言葉では伝えられないことも、
音楽なら伝えられる。
フランス歌曲コンサートの模様 すみだトリフォニー小ホールにて
齊藤州重さん。1987年生まれ。オペラ歌手だった父親のもと、オーストリアで生まれる。5歳のときに、母親の郷里である鹿児島に帰国。幼少時よりオペラ歌手をめざし、高校卒業後は、東京藝術大学声楽科に入学。その後、父親が教鞭をとる鹿児島大学大学院に進学するも、特別支援学校の生徒との出会いをきっかけに、教諭の道へ。奥様との出会いは、学生時代のオペラでの協演。現在は奥様の実家が近い日野市内に在住。プライベートではオペラ歌手としての活動を行い、奥様のピアノ教室がある自宅やコンサートホールを借りて、奥様と一緒に子ども向けコンサートなどを定期的に開催している。
エントリエがきっかけで
齊藤さんとは不思議なつながりなんですよね。
齊藤さん:そうなんですよね。たまたまエントリエの前を通って、素敵な場所があるなと思っていたんです。そう思っていたら、奥さんが自宅でやっているピアノ教室に通ってきてくれているお子さんの親御さんからも「素敵な場所がありますよ」って、紹介されて……。
それは、なんとも嬉しいお話です!
齊藤さん:自分たちの演奏を子どもたちに聴いてもらえる、ぴったりな場所だと思って一目で気に入りました。ここで演奏会をさせてくれませんか?って、僕の方から声を掛けさせてもらいました。
そこからとんとん拍子に話が進んで、5月5日に演奏会を開催することになったんですよね。
齊藤さん:ほんとに不思議な縁ですよね。
オペラ歌手の道から特別支援学校の教諭へ
オペラの世界ってなかなか身近にはないと思うんですが、どうしてオペラ歌手を志そうと思ったんですか。
齊藤さん:父親がオペラ歌手で、僕も自然とその道をめざすことになったんです。でも、大学生の頃から、この道で生きていく厳しさもだんだんとわかってきて。
それで、先生の道に。でも、先生を選んだのはどうしてですか。
齊藤さん:大学院のとき、大学の付属の特別支援学校の生徒たちの前で歌う機会があったんですよ。そのときの生徒たちの反応に感動してしまって。
そうなんですね。
齊藤さん:一般の学校でも歌った経験はあったんですが、全然違いました。なんというか、特別支援学校の生徒たちは、音を出したらちゃんと聞いてくれる。感情のひだが多いのか。「ああ、すごい!」って、感動がすぐに返ってくる。それで、目指すなら特別支援学校の教諭のほうが合っているかもしれないと思ったんですね。
先生になってよかったと思うのはどんなときですか。
齊藤さん:すごくいっぱいあるんですけど。やっぱり、音楽の力で生徒が変わるときでしょうか。
そんなに変わるんですか?
齊藤さん:変わりますよ!たとえば、全然笑わなかった生徒がいたんです。なんとかして笑う顔が見たいなと思って、その子が入ってきたら、自然と音楽が流れるような仕組みをつくったんですね。そしたら、5回目位の授業で、にこっと笑ってくれるようになった。
ほんとですか。すごい!
齊藤さん:そんな生徒たちの姿を見て、自分も元気をもらっています。正直、オペラ歌手を諦めて、自分の中の泉みたいなのが枯れて、しんどいなと思っていた時期もあったんです。でも、ここに来て、音に対する生徒の反応や表情に触れているうちに、自分の感情がポジティブなものにどんどん変わっていきました。
音楽に突き放されて、また救われた感じですね。素敵なお話です。
歌劇「ドン パスクワーレ」パスクワーレ役 大田文化の森ホールにて
奥さんと二人で自宅コンサートも
ご自宅でもときどきコンサートをされるそうですね。
齊藤さん:はい。ピアノ教室に来てくれる子どもたちに、もっといろんな音楽を楽しんでもらいたいと思って、季節の行事に合わせてやっています。
そのときは歌うんですか。
齊藤さん:もちろん。ちゃんと衣装を着て歌いますよ。ピエロになったり、クリスマスはサンタさんになったり。
サンタさん!楽しそう!(笑)
齊藤さん:元々オペラだから、派手な衣装への抵抗がないんですよ。ピンクとか紫とか、コスプレに使えそうなスーツも一杯もっていますよ(笑)
お子さんたちの反応はどうですか。
齊藤さん:みんな、男の人がちゃんとした声楽技術を使って歌うのを聞くなんて体験したことがないじゃないですか。最初はびっくりする子が多いけど、何度かコンサートをやるとダイレクトに反応が返ってくる。子どもだから残酷な反応もあるけど、そういうところも好きで続けていますね。オペラって面白いなって、逆に思うようになりましたね。
歌劇「ドン パスクワーレ」パスクワーレ役 大田文化の森ホールにて
このまちをホームタウンにしたい
聖蹟桜ヶ丘には元々縁があったんですか。
齊藤さん:奥さんの実家がそばにあるんですが、僕自身はありません。
暮らしてみていかがですか。
齊藤さん:人があったかいですよね!故郷の鹿児島も人はいいんですが、ここは洗練されていますよね。近くのバイオリン工房の方とも知り合いになって、
その方、知っています!
齊藤さん:イケメンでしょ(笑)その方を通して楽器演者と知り合い、練習部屋として自宅を貸し出ししたり、いろんなつながりも生まれてきています。
音楽を通して、これからやってみたいことはありますか。
齊藤さん:音楽って、言葉がなくても人と人とをつなげることができる接着剤のようなものだと思うんです。音楽にのせて伝えていく。音楽は伝える力もすごいし、それに返ってくる力もすごい。少しでもいいからそんな役割を果たしていけたらいいなと思いますね。
今度の演奏会がお役に立てたらいいです。楽しみにしています!
齊藤さん:こちらこそよろしくお願いします。ホールだと敷居が高いですが、ここなら。お子さんを連れて、ぜひご家族でいらしてください。
東京古楽団公演 ソリスト(合唱最前列の右) 三鷹風のホールにて
「音楽は、空間がないとできません。それも自分だけが満足できる空間ではなく、相手に気持ち良く思ってもらえて、そこで過ごす時間が豊かなものになる空間が必要だと思っています。だから、自宅はこだわりました」自宅リビングでのオペラ稽古の模様。
エントリエを素敵な場所だと感じていただきお声掛け下さっただけあり、共感できる素敵な考えとこだわりをお持ちの齊藤さん。当然ですが、とてもいい声で、お話を聴いていて心地よかったです♪今回の齊藤さんとの出会いもお話の内容も、人との縁って素敵だな~と感動する時間でした。
【ピアノ教室ご紹介】
あやピアノアカデミー
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