「落ちもん」から見えてくるまちの人びとの物語
第12回目のゲストは、まちの路上に落ちている「落ちもん」を撮り集める、グラフィックデザイナーの藤田 泰実さん(前編)です。
撮り集めるだけじゃない!
藤田さんの“落ちもん”コレクション
「落ちもん写真収集家」として活躍されていますね。
藤田さん:普段は、グラフィックデザインやイラストを描く仕事をしていて、「落ちもん写真収集」は自分にとって趣味というか、ライフワークの位置付けです。
落とし物をただ写真に撮っているだけじゃなくて、道に落ちているものをポケモンのように撮り集めているので、「落ちてるもん」をギュって収縮して「落ちもん」って呼んでいます。なので、私はまちに落ちているものを集めている落ちもんハンターなんです(笑)。
最初に撮った落ちもんが、こちらの醤油6パック。1パックでいいのに、6パックとった誰かが結局全部落としちゃって。欲の裏返しというか。日本昔話のなかのおじいさんが欲を出して最後全部失うみたいな、そういう欲が見えておもしろいなと思ったのが最初でした。
ひとつ撮るとアンテナが立って、そこから収集癖もあいまってどんどん撮りためていくようになりました。
しかも、ただ撮り集めているだけじゃないですよね?
藤田さん:撮った写真にタイトルをつけて、これはこういうことじゃないかって妄想に走るんですよ。タイトルをつけることによってネガティブなものが急にポジティブなものに見え方が変わったりする。
「汚い」っていう最初の見方で決めつけてしまうんじゃなくて、その裏側や斜め後ろ側から見てみると、道端に落ちてるゴミすらおもしろい。普段はキメキメな人でもポロッと、本性というか……そういう「何か」が出ちゃうのがおもしろくて。落ちもんの裏側やその先に、人間味あふれる感情の残り香というか、余韻みたいなものが感じ取れるんです。
他にも……見せてもいいですか?
見たいです!
「落ちもん」は絶対にさわらない
藤田さん:弱いものとか注目されないものとか、あまり光を浴びてないものにあえて注目して、そこをいかに輝かせて、見る人にぎゃふんと言わせるかというところに力を注ぐのが好きで。
これは、口の中から出てしまったアメちゃんです。トリミングで天の川みたいに見える。
草が生えてるように、軍手も生えてるみたいと思って。「軍手開花」というタイトルをつけました。
これもたまたま、黄色い線の上にプーマが載っているだけなんですけど、地平線を走るプーマみたいな勝手な妄想を広げてとか。
(笑)。何でもないようなものが目に入るのがすごいですよね! 気に留めずに通り過ぎてしまったり、逆に汚いと思って避けてしまうものに近づいていって撮ってる。しかも、「落としもの」と「ゴミ」の境ってほとんどないじゃないですか。
藤田さん:ゴミを撮ってる感覚がなかったので、「ゴミ撮られてる方ですよね」って言われたときに、めちゃめちゃショックでした! 確かにゴミなんですよ!
正解なんですけど、ゴミを撮ってる感覚じゃなかったから。言われてはじめてゴミになったっていうか。楽しい媒体にしか見えてなかったんですよね(笑)。
……これは、なんですか?
藤田さん:ヌーブラです。やばいですよね(笑)。これを見たときに片方だけ落ちたヌーブラの怨念みたいなものを感じて。しかもトップがいちばん薄汚れてて。これを着けた人の乳首が黒くなるくらいの呪いがかかるんじゃないかと。
それで、「黒乳首の怨念」ってタイトルをつけました。落ちもん自体に憑依している気持ちを言葉にのっけてみました。落とした人の焦りを想像してみると、本人にとっては大変だし一生懸命なんだけど、ちょっとおもしろいというか。
これもただのきれいな花なんですけど、近くにタバコや石があることによって、男の人が女の人を待っていたけど結局来なくて捨てちゃったのかなって……。
妄想力がすごいですよね!
藤田さん:人それぞれ、一人ひとりが主人公だと思っていて。主人公にはいろんなドラマがあると思うんですよ。落ちもんを通してそこに触れられるというか。
その人自身には会っていないんだけど、人生を感じられるというところがおもしろくて。みんな一生懸命なんだなと。
これは盆栽のおもちゃみたいなものが落ちていたのを撮りました。最終電車で埼京線の階段をかけあがってたら落ちていました。
なんで?というくらい絶妙な場所にありますね。
藤田さん:「落ちもん」は絶対にさわらないっていうのが私のルールにあって。例えばここにゴミがあってもそれを含めてその状況を切り取るみたいな感じで撮っているので、かっこつけたりはしないし、持って帰ったりもしない。ですけど、うまい具合に階段の一部が黒くて。なんかかっこよく撮れたかな、みたいな。
反対向きに折り曲げられてるパソコンとかって、人間と物とのいちばん最悪な別れ方なんじゃないかなと思ってて。妄想ですけど、こういうことをする男の人怖いですよね。こういう人と付き合いたくないっていうか、本性が出ている!
これは人形なんですけど、まだ「人形の役割」を捨ててないというか、サービス精神は忘れてない。顔が挟まろうが何しようが。
これはリンゴがただ電車の車内に落ちているだけなんですけど、落ちている場所によって急に変わるんですよね。これが転がってきたらイヤじゃないですか。
たしかにイヤです……(笑)
藤田さん:車両中の人たちの意識がリンゴに集中しているんですよ。全員が「こっちくるな!」みたいな。たかが落ちているリンゴなんですけど、その注目度合いがすごくて、ビートルズのリンゴ・スターにかけてタイトルを『リンゴ・スター』にしたんです。落ちている状況とか、環境とか、時間とかによって注目のされ方とか、人の感じ方がまったく違ってくる。
落ちもんを通して日本の四季も垣間見られるんですよ。春はマスクとか新入生の持ちものとか。夏は安物のサンダルとか、夏バテのせいか太田胃散とか落ちてる。
ハロウィンの翌日の落ちもんもありました。イベントのときは「いえーい!」っていうくせに、朝になったらまじめに戻ってるみたいな、日本人ならではの感じがおもしろかったです。
冬はパブロンがすごく落ちています。春と冬にマスクの落ち率があがる。これを、グラフにまとめるとこのような結果になりました。
……(笑)
言葉やタイトルで
偶然の出会いに物語を吹き込む
ところで、この食パンはどういうことですか?
藤田さん:あっ、これはですね……食パンが落ちてて。そしたら10m先にも落ちてたんです。最後30mくらい先に落ちてて。最後、踏まれたんですかね? 4トントラックとかに。ぺちゃんこになってる。
本当だ(笑)。まちにある落ちもんを見ようと意識するだけで、まちやまちにいる人々の捉え方が大きく変わりそうですね。ちなみに写真を撮るときは何で撮ってるんですか?
藤田さん:生活の一部にある「落ちもん」を大切にしているから、基本iPhoneで撮ることが多いです。「撮るぞ!」と決めて散歩に行くときはデジタルの一眼レフカメラで撮影することもあります。でも、一眼レフカメラを持っているからって落ちもんに出会えるわけじゃないし、心に響いてない「落ちもん」も、せっかくだからって、もったいなくて撮っちゃったりするんです。あとで見て「なんで撮ったんだっけ」って思うときもある。
でもiPhoneは本当に心に引っかかった「落ちもん」だけを撮るから、iPhoneで撮っていることが多いですね。落ちているもの全部を撮っているわけじゃなくて、心に何か引っかかったものを撮る。そして、あとで大喜利のようにタイトルをつけて妄想するんです。
撮ったあとから妄想しているんですね!
藤田さん:撮りっぱなしにしちゃうと、見返したときに自分がこれのどこに引っかかったのか、うやむやに終わっちゃう気がして。でも言葉をのっけると空気感が出るというか、味が出るというか。変わるんですよね。言葉にするとか、タイトルをつけるとか大事だなって思っていて。客観的にもなれるし。だからその作業をするようにしているんです。
すごいおもしろいです。「落ちもん」ってそんなに落ちているのかなと思ったんですけど、自分が見えていないだけなのかも。
今度は、藤田さんの生活についてうかがいたいです!
次回、鈴木 栄弥が訪ねる『まちのエントリアンたち』Amy’s talk ♯12 藤田 泰実さん(後編)に続きます!
*イベント情報
現在、新宿の東急ハンズで行われている「マニアフェスタ」にSABOTENS(サボテンズ)として、藤田さんが出店中!
なにかのマニアや研究者、専門店がぞろりと集まるイベントです!
是非、足を運んでみてください♪
『マニアフェスタ×東急ハンズ』
場 所:東急ハンズ 新宿店
開催日:〜24日(水)まで
※最終日の24日(水)は19:00まで 開催場所:2F イベントスペース
URL:東急ハンズ公式HPへ
●ライター / 宇治田エリ
東京都在住のフリーライター&エディター。趣味はキックボクシングと旅行。ここ数年の夢は、海外でキャンプすることと多拠点生活。毎朝ヨーグルトに蜜柑はちみつをかけて食べることが幸せ。
●校正 / 大西寿男
デジタル時代直前の1980年代おわりから、主に文芸書・一般書の第一線で校正を担当。編集・DTP・手製本も手がける一人出版社「ぼっと舎」主宰。言葉の寺子屋「かえるの学校」のほか、校正セミナーやトークイベントで“校正のこころと技”を伝え続けている。
著書:『校正のこころ』(創元社)、『校正のレッスン』(出版メディアパル)、『セルフパブリッシングのための校正術』(日本独立作家同盟)など
ぼっと舎 http://www.bot-sha.com
かえるの学校 https://school-of-frog.jimdo.com
●取材・編集 細野由季恵