

毎月いろいろなまちを嗅覚だけで歩く企画・まちのミカタ。なんと前回の大宮編で、50回目となりました。51回目となる今回は、これまでの取材を振り返る座談会。思い出深いまちや人について、語らいました。聞き手は、マガジン副編集長でありお散歩の見守り役・細野由季恵さん(ゆきえちゃん)です。
偶然の出会いこそ発見の宝庫
──2019年からはじまった「まちのミカタ」も、前回の記事でなんと50回!振り返ってみてどうですか?
あやちゃん:よくここまで続いたね〜。感慨深いよ。
よっちゃん:ほんとだね。
あやちゃん:長かったような、あっという間だったような。連載が始まってからすぐにコロナ禍になって、3人それぞれ人生のいろいろな節目も迎えて。サムネイルを見ていると、その時々の世の中の状況とか起こった出来事を思い出すよ。

よっちゃん:最初は「撮れ高をつくらなきゃ」「面白いこと言わなきゃ」ってどこか肩の力が入ってたな。でも回を重ねていくうちに、面白いことを目指すんじゃなくて、誰も気づかないような、変なところに着目するところが持ち味なんだって気づいて。今はすっかり肩の力が抜けて、本当にのびのびやってるよ。
あやちゃん:思い返すと第1回目の聖蹟桜ヶ丘は、駅を出発して向こうに見える山まで歩いて、また駅まで戻ってきて。ものすごい長距離を歩いたよね。でも回を重ねるごとに、歩き出して2、3分で喫茶店に入ることもあって(笑)。素の状態にだんだん近くなっていったよね。

よっちゃん:その方が不思議と、面白い人とか出来事に出会える頻度も多くなった気がするよ。一人だったらなかなか入れないようなお店も、三人だから入れて、そこで思いがけない出会いがあったりして。
あやちゃん:偶然立ち寄ったお店で買い物したり、道中で出会ったまちの方にものをいただいたりもしたよね。蔵前では大塚徽章さんっていう、委員会バッヂをつくる会社に偶然出会って。

よっちゃん:その場で委員会バッヂを買ったよね。私は「生活」と「親切」。

あやちゃん:ゆきえちゃんは、「編集」と「給食」だったよね。私は「園芸」と「会長」。あまりに素敵だったから、その後、オリジナルバッヂもつくってもらって。つい最近、増産のお願いをしたところだよ。
──お散歩での出会いが、その後も続いているというのはとても嬉しいな。なにか見つけようという力を抜いても、お散歩をしていると勝手に出会っていく感じがいつも面白いって思っています。
視点と視点が重なり楽しみが広がる
──普段は落ちもんや路上園芸を楽しむ二人だけど、回を重ねることで増えた視点はあった?
あやちゃん:大塚徽章さんもそうだけど、「つくっている人の顔が見えるものって楽しいな」と思うようになったよ。お店に並ぶものをただ買うのと違って、人柄や顔がわかっている方につくっていただいたものには、思い入れも湧くな〜って。
よっちゃん:私はあやちゃんと散歩することで、植物を見る目が変わったな。それまでは、そこにあるのに全然目に入ってこなかった。どちらかと言えば「もの」に近い存在だったんだけど、今では人間と変わらない存在になってきたよ。キャラクターのある、生きているような存在。植物だけでなく、石とか動物も、対等な存在に思えるようになってきた。
誰かが視点を広げてくれると、今まで気づいていなかったものがどんどん目に留まるようになるね。


茅ヶ崎編より。普段は通り過ぎてしまうようなツボもしっかり覗くSABOTENSです。
あやちゃん:私も、よっちゃんと歩いたことで落ちもんに目が留まるようになって、その背後の人間ドラマも想像するようになったよ。
あとは、一人だと緊張しちゃうところ、三人だとえいやって踏み出せるところがあって。女三人という強みなのか、まちの方も話しかけてくださって。おしゃべりする中で、何気なくそこにいるように見えるまちの人たちにも、それぞれドラマや物語があるんだな〜っていうのをひしひし感じるよ。

よっちゃん:あやちゃんは植物を通して、私は落ちもんを通して、そこにあるものに人間ドラマを見ているから、人の物語を感じるものはお互いグッとくるよね。
あやちゃん:あとはゲストさんから教えていただいた視点もあるね。
よっちゃん:そうそう。それは大きいよね。
あやちゃん:普段は地べたを見がちなんだけど、小堺丸子さんに「ビル毛」の楽しみ方を教えていただいてから、上も見るようになった。
あとは神社好きの井口エリさんの「街なかの貼り紙を御札に見立てて観察する」っていう視点も新鮮だったな。立入禁止や駐車禁止の貼り紙は、ある意味御札と同じような存在だって。


よっちゃん:面白い!
あやちゃん:見立てていくことで、あるものが別のなにかとつながったりと、視野が広がるよね。それはお二人に広げていただいた感覚だなと思うよ。
よっちゃん:ジオガシ旅行団の鈴木さんと一緒に伊豆を歩いたのも楽しかったな。地形の成り立ちを一つ一つ教えてもらうと、地面が生きている感じすらして。

あやちゃん:「ここはこういう理由で隆起して……」とか理由を聞くと、はるか昔の風景が浮かび上がってくる感じ。蓮根川の暗渠の上を歩いたときもまさにそうだったな。
よっちゃん:一つのものを見て、その背景を妄想したり、そこから何か発見したりっていうのを繰り返していくと、未来に行ったり過去に行ったりとタイムトラベルしながら歩いている感覚になるよ。普段の生活ではなかなかできない、貴重な体験。

小学校の帰り道みたいな時間
──連載を通して、もともと自分が持っていた視点に変化はあった?
よっちゃん:これだけ多くのまちを歩いたことで、誰かがポロっと落としたものっていう人が気づかない部分にこそ、まちの特徴や本質があらわれるなと、あらためて痛感したよ。
あやちゃん:路上園芸でいうと、たとえ見た目が派手ではなかったとしても、まちの方や3人との会話を通していろんな角度から掘り下げると、見え方が変わることがたくさんあって。前なら見過ごしてた、より細かい部分にまで目が留まるようになったかもしれない。

よっちゃん:まちのミカタの取材は、小学校時代の学校帰りみたいな時間。それを一ヶ月に一度できていることが幸せだよ。
あやちゃん:本当に。日々仕事や私生活で大変なことが色々ある中で、「嗅覚だけでお散歩する」っていう時間が定期的にあることで、自分の心の柔らかい部分が守られてる気がするよ。
よっちゃん:そうそう。自分の原点に戻れるような時間。
──小学校時代って、毎日同じ道を通ってるのに時間をかけて足元を見ながら帰ってたよね。それを思い出すな。
よっちゃん:そうだよね。同じ道なのに、毎日ドラマがあって。
あやちゃん:「今日は物語を考えてみよう」「あの道は犬に吠えられて怖いから別の道を通ろう」みたいに、同じ道を通ってるのに、小さな冒険が日々なにかしらあったように思うよ。
よっちゃん:まちのミカタは、一応出発地の駅はあるものの、散歩の道中は自由。おとなになって、目的もなくまちを歩くって、なかなかできないことだよね。
あやちゃん:本当に。予定があるときの移動というと、Googleマップを使って、目的地まで最短ルートで行きがちだもんな。小学生時代の自分にポンってタイムトリップするような時間だよ。でも行程がガチガチに決まってないからこそ、道中の出来事やまちの空気感の記憶が、体に染み付いてる気がする。

よっちゃん:野良犬二人のようなSABOTENSをのびのびさせてくれるゆきえちゃんには、感謝しかない!
あやちゃん:二人とも、興味あるものがあるとすぐにフラフラ~っとどこかにいっちゃうもんね(笑)。
──連載を続けさせてくれるエントリエさん、ありがとうございます!
思い出深いまちNo.1は、柴崎
──二人それぞれ、思い出深いまちはある?
よっちゃん:私は、柴崎かな〜。
あやちゃん:柴崎は強烈だったね。前情報もほとんどなく、なんなら手紙社さんのお店があるからオーガニックでおしゃれなイメージだったけど……お会いしたまちの方のキャラがことごとく濃かったね(笑)。
細野:偶然見つけたリサイクルショップでは、店主さんが姓名判断をやってくれて。

あやちゃん:辛口診断でズタボロになったよね(笑)。すぐご近所では、自転車屋兼八百屋さんの一画で、鬼殺しを片手に地元のじいちゃんばあちゃんたちが昼間から酒盛りしてたり。

よっちゃん:謎めいた難しい研究をしている、天才的なおじいさんもいたよね。
あやちゃん:そうだそうだ!そのあとホームページを見てみたけど、やっぱり難しかった。でもこんなふうに、お酒を片手によもやま話できるご近所さんがいるって、いいよね。
よっちゃん:上板橋で、家の中でいろんな動物を飼ってるかたも印象的だった!表に「カメきち」っていう女の子のカメがいて。

あやちゃん:あの出会いは強烈だったね。前の通りのあちこちでコキアがはみ出してたんだけど、「あのおうちから飛んできたのよ」って、発信源まで特定していた(笑)。
──よっちゃんはカメに目が留まって、あやちゃんはコキアを見て。みんなバラバラの方向を見てたのも面白かったな。
連載を続ける中で、二人が大切にしてることはある?
あやちゃん:まちや人にリスペクトを持つことかな。見た目だけの勝手な先入観で「こういう属性だ」と決めつけるんじゃなくて、そこに至った背景を想像するようにしてるよ。記事にする時は、住んでいる人が見ても嫌な気持ちにならないように。
よっちゃん:わかる。相手が悲しくなるようないじり方はしないのと、あとは個人情報の取り扱いには注意する。でも全部をガチガチにしすぎると苦しくなっちゃうし、その匙加減って難しいね。
あやちゃん:わかる。忖度しすぎても面白みがないもんね。

散歩は、宝探し!
──これからも続く連載ですが、今後やってみたい企画はある?
あやちゃん:専門家をゲストに呼んで、違った観点でまちを歩くのも楽しそうだなと思ってるよ。
よっちゃん:落語家さんみたいに、言葉を操るプロと一緒に歩いて妄想するのもいいな。
あやちゃん:言葉のセンスがあって妄想力が高そうな方々とのお散歩、楽しそう!M-1グランプリで優勝したたくろうさんも、時々YouTubeで街なかの大喜利企画をやってるんだけど、めちゃくちゃ面白いもんな。
──前に、DIR EN GREYのShinyaさんと元MALICE MIZERのManaさんが巣鴨を歩く動画も楽しかったな。異色な方たちとのコラボ、楽しそう。
よっちゃん:昆虫好きな人とか、猫好きな人とか。あとは年齢が思いっきり違う人とか!子どもって、結構いろんなもの見つけるもんね。
あやちゃん:楽しそう!目線が低い分、地べたのものを見つけるのが上手だしね。
──最後に、今後の抱負を教えてください。
あやちゃん:これまでのテイストは大事に、新たなことにも色々チャレンジして、長く楽しんでいただける企画として育てていけたらいいな〜。
よっちゃん:「この着眼点でまちを見るの?」という持ち味を大事にしながら、いろいろなまちに出かけて、その時々で感じたことを伝えていけたらいいね。
あやちゃん:AIがどんどんと浸透していってるけど、このお散歩って、AIが出すような最適解とは真逆の方向性を走っているような感じがするよね。でもそういう視点こそ、これから大事にしていかなきゃいけないと思ってるよ!
よっちゃん:そういうものこそ、きっと面白いよね。
あやちゃん:目の前に実在するものを出発点になにかを考えるって、すごく大事だと思う。
よっちゃん:これからも宝探しを続けていけたらいいね!
あやちゃん:宝探し。いい言葉だ!
──ないものを探すんじゃなくて、既にあるのに気づいてないものを見つけることが大事。ふたりとも、いつもありがとうございます! これからもよろしくお願いします!
本日の一コマ漫画

書籍情報 『緑をみる人』(雷鳥社)

- 著者: 村田あやこ
- 発売日: 2025年10月6日
- ページ数: 384ページ
- サイズ: 17.8 x 11.2 x 2.3 cm
アスファルトのひび割れ、マンホール蓋のふち、側溝の奥底、室外機の下……。整備された都市空間の隙間で、人知れず芽吹き繁茂する植物たち。「路上園芸鑑賞家」として活動を続ける著者が、世界13カ国18人の”隙間植物愛好家”を約2年にわたって取材。日本、フランス、トルコ、メキシコ、韓国、台湾、イタリア、スウェーデン、ブラジル、シンガポール、アメリカ、オランダ、ニュージーランドの緑をみる人たち19人のストーリーと、総数800枚もの写真を通して見えてくる、日常にひそむ地球の「野生」を描いた一冊です。

