#19 大井競馬場編
まちのミカタ19回目。今回の舞台は、東京モノレール沿線の「大井競馬場前」です。都内屈指の猫スポットという噂の大井ふ頭中央海浜公園で、猫たちと戯れたあと、レンタサイクルで工場地帯を駆け抜ける! 小学生の放課後に戻った気分で、壮大なまちを味わいました。
馬の気配漂う大井競馬場前駅
本日のスタートは、東京モノレールの大井競馬場前駅です。駅を出ると、すぐそばには広々した大井競馬場。厩舎(きゅうしゃ)が団地のように並び、風に乗って動物の匂いが漂ってきます。「この中に馬が……!」と気分が盛り上がります。
この日はレースがお休みだったのか、競馬場の正門は閉まっていましたが、せめて気分を味わおうと「TOKYO CITY KEIBA」と書かれた門の前での記念撮影からお散歩スタートです!
村田:今日は大井競馬場前駅!
藤田:今日は競馬はできないけど、この周辺をお散歩しようと思います!レッツゴー。
細野:じつは今日のお散歩にはテーマがあって……「猫探し」! 「東京都 猫の多い街」で調べたら真っ先に出てくるのが、ここからすぐの大井ふ頭中央海浜公園。公園を目指して歩いてみよう。
村田:さあ、猫を探すぞ! パカラッ、パカラッ、パカラッ……(馬の足音)
藤田:この辺、馬の匂いがする。
村田:近くに厩舎があるのかな。大井競馬場駅前の駅舎もかっこいいね。三角屋根でちょっとレトロ。
藤田:ほんとだね。
村田:あ、向こうに厩舎らしき建物が見える。馬いるかな。
藤田:ここにいるのは現役の馬たちだよね。かっこいいだろうなあ。でも自分が馬だったら緊張しそうだな。
村田:本当に。レースに向けて戦闘モードだろうしね。
藤田:競馬好きな人が住むには最高だね。
村田:うってつけのまちだね。
公園を目指して歩いていたら、駅前を流れる京浜運河の橋の上から、釣竿を垂らしている方が。傍では自転車につながれた黒い犬が、静かにご主人を待っています。
細野:……あ、あそこで釣りをしてる人がいる。なにが釣れるんだろう。
藤田:こんにちは〜。ワンちゃんだ! かわいい。
釣り人:こんにちは。
藤田:なにが釣れますか?
釣り人:今日は少ないよ。なにも釣れてないよ。
村田:ワンちゃんも、いい子に待ってるんですね。
釣り人:もう9歳だから。
藤田:おりこうだね。偉いね、君は。
村田:眉毛があってかわいい。元気でな。
藤田:ありがとうございました!
猫に出会う前に、犬に心を奪われたSABOTENS。釣り人と犬に別れを告げ、再び公園を目指します。
村田:わー、向こうに公園が見える。広そうだね。
細野:この中で猫を探すのは大変そうだ。
藤田:もっと小さい公園を想像してたな。この広さだったら、そりゃいるだろうなって感じだね(笑)。
村田:猫や犬の一匹や二匹……
藤田:狸とかハクビシンとかもいそう。ありとあらゆる動物が。
公園周辺には、団地やビルなどの巨大建造物や、大きな道路が広がります。
細野:これまでののまちと雰囲気が全然違うね。
村田:規模が大きいね。
細野:いつもはすぐお腹が空くけれど、飲食店も少なそうだし、誘われなくていいね。……でも広すぎて公園の入り口がなかなか見つからない。猫いるかなあ。
藤田:このへんにニャア〜って出てこないかなあ。
細野:あ、さっきのワンちゃんだ!
藤田:かわいい! がんばれ〜。
村田:ちゃんと後ろからついていってるね。かわいい。
細野:猫もいいけど、犬もいいよねえ。
猫の住む森! 大井ふ頭中央海浜公園
しばらくウロウロしていたら、ようやく公園の入り口らしきものを発見。園内マップを頼りに、いよいよ中に足を踏み入れてみます。
村田:ようやく入り口があった。
藤田:入ってみよう。
藤田:……あ! 猫がいた!
細野:第一猫発見!
村田:ハチワレだ。ほんとにいるんだね。
園内に入るやいなや、木々の間を歩く猫を発見! 噂通り、猫に出会える公園でした。
村田:森だー。中がこんな鬱蒼とした雰囲気なんて、外からは想像つかないね。
藤田:木がアーチになってる! 普通の道より楽しいね。
細野:たまにはいいねえ。こういう感じも。
藤田:木から出てる癒やし成分を吸おう。
村田:あ、また猫がいた!ニャー!
藤田:ニャー!
村田:ニャニャニャー! 5分に1回くらいのペースで猫に会えるね。
藤田:あ、また猫。……あ、そこにもいた!
村田:おお〜、次々と猫が。
藤田:でかくて貫禄ある猫は、ボスかな。
村田:ちっちゃくて美人な猫もいるね。かわいい。
藤田:いっぱいいるね。
細野:写真が猫ばっかりになりそうだな。
藤田:「やっぱり猫が好き シーズン2」だ。
村田:ちょうど3人だしね。猫たちは、この森の中に住んでるのかな。ところどころ、お水も設置されてるね。
園内を奥に進むと、木々の中に開けた広場。広場の向こうの方には、巨大なオブジェが佇んでいました。
藤田:見て、あそこに不思議なオブジェがあるよ。
村田:星と、ガリガリなのと、丸いのと。
藤田:丸いのは、ちびまる子ちゃんに出てきそうな顔だね。
村田:永沢君の兄弟みたい。
藤田:隣のはジブリに出てきそう。謎オブジェだ。
三体のオブジェの仲間になった気持ちで、間に立ってみます。
藤田:選ばれし3人が、ここまで辿り着いてしまったよ。
村田:間に立ったら地響きが起こって、猫の神様がでてくるかも。
細野:(オブジェの裏の作品名を見ながら)これは3つで一つの作品で、「三人三様」っていう作品名がついているみたい。平和の願いが込められているんだって。
藤田:そうなんだ! たしかに名前通り、それぞれテイストが違うね。
広場の中央には、ゆったりと葉を広げるクスノキの大木。木陰には大きな岩が佇んでいます。
村田:あの木陰、いいね。静かで不思議な場所だな。
藤田:RPGだったら、あの岩を3回触ると真ん中からなにか出てくるかも。
村田:さっきのオブジェたちに、なにか授けられるかもしれない。
「なにかが起こるかも……」と、岩の上に登って思い思い舞ってみることにしました。
猫たちの社会に思いを馳せる
心置きなく舞えたので広場を後にし、再び歩き進めていきます。園内のあちこちで、くつろぐ猫たちの姿。猫を目指してやってきたのか、猫じゃらしを振ってひとり猫と戯れるお兄さんがいました。
村田:猫に囲まれているお兄さんは、常連さんなのかな。
藤田:手なづけていたもんね。
村田:猫たちも落ち着いて周りに寝っ転がってたよね。
藤田:それにしても猫たち、外で生きているからか顔が引き締まってるね。自分の身は自分で守らなきゃいけないサバイバル。やっぱり顔つきに出るんだなあ、猫も。
村田:いろいろ戦い抜いた顔をしてるね、ここの猫たちは。
細野:それぞれの猫で縄張りがあるのかなあ。
村田:これだけいると、中にはボス猫もいるのかも。
細野:二人は猫を飼っているけど、言葉がわかってるなと思うときはある?
村田:不思議とある。名前を呼びかけたら振り向くから、わかっている気がする。
藤田:もうね、100%わかってると思うよ。わたしたちが猫語がわからないから、猫が鳴いててもただ「かわいいね。どうしたの」っていってしまうけど。
村田:猫からすると「違うよ! そうじゃない!」ってイライラしてるかもしれないね。
藤田:「もう話しても無駄だよ」って、猫同士で会話してるかも。
村田:たしかに。猫同士でなんかやり取りしてるんだろうなって思う瞬間はあるな。
藤田:会話が成立するときもある。「ごめん、待たせたね」「ニャー!」「いまから散歩いこうか」「ミャ」って、玄関に走っていったり。
村田:うちの猫も、夫が寝る前に着替えたり歯磨きしたりするのを横で待ってて、先導して一緒に寝にいくんだよね。布団に先に登ってフミフミするところまでがワンセット。
細野:すごい!
村田:ただ、わたしのことは「あまり動かないでかい猫」だと思ってそう。「こいつ全然動かないから俺たちがどうにかしなきゃ」って思われてそう。
藤田:猫って、人間のことを「でっかい猫」だと思ってるんだって。で、犬は自分のことを人間だと思ってるんだって。感覚が違うんだろうね。
村田:じゃあなおさら、「なんで言葉をわかってくれないんだよ」って思うだろうね。
「棒サンはむ太郎」に「バッ太郎」。
公園に潜む種々のキャラたち
散策路を抜けていくと、広々した車道に辿り着きました。車道上の歩道橋を渡り、反対側の公園にも足を伸ばしてみます。
村田:うわ、この看板すごいな。「猫の虐待は犯罪です」って書いてある。
藤田:悪いやつがいっぱいいるから、人間なんか信じないくらいじゃないと外で生きていけないかもね。
村田:たしかに。公園だとどんな人が来るかわからないもんね。猫好きだけじゃないだろうし。
藤田:ほんとだよ。いろんな人がいるから。
テニスコートや野球場が広がるこちら側の公園には、猫の気配はありません。代わりに、フェンスに戦いを挑んだ木々の形跡が。
▷フェンスと戦った木の跡
藤田:見て、戦い抜いた木!
村田:こっちにも!
藤田:すごいでっかい木が生えていたのかな。
村田:フェンスに穴が開いてるもんね。フェンスを突き抜けていたのかも。
藤田:わ、見て、これは!
村田:人工物と自然が戦ってる感じがするね。これは……落ちもんじゃなくて「刺しもん」?
藤田:「刺しもん」だ。なんだか顔にも見えるな。
村田:戦隊モノの顔っぽい。名前をつけるとしたらなにかな……靴穴マン……
藤田:棒サンはむ太郎……
村田:便・ジョンハム……
しばらく歩いていくと、ベンチや遊具のある芝生広場を発見。少し歩き疲れたので休憩することにしました。
藤田:あ、でっかいバッタ!
村田:ほんとだ! バッヂみたいに服に乗せてみよう。
藤田:名前、どうする?
村田:「バッ太郎」にしよう。……あ、飛んでいった。
藤田:サンキュー、バッ太郎!
藤田:あれ、顔に見えない? 顔にしたのかな。
村田:誰かが顔をつくったのかな。森の主だ。アルシンドみたい。
細野・藤田:アルシンド……?
村田:頭がカッパの皿みたいで。
細野:トモダチナラアタリマエ!
藤田:アルシンド二ナッチャウヨ!
広場の中には、どうやって使うのかいまいち分からない遊具も。
村田:この遊具はどうやって使うんだろう。
藤田:全然遊び方がわからない。
村田:足の開脚訓練機……? でもパカって開脚したら降りられなくなっちゃうね。
藤田:謎です。
自転車で工場地帯を駆け抜けた先には……
壮大な風景
広場のベンチで少しだけ休憩し、お散歩再開。公園の外に出てしばらく歩いていくと、レンタサイクルを発見しました。
細野:あ、自転車があるよ。レンタサイクル。
藤田:乗ってみる?
公園のすぐそばにあったのは、専用のアプリで利用登録すると電動自転車をレンタルできるバイクシェアサービス。都内あちこちにサイクルポートがあるため、好きな場所で返すことができます。
歩いて移動するには広大なこのまち。気分を変えて自転車で移動してみることにしました。
村田:自転車いいね!
藤田:新鮮だね!
……笑顔から一転。軽快に走り出すと思いきや見る見るうちに無言になるSABOTENS。電動自転車に乗り慣れていないSABOTENSは、出発後しばらく電源を入れないまま漕いでいたのでした。見守り役のゆきえちゃんの指南のもと、電源を入れて漕ぎ直したところ、あまりの快適さにびっくり!
藤田:ゆきえちゃんがあまりにスイスイ進むからすごい脚力だなって……電動じゃないと鉛みたいに重かったね(笑)。
村田:スイッチひとつで世界が変わるとはこのことだね。電動自転車って最強。
細野:二人がテンション低いから、どうしたのかと思ったよ。
藤田:「電源が入ってない」って、ゆきえちゃんが気づいてくれなかったら大変だったね。
村田:途中でいやになって引き返していたかも。
しばらく走っていくと、こんもりした森の広がる公園にたどり着きました。木々のはるか向こうに、港のガントリークレーンやコンテナの入った巨大倉庫が臨めます。
村田:森の向こうにガントリークレーンとか船が見える。あそこが海かな。文明と自然の対比のような、不思議な風景だね。
細野:広大だね。
細野:あの枠の中に一つずつコンテナが入ってるのかな。あんなのどうやってつくるんだろう。
村田:超巨大タンスだ。はめこむためのでっかい機械もあるね。
藤田:スケールが違うね。
村田:このまちは、戸建てかマンションどちらに住みたいかなんて、想像がつかないね。むしろ猫になってあの公園に住みたい。
藤田:いやー、すごい大変だよ、あそこに住む猫は。やっぱり家猫がいいな、わたしは。
村田:あれだけ猫がいると縄張りもあるだろうしね。
藤田:そうだよ、めちゃくちゃ怖い猫に「新入りです」って挨拶したら「シャー」っていわれたりして。
村田:「すみません、まずは丁稚奉公*からお願いします」って。
*丁稚奉公とは……年少者がある一定の期間、商人または職人の家に奉公し、雑役などの仕事をすること(goo辞書 – 丁稚奉公(でっちほうこう)の意味・使い方 – 四字熟語一覧 より)
細野:壮大だったね、今日は。
藤田:壮大でした。おもしろかった。
村田:放課後の小学生の大冒険って感じだったね。
細野:レンタサイクルを借りれたし。
村田:行動範囲が広がったね。他のまちでも自転車に乗ってみたいな。
藤田:これからはゆっくり歩かなくなったりして(笑)。
本日の一コマ漫画
心に残る大井競馬場の風景
■ 著者プロフィール
お知らせ お散歩動画公開中!
「SABOTENSちゃんねる」では、過去の「まちのミカタ」の取材中に撮影した動画を少しずつアップしています。ぜひお暇な時にでもご覧ください!
●取材/SABOTENS
●執筆/村田 あやこ
●編集・お散歩見守り役/細野 由季恵
SABOTENS / SABOTENS
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。