、ゆっくり、ゆっくり……。
▷三角形の敷地を巧みに利用した見事な園芸に見惚れるSABOTENS
村田:あの木、狭いとこから生えてきてる。
藤田:紐で結ばれてて、大切にされてるね。
村田:見守られてる感じ。いいなー、「勝手に生える木・写真集」作りたい。
藤田:いいね!「勝手に生えて何が悪い」っていうサブタイトルにしよう。
村田:わ、あれもすごいよ、自転車が蔦に覆われてる! なんだこりゃー。いつからこうなってるんだろう?
藤田:二年くらいは夏を越したんじゃない?
村田:越したね、こりゃ。夏の間は緑でモコッとした物体だったけど、冬になって自転車が現れたんだろうね。
藤田:これ、名付けるならなに?
村田:どうしよう……「妖怪・植物神隠し」……!
藤田:てんこ盛りな名前だね。
三鷹のミッキーに、死んだロバに、生きた猫
路上で出会う動物たち
藤田:あ、ミッキーだ!
村田:年季入ってるね。白くなっちゃってる。
藤田:三鷹のミッキー。昔飼ってた雑種犬も「ミッキー」っていう名前だった。脱走しまくる犬だったな。
村田:ミッキーマウスのミッキーから名付けたの?
藤田:本当は「ラッキー」って付けたかったんだけど近所にいて、「ロッキー」って付けたかったんだけど近所にいて、「ミッキー」になった。
村田:あ、あのアパートに、植木鉢がひとつだけ乗ったミニミニなベランダがある。
藤田:小学校のとき、こういうアパートに住みたくてしょうがなかった。一人で。
村田:一人で?
藤田:そこで、お母さんに読んじゃいけないっていわれてる漫画とかを読みたかった。
村田:秘密の隠れ家にしたかったんだね。
村田:あ、あれ、枯れた棕櫚(※)が動物っぽくない?毛むくじゃら。
※棕櫚(しゅろ)……ヤシ科の常緑高木のこと。
藤田:死んだロバみたい……。
細野:すぐに植物の名前がでてくる。さすが、路上園芸学会の村田さん。あ、猫だ!
藤田:ニャー! おいでよ、ニャーニャーニャー。
村田:珍しい模様だね。
藤田:おはよー、おはよー。
村田:こっち来なよ! ポン菓子いる?
▷延々と猫に話しかけるSABOTENSを見守る細野
落ちもんとフェンスに食い込む木から
広がる妄想劇
村田:なにこれ、落ちもん? 野菜ジュースにスヌード。
藤田:多分スヌードも野菜ジュースも、同じ持ち主。野菜で健康を気にしてるところがいいね。この状況を含めて撮るのが落ちもんの醍醐味。
村田:あ、よっちゃん、見て見て、あの木!
藤田:すごい、行こう!!
▷駐車場の奥になにかを発見したSABOTENS
▷ドーン! ネットに食い込む木
村田:下から生えて、フェンスのネットに食い込んだんだ! すごいよ、これ。
藤田:戦いのあとって感じがするね。
村田:多分桜の木。前はこの辺一体に桜が咲いたんだろうな。
藤田:それを思うと切ないね。業者の人は「どうしますか? フェンス壊しますか?」ってブチギレただろうね。
村田:「フェンス壊すと追加で数十万円かかりますよ?」
細野:(あ、二人の妄想劇がはじまった……)
藤田:「できないっすよ?」って。それでこの状態。「だめだこりゃ。田中さん、なしなし!」って。
村田:あ、こっちにも落ちもんがあるよ! サンダルにジムビーム。
細野:(終わった……)
藤田:夜中に徘徊してここで飲んだのかも。
村田:それであっちに行って、野菜ジュースを飲んで。
藤田:あっちの落ちもんと、物語がつながってるかもね。
村田:下のは新聞紙かな……?
藤田:う●ことかないでしょうね……?気をつけよう! あやちゃん、何も考えずに踏もうとしてたけどさ、危険だよ。常に疑っていかないと。
村田:駐車場には、何かがある。
お肉屋さんでエネルギー補給
まちの美容室で猫の話に花が咲く
▷路上に現るオアシス「肉のアンデス」(三鷹市下連雀3丁目30-9)
細野:あ、お肉屋さんだ。
藤田:美味しそう!
村田:買おうか。こんにちはー。ささみフライをひとつください。
▷スタッフのみなさん、「Andes」と書かれた素敵なキャップを被っていました!
藤田:私は牛肉コロッケ。ここは長いんですか?
肉のアンデスさん:50年。ちょうど俺が生まれたとき……フフ。ここの前は馬車が走ってたんだから。
▷ささみフライと牛肉コロッケをいただきました
村田:めちゃくちゃ美味しい、これ。衣がサクサク。
藤田:何もつけなくても美味しい。50年やっているだけあって、さすがですね。
村田:いやー、美味しかった。ごちそうさまでした!
藤田:次は何食べよっか。……って、食べた直後にまた食べること考えてた。
肉のアンデスさんを後にし、さらに歩いていたところ、いい雰囲気の路地を発見。
▷大きなミッキーが出迎えてくれる、「美容アトリエぽぷら」(三鷹市下連雀3丁目31-10)
村田:お店の前で雑貨を売ってる。あ、このバッグ、すごいかわいい! 500円だって。買おう。
アトリエぽぷらさん:こんにちは。
村田:こんにちは、これください。ここは何のお店ですか?
アトリエぽぷらさん:奥で美容室を25年やってるんです。いまは骨董も扱っています。よかったら中も見ていってください。
藤田:ありがとうございます!
▷美容室の様子。ミッフィーは、「亡くなった母がうさぎ年だったから置いている」とのこと。
村田:ここに猫ちゃんの写真もありますけど、猫飼ってらっしゃるんですか?
アトリエぽぷらさん:はい。この子がずっとうちの子だったんです。
藤田:かわいいー!
村田:なんていう名前だったんですか?
アトリエぽぷらさん:ビッチ。
藤田・村田:(!!)
アトリエぽぷらさん:チビだったから。ビッチって、あまりよくない名前だけど……
藤田:あはは。外国語だと、変な意味になっちゃいますもんね。
アトリエぽぷらさん:でも、すごくいい子だったんですよ。
藤田:デビット・ベッカムと一緒にいますね。
アトリエぽぷらさん:ベッカムは、お客さんが好きで貼ってあげたら、それきり剥がせなくなっちゃったの。
藤田:最高。
村田:猫は何匹いたんですか?
アトリエぽぷらさん:この子だけ女の子で、あと4匹は男の子で。
村田:いまもいるんですか?
アトリエぽぷらさん:みんな死んじゃった。23歳くらいまで生きたんですよ。最後はちょっと鳴き方がおかしいなと思って抱き上げて、ベッドに乗せてタオルを取りに行ってる間に固くなってた。
藤田:老衰だ。
アトリエぽぷらさん:いい子だったのよ、ビッチだけど(笑)。
▷猫の話に花が咲く、SABOTENSとアトリエぽぷらさんを10分程見守る細野
村田:他の子たちの名前はなんだったんですか?
アトリエぽぷらさん:一番乱暴なのが「ランボー」くん、チャカチャカ動くのが「チャチャ」。おとなしい子が「しずか」ちゃん。あと一人は人間とおしゃべりできる「ショウベエ」くん。
藤田:名前のセンスが最高ですね!
アトリエぽぷらさん:また覗きに来てくださいね。
北口・南口では雰囲気が異なるまち。
大根を抱え、散歩はフィナーレへ
アトリエぽぷらさんを後にし、また少し歩きはじめると、徐々にSABOTENS藤田さんの口数が少なくなってきました。
藤田:どっかで休憩しよう。
村田:よっちゃんの電池が切れてきて、みるみるゲージが下がってる。
藤田:HP2くらい。
▷自撮り棒を杖のように使うSABOTENS藤田さん
藤田:さっきまでアドレナリンがでまくってたのに、急にきた……。
村田:自撮り棒が、最初の飛脚スタイルから、杖に進化したね。
藤田:お、片手袋(※)。かわいい。
※片手袋……片方だけ落ちている手袋のこと。『片手袋研究入門』(石井 公二 著、実業之日本社 、2019年)という書籍もある。
村田:あ、こっちにもあるよ!
藤田:あ、また片手袋だ!
村田:片手袋祭り。
お腹が空いて電池切れの一行。お昼ご飯を食べる場所を求め、駅の北側へと向かいます。
細野:駅の北口は、南口とはまた違う雰囲気だね。高層マンションとビルに、整備された区画。
村田:住宅街っぽさはあまりないね。
村田:あ、モンテローザ本社って書いてある!
細野:本社ってここにあったんだ!
村田:すごいね、ゴージャスなエントランス。
細野:いざなわれそう。
村田:モンテローザ専用のカラーコーンもあるよ。
時間は14時。すでにランチタイムが終了しているお店も多く、なかなか見つかりません。なんとなく生活感があって落ち着く南口側へ、再び戻ってみることにしました。商店街の一角で、閉店セールを行うお店を発見。
村田:あ、ご自由にお持ちくださいだって!
藤田:ほしい!
村田:これ、いただいていってもいいですか?
お店の方:いいですよー。もうお店閉めちゃったので。
村田:何屋さんだったんですか?
お店の方:何屋さんだったんでしょうかねぇ、さて。
▷藤田さんは「出口」と「水」、村田さんは「勝手口」「控室」「1」「2」をゲット
すぐそばでは、路上で大きな大根が売られていました。
藤田:わ、三浦大根、安い!
お店の方:切り分けられますよ。
藤田:三等分して分けよう。こんなに大きくなるもんなんですね!
お店の方:もともと真ん中が太くなる形です。水分が多いので、サラダにおすすめです。
切り株のような大根をそれぞれ抱えて歩いたところ、ようやくお昼を食べられそうなお店を見つけました。
▷イタリア料理店「ピッツェリア・ボッテガンテ」(三鷹市下連雀3-38-7)。この時すでに14時半ちょっと前。15時にランチタイムが終了するにも関わらず、快く迎え入れてくださいました
藤田:久しぶりに座った。
村田:徹夜明けの中で頑張ったね。
藤田:ごめんね、途中で電池切れになっちゃって。
村田:声が聞こえなくなったもんね。
藤田:よかった、お店に入れて。
▷ランチセットをいただきました。お好みのピザまたはパスタ、サラダとドリンクがついてなんと¥1,000!
細野:いつも聞いている質問だけど、このまちだとマンションか一軒家、どっちに住みたい?
藤田:秘密基地のように使えるアパートに住みたい。もし今、アパート一棟売りに出てて、自分で買える金額だったら買っちゃうかもしれない。二部屋くらい自分の部屋にして、残りは貸したい。
村田:私は、木に覆われた古い一軒家に住みたいな。
ご飯を食べながら「エガちゃんねる」の登録者数をチェックしていたら、なんと半日足らずで7万人! この後順調に登録者が伸び、翌週末には100万人を突破したのでした。エガちゃんの伝説が始まった日の、記念すべき散歩だったのでした。
おまけ「徹夜明けの藤田さん」
最後に、徹夜で頑張ったSABOTENS藤田さんの変幻自在な自撮り棒の操りっぷりを、ハイライトでどうぞ。
▷飛脚スタイル
▷途中で携帯電話の電池がなくなり、その後は計測器に進化。そもそも何センチかわからないのが難点
▷石の幅も計測中
▷ぴたりとはまると、なぜか嬉しい
▷疲れた時は杖にもなる
本日の一コマ漫画
イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)
まちのミカタ 心に残る三鷹の風景
村田のミカタ:野戦部隊のような送水口
藤田のミカタ:全裸で側転をしているように見える木
▷三鷹の豆知識
東京都の多摩地域東部に位置する市。記事中にも出てきた「三鷹の森ジブリ美術館」や武蔵野市と三鷹市にまたがる都営の自然公園「井之頭公園」など人気のスポットもあります。
今回は、商店街など昔ながらのまちなみが残る南口を中心に歩きましたが、北口は平成22年に行われた超高層マンションの建設、平成24年に「駅前広場バリアフリー暫定整備」が行われ、雰囲気の違いを大きく感じました。
●取材/SABOTENS・細野 由季恵
●編集/細野 由季恵
●執筆/村田 あやこ
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SABOTENS / SABOTENS
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。