#02 府中編
「まちのミカタ」第二回目はentrieでリノベーションをするお客さまが選ぶまちとしても一番人気の府中。歴史のあるこのまちは「古いものと新しいものとが融合し、旅行に来たような気分になれるまち」でした。
武蔵国の国府があった府中。
まちに残る歴史の名残。
この日の待ち合わせ場所は、京王線の府中駅。「あれ? 待ち合わせ時間になってもSABOTENSのよっちゃんこと藤田さんが現れないぞ……?」
実は府中には、京王線 府中駅とJR武蔵野線 府中本町駅があり(距離にして徒歩15分ほどの位置関係)、よっちゃんは集合場所を府中本町駅と勘違いしていたのでした。府中で待ち合わせをする際は、みなさまもどうぞお気をつけて。
▷錯綜する3人のグループLINE
藤田:お待たせ~!
村田:わーよっちゃん! やっと会えた! しょっぱなから感動の再会だ(笑)。
▷10年ぶりの再会といわんばかりに合流を喜ぶSABOTENSだけど、一週間前に会ったばかりとのこと
村田:前回の記事を見て、自分の格好があまりに地味だったから、今日は黄色い帽子を被ってきたよ。
藤田:私は今日、散歩中の様子を動画に撮ろうと思って、自撮り棒を持ってきたよ。
▷不慣れな自撮り棒の持ち方に苦戦しつつも、新たな装備で、いざ出陣!
細野:今日は成人式だね(※取材日は1月13日)。
村田:きれいな着物を着た新成人の方がたくさんいるね。
▷駅前のケヤキ並木
村田:駅前の大通りのケヤキ並木、立派だな〜。
細野:天然記念物なんだ。
▷駅前のケヤキ並木は国指定天然記念物!
▷駅前の地図をチェックするSABOTENS
村田:大正時代からあったみたい。古いんだ。近くに大國魂(おおくにたま)神社っていう大きな神社もあるね。
藤田:あっちに「国際通り商店街」があるよ。行ってみようか。
村田:商店街を通って神社まで行ってみよう。
細野:大通りじゃなく、早速路地に進むSABOTENS(笑)。
藤田:このへん、新しい建物と古い建物が入り混じってるね。神社があるってことは地盤がいいんだろうな。
村田:雰囲気のある小さなお店が色々あるね。
▷金額がすぐに分からない張り紙
村田:歳末たすけあい。はちじゅうきゅうまん、にせん…に…ひゃく……
藤田:全然読めない(笑)。
▷気になる注意書きを発見。「え、やばいやばい」「ゲロ注意だって」「こわいね……」
▷壁の色や素材の組み合わせにも、目を向けてみると発見がある
村田:あ、あの建物、トタンのパッチワークがかわいい。
藤田:いいね、すばらしい。このへんのいい感じの古い建物も、どんどん新しくなっていくのかなあ。
藤田:あれ、あの建物ってもともと蔵なのかな? きれいに改装されているけれど相当古そうだね!
村田:立派。へー、酒屋とカフェになってるんだ。
藤田:入ってみようか!
▷蔵を改装したカフェ、その名も「蔵カフェ」(東京都府中市宮西町4丁目2-1)
麹の香り漂う不思議な空間にうっとりしながら、少しだけお茶をすることにしました。集合してから30分程度しか経っていないけれど、気になった場所にはすぐに入ってみるSABOTENSです。
▷古い木材が生かされた落ち着く雰囲気の店内
▷すっきりして飲みやすい府中の地酒・国府鶴(こうづる) (グラス 600円)
▷冷えた体がじんわり温まる酒粕ラテ(600円)
藤田:古いものを生かした空間っていいね。
村田:前の道は旧甲州街道だって。昔は街道沿いに、こういう休憩できるお店が並んでいたのかな。
おいしいドリンクを飲み終えた一行は、お店のカウンターに座っていらしたお客さまと蔵カフェのオーナー石塚さんに、お話を聞いてみることにしました。
村田:お店はどれくらい前からされてるんですか?
蔵カフェ 石塚さん:私がやりはじめてからは5年目ですが、蔵自体は160年くらいですね。酒蔵なんです。
カウンターのお客さま:彼女は府中小町なんだよ。
蔵カフェ 石塚さん:嘘よ、嘘(笑)。
▷温かい笑顔で話してくださった石塚さん
カウンターのお客さま:今日は府中を歩いているんですか?
村田:そうなんです。この辺、神社の周りに古い建物が残っていていいなあって話してて、偶然このカフェを見つけて入ってみました。
カウンターのお客さま:この辺は面白いですよ。府中は武蔵国の国府で、大國魂神社は今でいう都庁。昔は秩父や大宮、東神奈川など武蔵国の各地から、当時の市長さんや区長さんに当たる人が朝廷へ献上するための絹糸や馬、農作物をお神輿で持ってきて、ここで品定めしていました。5月に府中で開かれるくらやみ祭は、それが起源になっています。ちょうどお店の向かいにある建物は「御旅所(おたびしょ)」っていって、お神輿が一泊する場所なんですよ。
藤田:わたし今日、大宮から来たんです。大宮と府中がつながった!
▷知識が豊富すぎるお客様に府中の歴史について伺うことができたラッキーなSABOTENSと見守り役細野
カウンターのお客さま:多摩市の小野神社も武蔵国の神社です。
細野:え、聖蹟桜ヶ丘の小野神社、この間訪れました! (参考:前回の記事)
村田:広々していい神社でした。
藤田・村田:聖蹟桜ヶ丘と府中もつながった! 貴重なお話ありがとうございました。
▷「今日、誰かがお帽子を落としていったのよ」とおっしゃっていた蔵カフェの石塚さん。「おとしもので〜す!」のメモとともに、入口脇の椅子にかけられていました。
創業90年のはきもの屋さんで、
三人レンジャーの変身アイテムを購入!
藤田:お、あのはきもの屋さん、いい雰囲気だね。
村田:行ってみよう。
▷はきもの屋さんの店頭で足が止まる。ふじやはきもの店(東京都府中市宮西町2丁目14−4)
藤田:あ、便サン(※「便所サンダル」の略)が売ってる。
村田:安いよ。650円だって。ベランダ用にほしいな。
藤田:可愛く見えてきた。わたしもせっかくだから買おうかな。ベランダで使おう。この便サン、メイドインジャパンですよ!
細野:おしゃれだね。
村田:色違いで欲しくなっちゃう。
細野:わたしもほしくなってきた。
村田:三人で買おうよ。
藤田:三人レンジャーになろうよ!
▷色とりどりの便サンを真剣に選ぶSABOTENS
▷店内にはぞうりやサンダル、下駄などのはきものだけが並んでいます。いったいここは……!? 気になったことがあるとすぐに店主に話しかけてしまうのがSABOTENSです
村田:こちらのお店は開店されて何年くらいですか?
はきもの ふじやさん:90年くらいですね。
村田:そんなに前から!
はきもの ふじやさん:このあたりはどのお店も古くて、うちはまだ三代目。一番新しいくらいですよ。
村田:この通り沿いは古いお店が多いんですね。
藤田:お祭があるから、下駄は需要がありそう。
▷さまざまな種類の履物が売られています
▷変わった下駄もたくさん!
村田:高下駄や一本下駄もありますね!
はきもの ふじやさん:昔は道がぐちゃぐちゃだったから、使う人がいたんですよ。
村田:へ〜。一本下駄はどういう時に使うんでしょうか?
はきもの ふじやさん:元々は山伏や山歩きをする人が楽で疲れないから使っていました。坂道でも平らに歩けるので。最近は体幹を鍛えたいっていって、スポーツをやる方が使われることもありますよ。
村田:そうか! だから天狗って一本下駄なんだ。
藤田:天狗も考えてるんだねえー。
はきもの ふじやさん:ね、疲れないように(笑)。
村田・ 藤田:ありがとうございましたー!
▷色違いで購入。三人便サンレンジャー!
世のため、人のために落ちもんの写真を撮る!
大國魂神社での誓い
藤田:大國魂神社、せっかくだからお参りしようか。
村田:大國魂神社が、前回訪れた小野神社と繋がりがあったなんて、びっくりだね。
▷屋台で賑わう参道。参道の屋台に次々と目を奪われるSABOTENS
藤田:お祭りやってる。
村田:成人式だからかな。
細野:いいときに来れたね。
藤田:屋台の匂いってなんて魅力的なんだろう……。
細野:お腹すいてくるね。
▷木を囲む柵にトーマスが引っ掛けられていました
村田:あ、落ちもんが柵に引っ掛けられてるよ。
藤田:優しさの塊だね。落ちもんのための迷子ステーションみたい。
▷すかさず落ちもんを撮影する落ちもん写真収集家
村田:向こうにおみくじがある。引いてみようか。
▷大吉でした
藤田:大吉だ!「天の助けによって災難は消えます。正しい行いをし、人助けをすればさらに良くなります。」だって。
村田:よかったね!
藤田:人助け、します。世界平和のために落ちもんの写真を撮ります。よーし、世の中のため、人のために生きるぞ!
細野・村田:あはは(笑)。
旅の記念にプリクラ撮影
府中砂場で美味しいお蕎麦に舌鼓
村田:お腹すいたね。
藤田:さっき府中本町駅から歩いてくる途中、この辺に美味しそうなお蕎麦屋さんがあったよ。
細野:行きたい。
すっかりお腹が空いた頃、気になる蕎麦屋「府中砂場」さんを発見するもお昼時ということもあって長蛇の列でした。
藤田:うわ、混んでるね!
細野:人気なんだ。
藤田:美味しそうだと思ったんだ。
トイレにも行きたくなってきたので、近くにあったROUND1さんでトイレを借りつつ、プリクラを撮ることにしました。
▷高校時代のプリクラ魂が蘇るも、現代のプリクラに四苦八苦するSABOTENS
村田:……これ、どうやってやるの?
藤田:どうやってやるんだろう。
村田:すごい、ボタンで目の大きさが変わるんだ!
藤田:怖いね(笑)。
▷美肌にデカ目。最新技術を駆使したプリクラがこちら!
藤田:面白かったね。全然散歩じゃないけど(笑)。
細野:本格的にお腹空いてきた。
村田:お腹空いて口が回らなくなってきた。
藤田:あ、さっきのお蕎麦屋さん、入れそうだよ。
村田:よっしゃー!!
藤田:心の声が出てる(笑)。
▷待ちに待ったお昼は、府中砂場(東京都府中市本町1丁目10−2)
▷砂場の盛上げそば(900円)をいただきました。2段に重なった井桁そばざるにたっぷり盛られた蕎。ツマが独特の食感!
全員:美味しそう〜! いただきまーす。
細野:大根のツマが乗ってる。
村田:天ぷらも付いて、このボリュームで900円って安いね。
藤田:美味しい。わたし実は3日前から蕎麦食べたかったんだよ。
村田:よかったね。
「根道」に十円玉ピカピカアイテム・カタバミ…
まちのはみだす緑は楽しい
お腹が満たされた一行は、府中本町駅を目指してぶらぶらと散策してみることにしました。
藤田:お腹いっぱいになったから元気になったね(笑)。
村田:食べる前は呂律も回ってなかったくらいお腹空いてた。食べ始めた瞬間、みんな無言で蕎麦をすすってたよね。
▷静かな住宅街をぶらぶらと歩くSABOTENS
細野:大國魂神社の周りの賑わった雰囲気とはまた違って、静かでいいね。
村田:あ、根っこがはみだしてる! 根っこの道だ。
藤田:「根道(ねどう)」って名付けよう。
▷根っこが盛り上がる「根道」
村田:あ、こっちにもはみだす緑! 南天(ナンテン)が隙間から生えてる。
▷舗装の隙間から生える南天
村田:あ、あそこも壁の穴から植物が! 風で揺れた葉っぱが壁に模様を作ってる。赤瀬川 原平さん(※)が、こういうのを「植物ワイパー」っていってたよね。
藤田:ほんとだ、ワイパーになってるね。この道めちゃくちゃいいね。
※赤瀬川 原平さん……散歩の達人としても知られる、日本の美術家。
▷葉っぱがワイパーのように動き、壁に模様が描かれている「植物ワイパー」。路上観察学を確立した赤瀬川 原平さんの命名です
▷カタバミが生えた一角で急に立ち止まるふたり
村田:カタバミが咲いてる。これで十円玉ををこすると、ピカピカになるんだよ……ほら!
▷部分的に輝きを取り戻す10円玉。ドヤ顔で磨いた村田さんは、いつカタバミを見つけてもいいようにとポケットに十円玉をしのばせています
藤田:ほんとだ! きれい。
細野:なんで?
村田:シュウ酸が含まれてて、胴を磨くと綺麗になるんだって。十円玉は綺麗になるんだけど、自分の手が緑色になっちゃうのが難点(笑)。
藤田:へー、私もやってみる!
しばらく歩くと、笑顔でこちらを見つめるおばあちゃんが挨拶をしてくれました。こういった地元の方との出会いも散歩の醍醐味です。
▷優しげなおばあちゃんと立ち話をするSABOTENS
地元のおばあちゃん:こんにちは。
全員:こんにちは〜。
地元のおばあちゃん:今日は大國魂神社へお出かけですか?
村田:はい、府中駅から神社を通って、こちらの方まで来ました。
地元のおばあちゃん:まあ、ようこそ府中市へ。この辺は春には桜が咲いてきれいですよ。多摩川のそばの「郷土の森」のあたりもとてもいいですよ。府中はなかなか歴史が古いまちなんです。
村田:へー!
地元のおばあちゃん:よくお出かけでしたね。お揃いでありがとう。みんなの前向きが嬉しい。元気もらったよ。何十年前を思い出すわ。みんなは大学生かな?
村田:…いえ、結構いってます。
地元のおばあちゃん:あら、大学生に見えたわ。
村田:ありがとうございます(笑)。どうかお元気で。
旅情を味わえる府中のまち
府中本町・コーヒートップで旅の感想を語らう
府中本町駅の近くまできたら、段々と日も傾いてきました。心地よく疲れてきたので、散策しながら休める場所を探します。
村田:府中本町駅の近くまできたね。
藤田:このあたり、いい雰囲気だね。あ、階段がステージみたいな園芸。
▷何気ない園芸の風景もSABOTENSにとっては宝の山なのです
村田:わ、このビワ、すごい、すごいすごい! 植木鉢から大きく育ってる! 根っこが沖縄のガジュマルみたいにすごい!
藤田:食べたビワがここまで大きくなったのかな。
▷植木鉢をはみだし森のように育ったビワに感動するSABOTENS
藤田:こっちも、看板の一部が食べられてるよ!
村田:わー! 抱きかかえてる! 今日イチのはみだす緑だ!
▷普段なら、ただただ通り過ぎてしまいそうな場所もよく観察すると魅力に溢れている。
細野:この辺面白いね。
村田:ね、園芸ストリートだ。あ、園芸がいい感じの喫茶店があるよ!
藤田:入ってみようか。
村田:こんにちは〜。
▷入り口の園芸に惹かれ入店した喫茶店・珈琲トップ(東京都府中市本町2丁目20−86)
▷ランプシェードがコーヒー豆でした
藤田:楽しかった、府中。
村田:盛りだくさんだったね。
藤田:今回、最高の旅じゃない?
細野:旅行にきたみたいだね。
村田:府中は神社を中心にした宿場町みたいな雰囲気で、非日常感がある。
藤田:感覚的に、すごい遠くに来た感じ。それを味わえるまちっていいね。
村田:国府っていうくらいだから中心だったんだね。
藤田:栄えていて活気があるね。
▷一杯ずつサイフォンで淹れたコーヒーをいただきながら、旅の感想を語らいました
細野:じゃあ、いつもの質問。府中に住むなら、マンションか一軒家どっちがいい?
藤田:一軒家がいいな。蔵のある古い家をリノベーションして住みたい。
村田:最初に歩いた街道沿いの古い一軒家、良さそうだよね。
藤田:府中のまちは、古いものと新しいものが一緒になって揉みしだいてる、いや、まさぐりあってる……あれ、官能小説みたいになっちゃった(笑)。
細野・村田:あはは(笑)。
本日の一コマ漫画
イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)
まちのミカタ 心に残る府中の風景
村田のミカタ:藤田「この上に立ったら、私が破壊したみたいに見えない?」
藤田のミカタ:落ちもんとはみだせ緑の貴重なコラボ! 両足脱ぎ捨てられた靴は、
▷府中の豆知識
東京都多摩地域に所在する府中。駅周辺には商業ビルや高層マンションが立ち並ぶ一方、天然記念物に指定される「馬場大門のケヤキ並木」や「大國魂神社本殿」などの指定文化財が数多くあります。
2008年には「2008年 東京都民 生活実感ランキング~1位には「これからも住みたい」街(LIFE HOME’S HPより)」で1位となり、話題になったまちです。
●取材/SABOTENS・細野 由季恵
●編集/細野 由季恵
●執筆/村田 あやこ
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SABOTENS / SABOTENS
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。