村田 あやこ
お話をしてくれた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
細野 由季恵
お話を聞いた人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

第13回目のゲストは人の想像を超えて育つ、路上の植物に魅力を感じ発信している村田 あやこさんです。

路上からはみ出す植物に魅力を感じて

――本日は、よろしくお願いいたします。

村田さん:よろしくお願いします。あ、これ、よかったら使ってください(手ぬぐいを差し出す)。

村田あやこさん制作の根っこのてぬぐい

――わあ! ありがとうございます……根っこの手ぬぐいですね!

村田さん:はい。植物の中でも根っこが大好きで、そのなかでも特にグッときたものを手ぬぐいにしてみました。植木鉢から根っこがはみ出して、さらにアスファルトまで根ざしているという……。これが元の写真です。

――すごく力強いですね。 村田さんは、こういった路上で見つけた根っこや園芸植物の写真を撮り続けていますよね。

村田さん:はい。「路上園芸学会」というものを独自で立ち上げ、気になった植物を写真におさめています。

――どういうところが村田さんのアンテナに引っかかるのでしょう?

村田さん:手ぬぐいにした植物のように、植木鉢の底を突き破り根っこが伸びているものや、植木鉢におさまりきらないほど大きく育ったものなどです。例えばこういう……。

――あまり意識したことがなかったのですが、よく見るとものすごい世界ですね!

村田さん:そうなんです。美しいものもあれば、雑然としているもの、育ちすぎた植物なんかもたくさんあって。それぞれ育て主の性格の違いがストーリーとして見えてくることにも興味がわきました。

東京の下町では、植木鉢が路地で所狭しと並べられている光景をよく見かけるんですよね。私が住んでいた実家の福岡や大学時代に暮らしていた北海道ではあまり見たことがなかったので、どこか新鮮に感じていました。あとは、幼少期に触れていた自然への回帰というか……。

最初は個人的に気になった植物を撮影して、「路上園芸」と名付けて周りに見せるだけだった時期もありました。「どこがおもしろいの?」といわれることも(笑)。それでもしばらくは誰かに見せるためではなく、私が気になるものを好きなように撮り続けていました。

――今では、SNSでも徐々に広がりをみせていますね。

村田さん:ある時期から撮影した写真をSNSで公開しはじめました。そうしたら、自然と似た趣味や園芸に興味ある人たちとのつながりができて。個人的に活動しているときからは想像もできないほどの出会いがあり驚いています。

SNSがきっかけで、路上の園芸に関する執筆のお仕事をいただくこともあります。他にも、藤田 泰実さん(以下、藤田さん)と「SABOTENS」というユニットを組み、展示や作品づくりをしています。例えば、これは「家ンゲイはんこ」といって、はんこの組み合わせによって自由に路地の園芸風景をつくれます。

――かわいい! 室外機もありますね。

村田さん:あっ、その(2枚目の写真)室外機は珍しい「右目室外機」です(笑)。室外機は、ファンの部分が左側についているものが多いんですが……。

――そうなんですね(笑)。「SABOTENS」の活動でも、対象として植物を扱っていますが、「路上園芸学会」とは違うものでしょうか?

村田さん:「路上園芸学会」では主に植物を対象にしていますが、「SABOTENS」は、対象の範囲が広くて「路上にはみ出しているもの」全般です。私たちが共通して魅力を感じているものは「人の定めた枠をはみ出したもの」や「人の意識からはみ出したもの」。

あらかじめ想定した枠を超えたものの光景や、その背後にあるストーリーに惹かれます。敷地からはみ出してしまった植物や、無意識に道に落ちた落とし物など、「路上にはみ出たもの」全般のおもしろさをひろって発信していきたいなって思ってます。

人が決めた枠を壊して育つ植物のたくましさ

ときに育ち放題の園芸植物は、「手入れされていない」という印象を持ってしまうと思うんですが……。

村田さん:そうですよね。植物って癒しのイメージと結びつけられがちだと思うんです。でも実際は根っこが植木鉢から飛び出してしまうように、人が決めた枠をどんどん壊して建物を覆ってしまうなど、「たくましさ」をもっているんです。

――たしかに作品を拝見していると、かわいらしいとかそういう言葉とは真逆ですよね。

村田さん:例えば、アスファルトの隙間から生えている植物は、たまたまそこに落ちた種が、偶然そこにあった土と水で育っている。場所をうまく利用して、したたかに生きていますよね。

――そのしたたかさに惹かれる理由は、村田さんの内面や生き方と重なるということでしょうか?

村田さん:反対で、自分にはない部分に惹かれるのかもしれません。見る人によっては汚かったりいびつだったり、気持ち悪かったりするかもしれないけれど……私は、そうやって自力で枠を超えて育った植物がもたらす光景が美しいと思っています。

「これ、きれいでしょ?」って誰かが計画して育てたものじゃなくて、敷かれたレールを打ち破って生命力が発揮されているのが良い。すごく美しいと思います。

視点を変えるとわかる再構築される空間

――今後はどのような展望がありますか?

村田さん:そうですね。「路上園芸学会」の活動を続けて、それが何かの形で仕事に繋がると嬉しいですね。それで家でネコたちと一緒に過ごせる時間が増えたらいいなと思っています。

――最近、「SABOTENS」の藤田さんが拾ってきたネコだとか。

村田さん:そう、3匹も捨てられていたのを藤田さんが見つけて……。そのうちの2匹がうちにいます。はじめて動物を飼ったので、最初は想像もつかなかったのですが、ネコと一緒に暮らすと「家という空間」の見方も変わりはじめました。

ネコはネコの目線で空間を自分のために再構築していく。ここは光がよくあたる場所で暖かいとか、ここはいつも日陰になっていて涼しいとか、ちゃんと見つけている。自分以外の生き物の目線で見ると、自分が使いやすいように配置した家具は全く意味がなくなって、よく知っているはずの場所が違う見え方をするのがおもしろいなと思いました。

――「路上園芸学会」とも通じるものがありますか?

村田さん:植物を見ているときのおもしろさと通じるものがありますね。路上の植物も「これだけ成長しているのは、この環境をうまく利用しているんだろう」と思うんです。

植物は育てる人がほったらかしていても、環境が合っていれば自力で成長していきます。また人の手によって計画されているように見えるものも、別の生き物にとっては違う意味を持ち、違った使い方がなされることがあります。例えば、アスファルトのわずかな隙間が雑草の住処になったり、樹が手すりを飲み込んで成長したり。植物を通してまちの見え方が変わるところが、路上園芸のおもしろさなのかなと思います。

それをネコにも感じていたという……ちょっと無理やりでしょうか(笑)。

「新宿なら三丁目界隈がおすすめです」と教えてくれた村田さん。取材当日も一緒にまちを歩き路上の園芸を探しました。いつもは目に入らない、迫力のある光景に私も心を奪われました。