

「私の好きを見つめる。」をコンセプトに、パフスリーブが特徴的なオリジナルワンピースを展開する「bou.design」。オーナーのbouさんは、服づくりのほかインテリアコーディネーター、ネイリスト、ネイルブランド運営など多才に活躍されています。さまざまな道を経て、迷うことや自信をもてずに過ごしてきた時間も多いというbouさんは、どのようにご自身の“好き”を見つめ、いまを選んだのでしょうか。ブランドの背景にある思いを伺いました。
人生の小休止の時間に、ずっとやりたかった「自分の手でつくる」仕事を

──今日はbouさんのアトリエにお邪魔していますが、「bou.design」のワンピース、ほんとうにすてきですね。色とりどりのテキスタイルがたくさんあって、それがかわいらしいパフスリーブのワンピースになって。4月にentrie times ebisuで開催されたポップアップイベントも好評でしたね。
bouさん:Instagramでブランドを展開しているので、実際にお客さまにお会いしてお話しできたのはわたしにとっても貴重な時間でした。ファンになってくださったみなさんのためにも、もっとワクワクできる、心に響くようなアイテムをつくっていきたいなと改めて思いましたね。
──bouさんは以前、エントリエの母体であるリフォーム専門店・ホームテックの社員でした。その縁で今も、「bou.design」を展開するかたわら、エントリエのインテリアコーディネートのお仕事も手がけています。そしてネイリストでもいらっしゃるんですよね。
bouさん:今は「bou.design」がメインですが、インテリアコーディネート、ネイリストもしています。他にも、ネイルブランドの立ち上げにも携わってきました。

──そのうえ3歳半ともうすぐ2歳になるお子さんの母親でもいらして。「好きな仕事」を軸に多才な活躍をされているbouさんですが、ここに至るまでのお話、聞かせていただけますか。
bouさん:ホームテックでは設計に携わっていました。そのあとテキスタイルブランドの会社に転職したのですが、そこで一度、心身ともに疲れてしまって一度お休みしたんですね。仕事に結婚、さらには母の病気が発覚するなど、いろいろと重なってしまったんです。
1〜2か月休んだらだいぶ元気になってきて。それで、何か新しいことを始めてみたいなと思うようになりました。もともと手芸が趣味だったりして、手仕事が好きだったんです。人生の小休止となったこの時間に、自分で手を動かして何かをつくる仕事をやってみようと。それで求職支援制度を活用して、ネイルスクールに通い始めたんです。
正直なところ、自分がそれまでやってきたこととは全然違いますし、ちょっと習いごと感覚であったのですが、思えばこれが大きな転機だったなと思います。
──どのような変化があったのでしょうか。
bouさん:ずっと企業で正社員として勤めてきて、転職するにも正社員だろうという考え方が当たり前で。ほかの選択肢なんて、みじんも考えたことがなかったんですよね。大好きな毛糸屋さんがアルバイトで従業員を募集しているのを見かけて、ここでめっちゃ働きたい!と思いはするものの、現実的な選択肢としては考えられなくて。
でも一度お休みというかたちで立ち止まって、ネイルの勉強を始めてみて、自分の中にあった「当たり前」が自然とはずれたんです。いろんなことをやってみよう、と思うようになりました。建築の仕事に戻るかネイルの道に進むか迷ったのですが、せっかくだから違う道にいってみようと、ネイルサロンに就職しました。

──まったくの新しいお仕事で、習得も簡単なことではなかったと思います。
bouさん:そうですね。オーナーのネイリストは第一線で活躍されていて、とても尊敬できる方で。私など見習いのようなものですから、営業時間以外に朝晩、休日も練習して、家にいる時間もほとんどない、という生活でした。
そんな中、病気の母や家庭のことと仕事を両立していくことに悩んでもいたのですが、オーナーが親身に相談に乗ってくださったんです。「bouちゃんにとっては今が人生の転機だと思う、何を選ぶのかしっかり考えたほうがいいよ。そのためにはサロンを辞めて独立することも含めて考えてみたら?」と。
──そんな風に言ってくれるオーナーって、なかなかいらっしゃらないですよね。
bouさん:仕事のことだけでなく私の人生のことも気遣って支えてくださって。独立を決心したあとは、辞めるまでの1か月間、自分でやっていくための技術をみっちり教えていただきました。
子どものためにも「強くなりたい」。だからこそ、自分の軸を決める
──独立してからはエントリエ(恵比寿)でもネイルのサービスを提供してくださっていましたよね。
bouさん:はい。エントリエのエイミー(鈴木栄弥)さんから声をかけてもらい、半年間、entrie times ebisuをお借りしてやらせてもらっていました。ゼネラルマネージャーの北島さんにもよくしていただいて、建築のほうでも一緒にやろうよと声をかけてもらって、エントリエの業務のサポートにも携わるようになったんですよ。

──それはもう、心強いサポートだったと思います!
bouさん:その間、ネイルサロン時代のオーナーさんに声をかけてもらってネイルブランド運営も一緒にやっていました。こんな風に、人のつながりに恵まれていくつかの仕事を並行してやっていたのですが、その中で2つの思いが生まれてきたんです。
ひとつは「私ってなんだろう、私の“好き”ってなんだろう」という思い。ものづくりが好きで、自分らしく表現する場がほしいとずっと思いながら、クリエイターとしては突き抜けられないコンプレックスがずっとあったんですね。すてきな方々とつながりをもって、仕事は好きでやっている。でも私自身がしっかり立って何かを表現することは得意ではなかったし、忙しさもあってやりたいけれどできない、という中途半端な状態でした。
もうひとつの思いは、子どものことがきっかけでした。子どもは2人とも、生まれてすぐ手術をしないといけない病気が見つかり、下の子は左の目が見えないんです。
それまでは自分がどうしていきたいんだろうと考える時間が長かったのですが、子どもが生まれて自分のことだけじゃない、子どもに向き合ったときに何をしてあげられるんだろうと、新しい感情が生まれてきました。
この子たちが大きくなったときに……、ちょっと、この話をすると泣いちゃうんですけど。

──……。
bouさん:子どもたちが成長して、多感な時期にさしかかったとき、わたしは「だいじょうぶだよ」って落ち着いて受け止めてあげられるような、強い母になれるのかなって。
上の子は生後2日で大きな手術をしたのですが、そのときには夫が心を強くもって、わたしをサポートしてくれたんです。そんな夫が、下の子の左目が見えないとわかったとき、落ち込んでいる姿を見て。わたしも強くならなきゃいけないなっていう気持ちに、すごくさせられたんです。
ずっと、どこかコンプレックスを抱きながらものづくりやデザインに関わってきたわたしですが、それを克服して、強くなりたいと思いました。誰かをサポートして力を発揮する仕事ももちろんやりがいはありますが、でもやっぱり人生に伴走するブランドを自分自身でつくりだして、それを軸にしていきたいと考えるようになったんです。
──「bou.design」のコンセプトは「私の好きを見つめる。」。背景にはそんな思いがあったんですね。大事なことをお話してくださってありがとうございます。
さまざまな人生を生きる女性たちへの応援を、ワンピースに込めて

──ほかのお仕事や子育てで多忙を極めるなか、ご自身でブランドを立ち上げるのは大変なことだったと思います。思いの強さがbouさんを支えてきたんですね。
bouさん:そうですね。2024年の8月ブランドを本格始動し、12月に初の販売イベントを開催したんです。4つやっている仕事は、お引き受けしているからには途中で辞めるわけにはいかないですから並行していました。それはそれはしんどかったですが、「bou.design」に改めて軸足をおいてやっていこうと覚悟が決まったのは、12月の挑戦もひとつの契機になりましたね。
もともと自分が前に出ていくのはほんとうに苦手で、自分自身が注目される存在になることには躊躇もあったのですが、それをやらないから自信もつかないんじゃないかなと。ブランドをやるからには、顔出ししたくない、インスタライブやりたくない、みたいな「やりたくない」はいったん排除することにしました。やれることをやって、それからもう一度「やりたいこと、やりたくないこと」を決めればいいかなと。
——真摯な努力を続ける中、苦手意識が変わった、これは突き抜けたという瞬間はあったのでしょうか。
bouさん:うーん、全然突き抜けた感覚はないんですけどね。でも、自分の知り合いではない方がお客さまになってくださって、服が初めて売れた瞬間、初めて「ファンです」と言っていただいた瞬間には、すごく感情を動かされました。
「私の好きを見つめる。」と軸を決めて、自分の好きを見つめて、これだと納得できるかたちにして送り出して、誰かに届いて、その誰かの思いがわたしに届く。その繰り返しで、ブランドもわたしもより強くなっていけるんじゃないかなと思います。

──bouさんが突きつめた「好き」が誰かの「好き」になっていく、かけがえのない瞬間ですね。
bouさん:ネイリストの仕事はいまでも続けているのですが、だいたい2時間くらい、施術しながらお客さまといろいろなお話をするんですよね。うかがっていて思うのは、とくに女性の人生は、こんなにもさまざまなんだなと。自分自身のこともあるし、子どもや家族のことなど自分の問題だけじゃないことも増えていく。わたしはお話を聞くことしかできないけれど、彼女たちを応援したいという気持ちが生まれます。
ネイルやお洋服で現実的な役に立てるわけではないんですけどね。「bou.design」のワンピースには、そんな女性達を応援したいという気持ちを込めているし、少しでも思いを伝えることができたらいいなと考えながらつくっています。
——イベントのお客さまの笑顔を思い出すと、bouさんのその気持ち、きっと伝わっていると感じます。「bou.design」立ち上げから1年あまり経ちました。ブランド、そしてbouさんご自身のこれからは、どんな風に進んでいきたいと考えてらっしゃいますか。
bouさん:ブランドとしては1年ということで、まだまだこれからがんばっていかないとですね。ほかの3つの仕事も続けてはいて。そうそう、軸を「bou.design」におくと決めてから、ほかの仕事へのスタンスもちょっと変わってきたように思います。
ネイリストとしては、お世話になったオーナーのような圧倒的にすごい方がすぐそばにいて、インテリアコーディネートのお仕事はサポート的な業務です。好きでやっている仕事ではあっても、「わたしの仕事はこれです」と胸を張れる感覚は持てなかったんですよね。
でも、「bou.design」という軸を一度決めてしまうと、ふしぎとほかの仕事に対してフラットに取り組めるようになったんですよね。インテリアコーディネートに関しては、今後もこ゚縁とタイミングが合えば携わらせていただくかもしれません!持っているスキルは、自分のお店や世界観作りに活かせていけたらと。
——いまはいろいろな生きかた、働きかたの選択肢がある分、何をしていったらいいのか迷ってしまう方も多いと思います。その中でも自分の軸を決めるのは、簡単ではありませんが大切なことですね。
bouさん:決して「自分のブランドを立ち上げたからすごい」「◯◯をやっているからすごい」ということではないと思うんですよね。年齢を重ねたり家族が変わったりと、人生の中で環境は変わっていくものですし、それぞれのフェーズでその人なりの軸があれば、少し生きやすくなるんじゃないかなと。
夫はほんとうに「隣の芝生が青く見えない」人なんです。コンプレックスを感じやすいわたしからすると羨ましい性格(笑)。そんな夫がそばにいて、他人と比べず幸せに生きるというのが理想だなとわたしも思うようになりました。
わたしにとって幸せなのは、やっぱりものづくりをしている時間。自分がかわいいな、すてきだなと思うものを考えて、つくっている瞬間が一番幸せです。定年も関係なく、ずっとものづくりをしていたいなと思っていますね。

エントリエのスタッフへの思い
インタビュー後、今もエントリエに携わってくださっているbouさんからエントリエの紹介をいただきました。
bouさん:エントリエのみなさんには、いつも応援していただいているように感じます。なぜだか、本当に素敵な方ばかりが集まっているんですよね。仲間の建築士を、少しだけご紹介させてください。
セブンこと、二見 奈々絵は、実は大学の友人です。私がエントリエに紹介しました!ちょっと自慢です(笑)。
「人の良さは保証します!」とまで言って入社してもらったほど。
センスが抜群で、セブンのつくる空間が私は大好きなんです。今でも毎月ネイルをしてもらったり、洋服の撮影を手伝ってもらったり。ものづくりを一緒に楽しんでくれる、貴重な仲間です。
エイミーこと、鈴木栄弥はわたしが尊敬する人のひとり。エントリエ立ち上げ当初から、設計業務と並行して世界観づくりや運営を担っていました。私は当時関わっていなかったのですが、大変だっただろうなあと想像します。
ほんわかとした空気感の中でも、お客さまの要望を決して外さない。あの雰囲気に惹かれてファンになるお客さまが多いのも納得です。「ネイルをやりませんか?」「お洋服のポップアップをやりませんか?」といったきっかけを手渡してくれるのも、いつもエイミーちゃんでした。
そして、北島 一広さん。とにかく気が合う!と生意気ながら思っています(笑)。「仕事が楽しい!」「デザインが楽しい!」という感覚を体験させてくださった、元上司です。飲みながら延々と仕事の話をしていた頃が懐かしい……。今でもピカイチの設計力と人柄を、心から尊敬しています。


子どもたちと3人で「せーの、だいすき!!」ってぎゅっとハグする、という遊びがあるんですよ。3人で息が合ってうまいことできると、「これが幸せというものなんじゃないかな」としみじみ噛みしめることができる、最高の遊びです。