#12 柴崎編
まちのミカタ12回目。今回の舞台は、東京都調布市にある「京王線 柴崎駅」です。「知らないまちを嗅覚だけで歩いてみる」という本企画の原点に戻り、3人ともが初見のまちを嗅覚だけで歩いたところ、思いがけず人生について思いを馳せる散歩となりました。
個性豊かすぎるお店との出会い
この日の集合は柴崎駅前にある「Cafe & Pasta CRESSON」さん。少し早めに到着した筆者(村田)が待ち合わせまでちょっとお茶でも……と偶然看板を見つけ入ったところ、エントランスに鉢植えが花道状態に並んでいたこのお店! 急遽みんなを呼び寄せ、散歩前に腹ごしらえすることにしたのです。
▷店頭が鉢植えの緑に包まれた「Cafe & Pasta CRESSON」(東京都調布市菊野台3丁目1−1)
▷ランチセットをいただきました。パスタ・スープ・サラダ・ドリンクがついて950円!
美味しいパスタに満たされた3人は、いざ柴崎のまちに繰り出します。
▷レッツゴー!
目に止まった道を歩き進んでいくと、パッチワークのようにマットが並んだ一角を発見。
村田:……ねえ、これかわいいよ!
藤田:かわいい! リサイクルショップだって。
窓ガラスに一枚の小さな貼り紙を発見。「ご希望の方には姓名判断を行なっています」と書かれていました。
村田:「無料姓名判断」もやってるみたいだよ、ここ。
藤田:いってみようか。
▷「無料姓名判断」の案内を発見するSABOTENS。
▷「リサイクルショップ・タウン企画」(東京都調布市菊野台2丁目20−9)。開店後はマットの上に冷蔵庫などの商品が並びます。
村田・藤田:こんにちは〜。
リサイクルショップ・タウン企画さん(以下、タウン企画さん):はいはい。
藤田:「無料姓名判断」をやっていただきたいんですが。
タウン企画さん:いいよ。まだ開店前だから、1時間後くらいにまた来て。なに、姓名判断気になるの?
村田:気になります!
藤田:目に入っちゃいました。1時間後にまた戻ってきます!
若い頃から姓名判断を嗜み、今もリサイクルショップのご商売の傍ら希望する人がいれば無料で鑑定しているという店主さん。開店後にみていただく約束をして、再び歩き始めます。
▷隙間から顔を出すニチニチソウ
隙間から生えたニチニチソウを見つけ「かわいい!」とキャッキャいい合っていたところ、「かわいいよねえ、有名な花だよ」とおもむろに話しかけてくる声が。声の主に目を向けたところ、目の前にあった自転車屋さんでした。ん? 自転車と一緒に野菜や果物も売ってるぞ……?
▷「サイクルショップ菊野台」(東京都調布市菊野台2丁目19−21)
サイクルショップ菊野台さん:なに、散歩してるの? お姉さんたち。
村田:そうなんです、柴崎をお散歩してて。こちら、八百屋さん兼自転車屋さんなんですか?
お友だち:そう、変わってるでしょ。人間も変わってるから気をつけてよ。
一同:(笑)
店内には、店主さんのお友だちらしき方も。何やら賑やかで楽しそうです。「うちのぬか漬け買ってよ、絶対うまいから」というおすすめにつられ、お店で漬けているというキュウリのぬか漬けを買うことにしたところ、なんとその場で糠床からキュウリを取り出し、外の水道で洗って手渡してくれるという豪快スタイル! その場でボリボリといただいたところ、程よい塩気がおいしいぬか漬けでした。
▷一人まるごと一本! キュウリのぬか漬けを食べるSABOTENS。
細野:なんで自転車と野菜を売ってるんですか?
サイクルショップ菊野台さん:時代の流れで一つじゃ食えなくなっちゃったの。魚屋さんが野菜売ってたり、ヤマダ電機でも建物を建てたり、いろいろあるじゃん。変わっちゃったよね、世の中が。
……あ、これもおいしいから買ってきなよ、俺が煮たの。カボチャ。
村田:いただきます……甘くておいしい!
▷向かいの美容院では、猫がちょうど散歩から戻ってきたところ。「ミャオー」と合図のように鳴いて、店内に入っていきました。
営業上手な店主さん。カボチャの煮物を試食したところ、これまた美味! あとで煮物を買いに戻ってくる約束をして、お店を後にしました。
植物探偵・SABOTENS村田
再び周りをぶらぶらと歩いていたところ、突然「コケコッコー」という鳴き声があたりに響き渡ります。
藤田:ニワトリ!?
村田:あ、いるいる!
ニワトリ:コケコッコー
藤田:いっぱいいるね。すごい。
ニワトリ:コケコッコー
村田:漫画みたいに「コケコッコー」って鳴くね。
いい雰囲気の小さな商店や住宅がひしめく道を歩きながら、さっきの自転車屋さんとの出会いを反芻します。
藤田:いいまちだね。
細野:柴崎、濃いねえ。
藤田:リサイクルショップの方も自転車屋さんも、オープンで楽しかったね。……姓名判断をしに戻ってくるの忘れないようにしないと。
村田:たしかに。忘れずにいかなきゃね。自転車屋さんのインパクトが強くて、上書きされかけてた。
藤田:映画のように、次々と個性的な登場人物たちと出会ったね。
▷フェンスに絡みつく木を発見し、興奮するSABOTENS。
藤田:わ、あの木すごいよ。
村田:この下から生えた木がフェンスを食って、最終的に切られちゃったのかな。戦いの跡です。
藤田:でた、探偵村田の事件簿。
村田:事件だ事件。
▷植物探偵現る。
▷看板の周りがくり抜かれた木。
村田:わ、この木もすごいよ。くり抜かれてる。
藤田:入居者募集のために切られた木だ。
村田:ぱっくり空いてるね。
藤田:植えたいし、看板も見せたいし。
▷あふれる植物に埋もれる鉢。
村田:すごい、ここの植物も鉢からはみ出したやつと勝手にやってきたやつとが混ざったんだろうね。いい風景。
藤田:もはやどれが鉢かわからない。
村田:「ウォーリーをさがせ!」みたいに、「鉢をさがせ!」状態だね。
藤田:鉢なんか関係ねえ状態。いいですな。
村田:いいね。波打ち際のように生えてます、植物が。
▷近くで生えていたセンダングサをくっつけ合う、小学生みたいなSABOTENS。
かわいい園芸と文字のまち
メインイベントである姓名判断に向けて、引き続き柴崎のまちを探索します。
▷植物にガードレールに……土の中にいろんなものが飲み込まれて一体化。
藤田:みんながみんな支えあって、三位一体だね。
村田:「千と千尋の神隠し」のカオナシみたいに、土がすべてを飲み込んでるね。
▷植え込みに咲くマスク。
藤田:うわ!
村田:マスクが木に実ってる!
藤田:干してあるのかな。
村田:幸福の黄色いハンカチみたい。「茶色いマスクが干してあったら待ってます」って。
▷線路脇のフェンスに絡みつくアサガオなどの植物。
村田:はみだせ緑ストリートだ。
藤田:駅の中にも生えててすごいね。
路上園芸学会調べで「園芸がはみだすまちは居心地良い」という統計がありますが、その法則に従うと、柴崎は間違いなく住み心地の良いまちでしょう。
▷村田「おそなえされてる」、藤田「カップルみたいだね。かわいい」
▷看板文字と花の色がピンクでコーディネートされている。
▷村田「ごみ収集所の周りに鉢植えが置かれてる!」、藤田「愛を感じるね」
柴崎は園芸だけでなく、「いい文字」の宝庫でもありました。
▷自転車乗り場の番号がガムテープ製。
藤田:この文字はガムテープで描いたのかな。上手!
村田:手づくり文字だ。
▷「出入口駐禁」もお手製。
村田:かわいい〜。
藤田:「禁」の字は大変だっただろうね。
▷駐車場のパイロンにも手づくり文字。
村田:この文字もすごくいい。柴崎は文字も味わい深いまちだね。
藤田:文字を手づくりしてるね、みんな。
姓名判断から垣間見えたSABOTENSの波乱の人生
植物に落ちもんに文字。いろんな見どころを堪能していたら、約束していた姓名判断の時間が近づいてきました。ドキドキしながらリサイクルショップ・タウン企画さんに戻ってきたところ、店頭にはのぼりが立ち商品がずらり。無事に開店していました。
▷店頭には服や家電がずらり。
村田:服も洗濯機もあるね。すごい。どうしよう、爆買いしちゃいそう。
藤田:爆買いしそうになったら止めるね。
▷早速商品に目を奪われるSABOTENS。
藤田:こんにちは〜、戻ってきました。
タウン企画さん:ははは。
村田:商品が並ぶといいですね。
藤田:わー、これかわいい!買おうかな。
村田:よっちゃん、早速……(笑)。
スマホケースを探していたというSABOTENSよっちゃん。1個50円という破格のお値段で売っていた、かわいいケースを購入することにしました。SABOTENS村田は、さくらんぼモチーフのイヤリング(100円)を購入。
お買い物タイムのあとは、いざ本日のメインイベント・姓名判断です。渡された紙にフルネームで名前を書くと、そこから店主さんが画数を計算していきます。
▷ドキドキの姓名判断。まずはよっちゃんから。
タウン企画さん:下の名前はなんて読むの?
藤田:「よしみ」っていいます。
タウン企画さん:男みたいな名前だね。
藤田:いちおう女です(笑)。市役所とかでたまに「泰実」を「やすみつ」って読み間違えられて男だと思われることもあるんです。
タウン企画さん:強い数字が色々出てくるなあ。正直いうと、女の人ではない方がいい数字。名前の中に「23」と「33」という画数がいくつもある。この名前の運勢は、家庭を持っても簡単に相手のものにはならない。相手の運勢を食っちゃって、相手が弱くなっちゃう。男性だったらいいんだけど。
藤田:でも女性で生まれちゃったからな。どうすればいいですか?
タウン企画さん:ペンネームかなにかで多少変えた方がいいよ。
村田:「つのだ☆ひろ」みたいに「☆」を入れたり……?
タウン企画さん:ただ、全部足した画数は「41」で大吉。
藤田:やったー。
タウン企画さん:23も33という画数も基本は全部吉なんだけど、女性が持ったらちょっとどうか、という感じ。
藤田:ちょっとどうか(笑)。
▷店内には画数ごとの運勢が書かれた表。23と33という画数には「後家相」「後家運」といった単語が。
タウン企画さん:強すぎて相手の運勢を食べちゃう。それくらいのパワーを持っている。もしこの運勢でなんとかしたければ、女じゃなければ信用されないような商売をしたほうがいいです。
村田:どういう職業でしょう?
タウン企画さん:女将さんとか。
藤田:なるほど、束ねるみたいな。
村田:個人事業主として仕事するにはいい画数なのかもよ。
タウン企画さん:性格の運勢は「15」。これは人格者ということ。
村田:15の運勢は……「徳望高く、目上の引き立てあり」。すごくいいじゃん!
藤田:本当に男みたいな名前なんですね。
タウン企画さん:「あんたがいないと、この商売は成り立たない」っていう仕事を選んだ方がいい。
村田:よっちゃんの仕事はまさにそうじゃん!
タウン企画さん:家庭を持ちたいんだったら、パワーを持っていることに納得する人を選ぶといい。
村田:よっちゃんの強さを良しとしてくれる相手を探すということか。
藤田:深い鑑定をしていただいてありがとうございます。
タウン企画さん:基本的にはいい数字ばかりで、どんなことでも乗り越えていけるパワーを持っている。ただ、家庭を持つと頑張りすぎて体を壊す可能性がある。自分でよくわきまえて、仕事と家庭をビシッとわけるのがいいですよ。
名前の画数から、想像以上に奥深い鑑定結果が出てきたことにびっくり。続いて、SABOTENS村田の鑑定です。今の名前と結婚前の旧姓を両方書いて占っていただきます。
▷続いて村田の鑑定。
タウン企画さん:この名前の人は、曲がったことができないタイプ。わかりやすくいうと嘘をつけない。
藤田:たしかに嘘はつけない。顔に出ちゃうもん。
タウン企画さん:僕の娘も同じ画数にしたんだよ。変な男にフラフラついていくなっていう。結婚して25画になったなら、大吉だ。
藤田:よかったね〜!
村田:よかった! ネットの姓名判断だと悪くて。凶ばっかり出てくるんですよ。
タウン企画さん:え? おかしいな……。いち、に、さん、し……。
「25画」という画数をもう一度数え直す店主さん。あらら、いきなり雲行きが怪しくなります。
タウン企画さん:……ちょっとまって、数字が違った、ごめん。
藤田:やばいやばい(笑)。
村田:いきなりどんでん返し(笑)。
タウン企画さん:うわ、「26画」だ。
村田:26画は……「極端、波乱、英雄運稀にあり」。25画だと「資力あり、栄敏、才知」だったのに……。
タウン企画さん:意味が変わってきました、ごめんなさいね。
藤田:オーマイガー!
村田:ガーン!
タウン企画さん:……。
藤田:頭かかえてる(笑)。どうにかして25画にしてもらえないでしょうか。
村田:こうなったら一本くらい抜いてもいいです。
タウン企画さん:でも旧姓よりは今の名前の方がいい。旧姓は最悪。
村田:最悪なのか(笑)。
タウン企画さん:旧姓は最悪。28画。
村田:28画は……「遭難、家族運薄し」……。
タウン企画さん:やばいくらい。
藤田:よく生き抜いたね。
タウン企画さん:名前の中に「14」が二つ、足した数が「28」でしょ。パーフェクトに大変。大丈夫だった? よく生きてたね。ただ14という数字、外的な運勢はいいとはいえないんだけど、今まで俺が見てきた感じでは、珍しいくらい性格がいい人が多い。
村田:それならまだよかったです。
タウン企画さん:これだけ名前の中に「14」がある人は見たことない。表面上は大変だけど精神的なものは強いから、自分では別に悪いと思ってない感じ。
藤田:最強じゃん。
村田:外から見ると大変だけど本人はそんなに気にしてないっていう。
タウン企画さん:他人のために尽くす運勢で、他の人から見ると「家族のために犠牲になって」って思ってるかもしれないけど、本人は全然苦しいとは思っておらず普通にできる。
村田:よかったです、今まで生き延びて。
名前の画数は思いがけず波乱万丈でしたが、精神力でなんとかここまで生き延びてきたことがわかったSABOTENS。深い鑑定をしていただいたタウン企画の店主さんに御礼をいい、店を後にしました。
▷突然の訪問にも関わらずありがとうございました! タウン企画さんのブログはこちら
家の一角をみんなの溜まり場にしたいまち
鑑定結果をしみじみと反芻しながら歩いていると、ふたたび先ほどの自転車店兼八百屋「サイクルショップ菊野台」さんに辿り着きました。……あれ? さっきより人が増えているぞ。
▷お仲間が勢揃い。「清洲城信長鬼 鬼殺し」を呑みながらワイワイと集っています。
サイクルショップ菊野台さん:どこまわってきたの?
村田:ぐるっと一周してきました。
藤田:皆さんお友だちですか?
お友だち:人類はみな兄弟なんだよ。
藤田:いい言葉(笑)。かぼちゃを買おうと思って戻ってきました。
お友だち:かぼちゃには栄養があってきれいになるんだよ!
藤田:早速、夜ご飯にいただきます。
村田:私も夜ご飯に買っていこうかな。
▷かぼちゃの煮物とりんごを購入。
一緒にいたお仲間には、米の収穫量を増やすために日々研究を重ねる「発明家」がいらしたりと、多様なメンバー。にぎやかにいろんなお話が飛び交います。ご近所にこうやって仲間うちでワイワイと集まれる場があったら、めちゃくちゃ楽しいだろうな。
先ほどの姓名判断の結果を少々落ち込みながら伝えたところ、「当たるも八卦、当たらぬも八卦だから、気にしすぎないでいいよ」と温かなコメントをくださいました。サイクルショップ菊野台&お仲間の皆さま、ありがとうございました。
村田:いやー、パワフルだったね。
藤田:今日出会った人たちからしたら、私たちはまだひよっこだね。
村田:ご近所にあんなふうに集まれる店があったら楽しいだろうね。鬼殺しを飲んで。
藤田:今日は撮れ高すごかったね。姓名判断だけで「第一部 よっちゃん編」「第二部 あやちゃん編」で別の記事にできそう。「藤田泰実、後家相」。
村田:「村田あやこ、よくこれまで生きてたね」。一画違っただけで落差がすごかった。
藤田:一つ画数が違うだけで、こんなに人生が変わるんだね。
村田:だから名前に点を一つだけ付ける人もいるんだね。
数時間の滞在ながら濃い思い出ができた柴崎。最後に、このまちに住むならマンション、一戸建てのどちらがよいかを振り返ります。
藤田:私は一戸建てかな。お庭があって木の生えた、昔ながらの雰囲気の家をリノベーションして住みたいな。
村田:私も一戸建てかな。一階をガレージにして、おじいちゃんおばあちゃんたち溜まり場にしたい。誰でも来ていいように椅子を置いて、鬼殺しもストックして。
藤田:いやー、おもしろかったね。一戸建てを買いたいとか、古民家がいいとか、アパートがいいとか。まちによって違うのが楽しいね。
イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)
まちのミカタ 心に残る西川口の風景
村田のミカタ:道の割れた部分にはめ込まれた様々なサイズの石が遺跡のようでした。
藤田のミカタ:人間の身勝手さで捨てたれた現実が受け入れられず、開いた口が閉まらずに顔面蒼白になっているかのように見えるカゴ
お知らせ
「SABOTENSちゃんねる」では、過去の「まちのミカタ」の取材中に撮影した動画を少しずつアップしています。ぜひお暇な時にでもご覧ください!
▷最新の「まちのミカタ(蔵前編)」
●取材/SABOTENS
●執筆/村田 あやこ
●編集/細野 由季恵
SABOTENS / SABOTENS
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。