第34回目のゲストは明太子マニア、田口めんたいこ(たぐち・めんたいこ)さんです。
田口めんたいこ(たぐち・めんたいこ)さん。1988年、東京都出身。福岡での明太子屋さん巡り旅を通し、利き明太子体験や明太子を作られている方々の熱い思いに感動。明太子に人生を捧げることを決意。インスタグラムでほぼ毎日明太子に関する投稿をおこなうほか、Youtubeチャンネル「辛子めんたいTV」で明太子の魅力を発信中。さらなる情報収集の為、近々福岡移住予定。
インスタグラムや食べ比べのイベント、Youtubeなどさまざまな方法で、日々明太子の魅力を伝える明太子マニア・田口めんたいこさん。近々、明太子の修行のため福岡へ移住予定です。
「明太子が当たり前に食卓に並ぶ世の中になってほしい」という田口さんに、現在の思いに至った経緯を伺いました。
緊急事態宣言の中、オンラインでの取材を行いました。
「#一日一明太」からはじまった、「田口めんたいこ」の活動
――田口めんたいこさんは、会社員の頃から毎日インスタグラムで、明太子に関する投稿をされてますよね。
田口さん:はい。2017年1月にはじめて、もう3年程になります。
――市販の明太子の商品だけでなく、自作の明太子料理など、さまざまな角度から紹介されていて、私もつい明太子に目がいくようになりました。インスタグラムをはじめたきっかけは?
田口さん:もともとSNSは苦手で避けてたんです。でも、友だちに「明太子好きだよね」っていわれたときにはじめて、自分が人より明太子が好きだって気づきました。
当時から人気のSNSだったインスタグラムを調べてみたら、明太子だけに特化したアカウントはなかったので、明太子に関することだけ投稿していったら面白くなるなと思ってはじめたのがきっかけです。
アカウント開設に伴い、「田口めんたいこ」というニックネームも名乗りはじめました。
――最初から、明太子に特化したアカウントにするぞって決めてたんですね。投稿に「一日一明太」っていうハッシュタグがついていますが、これもアカウント開設当初から?
田口さん:はい、ハッシュタグも最初からつけていました。
――インスタグラムをはじめた時点で、友達にも認知されてるくらいの明太子好きだったんですね。
田口さん:インスタグラムをはじめるより前に、たまたま福岡に2、3回旅行で行って、明太子もたくさん食べて。「こんなに明太子って可能性あるんだな」って驚いて、東京に帰ってからも明太子について調べたり、友だちに無意識に明太子の話をしたりしたんですよね。
――どういうところに、惹かれるんでしょう?
田口さん:純粋に食感ですね。ぷちぷちした卵の感じがすごく好きです。明太子屋さんがこだわってつくったものだと、そのままが美味しいので、日本酒を片手に明太子をちびちびつまむとか、白米と一緒に食べるのが一番オススメです。
――シンプルな食べ方の方がいい?
田口さん:そうですね、素材の味を味わってほしいですね。
――もともと明太子はお好きだったんですか?
田口さん:親がもともと、たらこや明太子などの魚卵が好きで。辛いものが食べられない小さい頃も、よく食卓に焼きたらこが出ていました。
――自然となじみがあったんですね。
田口さん:はい、頻繁に食べていました。最近になって周りの人と話してると、そんなに食卓に出てなかったって人も多いので、びっくりしています(笑)。
会社を辞め、二週間の福岡巡り
ものづくりに誇りを持つ明太子屋さんたちとの出会い
――インスタグラムをはじめてしばらくして、会社を退職されたと伺いました。退職のきっかけは、「田口めんたいこ」としての活動に専念するためだったんですか?
田口さん:いえ、特にこれをやるぞというよりは、「このままの仕事でいいのか」という想いをずっと抱いていて。30歳を目前にして、農業体験など、好きなことをとことんやる時期を一度つくってみたくて。
それで退職後に、やりたかったことのひとつである福岡で二週間、明太子屋さん巡りをしたんです。
――二週間はどのように過ごされたんですか?
田口さん:当時、福岡にはまったく縁もゆかりもなかったので、アポなんてどうやって取ったらいいのかもわかりませんでした。だから、まずは行きたい明太子屋さんを調べ、明太子づくり体験など予約してできるものに参加して。あとは、インスタグラム通して出会った明太子屋さんにも伺いました。
いざ現地に行ってみたら、社長さんまで出てきて工場を見学させてくださったんです。その後、他の水産系の専門商社を紹介していただいて、そこから更に、お付き合いのある明太子屋さんにつないでいただいたりもして。
――人のご縁で、想像以上の出会いがあったんですね。
田口さん:すごいですよね。それまでそういう経験ってなかったんです。刺激的すぎて途中吐きそうになって、ヘパリーゼとか飲みながらやってました(笑)。
――明太子屋さんや商社さんとは、その時どんなお話をされたんですか?
田口さん:「とにかく明太子が好き」という話から、明太子のつくり方やお菓子など加工品の味の出し方、明太子業界についてなど、いろいろな話をしましたね。
こちらが気になることについて、生意気にもつっこんで聞いたことに対しても、しっかりと答えてくださいました。
――印象的だった人やエピソードはありますか?
田口さん:完全無添加の明太子をつくっている「三楽」という明太子屋さんが、特に印象的でした。調味料の原料まで無添加にこだわっています。こちらの社長さんは、5時間くらい話してくださいました。
――5時間! それだけこだわりのあるものづくりをされている分、お話を聞きにきてもらえることも嬉しかったでしょうね。
田口さん:熱かったです。無添加だと、味や賞味期限、流通、コストなど色々な制約がある中での、徹底したこだわりが印象に残っています。
田口さん:あと、滞在中に一番感動したのは、明太子の食べ比べができるイベントです。はじめて同じタイミングで5社の明太子を食べ比べるという体験をして、まったく味が異なることに驚きました。
――明太子屋さんによって、味は違うものでしょうか?
田口さん:違いますね。素材もそうだし、出汁とかお酒の種類で味が違うんです。明太子屋さんいわく、8~9割が素材の良し悪しらしいです。採れた時期や場所、魚の成長度合いで大きく変わってくるので、目のこえた熟練の方が入札に行き、ものすごい数の素材を実際に見て触って、入札を決めるそうです。
素材選びに失敗すると会社が傾いてしまうくらいの重要な任務で、死ぬ気で素材を獲ってくるところからはじまるので、その良し悪しはすごく大切ってみなさんからはよくうかがいました。
――明太子屋さんと直接会い、こだわるポイントを聞けたことも大きそうですね。
田口さん:皆さん自分の明太子に誇りを持ってつくっているのが伝わってきました。会社員時代は、こんなに楽しそうに働く人をあまり見ていなかったんです。だから、自分の商品を愛して、生き生きとしていてすごくいいなと思って。
――自分がつくっているものに、誇りやプライドを持ってお仕事されているのっていいですね。旅は、田口さんの活動にとって、大きなターニングポイントになりましたか?
田口さん:はい、そうですね。「この人たちが、こういう美味しい明太子をつくっているんだぞ」というところまで伝えたくなりました。それに、「明太子はただ美味しいだけじゃない」という面白さを秘めていることを伝え、広げていきたいという気持ちが強くなりました。
「田口めんたいこ」はこうやってできていった
――福岡への明太子の旅から戻ってきた後は、どのような活動を?
田口さん:明太子マニア・田口めんたいことして、インスタグラムやイベント、Youtubeチャンネル「辛子めんたいTV」などを通して、明太子の魅力を発信してきました。
田口さん:明太子って「こんなに、美味しくて、楽しい!」という話をするだけで興味を持ってくれる人が増えて、とりあえずアウトプットしてみることがいかに大事なのかが、よくわかりました。
アウトプットしたことに対して反応をいただくと、もっと明太子のことを知りたいし、ちゃんと業界の力にもなりたいと思いはじめ、近々福岡への移住も考えています。東京にいると、お取り寄せに時間もお金もかかるし、明太子やさんの空気感も常には感じ取れません。だったら福岡に移住して、福岡にある明太子屋さん200社を回れるだけ回ってみようって。
――移住してやってみたいことはなんでしょうか?
田口さん:まずは明太子屋さんを巡ってものづくりの背景を取材し、動画なり文章なりで発信するのが第一ですね。それができたら、明太子の魅力をどう発信すればよいかが、自分の中で浮かんでくるのかなと思っています。
――200社もある明太子屋さんの200通りの味、それぞれの話を聞くだけで相当面白そうですね。
田口さん:そうなんですよ、なので一年以上はかかりそうです。
――田口さんのご活動を見ていると、明太子に対する想いがまっすぐで、あと振り切っているところも魅力だなと思います。
田口さん:自分では自覚がないんですが(笑)。
――住む場所まで変えて明太子を極めたいっていう点もそうですし、あと明太子の衣装や被り物を身につけて、ビジュアル面からも魅力を伝えて。全身全霊で向き合っているところに、元気をもらえるし応援したくなります。ご活動のモチベーションは、どこから来ているんでしょうか?
田口さん:間違いなく、「人」ですね。関わっている人。明太子が好きっていうだけじゃ、ここまで色濃く人に知ってもらう活動はできなかったなと思っています。
――人との「出会い」でしょうか。
田口さん:たとえば行きつけの居酒屋で明太子食べ比べのイベントを開催したとき、料理や接客が不安だと店主に打ち明けたら、「田口さんができることだけをやってくれればいいから」と、発注以外の部分を手伝ってくださったんです。
そういうふうに、形にしていくために力を貸してくださる人が増えてきて。それが本当に自分の好きな人ばっかりだから、私も頑張ってその人の名に恥じないようなイベントにしようとか、逐一そういうふうに思いながらやってきました。
そうやって、「田口めんたいこ」ができあがっていった感じですね。
――人に対して誠実でまっすぐなところが、周りの人を動かして、自然と協力したいって思わせてるのかなと思います。
田口さん:それがすごく不思議なんです。明太子の活動をはじめるまでは、そんなに周りの人のことも大事にしてこなかったし、ここまでのめりこむようなものもなかったんですけど、明太子のことに関してだけ、色んないい縁に恵まれるし、その人たちと頑張りたいって思えるんです。
――出会いがあって、周りの人も協力してくれて、なにかつくり上げて。そういう、いい循環ができていってるんですね。
田口さん:不思議ですね。明太子だけなんで、こんなに世界が広がったのって。
福岡にある200社の明太子屋さん
それぞれの魅力を伝えて行きたい
――今後、明太子業界をこういう形で盛り上げていきたいという展望はありますか?
田口さん:まずは明太子だらけの物産展をやりたいです。いっぺんに明太子が並んでいる面白さを伝えたいので、百貨店などで、明太子屋さん30社くらいを集めた明太子版の物産展をやりたいですね。
――あったら行きたいです! 人も集まりそう。
田口さん:「やろうと思えばすぐできるよ」といわれることもあるんですが、明太子屋さんをただ集めるという見せ方ではなく、何か一つアイデアがないと成功しないんじゃないかと思っています。
そうなると、やはり1〜2年は福岡で修行して、もっと明太子業界にも精通して、明太子屋さん一社一社と深いつながりをつくった上で実現させたいな、と。その自分の中でのハードルを超えて、「よし、いくぞ」っていうタイミングになったら、これまで出会った人たちにも協力してもらって、やってみたいという夢はありますね。
――それぞれの明太子屋さんとの信頼関係があったら、どういう見せ方をすれば盛り上がるかも見えてきそうですね。
田口さん:最終的には、納豆みたいな感じで、明太子が家庭にいつもあるみたいな状況になったらいいなと思いますね。
「ご飯を食べてお酒を飲んでいるときが一番幸せ」という田口めんたいこさん。
身近で手に入る明太子でオススメなのは、「セブンイレブンの炙り明太子」だそうです。
●インタビュー・文 / 村田あやこ
●編集 / 細野 由季恵