馬渕 かなみ
ゲスト
馬渕 かなみ
(仮称)コーミンカン!館長
大学で建築を学び、個人の暮らしをひらく「住み開き」や、私的空間を地域に開く場づく りを研究。学生時代には古い一軒家で住み開きを実践する。2022年、北千住の築80年の古民家と出会い、「(仮称)コーミンカン!」を始動。役割から少し解放されたフラットな関係性のなかで、人の「やりたい」が自然発生的に立ち上がる場を育てている。本業では相続不動産を扱い、土地や建物に宿る文脈を次世代へつなぐ選択肢を模索している。
村田 あやこ
記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
細野 由季恵
編集・撮影した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

北千住の路地を入ると現れる、白くて古い一軒家。大きなビワの木をくぐって扉を開けると、思わず「ただいま」と言いたくなるような、温かみのある空間が広がります。
ここは「(仮称)コーミンカン!」(以下、コーミンカン!)。2022年、築80年の古民家を舞台に始動したオルタナティブスペースです。
今回お話を聞かせていただいた馬渕かなみさん(通称:ウマさん)は、大学の後輩・大橋 麻紀さんと共にこの場所を運営しています。場のコンセプトをあえて固定せず、人と人が緩やかに交わる場を育てています。
「決めないことを決める」場づくりから見えてきたことを、ウマさんに伺いました。

一目惚れで出会った、築80年のかわいい古民家

既存の梁を生かした、セルフリノベーションの痕跡が残る空間。(画像提供:ウマさん)

──この建物は、以前はどういう場所だったんですか?

ウマさん:もともとは、おばあさんが一人で住んでいた一軒家でした。その後、現オーナーさんに、土地と建物が遺贈されました。東京藝術大学の千住キャンパスから近いので、藝大や美大系の学生さんたちがセルフリノベーションして、ギャラリーとして使っていた時期もあったそうです。

その後、一時期は子ども食堂としても利用されていましたが、コロナのタイミングで続けられなくなり閉鎖し、しばらく空き家になっていました。そこに偶然たどり着いたんです。

──ウマさんは、この場所とどうやって出会ったんですか。

ウマさん:一目惚れでした。すぐ近くに住んでいていつも通っている道なのに、この家の存在に気づいていなくて。

私は昔から古い建物が好きで、その当時は改装できる物件を扱う不動産会社で働いていました。
ある日、夜にたまたま明かりがついていたことで建物に気づきました。見た瞬間、「めちゃくちゃかわいい家がある。なんだここは!」って。窓から覗いたら、中で作業をしていたオーナーさんと目が合って(笑)。そこからすべてが始まりました。

この場所との出会いを語る、ウマさん。

──運命的な出会いだったんですね。

ウマさん:オーナーさんに中を見せていただくと、ちょうど建物を貸しに出そうとしているということをおっしゃってました。お話するうちに、私自身がここで何かやりたくなってしまって。「貸しに出すのを待っていただけませんか」とオーナーさんにお願いしたのが、コーミンカン!が始まるきっかけです。

私的な空間を少しだけ開く

江戸時代から続く千住の伝統「地口絵」から生まれた地口あんどん。2024年夏にコーミンカン!で開催された「地口あんどん夏祭り」では、千住各地から100点以上が集結。本あんどんは主催団体・千住いえまちが制作したものです。

──もともと場づくりには興味があったんですか?

ウマさん:はい。大学では建築を学び、個人が暮らしの延長線上として住宅の一部を開放する「住み開き」や、個人が所有している場を地域に開く活動の研究をしていました。

卒業後は学生時代の同級生と古い一軒家を借りて、実際に「住み開き」しながら住んでいた時期もあります。一階はかつて店舗だったオープンな空間で、リビングとして使いながら、時々友だちを集めてパーティーしたり、公演で東京に来るアーティストに一ヶ月滞在してもらったりしていました。

──建築のなかでも、人のつながりも含めてつくっていくことに興味があったんですね。

ウマさん:設計の授業では「広場をつくれば人が滞留する」「カフェをつくれば活動が生まれる」みたいなことを当たり前の前提として提案しがちなのですが、「それって本当なのかな?」というのは、ずっと疑問で。

──設計と実態が一致しない、という感覚があったんですね。

ウマさん:例えば公民館や商店街のようなパブリックな場所でも、うまく機能するところとそうでないところがある。場所だけではなく、関わる人の意思があって初めて面白さが生まれる、と思っていました。

私的な空間を少し開く「住み開き」の実践で、地域のコミュニティが豊かになることも実体験として感じていたので、いつか北千住でもできたらいいなと思い描いていたんです。

──そしたら、偶然このおうちに出会えた。

ウマさん:当時はちょうど子どもが1歳で、コロナ禍でなかなか外出や人と会うのもはばかられる空気感。ちょうど直前まで育休をとってたこともあり、ずっと家にいました。昔から出歩くのが好きなタイプだったので、言い方は悪いですが、家に縛り付けられているような感覚だったんです。

みんなで自由に遊べる場所があったらいいな、というのも、コーミンカン!を始める大きなきっかけになりました。

──ご自身にとっても、開かれた場所が必要だったんですね。

ウマさん:はい。多分それが一番大きかったと思います。

役割から解放された、フラットな関係性

コーミンカン!は、公民館のように何か特定の活動を提供する場所というよりも、人が役割から少し離れ、フラットな関係性の中で時間を共にできる場です。何気ない会話から、思いがけずイベントが生まれることもあるのだとか。

建築士・竹之下賞子さんがデザイン。コーミンカン!に通い、想いに触れたうえで制作されました。建設工事と古民家をモチーフに、不確定さや移ろいを内包し、見る人によって印象が変わるロゴです。(2024年制作)

──今は主にどんな活動をされているんですか?

ウマさん:「あさごはん会」は、初期の頃からずっと続けています。そこで話しているうちに、「じゃあ何かやろうか」と自然発生的にイベントが生まれていくことが多いです。

──食の場が中核にあるんですね。

ウマさん:北欧の福祉の文脈が発祥となった「コモンミール*」という仕組みを知ったことが大きいです。多世代が一つの建物の中で生活を共にしながら、時々当番制で食事をつくってリビングで一緒に食べる。食べたい人は食べるし、部屋にいたい人は部屋にいていい。

それぞれの暮らしを大事にしながら、ときどき時間を共有することで、世代を超えた関係性がゆるやかに紡がれていく。そんなことを、ここでもやれたらと思いました。

*コモンミールとは…複数の人が日常的に食事を共にする仕組みや実践のこと。特定の固有名詞というよりも、北欧などで見られる共同生活やコレクティブハウスの文化の中で使われる概念。

コーミンカン!あさごはん会の様子(撮影:伊澤写真館/画像提供:ウマさん)

──続けていく中で、最初は想像していなかったできごとはありましたか?

ウマさん:たくさんあります。例えば朝ご飯を食べて、少しお茶をしていると、「実はこれが好きで」とぽろっと話が出てくることがあるんです。

初めて会った人同士の間の自然なおしゃべりから始まった企画も、結構あります。

──「私はこれが好き」って、心理的な安全性がないと、なかなか外に出せないですよね。職場や親戚づきあいとは違う、「経理担当」「母親」「孫」みたいな役割から解放された関係性だからこそ、フラットに、一人の人間同士として付き合えるのかもしれないですね。

ウマさん:人間って、結構役割や関係性に引っ張られちゃいますよね。でもここでは利害関係がなくて、その人がその人としていられる。

どんな人でも、人にはわざわざ言わないけれどちょっと得意なことってあると思うんです。そういうものを自然に解放して、花開く瞬間に立ち会えたら嬉しいですね。

決めすぎないことで、みんなの場所になる

──名前にあえて「仮称」を残しているのは、どんな理由からですか?

ウマさん:決めすぎちゃうと、そこから漏れちゃうことがあると思うんです。「こういうコンセプトの場所です」と言ってしまうと、そのコンセプトに合う人だけが来る場所になる。そうじゃなくて、もっと余白があったほうがいいなって。北千住に住んでいなくてもいい。誰でも来ていい。

ただ「何をやってもいいのか」と言われるとそうではなくて、決めないことの難しさを感じることもあります。

──「決めない」ことで広がる面白さと、逆に難しさ。両方あると思いますが、特に意識していることはありますか?

ウマさん:常連さんのような固定メンバーではなく、フラットな状態を保っていきたいですね。例えばあさごはん会も、“お客さん”や“もてなす側”という関係にはせず、ご飯をつくるところからみんなに参加していただいています。

いつも来てくださる方もたくさんいるんですが、そういう方々には運営にも入っていただいたり、役割がどんどん変わっていく状態をつくれたらいいなと思っています。

私も、一緒に運営している大橋さんも、私たちがいろんなことを決めるのではなく、周りに助けてもらいながらプロジェクトを動かしています。「何もできない」を売りにしてるくらい決められないから、というのもありますけど。

コーミンカン!運営のウマさんと大橋さん(画像提供:ウマさん)

──きっとお二人の人柄があって、「みんなの場所」という空気がつくられていくのでしょうね。

ウマさん:そうだと嬉しいです。1〜2年前に「振り返り会」をしたとき、みんなに説教されたことがあって(笑)。

「決めない、決めないって言うけど、何をしたらいいかわからない。どうするの?」って。

──それは(笑)。でも、すごく健全な場ですね。

ウマさん:そうなんです。全く険悪な雰囲気じゃなくて、すごく楽しい場でした。

最終的には周りの人たちが「いや、でもこれが二人のやり方だからさ」って、半ば諦めでしたが(笑)、決めないという私たちの意思を感じ取ってくれた機会でした。

この場所がどういう場所なのか、他の人が説明してくれる場面もあります。それがすごくいいなと思っています。

──皆さんがそれぞれの「コーミンカン!」像をつくって、自分ごととして場に関与しているんですね。

ウマさん:私が「こういう場所にしたい」と説明しすぎると、聞いた人は「ここはそういう場所なんだ」と思ってしまう。そうすると、その人が本来抱いていた「この場所の可能性」を閉ざしてしまう気がするんです。

私だけではない、いろんな人が持つ世界観のレイヤーが重なることで、いい意味での「公民館」のような場所にしていきたいですね。

最終的には私が離れても、自然発生的に何かが生まれて、それを脇から「ああ、楽しそうだね」と見守っている状態が理想です。

まちのリビングのような場所に

──この場所を始める前は、子育てとコロナ禍が重なり閉塞感を覚えていらっしゃったとおっしゃっていました。運営を通して、ご自身の内面が開かれていくような感覚はありましたか?

ウマさん:そうですね。だいぶ変わったと思います。ここに来て人と話すことでいろいろな考えに触れて、視野や価値観が広がりました。社会とつながっている感覚をより感じますね。

子どもも、家族以外の大人と接するいい機会になっていると思います。

──これからコーミンカン!をどんな場に育てていきたいですか?

ウマさん:みんながやりたいことを勝手に始められる場になれたらいいですね。最近思い描いているのは、まちのリビングのように過ごせる場所。

例えば料理好きの人たちが、持ち回りで得意料理をつくって、「ただいま!」って集まってきた人と一緒にご飯を食べながらダラダラおしゃべりをする。その脇で子どもや学生たちが宿題をしたり、共通の趣味の人たちが集って各々が好きなことをしていたりする。そういう豊かな共有の場が、自然発生的に生まれたらいいなあって。

──植物が少しずつ育っていくように、これからの変化が楽しみです。本業は不動産会社にお勤めと伺いました。ここでの活動が本業に生かされる場面はありますか?

ウマさん:本業では相続を扱っています。不動産が大きく動くのが、相続のタイミング。その際に、過去の文脈を無視してデベロッパーに売るだけではなく、別の選択肢も提案できるようになりたいと思っています。

この家は、もともと住んでいたおばあさんの遺志が引き継がれてきた場所なんです。オーナーさんも「地域に還元する使い方をしてほしい」とずっとおっしゃっていて。私も、その思いを受け継いでいきたいと思っています。

だからこそ、ここが誰かの「始めたい」を後押しできる場所になったら嬉しいですね。

──北千住という地域との接点については、どのように考えていらっしゃいますか。

ウマさん:北千住は宿場町で、昔から旅人が多く集まり、新参者や変化に寛容な土壌があると思います。

このまちって、小さな人の営みが積み重なってできてきたまちだなと感じるんです。歴史的にもそうだし、歩いていてもそう。だから、そういう営みの積み重ねを、今後も引き継いでいきたい。

ここでみんながやりたいことを少しずつ始めて、それが街に滲み出していくような感じになったら嬉しいですね。

ビールを飲むのが大好きというウマさん。北千住にあるお気に入りの町中華で、休みの日に餃子とラーメンを肴に飲むのが、至福のひとときだそうです。

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