#16 霞ケ関(埼玉)編
まちのミカタ16回目。今回は、ゲストにSABOTENS・よっちゃんの大学の後輩でもあり、友人のデザイナー 佐藤 洋美(さとう・ひろみ)さんを迎えお散歩しました。舞台は、ひろちゃんのアトリエ「余地|yoti」のある埼玉県川越市です。
国際大学のある川越・霞ケ関。駅周辺は多国籍な雰囲気
今回の待ち合わせは「霞ケ関」駅。国会議事堂がある方ではなく、埼玉県川越市です。同じ名前の駅があるんですね!改札前で「ひろちゃん」こと、佐藤 洋美さんと待ち合わせて、いざ出発!
駅前のアーケードには、イスラム教徒も食べることの許されているハラルフードを扱うお店やネパール料理屋などが軒を連ねています。
村田:駅前のアーケード商店街がとてもかわいいね。
藤田:ほんと。一つ一つのお店がちいさくてかわいい。
佐藤:霞ケ関には東京国際大学があるせいか、駅周辺に多国籍なお店がいっぱいあるんです。ここは、インド・ネパール系、もうちょっと歩くとバングラデシュ料理があるよ。
村田:色んな国の料理が楽しめるんだね。
空腹の一行は、ネパール料理のお店でビリヤニとシシカバブをテイクアウトすることにしました。出来上がりまでの時間、周りの商店街をぶらつくことに。
藤田:うわ、パイロンでっかい!
村田:あ、パイロンの下から植物がはみだしてる。
佐藤:……みんな思い思いにいろんなものを見てるね。
藤田:みんな話を聞かないでしょ(笑)。
佐藤:全部拾うのは無理だってわかった(笑)。
各々違う方向を見て、好き勝手に話したいことだけを話すいつもどおりのSABOTENS。温かく見守ってくれるひろちゃん、ありがとうございます。
藤田:建物も街灯もかわいいな。
村田:赤いテントの横は青い屋根だ。
佐藤:全体的にかわいいんだよ。街灯は場所によって種類が色々あって。
レトロでかわいらしい建物に、食堂やブティック、豆腐屋さん。耳を澄ますとスナックからはインド系のダンス音楽がズンドコズンドコと聴こえてきたりと、異文化ミックスな雰囲気が最高です。
よっちゃんはハラルフードのお店で、やかんを購入。バングラデシュのお米やチャパティ用の鍋など、珍しい食材が棚一面に並んでいます。
藤田:いい買い物ができてよかった。
村田:かわいいやかんが手に入ってよかったね。
佐藤:私も持ってるやかん。お揃いになったね。店員さんはインドではチャイを飲むと言っていたよ。
細野:今日のお散歩はやかんを持って歩くんだね!
レトロかわいい角栄商店街
注文していたビリヤニとシシカバブが出来上がったので、テイクアウト。歩いてひろちゃんのアトリエを目指します。「この美容室は、もりもりの素敵な髪型にしてくれる」「ここはお茶屋さんなんだけど野菜も売ってる」など、ひろちゃんがちょこちょこ挟んでくれる地元情報が楽しい。
よっちゃんは、買ったばかりのやかんを片手に持ちながら歩いています。
大きな通り沿いには、各国の旗がひらめく東京国際大学。大学近辺にも、各国の料理店が並びます。すっかり食欲に火が付いてしまい、地元で人気というバングラデシュ料理店で、テイクアウトのケバブサンドを購入。
両手に食材を抱えしばらく歩いていくと、「楽しいお買物 角栄商店街」と書かれた立体的な看板が目に入りました。ひろちゃんのアトリエのある「角栄商店街(かくえいしょうてんがい)」です。
佐藤:ここからが、私のアトリエがある「角栄商店街」です。
村田:「楽しいお買物」の看板がかわいい!
佐藤:肉屋さんに、魚屋さん、豆腐屋さん。向こうの方まで色んなお店が続いてるんだよ。
藤田:どのお店も建物や書体がかわいいね。すばらしい。目移りしちゃう。
昭和な雰囲気ただようお店が軒を連ねる角栄商店街。薬屋さんの店頭には、ペチュニアやアジサイなど色とりどりの鉢植え。ビロードモウズイカが満開でした。
SABOTENSでつくった本『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)の登場人物たちが住んでいそうな商店街です。
村田:見て、このオリジナル花壇! かわいい。
佐藤:ビールの箱を上から目隠ししてるのか。
村田:知恵と工夫の結晶だね。
細野:SABOTENSの「家ンゲイはんこ」の世界だね。
藤田:どのお店も、元気に営業しているところがいいね。
商店街の屋根の一角には、ツバメの巣も。「いいねえ」「いいねえ」としみじみ鑑賞しながら歩いていたら、足元になにやら気になるものが落ちていました。
佐藤:……なんか落ちてる。
藤田:うわ、すごいものが落ちてる。熊の手じゃない?!
佐藤:朝は落ちてなかった。ぬいぐるみの腕が引きちぎられたのかな?
藤田:きっとそれだ!
村田:最初、カラスかなにかかと思ってびっくりした。
細野:なんで落ちちゃったんだろう。
藤田:手を持って振り回したら、切れちゃったのかな……。
アトリエ「余地|yoti」でお昼ごはん
毛むくじゃらの手が落ちていた場所のすぐそばが、ひろちゃんのアトリエ「余地|yoti」でした。
藤田:わー、ここがアトリエ? 素敵! こういう事務所いいなあ。
村田:うわー、いいねえ。
角栄商店街の一角にあるひろちゃんのアトリエ「余地|yoti」。さっき買ってきた料理と、ひろちゃんが商店街で買ってきてくれたおにぎりをテーブルいっぱいに並べ、お昼タイムです。
細野:よっちゃんとひろちゃんは大学が一緒だったんだよね。会うのも久しぶりなの?
藤田:そう。久しぶりに連絡をくれたんだよね。
佐藤:「よっちゃん、今日も落ちもん収集してるな」って、よっちゃんのSNSは好きでチェックしていて。偶然YouTubeの「エガちゃんねる」を半年くらい前から見ていたんだけど、そのデザインをよっちゃんが手がけているっていうのを知って、いよいよ「よっちゃんが私に迫ってきているかも」と思って連絡したの。
藤田:ひろちゃんから丁寧なメールが来て、「私の生活の中によっちゃんが近づいてきています。これは、会えっていうことなんでしょうか」って(笑)。
細野:大学時代の思い出深いエピソードはある?
藤田:あるある。大学時代に一緒にやったプロジェクトで鬼怒川にいったとき、ほぼ初対面なのに同じ部屋に泊まることになって。そのときひろちゃん、部屋でいきなりブレイクダンスしてなかった?
佐藤:同級生がブレイクダンスをやってて、私も練習してた時期だったの(笑)。
藤田:二言三言しか喋ったことがなかったのに同じ部屋になって、いきなり「私、ブレイクダンスできるよ」ってくるくる回りだして。でもそのダンスが、あんまりかっこよくなかったの(笑)。「あれ? これってブレイクダンスなのかな?」って思いながら、回っているひろちゃんをじっと見ていたのを覚えてるよ。
佐藤:若かったな。(遠い目)
壁や床などご自身で内装に手を加えたという空間は、和の雰囲気もありながら、どこか異国情緒が漂っています。
佐藤:アトリエから窓の外を見ていると、近所に住んでいるおばあちゃんやインドの人が、ガンガン歌いながら通り過ぎていくんだよ。
村田:いいねえ。ここは長いの?
佐藤:2年前に借りて、壁を剥がしたり紙を貼ったりと改装したよ。楽しかったな。
村田:前は何屋さんだったの?
佐藤:倉庫だった時期もあったんだけど、昔は自転車屋さんとか音楽教室が入っていたみたい。
村田:そうなんだ! 静かな気持ちになれる空間だね。
佐藤:3年前にポルトガルとモロッコに一人旅をしたんだけど、アトリエにも向こうの雰囲気を出したくて。
村田:たしかに、日本じゃないみたいな異国情緒漂う雰囲気。
アトリエの2階は和室。細部にいたるまでセンスよく丁寧に手が施されています。
佐藤:2階の窓から商店街が見えて。仕事終わりに椅子に座って、外を見ながらビールを飲んでるよ。
村田:いい場所だねえ。最高。
佐藤:和室の壁は、もとあった砂壁を全部剥がして自分で漆喰を塗ったよ。天井は、もともとの板に柿渋を2、3回塗って。
藤田:自分でやるのは大変そうだけど、楽しいだろうね。
佐藤:お向かいに、内装やDIYを仕事にしている人がいるから廃材をいただいたりしたよ。このテーブルは、知り合いのおっちゃんがくれたやつで……。
そういってひろちゃんが、押入からおもむろに箱を取り出しました。中には、美しい刺繍が施された小さな布がたくさん入っています。
佐藤:これは、私のお宝。タイやラオスに暮らす「モン族」の布なんだ。
藤田・村田:わー、きれい!
佐藤:60〜70年くらい前の布が多いよ。「幸せが渦巻きますように」と渦巻状にしたり、豊作を祈って畑の畝(うね)の模様にしたりと色んな願いを込めて刺繍されたものなんだ。
村田:刺繍ひとつひとつに意味があるんだね。
佐藤:近所の喫茶店でやっていた展示で知ったんだけど、そのときにこういう布を数万枚集めているおっちゃんと知り合って。そのうちの一部を譲り受けたんだけど、いざ手放すとなると「これ、いいよなあ……」って悲しそうにしていて。だから、本にまとめたら、おっちゃんがいつでも手放した布を見られるかなと思って、はじめて自費出版をしてみたんだ。
なんと、購入したモン族の襟布を一冊の本としてまとめて、もともとの布の持ち主だった方にプレゼントした、というひろちゃん。アトリエの2階にあるテーブルは、その方からいただいたものだそうです。
村田:やさしい。
細野:出版の経緯がとても素敵。
佐藤:そのうち、おっちゃんからテーブルをいただける話にもなって。
細野:人柄がでるね。
藤田:素晴らしい。
村田:はあ、いいものに触れて浄化されていく時間だな。
『はみだす緑』も置いていただいています。 「つまずく本屋 ホォル 」さん
ひろちゃんの真心あるものづくりに触れ、お腹だけでなく心も満たされた一行は、アトリエのお向かいにある書店「つまずく本屋 ホォル」さんへ。
なんとこのお店、SABOTENS著『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)を置いていただいているのです。SABOTENS 村田の関連本が棚に並んでいたり、店主さんご自身もお店周辺の路上園芸を写真に撮っていたりと、本の世界を楽しんでくださっている様子がSNSを介してひしひしと伝わってきて、いつか訪れたいなあと思っていたところ、なんと偶然にもひろちゃんのアトリエのお向かいのお店でした!
藤田・村田:おじゃましま〜す。
村田:こんにちは、村田です。本を置いていただいて、ありがとうございます。
つまずく本屋 ホォル 店主 深澤さん(以下、深澤):こんにちは。
深澤:書店員をしていた頃から『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)を読んでいて。実は以前、本に掲載されていた建物に住んでいたことがあったんです。
村田:えー! そうだったんですね。
佐藤:先日、母が来たときにここを案内したら、『たのしい路上園芸観察』を気に入って、「私もこれから探す」っていって購入していきました。
村田:嬉しい!
深澤:先日は、お散歩のイベントも開催したんですよ。
村田:お散歩していて本当に楽しいまちでしょうね。角栄商店街は、『はみだす緑』の世界そのままでした。お店がオープンしてどのくらいなんですか?
深澤:来週でようやく一年です。
藤田・村田:おー、おめでとうございます!
霞ケ関のまちづくりを手がける「38℃」 と共同運営しているというつまずく本屋 ホォルさん。一階にあるうつわと音楽のお店「amist」さんも、とても居心地いいお店です。つまずく本屋 ホォル さんの入っている2階の一角がamistさんのカフェスペースにもなっており、読書会などワークショップを行うこともあるとか。窓から風が抜ける気持ちいいお店でした。
またゆっくり来ますね! ありがとうございました。
心が洗われたお散歩タイム
つまずく本屋 ホォルさんを後にし、ひろちゃんおすすめだという近所の小畔川を目指します。
村田:70円の自動販売機だ! 「なにがでるかなぼたん」があるよ。
佐藤:私、やってみようかな……カルピスウォーターだ!
村田:私もやってみよう……サイダーだ!
気温の高かったこの日。70円の自動販売機で、それぞれ飲み物をゲット。
村田:うわ、この公園、土管がある! ドラえもんに出てきそう。
藤田:ザ・公園だね。
村田:よし、入ってみよう。……うわー、中もめちゃくちゃ土管だ!
土管から出てふと視線を感じた先を見ると、公園で遊んでいた近所の子どもが、不審そうにこちらを眺めていました。
近所の子ども:なんでここに来たの?
村田:土管があって、気になったから来たの。
細野:ドラえもんみたいだな、と思って。
近所の子ども:……(不思議そうに眺めて去っていく)
藤田:俺たちの公園に怪しい大人が侵入してきている……と思っただろうね。
しばらく歩いていくと、小畔川が見えてきました。川岸に野原が広がる、静かで気持ちのいい川です。
村田:わー、川だ! 河原の雰囲気もすごくいいね〜。
佐藤:春は桜もきれいだよ。午後は川の近くに車を停めて寝てる人もいるよ。
藤田:寝たい気持ち、大いに分かるよ。
佐藤:私はよくおにぎりを買って、河原で食べたりもしてるよ。
藤田・村田:いいね〜!
川沿いを歩きながら、今日過ごした時間を振り返ります。
藤田:今日は「生きるとは」っていう、人生の問いを得たよ。最近、仕事に忙殺されていたから、大切なものを身の回りに集めて、もっと時間と場所を大切にして生きることについて、考えさせられたな。
村田:忙しいと、こういう時間がより一層染みるね。
細野:素敵なものに触れて、気持ちが浄化されたな。
村田:角栄商店街は、新しい人がどんどんお店をはじめている感じがいいね。
佐藤:私が来たときは、「38℃」さんだけだったんだけど、同時期にamistさんがやってきて、つまずく本屋 ホォルの深澤くんもやってきて。同世代の人たちのお店が少しずつ増えてきたよ。
藤田:引き寄せちゃったね。
村田:昔からあるお店も、現役で元気に営業しているのがいいよな。
佐藤:その入り乱れ具合がいいよね。
川でゆっくり時間を過ごし、ふたたびアトリエまで戻ってきたら、なんとアトリエ隣のテーブルに、冒頭で発見したぬいぐるみの手が!
誰かが拾って置いてくれたんでしょうか。やさしい。
角栄商店街、いいところでした。
本日の一コマ漫画
心に残る霞ケ関(埼玉)の風景
■ 著者プロフィール
佐藤洋美(さとう・ひろみ)
福島県出身。多摩美術大学 造形表現学部卒業後、GRAPHに入社。北川一成に師事。現在デザインスタジオ 余地|yoti 主宰。
高校在学時、環境問題のポスターを制作中に自身が紙のゴミを出しているwことに矛盾を抱く。それがきっかけで、大学進学後、使われなくなった紙(私にとっては宝)などでコラージュの制作を開始。
GRAPH在籍中より「捨てられない印刷物」づくりに携わってきた一方で、現在は「捨てられた印刷物」も日々蒐集しながら、紙を駆使した手触りのあるデザインを提案。2014年より1点もののコラージュ時計ブランド Time Lag(https://timelag.jp)を開始。
最近は、表装と紙漉きに夢中。紙の循環をめざした制作を心がけています。
お知らせ お散歩動画公開中!
「SABOTENSちゃんねる」では、過去の「まちのミカタ」の取材中に撮影した動画を少しずつアップしています。ぜひお暇な時にでもご覧ください!
●取材/SABOTENS
●執筆/村田 あやこ
●編集・お散歩見守り役/細野 由季恵