YUKA
ゲスト
YUKA
2011年からホーリーバジルを育て始め、ホーリーバジルの美しさ、香り、効能に引き 2011年からホーリーバジルを育て始め、ホーリーバジルの美しさ、香り、効能に引き込まれる。その素晴らしさを沢山の方々に届けたいという想いから、色々な分野の作り手さんとコラボして、ホーリーバジルの商品を製造。熊本県天草でのホーリーバジル栽培を経て、2023年から地元葉山に戻り、栽培を開始。
村田 あやこ
記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
細野 由季恵
撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

今回お話を伺ったのは、神奈川県葉山町でホーリーバジルを育てるHOLY FARM HAYAMAのYUKAさん。もともと葉山で生まれ育ったYUKAさんは、東日本大震災を機に移住した熊県天草市でホーリーバジル*と出会い、ホーリーバジルの畑を始めました。その後、たくさんの偶然が重なり、故郷・葉山の地で畑を始めることに。

自然の細やかな変化を五感で感じながら、地球からいただいたものを、また地球に還す。YUKAさんが畑を通じて得たのは、自然のサイクルの中で生きるということでした。

*ホーリーバジル……別名「カミメボウキ」。熱帯地域(アジア・オーストラリア)が原産のシソ科のハーブであり、「浄化の薬草」としても知られる植物。畑に広がる芳香も特徴。

畑との出会いは、ハワイで感じた「マナ」の存在

この日の取材はYUKAさんの畑で行いました

──もともと、葉山のご出身なんですよね。

YUKAさん:はい。葉山の一色というところで育ちました。葉山は、なにもないけど海はある、みたいなところ。小さい頃から、サーフィンをしたり泳いだりと、海で遊んでいましたね。今でもサーフィンが大好きです。

18歳まで日本で過ごした後、カリフォルニアへ渡航。ロサンゼルスの大学に留学して、卒業後はハリウッドで働いて、12年ほど住んでいました。カリフォルニアでは音楽にはまってしまって、クラブで遊んだり、DJをしたりしていました。

──かっこいい! そこから、どうやって畑にたどり着いたんでしょうか。

YUKAさん:2001年に一旦帰国したんですが、社会復帰ができず、ハワイのカウアイ島に行ったんです。そこで出会ったオーガニックファーム*での教えが、私が畑を始めたきっかけです。

現地の人たちには、「マナ(Mana)」という存在を教えてもらいました。彼らにとって、マナは神様や宇宙のエネルギーのような存在。マナがあるから植物が育ち、雨が降る。太陽も波も、マナのおかげ。マナが存在している中で、人間は生きているという考えなんです。

*オーガニックファーム……農薬や化学肥料に頼らず、自然の恵を生かした畑

──畑仕事の中では、どういう時にマナの存在を感じるんでしょうか。

YUKAさん:花が咲いたり実がなったり、朝の美しい光で朝露がダイヤモンドみたいに光ったりする時に、「あ、マナだね」って。マナっていう存在を知った上で畑をすると、またおもしろくて。もともと畑には興味があったんですが、当時はどうやっていいのか分からなかったんです。ハワイでマナの存在を教えてもらったことは、畑をはじめる上で、大きな原体験ですね。

──芽吹いたり実ったりという一つひとつの出来事の背後に、マナの存在を感じているんですね。

導かれるようにはじめた、地元葉山でのホーリーバジル畑

──ホーリーバジルと出会ったきっかけは?

YUKAさん:2011年の東日本大震災時、ちょうどお腹に子どもがいて、熊本県天草市に移住したんです。安心安全な野菜を自分で作らないとと、畑で色々な作物を育て始めました。

ホーリーバジルとの出会いは、当時通っていたインドヨガの先生に、ホーリーバジル茶をいただいたことです。いただいたお茶の袋の底に、ホーリーバジルの種が入っていたので、何気なく蒔いたら、芽が出てきて。ホーリーバジルを育てた最初の体験ですね。

ホーリーバジルは、日本語に訳すと「天の草」、つまり当時私が住んでいた「天草」。そこにもご縁を感じました。

──ホーリーバジルは、どのような植物なんでしょうか。

YUKAさん:身近なものとしては、地元の海の家やタイ料理屋さんにも提供していますが、酵素シロップやガパオソースなどに使うハーブとして提供できる植物です。そして、花言葉は「神聖」ですが、インドでは神に捧げる木として、寺院などで育てられています。ホーリーバジルは、ヒンドゥー教の女神ラクシュミーの化身とも言われていて、土や木を浄化する聖なる植物として崇められているんです。

(写真提供 YUKAさん)7月頃、満開となるホーリーバジルの花

──現在は、葉山でホーリーバジルの畑をつくっていらっしゃいます。熊本から再び葉山に戻ってきたのは、どのようないきさつがあったのでしょうか。

YUKAさん:現在の葉山の畑にたどり着いたのは、偶然なんです。大分の別府でとあるイベントに行った際、会場にいたおばあちゃまに「あなたにはラクシュミー様がついている。あなたは畑を動かすわよ。細い竹藪が見えて、鳥が『ピピピ』と鳴くから、わかるはず」と言われたんです。

その後、親が年を取ってきたこともあり、生まれ育った葉山に戻ろうと思って、葉山で畑ができる場所を探すことにしました。

道中、息子が「ママ、あっちで鳥がピピピって鳴いたよ」と教えてくれて。

──おばあちゃまとの会話を思い出しますね!

YUKAさん:鳥の声に導かれるように坂道を登って、車を止めて歩いていたところ、畑仕事をしている方を見かけたので話しかけたんです。

車の熊本ナンバーを見たその方が、「あら、あなた熊本から来たの?天草って知ってる?」とおっしゃって。知っているも何も、天草から来たことを伝えたら、その方は当時私が住んでいる地域を訪れたことがあり、ご近所さんのこともご存知だったんです。イノシシしかいないような田舎だったので、驚いて。天草の話で盛り上がりました。

──偶然が重なって。

YUKAさん:「畑を探しているんだけど、どこかいい場所はあるでしょうか?」と聞いたら、「ここが私の畑だから使っていいわよ」と、今の畑を紹介してくれたんです。もともと無農薬のキャベツを育てていた方がお年で続けられなくなってしまい、偶然空いていたようです。それで畑を始めることになりました。畑の脇には竹藪もあって。まさに、別府で出会ったおばあちゃまの予言がかなったんです。

地球からいただいたものを地球に還す

(写真提供 YUKAさん)ホーリーバジルの甘く、爽やかな香りが広がるYUKAさんの畑

──葉山ではどのような畑を作っているんでしょうか?

YUKAさん:いまはホーリーバジルのみを育てています。哲学者のルドルフ・シュタイナーが広めたバイオダイナミック農法(有機・自然農法の一種で、循環型農業)に基づいて、4月の満月に種を蒔いて、5月〜6月の新月の頃に苗を地球に還します。満開になった7月の終わりに収穫。根元でカットすると、脇芽がどんどん出てくるので、また収穫します。

夏の間は、5月〜6月に植えた苗が雑草に負けないよう、とにかく雑草との戦いですね。

9月中頃になると、台風が去って秋の風になるので、干してお茶にしたりしています。冬の間は畑を休ませて、また翌年の3月〜4月ごろから次の年のホーリーバジルを育てる、そんなサイクルですね。

──YUKAさんの畑の特徴は、どのようなところにありますか?

YUKAさん:地球から何かを搾取するだけでなく、地球に還していこうという思いでやっています。すべて循環させてるから、無駄がない。

例えば、冬になると残ったホーリーバジルの苗を燃やし、出た灰を養分にすることで翌年のホーリーバジルにつながります。また、地域でいうと、葉山でスロージュースを作るeat YOGA STUDIOのオーナーmikkoさんから、野菜や果物の搾りかすであるパルプをもらい、それを自作のコンポストボックス*に混ぜる。できた栄養のある土をまた畑に使い、収穫したホーリーバジルはまたeat YOGA STUDIOに提供する。本当のサステナブルっていうのは、循環することだと思っている今、この地域で実践できていることが嬉しいですね。

*コンポストボックスとは……生ごみや落ち葉などの有機物を発酵・分解させ堆肥を作るための容器のこと

(写真提供 eat YOGA STUDIOさん)eat YOGA STUDIOさんが作るカラフルなスムージー

──ホーリーバジルを育てて、それをまた地域で循環させて。活動を通じて、ご自身の中での変化や気づきはありますか?

YUKAさん:2007年に「WAVEMENT TOUR VOL.1」というイベントを開催しました。プロサーファーやミュージシャン、アーティストが参加して、神奈川県鎌倉市から青森県六ヶ所村まで、12日間かけてイベントをしながら、六ヶ所村の核燃料再処理工場の問題を考えるというツアーです。

その時に、人間は天と地の間で、循環の中で生かされているとひしひしと感じて。動物をはじめ他の生き物は地球を汚しませんが、人間だけが地球を汚して、循環から外れてしまっています。一方で、ただ「原発反対」と言ったところで、何も変わらないし、反対からは何も生まれない。じゃあ自分で実践して提案するしかないのでは、と思ったんです。

──YUKAさんは、葉山を拠点に地域循環を広げていこうというプロジェクト「GOOD CIRCLE」にも携わっています。2024年4月から、活動のひとつである「畑クラブ」の代表を務めると伺いました。

YUKAさん:mikkoさんは、GOOD CIRCLEも主宰していて。人柄が素晴らしく、またeat YOGA STUDIOも大好きな場所なので、彼女に声をかけてもらったのなら、と引き受けることにしました。

私は、物事はなんでも「10年やり切ったら、人になにか伝えられる」と考えています。畑を始めて12年経ったし、自分自身が学んできたことで、皆さんが知りたいことがあればシェアできたらな、という気持ちもありました。

(写真提供 GOOD CIRCLE)「人と地球に優しい」取り組みで好循環を生み出し、人・物・事・環境などが繋がり広がる。それが、地域の活性化を図ることを目的としているプロジェクト

──畑クラブでは、どのような活動を行う予定ですか?

YUKAさん:私が行っているのは、満月や新月、大潮といった自然との関係性や変化に基づいた農業です。畑クラブに参加してくださった方には、人間の決めた時間や仕事のタスクなどの軸ではなく、風や雨、月といった自然のサイクルの中で生きていることを感じられるきっかけになれば嬉しいですね。

──ご自身も、自然のサイクルで生きることでなにか変化はありましたか。

YUKAさん:生きることは、食べること。「畑を作れば生活できるぞ」と、精神的に強くもなりましたね。畑では、雨が降ったり、風が吹いたり、太陽が出たり……その時々の状態に応じてやることがあります。自然の動きにも敏感になりました。

昔、DJの仕事をしていた頃は、夜型の生活だったのもあり、身体を壊したこともありました。畑仕事が中心の生活になってからは、体調がいいですね。食べるものも変わったし、必要なものが変わって暮らしがシンプルになって、無駄も減りました。

──情報に溢れて選択肢が増えている時代だからこそ、「自分にとって必要なものはこれだ」と確信を持てるものがあるのは、強いですね。来年から、どんな場がここから育っていくのか楽しみです。

「好きなことしかやっていない」というYUKAさん。畑で作業している時や、海で夕日を見ている時。1日の終りにお風呂に入っている時。全ての時間が至福だそうです。