#17 伊豆編

今回は以前エイミーズトークでお話を伺ったゲストをお迎えした特別出張企画で静岡県下田市へ遠征です! 大地の成り立ちを目で見て感じられる伊豆半島で、ダイナミックな景色をお菓子で表現した「ジオ菓子」を開発、大地の魅力を伝える活動に従事する「ジオガシ旅行団」鈴木 美智子さんと、下田のまちや大地を巡り歩きました。

今回のお散歩メンバー

SABOTENS 藤田 泰実・村田 あやこ
ジオガシ旅行団 鈴木 美智子
entrie編集部 細野 由季恵(お散歩見守り役)

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幕末の歴史の舞台・了仙寺からペリーロードへ

今回の舞台は、伊豆半島先端の下田。伊豆急下田駅前のロータリー中央には、大きなヤシが繁っています。抜けるように青い空もあいまって、南国ムードが漂います。ジオガシ旅行団・鈴木 美智子さんと落ち合い、いざお散歩スタート!

村田:駅前の雰囲気がハワイみたい! いいねぇ。

藤田:ジオガシ旅行団・鈴木さんに色々と見どころを教えていただきながら、楽しい散歩にするぞ!

村田:オー!

駅を降りてすぐに目に飛び込む「寝姿山(ねすがたやま)」。

村田:すぐそばまで山が迫っていますね。

鈴木:人が横になって寝ている姿に似てるので、「寝姿山」とも呼ばれているんですよ。ちょうど胸のあたりにロープウェーがあります。

藤田村田:おー!

村田:いわれてみると、人の形に見えてきますね。

鈴木:頂上に見える岩は、溶岩がつくった硬い岩なんです。

村田:へえー。

駅前を後にし、最初に向かったのは国指定史跡の「了仙寺(りょうせんじ)」。かつて下田へ入港したペリー一行の応接所として使われ、日米和親条約付録下田条約が調印された場所でもあったそう。幕末の歴史に大きく関わったお寺です。

5月下旬のこの日は、ニオイバンマツリが花盛りで、境内に濃厚な香りが漂っていました。

了仙寺(下田市七軒町3丁目)

村田:境内にアメリカと日本の国旗が掲げられていますね。さすが日米和親条約ゆかりのお寺。

藤田:お花のいい香り。

村田:咲き乱れてますね。

鈴木:ニオイバンマツリと、お寺のお線香の香りが混ざっていますね。

山門の前には、味のある小道。雨樋や石垣など、道沿いに並ぶ建物の至るところから植物が顔を出しています。

村田:生えてる〜!

鈴木:生きてますね〜。

藤田:台湾並にすごい!

細野:中はどうなってるんだろう。

藤田:この石垣はなんですか?

鈴木:スコリアだと思います。火山の噴出物ですね。

藤田村田:へー!

村田:そういう素材が建物の外壁に使われてるんですね。

村田:……アロエが石垣の間から顔を出してる。なんかもう、寄生されてるみたいですごい光景だな。

鈴木:溶岩とアロエ。

至るところから植物が生えた「はみだす緑ロード」を先へと進むと、異国情緒あふれる石畳の小道が現れました。道沿いには川が流れ、大きな柳の木が川の上に涼しげに葉を垂らしています。

この道は「ペリーロード」と呼ばれ、黒船でやってきたペリー一行が、了仙寺まで行進したことから名付けられたそう。通り沿いには、レトロな趣漂う建物​​が軒を連ねています。

藤田:小江戸みたいな雰囲気。

村田:日本画の世界みたい! 素敵な道だね。

村田:この壁は伊豆名物の……「うろこ壁」でしたっけ?

鈴木:「なまこ壁」っていいます(笑)。四角い瓦を漆喰でつないだ壁です。漆喰の盛りが大きければ大きいほど、「富」を象徴するといわれているんですよ。

藤田:それだけ漆喰を贅沢に使えるということか!

鈴木:そうそう、「うちは潤沢です」っていう証。

藤田:おもしろい!

下田を知り尽くした鈴木さんの解説といつも通り路上のあちこちで目に入るもの全てが気になるSABOTENS。今回のお散歩はより充実しそう!

村田:うわ、めちゃくちゃよくない? この苔!

藤田:素晴らしいね!

鈴木:箱の中から出てきたの? 中はどうなってるんだろう。

藤田:このペットボトル、すっごい働いてる気がする。

村田:年代物だね。

藤田:警備員さんって感じがする。

村田:路上のペットボトル界の先輩だ。

藤田:レジェンドだね。

村田:一人でペリーロードを守っています。

秘密の回廊のような階段を登ると、巨大サボテンのあるお寺

ペリーロードを歩きはじめてすぐ、気になる階段を発見。本道を歩きはじめたばかりなのにもかかわらず早速脇道にそれる一行。細い階段を登りはじめます。

鈴木:登ってみましょう。

藤田:素敵な階段!

村田:いいねえ。

藤田:見て、これすごいよ。

村田:2階の窓の外に洗面台……!

鈴木:どうやって使うんでしょう、これ。

藤田:はしごに登って使うのかな? もしかしてもともと部屋があった?

細野:なぜだろう……

2階の窓の外についた階段にいろいろと推理を働かせながら歩いていたところ、すぐそばの壁にも謎めいた空洞を発見しました。

藤田:じつは呪いの石で、押した瞬間に階段が全部崩れ落ちたりして……

細野:よっちゃん、壁を押してみて。

藤田:……バルス!

カメラ目線で決まっているよっちゃん。

恐る恐る空洞に手を入れてみましたが、階段は崩れませんでした。よかった、ホッ。

村田:見て、このサボテンの鉢植えもかわいい!

藤田:わー、かわいい! お花が顔みたい!

鈴木:小さくてかわいい! 鉢の間には石も挟まっていますね。

藤田:この石は、虫とかがこういう形にするんですか?

鈴木:おそらく、穿孔貝(せんこうがい)という貝が開けた穴だと思います。

藤田:へえー、穿孔貝! 前に海岸でこういう形の石を拾ったことがあって、なんだろうと思っていました。

鈴木:ドリルのように穴を開けて、中に住んじゃう。この石は人気の物件だったんですね、きっと。

村田:おもしろい!

階段の上には「長楽寺(ちょうらくじ)」という、緑豊かなお寺が広がっていました。

高野山真言宗 大浦山 長楽寺(下田市三丁目13−19)

村田:いいお寺だなあ。南国感があるね。

藤田:見て、このお坊さんのイラスト、いいよ。目がキラキラしている。

細野:何かを指差しているね。みんなで記念撮影しようか(笑)。

お坊さんのすぐそばには、神々しい巨大サボテンが生えていました。「サボテンお遍路」と称し、街中の巨大なサボテンを巡り歩く活動をしているSABOTENSは、思わず大興奮です。

藤田:わー、めちゃくちゃ大きなサボテンもある! お花も咲いてるね!

村田:すごいすごいすごい! 立派だ〜。

藤田:いいサボテンと出会えてよかった!

神々しいサボテンを拝むように、記念撮影しました。

ジブリ感漂う建物を目指す

お寺から遠くの方を見上げると、ツタに覆われた建物を発見しました。

細野:あの建物見て! ナウシカみたい。

藤田:すごーい! あそこ、いけるのかな。

細野:いってみたいね。

村田:廃墟だろうか。いい雰囲気。

謎めいた建物を目指し、歩いてみることにしました。

鈴木:あ、猫じゃないですか?

藤田村田:猫だ〜!

村田:今日は日差しがあって気持ちいいでしょうね。気持ちいいねえ、眠いのかい。

鈴木:かわいい。こんにちは。

陽光のもとでトロトロとくつろぐ猫に、次々と話しかける一行。「猫のトイレ」と書かれたお手製のトイレコーナーや、餌を入れる容器も。地域で見守られている猫のようです。

藤田:あ、こっちにもいる! 「むーちゃん」と「みーちゃん」(よっちゃんの飼い猫)に似てる! 静岡のむーちゃん、みーちゃんだ。

村田:いい場所見つけたねえ。涼しいねえ。君をむーちゃん2号と名付けよう。

藤田:ま、み、む…「めーちゃん」にしよう。

村田:めーちゃん、めーちゃん。

藤田:「俺のことを勝手にめーちゃんって呼んでるやつがいる」って感じだろうね(笑)。

猫としばし戯れ、坂道を登りツタの建物を目指します。こころなしか、周囲も緑の気配が濃くなってきます。

村田:植物がわっしゃわしゃだ。ガスメーターがかろうじて顔を出してる。

藤田:「眠れる森のガスメーター」だね。

鈴木:これは現役なのかな。

藤田:今の状態が限界だね。これ以上隠れたら見えなくなっちゃう。

細野:こういう髪型のバンドの人いるよね。

藤田:いるいる。

村田:髪の毛で隠れちゃってるっていうこと? 尾崎世界観とか……

藤田:米津玄師。あのガスメーターは「米津玄師」と名付けよう。

鈴木:ああいう小型犬もいるよね。

細野:みんなそれぞれイメージするものが違う……(笑)。

鈴木:向こうの方に橋が見えますね。あの空中の橋、どこに続いているんだろう。

藤田:楽しそうですね! 渡りたい。

村田:あのツタの建物に続いているのかな?

橋を目指し進んでいくと、先程坂の下から見えた建物が見えてきました。外壁だけでなく、周囲ももじゃもじゃと、植物に包み込まれています。入り口の前には「売物件」の看板。どうやら廃墟のようです。

細野:「売物件」の看板が出てる!

村田:売ってるってことは、買えるんだ。

藤田:意外にお手頃な値段で買えたらどうする? そうしたら2階と3階が鈴木さんで、4階と5階があやちゃん……みたいにして使おう。

村田:2フロア使えたら最高だな。夢が見えるね。

藤田:でも草むしりで嫌になりそうだな。

村田:たしかに……住める状態にするまでの道のりが大変だね。

鈴木:内側だけ草を抜けば、外はこのままでいいかも。

村田:獣道さえつくれば大丈夫かも。

鈴木:この装いは、つくろうと思ってもつくれないですよ。

細野:外観はうまく残したいね。

村田:中だけエントリエさんに、きれいにリノベーションしてもらおうか(笑)。

細野:内覧してみたいね。

村田:窓から海も山も見渡せるでしょうね。

見る者をタイムスリップさせる!? 謎の洞窟風呂を発見

伊豆の山も海も見渡せるロケーションに立地する建物を前に、思わず夢が膨らみます。廃墟を後にして、探検気分で先へと進むことに。

道沿いは上の方まで、コンクリートの擁壁がダイナミックに追っています。

藤田:こういう壁って登ってみたくなるね。

村田:ボルダリングみたいに。

細野:こういう壁面はコンクリートで固めているんですか?

鈴木:そうです。崩れやすいところが固められています。おそらくここは、一つの山だったところを拓いて、海から抜けられる道をつくったんだと思います。

藤田:そうだったんだ、山の神様ごめんなさい。

村田:人間がごめんなさい。

藤田:これはなんだろう?

鈴木:洞窟?

村田:扉を開けたら誰かが出てきたりして。

藤田:小窓から覗いてたりして。近づいたら吹き矢が飛んでくるかもよ。

村田:危ない。

細野圧力計がある。

村田:ちょっと動いてるよ。やっぱりこの中には誰かいるのかも……。誰かおもしろいことをいってみて。中の人が笑ったら圧力計が動くかもよ。

鈴木:圧力計に気をかざすと動くかもしれないですよ。

圧力計にプレッシャー(圧力)をかけるよっちゃん(動きませんでした)。

しばらく歩いていくと、住宅地と山の間にコバルトブルーの海が見えてきました。

鈴木:目の前が海! 

村田:きれいですね。真っ青。

鈴木:飲めそう!

村田:おいしそう。

細野海〜!

海を目指す道の途中、突然むき出しの岩が現れました。洞窟のような入口は柵でふさがれ、どうやら中には入れないようです。

鈴木:この石はなんだろう。かっこいい!

藤田:かっこいいですね。

鈴木:洞窟? ここにははじめて来ました。壁の上のてんてんてん……とえぐれたような部分は、人がノミで削っていった跡だと思います。

藤田村田:へえー、そうなんですね!

藤田:ここはなんだったんでしょう。

鈴木:石切場だったのかもしれません。

村田:たしかに部分的にまとまって切られていますね。洞窟の中には洗い場みたいなものもあるな。

鈴木:お風呂?

藤田:銭湯だったとか?

村田:洞窟銭湯?

藤田:アミューズメントパークみたいに。

細野豪邸の跡地?

細野あそこにタイルもあるよ。

藤田:やっぱりお風呂だったのかも。

村田:外から丸見え……?

藤田:鈴木さん、「ジオガシ風呂」ってどうですか(笑)。全裸でいろんな崖を登る。

村田:過酷だ。落ちたら血だらけ。

鈴木:開放感はたまらないですね。

鈴木:地層もかっこいいです。すごい景色だ。

村田:タイルに、階段らしきものも見えますね。

村田:お茶碗のかけらも落ちてる。謎めいた場所だな。

藤田:予想では、巨大露天風呂を夢見た企業の、夢破れし跡。

村田:兵どもが夢の跡。

鈴木:ご近所の人がいれば聞いてみたいですね。

洞窟風呂らしき跡の横には、神社。お参りしていくことにしました。

大浦八幡宮(静岡県下田市24)

藤田:神社もあるよ。

村田:お参りしよう。

藤田:お邪魔しま〜す。

村田:あ、手形がある!

藤田:子どもの手形だ。「いつき」って書いてあるよ。

村田:いつき君の手形?

鈴木:なんで?

細野いやー、下田はディープだ。

村田:ペリーロードの脇道を登ると、こんな場所があるなんて。

藤田:そう思うと不思議だね。

村田:異世界に来ちゃったみたい。

お参りを済ませて神社を出ると、ご近所さんらしき方々がいたので、先程の謎めいた洞窟について尋ねてみました。

細野あそこはなんだったんですか?

地元の方:もともと古い旅館があったんですが、取り壊されて駐車場になったんです。あそこは洞窟風呂だったんですよ。

細野そうだったんですね!

村田:やっぱりお風呂だったんですね。タイルがあったもんね。

偶然地元の方と出会えたことで、洞窟の謎を解くことができました。ここに来る途中で空中にかかっていた橋についても尋ねたところ、もともとホテルだった建物につながる渡り廊下だ、ということも教えていただきました。

ありがとうございました!

後編へ続く

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

心に残る下田の風景

村田のミカタ :「壁の苔庭」
藤田のミカタ:「お茶会の名残」

著者プロフィール

SABOTENS(さぼてんず)

2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。

ジオガシ旅行団
鈴木 美智子(すずき・みちこ)

1971年、静岡県生まれ。多摩美術大学卒業後、東京の広告代理店でデザイナーとして活躍。2007年、ふるさと伊豆半島に関する仕事がしたいと、南伊豆町に移住。2012年、伊豆の美しい風景を切り取ってお菓子化し、現地へ誘う体験型お土産ツール「ジオ菓子」を制作。ジオ菓子を携えてその場所を楽しむツアーを行う「ジオガシ旅行団」を設立、現在、代表を務める。

お知らせ  お散歩動画公開中!

SABOTENSちゃんねる」では、過去の「まちのミカタ」の取材中に撮影した動画を少しずつアップしています。ぜひお暇な時にでもご覧ください!

「まちのミカタ(新大久保編)」

●取材/SABOTENS
●執筆/村田 あやこ
●編集・お散歩見守り役/細野 由季恵