今回のSABOTENS まちのミカタは、東京・有楽町です。今回はSABOTENSの藤田さん(よっちゃん)がお休み。特別ゲストとして、エントリエのインタビュー記事エイミーズトーク第66回目『視点を変えたネオンの楽しみ方を発信 |アオイネオン株式会社 荻野 隆さん』でお話を伺った、アオイネオン株式会社事業企画部長の荻野 隆さんをお迎えしました。荻野さんと一緒に、日本有数のネオン街・銀座からほど近い有楽町周辺を歩き、まちなかのネオン看板を鑑賞しました。
BŌSŌ TOKYO × アオイネオン初のコラボイベントを鑑賞
取材日当日は阪急メンズ東京(有楽町)にて、NFT*プロジェクト「BŌSŌ TOKYO」とのコラボレーションイベント「暴走燈京」を開催中だったアオイネオンさん。イベント会場にて荻野さんと待ち合わせます。
*NFT(非代替性トークン)とは、主にアートなどの独自性のあるデジタル作品と、その所有権を証明するために使用される仕組み
村田:荻野さん、こんにちは!
荻野:こんにちは。
村田:阪急メンズ東京の入口入ってすぐの場所が会場なんですね!これはどういう展示なんですか?
荻野:「BŌSŌ TOKYO」という、デジタルアートをベースに、メタバースなどデジタル空間で利用可能なアバターを展開するNFTブランドと、アナログな「ネオン」がコラボレーションしたイベントです。今回のイベントに合わせて新しくつくったネオンアートも展示しています。
荻野:例えば今回、穴守稲荷神社とコラボしたネオンアートを展示しています。宮司さんや神社ソムリエ・井口 エリさん監修のもと、ネオン画家・はらわたちゅん子さんにデザインしていただきました。
狐が稲穂を持っていますが、もともと稲荷神社は、豊作を祈願するための神社。それが近年になって商売繁盛を祈願する神社に変わってきました。稲荷神社の実際のレギュレーションに沿ったデザインになっているんです。
村田:これだけ細かいデザイン、ネオン管を曲げるのも大変だったでしょうね。
荻野:稲穂の細かな部分は、ネオン職人が「熱い、熱い」と手も一緒にあぶりながらつくっていましたね。
細野:「電上電下 唯我独尊」!
村田:BŌSŌ TOKYOさんのキャッチコピーですね。複雑な漢字が、ネオン管で表現されていて、すごい……!
荻野:筆文字の輪郭を取るのが非常に難しいんです。
村田:画数も多そうですよね。「尊」とか。
荻野:ネオンにする際に、漢字を部分的にデフォルメするんですが、「どこまでデフォルメしていいかどうか」も難しい点ですね。
村田:ブランドのロゴにもなりますもんね。
荻野:そうなんです。ただ、元の通りにやっても実際にはつくれないので、「この部分はデフォルメできない」「ここまでは曲げられる」というのを、お客さんや職人さんとディスカッションしながらちょっとずつ調整していって。
「どこまでデフォルメしていいか」が決まった後は、「どこからどこまでを1本のネオン管でつくれるか」という部分は、職人が頭の中だけで考えています。
細野:制作期間はどれくらいかかったんですか?
荻野:ネオンの制作だけだと3週間くらいです。「どこまでデフォルメしていいか」が決まった後は、「どこからどこまでを1本のネオン管でつくれるか」「どういうパーツ分けをすると、一番文字がきれいに見えて、なおかつ電極同士やネオンを取り付けるためのネオンサポート同士がぶつからないようにするか」は、職人が頭の中ですべて考えています。それを原寸大の図面に書き込んでいく時間が結構長いですね。図面に沿って実際に曲げていく段階で、「やっぱりダメだ」という場合もありますね。
村田:すごいなあ。
荻野:なかなか大変な作業です。この赤いネオン管は、厚みや柔らかさの関係で、他の色よりも割れやすいんです。途中で何度も割れてやり直したり、完成間近だったのに最後の最後で割れてしまったり。相当苦労して製作しましたね。
村田:大変だ。くっつけるわけにはいかないですもんね。
荻野:完成してガスを注入して点灯したときに「パリン」と割れたことも。
村田:繊細な作業なんですね……。
村田:ロンTにパーカーに、オリジナルグッズもあるんですね。
荻野:今回、BŌSŌ TOKYOさんのAR技術で、背後の文字にインスタグラムの写真アプリをかざすと文字が飛び出す仕掛けになってるんですよ。デジタルやバーチャルとコラボしたいとずっと思っていたんですけど、ようやく叶いました。
村田:すごいすごい!浮き出てきた!不思議だ。
細野:わー、すごい!インスタと連動できるのもいいですね。
荻野:そのまま投稿もできます。インスタのアプリだと誰でも無料で手に入るので、手軽なのが一番いいかなと思って。
村田:いやー、楽しい展示でした。ありがとうございました!
「ネオンサイン」と「LED」の見分け方を伝授いただく
展示を堪能した後は、建物の外へ。荻野さんの解説のもと、有楽町周辺のビルのネオンサインを見て歩きます。
村田:ちょうど日が落ちて、これからネオンが灯り始める頃ですね。いつもは下ばかり見ているんですが、今日はぜひ上空を見上げて歩こうと思います。
荻野:わかりました。ネオンの匂いがする方にいこうと思います。
村田:ネオンの匂い……!どうやって嗅覚が働くんですか?
荻野:もう30年以上、ネオン業界で働いているので、経験で「こっちにあるな」とわかりますね。
村田:すごい!
荻野:まず見ていただきたいのが、右手の上にある、かの有名なイチロー選手の看板。あれは僕が入社当時に弊社がつくったもので、実は先月までネオンだったんですよ。先日ネオンが撤去されてしまいました。
村田:うわー、そうだったんだ。
荻野:まずは「ネオンじゃないもの」から見ていただきます(笑)。
荻野:あそこに見えているFUJIYAの看板も、40年ほど前に弊社がつくったものです。元々ネオンサインだったんですが、5年ほど前にLEDビジョンに切り替わりました。ちなみに弊社が手掛けたものではありませんが、隣のBIG ECHOはネオンサイン、その隣のプリマハムは少し前にネオンからLEDに切り替わりました。
もともと銀座には、ああいう屋上のネオンがたくさんあって、「銀座といえばネオン」だったんですが、いまはリニューアルのタイミングでほぼLEDビジョンに変わっていっています。銀座もネオンが減りましたね。
村田:全盛期は何年くらい前なんですか?
荻野:30年くらい前のバブル期ですね。
村田:LEDに切り替わっているのは、メンテナンスの問題とかですか?
荻野:というよりは、LEDビジョンの方が演出方法がいろいろあるので、季節によって変えたり商品の動画を流したりできて、広告宣伝効果が高いんです。
村田:荻野さんはまちを歩いているとき、上を見ることは多いですか?
荻野:そうですね。「新しくなったな」「昔あったものがなくなっちゃったな」とか、自然に目がいっちゃいます。
村田:ネオンサインの変遷を見守っているんですね。
荻野:あの、東映会館の屋上に乗っているのはネオンサインです。
村田:書体が味わいありますね。
荻野:あのネオンサインは、結構古いはずです。
村田:ネオンを使い続ける場合は、どれくらい持つものなんですか?
荻野:ネオン管は、割れなければ30年以上は持つんですが、変圧器の方が寿命を迎えてしまいますね。
村田:そうなんですね。日本の屋外で台風やビル風にさらされて何十年も持つなんて、すごい耐久性ですね。
荻野:ちなみに、この長細い照明もネオンです。ネオンサインは、ガラス管に「ネオンガス」や「アルゴンガス」といったガスを封入して、電極から放電させて光らせます。
ネオンガスは、電気が通ると赤く光る性質があるんですが、アルゴンガスは青く光ります。
村田:2種類のガスが使い分けられているんですね。
荻野:このネオンサインは、電極の部分が赤いのでネオンガスが使われていますね。ネオンガスは高圧で放電しないと光らず、屋内で使うと感電の危険があるので、屋外のネオンサインでよく使われています。屋内で使用するネオンサインは、ほぼアルゴンガスですね。
ネオンサインについて、少し詳しくなった私たち。ここで荻野さんから「これはネオンかどうか」クイズが出されます。
荻野:これはネオンとLED、どっちでしょう?
細野:どっちだろう……。
村田:もしかしてネオンですか?
荻野:正解は、ネオンです。
村田:電極のところが微妙に青く光っている感じが。アルゴンガスが入っているのでしょうか。
荻野:そうです。電極を白く塗っているのでわかりづらいんですが、よく見ると、ちょっと曲げたところが青く光っています。ネオンサインは、電極の部分を文字の裏側に曲げているので、LEDと比較して厚みや奥行きがあるというところも、LEDとは異なる点です。
村田:なるほど!LEDとは曲げ方も違うんですね。
荻野:そうです。
細野:ネオン、面白い。
荻野:これはどっちだと思いますか?
村田:今の説明を伺ってどっちだろうと考えると……
細野:わかった気がする!
村田・細野:せーの、LED!
荻野:そうです!これはシリコンチューブという、シリコンの中に発光ダイオードを仕込んだものを切って、ペタペタと貼ってつくっています。だから、壁から浮かせて裏に電極が回るための厚みはないんです。ネオンのように裏側に陰影がつかず、直接的な明かりなので、結構明るいですね。
「ネオン警察」出動!
荻野さんと一緒に上を見上げながら歩くにつれ、まちの光る看板に対する解像度が少しずつ上がっていきます。
細野:いろんなまちを歩くなかで、「これはすごいぞ」と思ったネオンサインはありましたか?
荻野:30年前には、銀座にすごいネオンがたくさんありました。最近だと道頓堀のスーパードライの看板ですね。あれはすごいと思いましたね。ビールが注がれているようなイメージで、二段階で色が変わっていくような仕様になっていて。でもこの間、弊社も道頓堀で大きなネオンサインをつくったので、少し爪痕を残せたかなと思いますね。
細野:かっこいい!お話を伺うと、夜のまちの見方が変わりますね。
荻野さんいわく、ネオンに非常に似た見た目のLEDも、どんどん増えているそうです。
荻野:我々は「ネオン警察」ですね。
細野:ネオン警察(笑)。
荻野:“ヤツら”がネオンにどんどん似せてくるので、大変ですよ(笑)。“犯罪”が高度になっています。
荻野:ちなみにこれは、どっちだと思いますか?
村田:どっちだろう……
細野:LED!
村田:厚みはない感じがするよね。私もLEDに一票!「A」のように、管が接着している部分が、ネオンだと違う感じになるのかな、と思いました。
荻野:鋭いです!まさにネオン警察です。
村田:ドヤ顔で語るようになってきてしまいました(笑)。
細野:「ネオン警察」の試験があったら何級だろう?
村田:「8級」くらいにはなれたでしょうか。
村田:このあたりも、少しずつ看板が増えてきましたね。
細野:さすが銀座の近く。
荻野:ネオンがありそうな匂いがしてきました。
荻野:ネオンクイズ、いきます。こちらはどうでしょう?
村田:はい、わかりました。LED!
荻野:正解です。遠くから見ると一瞬ネオンに見えるんですが、巧妙です(笑)。これは相当“悪い”ですね。
村田:とんでもないやつが現れたと、ネオン警察的には注意しなければならない(笑)。
荻野:これはシリコンではなく、塗装された樹脂を切り抜いたタイプで、もしかしたら本物のネオンよりも高価なものかもしれません。
細野:あ、あそこにも気になるものが!
荻野:さすがネオン警察。よく気づきましたね。
村田:これはどっちだろう……はい、ネオン!
荻野:正解!ネオンです。
村田:LEDを見た後だと、違いがわかってきますね。
村田:お、あの「BAR」の文字は怪しいぞ。あれは……はい、ネオンです!横から見たら、ガスが青く光っているのが見えました。
荻野:はい、正解です。アルゴンガスですね。
村田:興奮してドヤ顔になってしまいました。
荻野:さすがネオン警察。
村田:ネオン警察7級くらいにはなれたでしょうか。
村田:こちらの「RESTAURANT」もネオンでしょうか。
荻野:はい、そうですね。
村田:LEDと比較して、絶妙な丸みがありますね。
細野:なんとなくネオンというと、黒い背景でビカビカと光っている印象だったんですが、まちに溶け込むと上品ですね。
村田:たしかに。柔らかい光ですね。
村田:いやー、今日はありがとうございました!
荻野:こちらこそありがとうございました!
村田:すごい楽しかった!これから、光る看板を見かけると「どっちだろう」って気になってしまいそうです。
細野:かしこくなった気がします。
村田:これからは上を見て歩こう。
その後、村田と細野は、ネオン灯る飲み屋街に吸い込まれていったのでした。
こころに残る有楽町の風景
イベントのお知らせ
懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景
「懐かしく新しいニッポンの風景」をテーマに、祭りの風景、東北地方のこけしや玩具、架空の温泉街のネオンサイン、観光地の店先の風景など、時代や地域を旅するような気分を味わえる企画展です。ネオン画家・はらわたちゅん子氏の描く2次元作品を実際のネオン管で再現した立体展示をご覧いただけます。
開催期間:2023年12月2日(土)~12月24日(日)、2024年1月1日(月・祝)~1月14日(日)
時間:11:00~18:00(最終入館17:30)
会場:ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
料金:[当日券]¥1,500 / 学生¥800(いずれも税込) ※未就学児無料、学生は要学生証呈示
詳細・お申込み:https://www.hotelgajoen-tokyo.com/100event/nippon
FORMATerial Vol.2【生まれかわるガラス】
アップサイクルやリサイクルされたガラス、自然とガラスの関係性に着目した作品など、人の手を経て次々と形を変えていった、「生まれかわるガラス」を展示。アオイネオン株式会社は、オンサインを作る際の端材をアップサイクルしたアクセサリーを出展します。
開催期間:2023年11月23日(木)~2024年1月17日(水)
時間:11:00~18:00(木曜定休日)
会場:ウサギノネドコ ギャラリー(京都市中京区西ノ京南原町37 カフェ2F)
詳細・お申込み:こちら
大ネオン展‐FIND NEW WAVE‐
開業65周年を迎える東京タワーで開催される、ネオンアートの殿堂。「ネオンの新しい概念と技術の革新や応用を見つける」〝FIND NEW WAVE〟をテーマに、ジャンルを越えたアーティストによるネオンアートが集結。よりパワーアップした『ネオンアート展』を体感していただけます。
開催期間:2024年1月10日(水)~ 2024年2月4日(日)
開催時間:10:00〜22:00 (最終日は20:00まで)※東京タワーの営業時間に準じます
会場:TOWER GALLERY(東京タワーフットタウン3階)
入場料金:無料
詳細:https://kyodonewsprwire.jp/release/202312134229
香港映画『燈火(ネオン)は消えず』
香港のネオン職人夫婦を主人公にした映画『燈火(ネオン)は消えず』。アオイネオン株式会社は、日本での公開を記念した映画のタイトルネオンを製作し、PRに協力しています。
上映開始:2024年1月12日(金)〜
会場:Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
詳細:https://moviola.jp/neonwakiezu