エイミーことエントリエ編集長の鈴木 栄弥が気になる人を訪ねて、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第14回目のゲストは写真家の黑田 菜月さん。常に「どのようにつくっていきたいのか」を丁寧に思考し、自分の言葉で語る黑田さんの作品の魅力に迫ります!

“自分はなにを撮っているのか?”
言葉で考え伝えることで広がる写真の世界

黑田 菜月さん。大学在学中から写真を撮りはじめ、第8回写真「1_WALL」でグランプリ受賞。その後、本格的に写真家としての活動をスタート。現在は写真のみならず、ワークショップや映像など多岐にわたって活躍。12月中旬には個展『友だちの写真』を開催。

*黑田さんのポートフォリオサイトはこちら https://www.kurodanatsuki.com/

写真を閉じた世界に置きたくない。内側を言語化するための向き合い方

写真作品って、どのように見たらいいのかわからないことが多いんです。でも黑田さんの作品を見たときに、キャプションとして添えられた言葉もあいまって、スッと腑に落ちるものがありました。

黑田さん:写真を学んできた人や同じ業界にいる人にとっては、言葉がなくても楽しめることもあります。だけど、そうじゃない人にとっては理解し難くて、閉じた世界ですよね。「写真は見た人が感じてくれれば良いんだ」っていうスタンスの方もいらっしゃいますが、私は作品に対して言葉で語れる方がいいと思ったんです。

なぜ自分の作品について言葉で語ることを大切にするようになったのですか?

黑田さん:私が写真を撮りはじめたのは大学生の頃からでした。暗室を使ってモノクロのプリントをしてみたくて、写真サークルに入ろうと思ったんですけど、入学した大学ではあまり活発に活動していなかった。もっとやる気のある人たちが集まる環境で写真を撮りたいと思って色々と探した結果、他大生も集まる早稲田大学の写真部に入部を決めました。

早稲田の写真部には、色々な写真を撮る人たちがいてすごく刺激を受けました。単純に撮って展示をするだけじゃなく、写真について考えたり、大学の授業に「写真論」があったので潜り込んでみたり。鈴木 理策さんというベテランの写真家に作品を見てもらったりもしました。そんな大学生活も終わりに近づいたころ、有志のみんなで展示をしようという話になったんです。そこで初めて写真展を企画したことで、「今後も写真を撮るということについて考えていきたい」と思うきっかけになりました。

学生時代から、行為としての写真だけではなく「考えること」を大切にされていたのですね。

黑田さん:卒業後はいったん就職をしたのですが、写真を学ぶことができる大学の受験をしたこともあるんです。そこでの体験が強烈で……。作品で一次試験は通過できたものの、二次面接で面接官の方に「『楽しそう』なんて安易な考え方でやってんじゃないわよ」というような厳しいことを言われました(笑)。そのとき「写真についてしっかりと言語化して伝えられるようにしたい」と思うようになったんです。

そこで、審査過程で作品について人と話したり、説明をしたりする機会が多い「1_WALL」という若手の写真家向けのコンペに応募しました。最終審査では、壁に作品を貼ってプレゼンテーションをして、結果的にグランプリをいただいて。ここで受賞したことがきっかけで写真家の活動が本格的にスタートしましたし、自分の言葉で語ることが重要な位置付けになりました。

一連の作業を分解して思考し、自分の言葉で正確に伝える

具体的にはどのようにして言葉で説明できるように鍛えていったのですか?

黑田さん:写真を撮るということについて、分解して考えるようにしました。「なにを」撮っているか、「どうやって」撮っているか、「なぜ」撮っているか。ある映像作家さんの本に、この3つのことを「自分自身に繰り返し問え」って書いてあって、これだ! って思ったんです。

特に「どうやって」と「なぜ」、これが難しくて……。

場数を踏むことも大切で、言葉足らずでも理解してもらえるような環境に甘えずに伝えたい相手にちゃんと言葉で伝える。正確に伝えるためには、どうすればいいかを考えながら説明するという作業を繰り返しました。

黑田さんは、モデルの織田 梨沙さんやシンガーソングライター柴田 聡子さんらが主演する映画「ほったまるびより」に関連して、「その家のはなし」という写真集を発表されていましたね。そのときの撮影はいかがでしたか?

黑田さん:それこそ自分の言葉で語って伝えるということがすごく大切な現場でした。最初プロデューサーから「黑田さんの視点で自然に撮ってほしい」といった要望があったんです。ただ、場所は映画で撮影された家の中という設定がすでにあるので、その時点で不自然な状況だった。そこで監督の吉開 菜央さんとコミュニケーションをとり、彼女のやりたいことを把握した上で自分の関心ごとを明確にして、その中で自由に動けるように取り組みました。


黑田さんの作品はひとつのタイトルの中に複数の写真とキャプションが入っていますよね。写真は1枚1枚で見るものなのか、一連の写真群としてみていくものなのか。どちらなのでしょうか?

黑田さん:私は、写真は1枚で見られるものとは思っていないんです。たとえば「なんでかよくわからないけど、すごく好き」という1枚の写真があったときに、それをさらに引き立たせ伝えるためには、どんな要素が必要かを考えていきます。隣り合う写真が変わっただけで印象も全然違うから、順番や他の写真をピックアップする作業を大切にしています。

どんな風に写真を選んでいるんですか?

黑田さん:写真を撮るときは、一連の作品としての完成形を想像して撮っているわけではないんです。だからたくさん撮った中から、「不思議だな」「おもしろいな」と気になったものをピックアップします。


では「なにを」撮るかという部分ですが、被写体となるモチーフはどのように決めているのですか?

黑田さん:2つの方法があって、ひとつは毎日カメラを持ち歩いてスナップ(*日常の出来事など偶然出会った写真)を撮っています。ルールで縛らずに、素直にいいなと思ったものを撮っていっています。子どもの写真を撮っていたときは、スナップの延長でした。

もうひとつは、普段の生活で私が経験したことや考えるきっかけになった出来事からモチーフや場所を決め、そこでどう撮っていくかを決めていく方法です。

2017年に発表した「わたしの腕を掴む人」では、中国の老人ホームで撮影をされていましたね。撮影当時はどうやってコミュニケーションをとっていたのですか?

黑田さん:まずは通訳の方に、私のやりたいことを説明しました。シーンを設定して無理やり撮るのではなく、老人ホームの方々がカメラを意識しないように通訳の方にお話してもらい、限りなく自然な状態を撮れるように進めていきました。私自身も大学時代にちょっとだけ中国語を勉強していたので、それも活かしながらコミュニケーションを取っていました。



だからこういった自然な情景が撮れたのですね。黑田さんの写真は人に寄り添うようなものが多くて、写真から優しさがにじみ出ているように感じました。

黑田さん:(被写体となる)人の写真を作品にすることって、強引なことでもあると思うんです。その強引さを和らげるためにも、撮る側が努力することが大切だと思っています。

2017年の「あの子のママはおじさんの娘 」という作品は、他の作品と比べさらに人に近づいた感じがします。今までと何か違ったことはありましたか?

黑田さん:この作品では、ベルリン発のデザイナーズブランド「BLESS」というブランドが大好きなスタイリストさんと一緒に知り合いを撮りに行こうとなったんです。

撮影前に私も「BLESS」の服を一通り着させてもらって、服の特徴を理解した上で撮りはじめました。私の知り合いを訪ねつつ、道すがら出会った人たちにも交渉して、服を着てもらって撮影をしていきました。



服自体が扇子の形をしたストールとか、ルーズソックス風のデニムとか、コミュニケーションのきっかけになるようなユニークなデザインです。人によって着方を考えたり、初対面の中学生とああだこうだ言いながら撮影に協力してくれたりしたのも面白かったです。

「人に近づいた」と言ってもらえてすごく嬉しいです。お話ししたように(被写体は)知り合いが多かったことや事前のコミュニケーションがあり、近い距離感で撮影ができました。

日常を捉える力を身につけるは、レシートの裏ぐらいがちょうどいい

黑田さんの暮らしと作家活動の間でリンクしていることはありますか?

黑田さん:レシートの裏に私が見たことや感じたこと、考えたことを言葉で綴っています。

どうしてレシートなんですか?

黑田さん:作家活動の一環で、毎日スナップを撮ったり、日記をつけていたりしたんですけど、どこか「くだらない」という思いもあったんです。そのときにレシートの束を見て、生活の中でもらったレシートの裏に日記を書くくらいがちょうど良いなって。(物を買うことは)私にとって必要だったけれど、他人にとっては不要である感覚にどこか、親近感を覚えたんです。
普通に暮らしている中で、撮りたいもの未満の出来事・風景・言葉(本の中の単語)などをみつけたりするための、筋トレみたいな感じでやっています。

レシートの裏にどんなことが書かれているのか気になります!

黑田さん:今度、女の子だけで出す同人誌で発表するので、その情報も今後お知らせできればと思っています。楽しみにしていてください。

2018年12月に個展を行うそうですね。

黑田さん:はい。8月に金沢動物園で子どもたちとワークショップを行って映像作品を発表したんですが、それをブラッシュアップした展示を田端のOGU MAGというギャラリーで12月14日(金)から16日(日)まで開催します。ぜひいらしてください。

黑田 菜月個展  /  『友だちの写真』

 

自分がやりたいことを明確にしながら、写真を撮りつづける黑田さん。作家としてのエッジの効いた思考とは裏腹に、プライベートでは、お笑いテレビをみながら1人で喋っちゃうというお茶目な一面も持ち合わせています。

===============================

今回に協力していただいた取材したお店
SHANTZ https://shantzcoffee.tumblr.com/
東京都足立区千住1-30-18

 

この記事を書いた人

宇治田エリ

東京都在住のフリーライター&エディター。趣味はキックボクシングと旅行。ここ数年の夢は、海外でキャンプすることと多拠点生活。毎朝ヨーグルトに蜜柑はちみつをかけて食べることが幸せ。

●編集 細野 由季恵