


今回、SABOTENS まちのミカタで訪れたのは、東京・板橋。ゲストにお迎えしたのは、地元・板橋を題材にグッズ制作やイベント企画などユニークな活動を行う「いたばしデザイン同好会」のデザイナー・オビキミヨさんです。かつて流れていた「蓮根川」の暗渠(地下に埋められた、かつての川)をたどりながら歩きました。
地下の川に思いを馳せながら歩く

暗渠とは、市街地の拡大など様々な理由で埋められた、かつての川や水路のこと。地上からは見えなくなったものの、その周りには、かつて川だったことを物語る様々な痕跡が見え隠れしています。ここ板橋区でも、台地と平地の境目の崖を水源に、昔は多くの川が流れていました。その一つが、蓮根川です。今日は、板橋の暗渠をよく知るオビキさんに解説を入れていただきながら、蓮根川の上流から下流にかけて、かつての川筋をたどりながら歩きます。

オビキ:多分この辺が、蓮根川の水源あたりだと思われます。
村田:どことなくジメッとした、水辺の雰囲気がありますね。
藤田:確かに!川がないけど、川があった感じがするね。


この日、オビキさんが着ていたのは、ご自身でデザインされた「いたばし暗渠パーカー」。板橋区内の暗渠がデザインされたパーカーで、中央辺りに蓮根川の文字も見えます。オレンジ色の部分が、かつての川。こんなにあったんですね。
同じ絵柄のTシャツもあり、板橋区民や暗渠の愛好家たちの間で評判を呼んだとか!
細野:全然知らない道でも、暗渠って気づくことありますか?
オビキ:まだまだです。でも「くさい。におうぞ」っていう場所はありますね。
細野:暗渠臭がするんですね……(笑)
オビキ:この環八沿いのような、整備された暗渠は、あんまり萌えないですね。
村田:そうなんですね!どんな暗渠に萌えますか?
オビキ:ひっそり佇んでいるような暗渠に、特に萌えますね。
暗渠をたどる途中でも、落としものや路上園芸など、道端の不思議にすぐ心を奪われるSABOTENS。気になるものを見つけるたび、つい足を止めてしまいます。

藤田:すごい!これなに?
村田:エアコンの配線の墓場……?
細野:いっぱい溜まったら捨てるのかな。
村田:上まで溜まったら何かが起こるのかも。

細野:あの木は、剪定してあんな形になったのかな……?
村田:坊主頭から髪の毛が生えてきたみたい。かわいい。

村田:「川だな」と思って歩くと、ああいう壁の上から垂れ下がる植物もなんだか川の流れに見えてくる。
藤田:ほんとだね。流れ落ちてくる滝みたい。

藤田:これ、ちょっと妖怪みたいでかわいい。
村田:かわいい。よく見ると頭の上から小さな触覚みたいなのが2本、生えてるね。あ、中に別の木が隠れてる。覆われたんだね。
SABOTENSが妄想を膨らませていると、オビキさんが足を止めました。

オビキ:昔は、目の前の環八の向こう側が川だったんですよ。
村田:どことなく、川の土手を感じますね。向こうの方を見ると坂が多くて、川の一帯は低くなっていて。地形の高低差もありますね。
オビキ:このあたりは、河岸段丘といって川の流れに沿ってできる階段状の地形なんです。
低いところは全部、昔は田んぼだったと思います。みんな昼間は坂の上から下って田んぼに働きに出て、仕事を終えると坂を登って上のおうちに帰っていったんじゃないかなって。
村田:昔の人たちの様子を思い浮かべながら歩くと、楽しいですね。

藤田:いい風景!
村田:ここも高低差がすごい。上から下へと水が流れ込んできて、川となったのですね。階段がいい雰囲気を出しているな。

村田:これ、妖怪っぽくてかわいくない?!2匹いるんだよ。
藤田:妖怪だ!目もついてる。
村田:左が親分で、右が子分。
暗渠の気配も、妖怪の気配も気になるSABOTENSです。
「昔の人はここで野菜を洗ったんだろうな」
大きな道をわたると、ゴルフの練習場が出現しました。オビキさんによるとこういった建物も暗渠ポイントなのだといいます。

オビキ:暗渠の上は地盤がゆるくて大きな建物が建てられないので、ゴルフ場や駐車場など、広い敷地が必要な施設にちょうどいいんですよ。
全員:へえ〜!

打ちっぱなしの脇道の暗渠は、緑道になっています。周りには静かな住宅地が広がります。
藤田:風景がどんどん変わるね。
細野:ちょっと旅行に来た気分!暗渠のどんなところが好きですか?
オビキ:一目で分からないところかなあ。
藤田:それは素敵!
オビキ:一つ一つの暗渠に歴史があって。私は暗渠を見るとすぐ、「昔の人はここで野菜を洗ったんだろうな」って思っちゃって。そういう姿を思い浮かべると楽しいです。
村田:今は普通の道だけど、昔は違う風景が広がって、違う使われ方をされていたんですよねえ。
細野:想像が膨らみますね。
住宅街の間に、まっすぐ伸びる細長い公園が見えてきました。実は、こうした場所も昔、川や水路が流れていた跡であることが多いのです。

藤田:急に公園になった。
村田:川でつながっているのに、道を渡ると風景が一気に変わるのが面白いですね。
細野:遊具があるよ。
村田:3つある。3人で乗りましょうか!

村田:……あ、尻が結構きつい。
オビキ:実は一昨日、尾てい骨を強打して。
村田:え、大丈夫でしたか!?
オビキ:床に座ろうとしたらソファーの角でぶつけちゃって。
藤田:うわあーー!痛い!
オビキ:でも今日は大丈夫。
全員:良かった!

村田:結構、ワンちゃんをお散歩させてる人も見ますね。暗渠って、散歩にも良さそうです。
オビキ:いたばし暗渠Tシャツを作ったときに、ランニンググループで買ってくれたことがありました。みんなでTシャツを着て、暗渠を走ってくれたそうです。
村田:車が通らないし、まとまった長さがあるし、走りやすそうですね。
オビキ:高低差もたいしてないし。
村田:確かに走るのにちょうどいい!
オビキ:「暗渠ラン」って言うそうです。
細野:皇居ランみたいな響き!

村田:ここは川っぽいぞとか、道の雰囲気で感じ取って、地図と照らし合わせて川だったら楽しそうですね!
オビキ:すごい楽しいです!ワクワクしますね。
村田:やっぱり川だった!って。今の風景から川筋を読み解く。探偵みたいですね!暗渠ミステリー、作ってほしいです。
藤田:ほんと、探偵だ。「川底に眠った財宝を探せ!」みたいな。
「暗渠サイン」を感じる
オビキさんに案内してもらいながら、ひたすら暗渠の上を歩き続けます。公園や緑道など、暗渠は様々な姿で街に残っています。

村田:公園の名前に「橋」が入ってる。
藤田:本当だ!むつみ橋。
村田:昔、橋だったことの名残でしょうか。

藤田:不思議な空気感の場所だ。
オビキ:ここはローラースケート場です。
村田:光GENJIが流行った頃は、大賑わいだったでしょうね。

村田:ピンクの壁がエキゾチックでかわいい。
藤田:何かの跡がついてるね。誰かが手で引っ掻いた?
村田:喧嘩でもみくちゃに揉み合った跡?

村田:ピンクの壁が剥がれたところから、シダが出ててかわいい!
藤田:ほんとだ!

村田:この一角が一番好き!両方の穴から出てて。
藤田:こんなところから生えるのがすごいね。
村田:壁が破れてたとこに、偶然胞子がたどり着いたんだろうね。すごいな。

村田:向こうの方まで道が続いている。
藤田:建物のない道がまっすぐ続いてるのが不思議。
細野:すごいなあ。何も知らず歩いていたら、「ただの空き地」と思ってたな。
村田:実は川でつながっていると知ると、面白いね。

村田:野良(野生の)ミントがはびこっている。

村田:このあたりは特にすごい!暗渠園芸のホットスポットだ。黄色いハイビスカスがきれいだな。
藤田:柿がたわわに実ってるね。
オビキ:このへんは暗渠だから、おうちの玄関が川に背を向けているんです。
村田:川だった頃の名残を感じますね。家の裏が暗渠だから、裏庭的に鉢植えを並べているのかも。

村田:こいつ、枠を無視して外にはみ出してていいなあ。言うこときかない感じがかわいい。
オビキ:道を渡るとクリーニング屋さんがありますね。クリーニング屋さんが多いのも、暗渠の存在を示す「暗渠サイン」の一つです。
村田:なるほど、水が必要な商売ですもんね。
と、ここで落としものの写真を撮って集め続けている落ちもん収集家・よっちゃんの目が光りました。

オビキ:うわ、なんだこれ!
村田:洗濯機だ!
藤田:これはもう、落ちもんにしちゃおう!暗渠と落ちもん。
村田:暗渠の上に洗濯機っていうのがいいね。
オビキ:水ものでつながってますね。
細野:これも「暗渠サイン」だ。
藤田:かなり重たそうだよね。
村田:どうやって持ってきたんだろう。
藤田:ここで力尽きたのか。
オビキ:洗濯機が歩いてきたのかな。

オビキ:洗濯機の横に排気口がありますね。地下の空気を逃がしてるんだと思います。
村田:排気口の下に洗濯機。いいなあ。洗濯機から排気口が生えているようにも見える。
藤田:自然すぎてわからなかった。
村田:「元からいましたけど」くらいの感じだね。
暗渠歩きは、まるで冒険

細野:見て、ビル毛*もあるよ。
(*ビル毛……ビルの屋上に生えている木を、髪の毛に見立ててライターの小堺丸子さんによって名付けられた言葉)
村田:すごーい!気づかなかった!雨樋に沿って、びっしり。いいねえ。
オビキ:根っこがむき出しだ。
細野:暗渠と植物の相性もいいね。

藤田:あの藤棚、くぐりたい!
村田:くぐろう!……秘密基地感があるね。守られてる感じ。
細野:夏は涼しそう!

村田:道を渡るごとに雰囲気がかわる。あ、柑橘の実がなってる!
藤田:暗渠フルーツは誰のもの?
村田:ここを通る人のもの?
公園や緑道、空き地。道をわたるごとに次々と雰囲気が変わる、蓮根川の暗渠。「次はどんな風景が現れるのかな」とワクワクしながら歩きました。
しばらく歩いていくと、大きな新河岸川が見えました。蓮根川もここに流れ込んでいきます。新河岸川の橋から水の流れを見下ろしながら、お散歩を振り返ります。

村田:ようやくゴールです!今日は色々収穫があったね。
オビキ:川の上を歩いているんだぞっていうのが好きなんです。
細野:昔は歩けなかった場所ですもんね。
オビキ:皆さん「目がいい」というか。左右上下にいろんなものを見つけすぎて、最初の方はついていけませんでしたが、ちょっとずつ慣れてきて楽しかったです(笑)
藤田:洗濯機にまで出会えて、落ちもん的にはものすごい撮れ高!暗渠の上を歩き続けるっていうのも、めったにできない経験でした。「クリーニング屋さんが近くにある」「家の玄関が反対側を向いてる」とか、谷底の地形とか、暗渠の特徴を知れたのもよかったです。
今日歩いたことでアンテナが立ったので、今後目にしたら「ここ暗渠だって知ってる?」って、友だちに自慢しそうです(笑)
村田:いつもこの連載では嗅覚でお散歩するけど、今日は歩く道が決まっている中でいろんなものを発見できて、別の楽しさを味わえました。
藤田:今はもうないのに、昔あったものがまだ残っているような。不思議な感覚だったな。
よく、川には神様がいるっていうじゃないですか。暗渠を歩くと、地域の人に祀られて生活の源になっていた何かを感じることもできました。タイムスリップして昔の神様にまつわる壮大なストーリーも感じられたような。散歩というよりは、冒険のようでした。
村田:痕跡をたどると昔の風景が見えてくるようでした。
また、住宅地の水路や大きな川など、もともと水の流れているまちには生理的な心地よさを感じていたんだけど、暗渠にも同じような気持ちよさを感じました。何も建っていない無の空間は、いろんなものをゆるく受け入れてくれる余白というか。楽しかったです!
本日の一コマ漫画

こころに残る板橋の風景


書籍情報 『緑をみる人』(雷鳥社)

- 著者: 村田あやこ
- 発売日: 2025年10月6日
- ページ数: 384ページ
- サイズ: 17.8 x 11.2 x 2.3 cm
アスファルトのひび割れ、マンホール蓋のふち、側溝の奥底、室外機の下……。整備された都市空間の隙間で、人知れず芽吹き繁茂する植物たち。「路上園芸鑑賞家」として活動を続ける著者が、世界13カ国18人の”隙間植物愛好家”を約2年にわたって取材。日本、フランス、トルコ、メキシコ、韓国、台湾、イタリア、スウェーデン、ブラジル、シンガポール、アメリカ、オランダ、ニュージーランドの緑をみる人たち19人のストーリーと、総数800枚もの写真を通して見えてくる、日常にひそむ地球の「野生」を描いた一冊です。
告知:板橋区の暗渠にまつわる展示「いたばし暗渠マニアックス展 Vol.2 蓮根川水系編」開催!

板橋区立中央図書館で、今回の散歩で歩いた蓮根川の暗渠にまつわる展示を開催中。
暗渠マニアックス&といたばしデザイン同好会がタッグを組み、パネル展示や顔ハメ看板、ぬりえコーナー、物販など盛りだくさん。SABOTENS・村田あやこも、展示や物販で参加しています。
詳細はこちら( https://itabashi-design.com/?topic=ankyo2025 )。
開催日時:2025年11月24日(月・祝)~12月5日(金)※12月1日は休館日
9時~20時(図書館の開館時間に準拠。最終日の展示は16時まで)
会場:板橋区立中央図書館 1階図書館ホール(東京都板橋区常盤台4-3-1)

