村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
藤田 泰実
よっちゃん/イラストを描いた人
藤田 泰実 / Fujita Yoshimi
落ちもん写真収集家
グラフィックデザイナー/イラストレーター/落ちもん写真収集家。茨城生まれ、埼玉育 育ち。多摩美術大学造形表現学部卒。フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍しながら、路上に落ちているものから人間の背景や余韻、人間味を感じ取り、そこから妄想してタイトルをつけストーリーを作り出す「落ちもん写真収集家」として活動。落とし物は人間ドラマという発想が注目され、テレビやラジオなどにも出演。
オビキ ミヨ
ゲスト
オビキ ミヨ / Obiki Miyo
いたばしデザイン同好会
生まれ育ちは北海道。2002年よりフリーランスとなり板橋区に定住。 書籍のデザインを中心としたグラフィックデザインとイラストレーションで活動中。いたばしデザイン同好会のデザイナーであり自称日本初の暗渠デザイナー。
細野 由季恵
ゆきえちゃん/撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

板橋を歩くSABOTENSのお散歩、後編。地元・板橋を題材にしたグッズ制作やイベント企画などを手掛ける「いたばしデザイン同好会」のデザイナー・オビキミヨさんとともに、かつて流れていた「蓮根川」の暗渠周辺を歩きます。後編は「板橋のひと」編。道中で出会ったまちの風景と人、そして思いがけない交流の記録です。

駅前がすでに面白い

時間をぐっと巻き戻し、舞台は上板橋駅前。ゲストのオビキさんと合流し、蓮根川の水源付近を目指して歩き始めます。

細野:池袋から東武東上線に乗るの、初めてなんです。平日の午前中は人が少なくて、のどかでいいですね。

オビキ:線路脇の柵のサビも、ローカルですね。

村田:いいサビですね!

「ときわ通り」沿いには、かわいらしい建物や商店が軒を連ねています。

村田:漫画家の清野とおるさんを筆頭に、「この人おもしろいな」って思った人が板橋出身っていうことが結構多くて。

細野:確かに、板橋は有名人が多いイメージ。

村田:このあたりはお店もいっぱいあって便利そうですね。

細野:気になるお店がいっぱい。

オビキ:板橋は物価も安いんですよ。あまり知られたくないくらい。

お店の看板や佇まいが、SABOTENSの妄想スイッチを押してきます。

村田:「ミュージックパブ マーベラス」!いい名前!

藤田:しかも、上は「マンボ」!

オビキ:いいですねえ。

店先にはアロエがずらり。

村田:『はみだす緑*』にぜひ登場させたいお店だ。

*はみ出す緑……『はみだす緑 黄昏の路上園芸(雷鳥社刊)』SABOTENS 著。路上にはみだす植物や路上園芸の背後にある人間ドラマを想像し、そこに暮らす人々の物語を描いた1冊。

藤田:「フロアレディー募集」の張り紙も、興味津々。

村田:……SABOTENSはこんなふうに、「この店に入りたい」とか、「このまちで店をやるとしたらどんな店がいいか」とか妄想するのが好きなんです。

オビキ:そうなんですね(笑)

藤田:「このビル、誰かくれないかな」って勝手に妄想したりね(笑)。あ、見て、あの木。イエス・キリストみたい!

村田:磔にされてる!

藤田:昔あっただろう木。

村田:勝手に生えてきた木だろうね。

藤田:色々あったんだね。

藤田村田:「吐くほど呑むな!」

オビキ:おかしい、これ(笑)

村田:郵便マークのように、横と縦に貼って……怒りを感じますね。

藤田:怒りに震えた日があったんだろうね。

村田:「くそー!」って、その場にあった養生テープをつかんで書いたのかも。

オビキ:暗渠に辿り着く前に、すでにいろいろありますね……。

細野:なかなかたどり着かない……(笑)

はみだしまくるコキアたち

住宅街を歩いていると、隙間からモサモサとはみだすコキアの一群を発見。毛の生えた動物のようです。

藤田:見て、なんかはみ出してる!

村田:かわいい。

藤田:妖怪みたい。

目と鼻の先に、またもやコキア。

村田:こっちからもはみ出してる!

藤田:すごいすごい。

村田:どこが発信源なんだろう。ご近所から分家してきたのかな。

ふと視線を落とすと、プラスチックの衣装ケースにカメが一匹泳いでいました。

細野:カメがいるよ!

村田:すごいすごい!立派なカメだ。

興奮しながら水槽を覗き込んでいると、ちょうど車で外に出ようとしていた家主さんが、話しかけてくださいました。

家主さん:もっとかわいいのがいっぱいいるよ。見てみる?

村田:いいんですか!?ありがとうございます!

藤田:ぜひ見たいです!

オビキ:どういう展開!?

コキアを辿った先に、生き物王国

玄関を開けてくださった家主さん。なんと手のひらには、つぶらな目をしたトカゲが乗っていました。

全員:わーーーーー!

家主さん:この子はね、フトアゴヒゲトカゲっていうの。「いい子、いい子」ってなでると、目をつぶるの。にこちゃんっていいます。

村田:にこちゃん!

藤田:かわいい。

オレンジ色の明かりのついた暖かそうなケージが、にこちゃんのおうちです。

家主さん:紫外線に当たれば当たるほど、オレンジ色が強くなるの。

オビキ:いつも暖かいところにいるんですか?

家主さん:そう。原産地がオーストラリアらしいの。

家主さん:にこちゃん、面白いのがね、ケージのはじっこに上半身をちょっと乗せるの。

全員:かわいい〜!

村田:お風呂に入ってるみたい。なんだか喋りだしそうな感じですね。

藤田:私たちの会話をわかってる感じがする。

家主さん:よく目を動かして人がいる方を見てるから、わかってるんでしょうね。

なんとここにいたのは、トカゲのにこちゃんだけではありませんでした。

家主さん:向こうにはモモンガもいるよ。見てみる?

細野:えー!見せていただいてもいいですか?

村田:嬉しい!

全員:かわいい〜〜〜!!!

藤田:初めて見ました、モモンガ。

家主さん:いま持っている箱の中に2頭いて。

村田:もう一匹は箱の中で寝ちゃってるんですね。

藤田:寝てたのにごめんね〜!

家主さん:別のケージには親もいるの。

藤田:あらほんとだ。かわいい!

村田:モモンガには名前はあるんですか?

家主さん:一匹は「おとうさん」、もう一匹は「おかあさん」。

藤田:いい名前!いっぱい動物がいるんですね。

家主さん:息子が動物好きでね。昔は大きな水槽もあって、エイと大きなアロワナがいたんですよ。ヤマブキインコも放し飼いにしてます。

村田:ワンちゃんの鳴き声も聴こえますね。

犬:ワンワン!

藤田:ごめんね、驚いたよね。急にたくさん人がきて。

家主さん:保護犬だから、あまり人に慣れてないの。

村田:動物好きな、いいおうちに来られて、よかったね。

藤田:ねー、よかった。

藤田:いい体験したね〜。(カメに向かって)君のおかげだよ。

村田:そういえば、このカメの名前はあるんですか?

家主さん:メスなんだけど「カメきち」っていうんです。前を通るたびに楽しみに見に来る人もいるんですよ。

藤田:幸運を呼び寄せる、ラッキーカメきちだ!

村田:カメきちのおかげで、ここに来られたしね。カメきち〜!元気でな〜。

そういえば、コキアの発信源も尋ねてみました。

家主さん:あのコキア、すごいでしょ。自然に種が飛んできたの。

村田:どれが発信源だろうって、実はさっきから気になってました!

家主さん:大元は、一番角のおうち。プランターに3本植わっているんだけど、その種がお向かいのおうちに飛んで、そこからうちに飛んできたの。すごいよね。

村田:経路がわかってるんですね(笑)

なんと、コキアの本家も判明。

全員:ありがとうございました!

家主さん:どういたしまして。こちらこそよかった、会えて。気をつけてね〜。

今日はラッキーデー

コキアをたどった先に、優しい家主さんのもとで暮らす生き物王国。散歩の冒頭から、上板橋の名所にしたいくらいの場所に出会ってしまいました。余韻にひたりながら、再びまちを歩きます。

村田:暗渠にたどり着くまでに、見どころが多すぎる。

オビキ:かわいかったね〜。

村田:かわいすぎましたね、モモンガたち。

藤田:生き物たちの名前が、予想を上回るユニークさだったね。モモンガの「おとうさん」「おかあさん」、メスのカメには「カメきち」。

村田:「にこちゃん」もかわいかったね。

村田:……あれは何の看板?

藤田:おまわりさんかな。

オビキ:実はここは、出井川の支流にあたる前野川の源流なんです*。

*出井川・前野川……かつて板橋区を流れていた河川。現在は全区間が暗渠化されており、地表からその流れを見ることはできない。

藤田村田:そうなんですね!

村田:道がくねくねしてますね。まさに川筋みたい。

藤田:ほんと、川を感じるね。秘密の道みたいな感じがする。

村田:暗渠沿いの園芸、社名のロゴ入りのプラスチックケースに木を植えて、それを洗濯物干しの土台にして。最高!

藤田:こっちはもしや、洗面台?

村田:ほんとだ!手を洗うところを縦にしたんだ。コダカラソウが周りにもはみ出してる。

藤田:かわいい〜!

村田:このクリーニング屋さん、書体がかわいい!

オビキ:クリーニング屋さんは排水するから川のそばに建っていることが多くて、「暗渠サイン」の一つなんですよ。

藤田:そうなんですね!面白い!

村田:あ、「右目」の室外機だ!レアもの!

藤田:ほんとだ!今日はラッキーだ。

細野:煙突が見える。

藤田:銭湯ですね。

オビキ:銭湯も、暗渠サインなんですよ。

藤田:へーそうなんですね!

「暗渠サイン」を端々に感じながら歩いていたら、ようやく今回の散歩の目的地・蓮根川付近までたどり着きました。このあと、蓮根川暗渠の川筋を辿ったお散歩は、前編にて!

板橋産の素材を使ったクラフトジン

蓮根川暗渠を上流から下流へと下る道中にあるのが、東京クラフトリキュールさん。板橋産の植物をはじめとする日本の素材を活かし、手作業で本格クラフトリキュールを作っています。なんと、オビキさんがデザイナーとして所属するいたばしデザイン同好会とのコラボレーションで、暗渠をテーマにしたジンも製造。蒸留所にお邪魔し、代表の片野 龍さんにお話を伺いました

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全員:こんにちはー!

片野:いらっしゃいませ!

村田:わー、いい香りがします。蒸留所の中ではどんな作業をしているんですか?

片野:お酒をタンクに漬け込んで、蒸留釜で蒸留しています。

村田:蒸留所自体はいつからあるんですか?

片野:2018年の年末にオープンしました。初の蒸留は年越ししながらやってました。

村田:そうだったんですね!最初は何を蒸留したんですか?

片野:板橋の夏みかんを使ったジンを作っていました。

村田:板橋産の果実を使って作られているんですね!

細野:ジンに使う材料として、板橋産のものはどのような特徴がありますか?

片野:東京は、どこも畑が小さいんですが、その分、少量多品種で変わったものもたくさん植えられています。板橋は、お隣の練馬の10分の1くらいしか農家さんがおらず、中でも成増エリアに集中しています。種類で言うと、夏みかんやライム、レモンといった柑橘類が多いですね。

細野:これまで何種類つくられてきたんですか?

片野:ジンだと60種類くらい。リキュールも含めると、これまで約160〜170種類くらいは作ってます。

藤田:すごい!

細野:一番顔になっている商品はありますか?

片野:板橋産のサンショウを使ったジンや、いたばしデザイン同好会とのコラボによる、暗渠をテーマにしたジンなんかがあります。

「トム・ジン #31 いたばし暗渠」(8,377円・税込)。暗渠にちなんだ水辺の植物など27種類のボタニカルを使用

村田:「暗渠ジン」!どういう材料が使われているんですか?

片野:暗渠にちなんで、主に水辺の植物を使っています。最初は「ドブの色にでもしようか」って話してたんですが、それはあんまりなので(笑)。ワサビ、セリ、タデといった水辺を好む植物のほか、板橋産の夏みかんやサンショウなども使っています。

村田:地元の方はどういう反応でしたか?

片野:暗渠ジンはすごく評判が良いです。他のクラフトジンよりもはるかにたくさんの材料を使っているので、香りがいいんです。ジンはお湯割りで美味しくいただくのが難しいんですが、暗渠ジンはお湯割りでもいけちゃいます。ジントニックやジンソーダで飲んでも美味しいですよ。

後日、暗渠ジンをいただきましたが、すっきりした味わいの奥に、多種多様な植物素材が爽やかな風味を醸し出しており、美味でした!東京クラフトリキュールさんの作るお酒を飲んでみたいという方は、ぜひ公式Webサイトをご参照ください(各リキュールのページ下部より、ご注文可能です)。 片野さん、お忙しいところお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

オビキ:今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

村田:のっけから、動物たちと出会って。

藤田:ミラクルが起きたね。

細野:みんな散り散りに、違うものを見てたよね。

村田:カメを見たりコキアを見たり、見どころが多すぎたよ。

細野:いいまちだったね。

村田:このへんに住むんだったら一軒家がいいなあ。玄関先で猫と待ち構えて、通りすがりの人たちに話しかけてもらいたい。

藤田:いいねえ(笑)

オビキさん、2回にわたりご登場いただき、ありがとうございました!

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

こころに残る板橋の風景

村田のミカタ:空き地の中で存在感を放っていた、ゴムノキ。前の家主の置き土産?
藤田のミカタ:「壁面アロエアート」

書籍情報 『緑をみる人』(雷鳥社)

SABOTENSまちのミカタ_村田あやこ_書籍情報 『緑をみる人』(雷鳥社)_エントリエマガジン
  • 著者: 村田あやこ
  • 発売日: 2025年10月6日
  • ページ数: 384ページ
  • サイズ: 17.8 x 11.2 x 2.3 cm

アスファルトのひび割れ、マンホール蓋のふち、側溝の奥底、室外機の下……。整備された都市空間の隙間で、人知れず芽吹き繁茂する植物たち。「路上園芸鑑賞家」として活動を続ける著者が、世界13カ国18人の”隙間植物愛好家”を約2年にわたって取材。日本、フランス、トルコ、メキシコ、韓国、台湾、イタリア、スウェーデン、ブラジル、シンガポール、アメリカ、オランダ、ニュージーランドの緑をみる人たち19人のストーリーと、総数800枚もの写真を通して見えてくる、日常にひそむ地球の「野生」を描いた一冊です。