村田 あやこ
お散歩する人/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
藤田 泰実
お散歩する人/イラストを描いた人
藤田 泰実 / Fujita Yoshimi
落ちもん写真収集家
グラフィックデザイナー/イラストレーター/落ちもん写真収集家。茨城生まれ、埼玉育 育ち。多摩美術大学造形表現学部卒。フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍しながら、路上に落ちているものから人間の背景や余韻、人間味を感じ取り、そこから妄想してタイトルをつけストーリーを作り出す「落ちもん写真収集家」として活動。落とし物は人間ドラマという発想が注目され、テレビやラジオなどにも出演。
細野 由季恵
見守り人/撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

#06 蔵前編

約3ヶ月ぶりとなった、まちのミカタ6回目。今回は、エイミー編集長の気になるまち・蔵前を訪れました。とりとめもない話をしながらブラブラとお散歩する楽しさを噛み締めたSABOTENS。ユニークな専門店が軒を連ねる蔵前は、職人魂のまち。またもや買い物魂に火がついてしまいました。

3ヶ月ぶりに集結! なんてことないお散歩ができる嬉しさを噛みしめる

コロナ禍での外出自粛要請を受け、しばらくお休みしていたこの「まちのミカタ」。毎日じめじめと雨が続く梅雨の中で奇跡的に晴れたこの日、3ヶ月ぶりに集結しました。蔵前駅からスタートです。

細野:散歩久しぶりだ〜! 久々に人に会うと緊張する。

村田:3月の亀有以来のお散歩だね。私もうまく口がまわらないかも……。

藤田:この間、大学でオンライン授業をやったんだけど、スライドとコメントのタイミングがずれて、はちゃめちゃにすべっちゃった(笑)。オンラインって難しいよね。

気になる路地を、とりとめもない話をしながら気の向くままに歩く。以前は当たり前だったこんな時間を過ごすのは、みんな久しぶりです。

村田:どっちに行こう?

藤田:いつもどおり、とりあえず細い道を進んでみようか。

村田:おもちゃ屋さんに糸屋さんに。専門店が多くて職人街って感じがするね。

細野:蔵前は「東京のブルックリン」って呼ばれてるらしいね。

藤田村田:へ〜!

藤田:今の所、まだブルックリン感はないね。……って、ブルックリンのこと、大してわかってないけど(笑)。

村田:ブルックリンってどこ? ニューヨークだっけ? ……場所すらあやふや(笑)。

藤田:「空調ビル」だって。

村田:動きのある文字がかわいいね。

藤田:南風が吹いてる感じがするな。

細野:蔵前には、なにかある気がするね。

藤田:なにもなくても楽しいね。あ、かわいいコーヒー屋さんもある。これが「ブルックリン」かな。……って、なんか田舎もんみたい。「これがブルックリンだっぺ」って(笑)。

細野:ブルックリンらしさにあまり惹かれないSABOTENS(笑)。

後日、調べてみたところ、近くに川、職人の集まる「メイカーズ」のまちである点、また昔ながらの古い倉庫をリノベーションしたおしゃれな建物がある点などが、ニューヨーク・ブルックリンの雰囲気に似ていることから、蔵前は「東京のブルックリン」という呼び名があるそうです。

でも、当日はあえて調べず、嗅覚だけでまちの雰囲気を体感していきます。

お祭り用のおもちゃ問屋・ミヤマさんで、童心に帰る

村田:この植木鉢、配管をうまく活用して置いてるね。

藤田:鉢をよく見たら、コアラの絵が描かれてる。

村田:かわいい。

村田:あそこもすごい。ブドウかな。匠のヒモ師だ。

細野:この辺は園芸が多いね。

鉢植えが置かれ、生活感を感じる路地を歩いていたところ、表におもちゃが並ぶお店を発見。

▷お祭り用のおもちゃ問屋「ミヤマ」 (台東区蔵前4丁目17-13)

村田:あ、このお店はなんだろう!

細野:お祭りで見るようなおもちゃが売ってるね。

藤田:小売はやっているのかな。……すみません、小売はしていますか?

有限会社ミヤマさん:はい、やってますよ。卸なので普段は小売していないんですが、今年は新型コロナウイルスの影響でお祭りやイベントが軒並み中止になってしまったので、特別に店先で売っています。

▷平時は店頭だと購入できないといいます。いつまで店頭で購入できるかは、決まっていないそう! 興味のある方はぜひ……!

細野:普段はお祭り用のおもちゃとして販売しているんですか。

有限会社ミヤマさん:はい、専門の業者さんに販売しています。

細野:子どもが来たらワクワクしそうな空間ですね。

村田:このへんは、おもちゃの専門店が多いですね。

有限会社ミヤマさん:昔からそうですね。うちも親父の代からだから、長いんです。

シャボン玉にブリキのおもちゃにバトミントン……。お祭り気分を彷彿とさせるおもちゃの数々を前に童心に帰り、本気で物色するSABOTENS。それぞれ気になるおもちゃを手に入れ、待ちきれず隣の公園で遊ぶことにしました。

▷剣豪のようなシャボン玉使い

▷「キャッチできれば仕事がうまくいく」。ピンポンキャッチで独自に運勢を占う

▷真剣におもちゃで遊ぶ30代二人組

藤田:早速お土産がたくさんできたな。おもちゃってこれくらいのレベルのものがいいのかも。

村田:たしかに。シンプルなほうが楽しいね。

「親切」に「園芸」。大正2年創業のバッジ屋・大塚徽章さんで、自分のシンボルバッジを手に入れる

公園で近隣の子どもたちの目線をチラチラ感じながら、思いっきり遊んだSABOTENS。公園を後にして、再び歩き始めました。紙やリボンなど、ユニークな専門店が並ぶ職人街・蔵前。通り沿いにあった一軒のお店のショーウィンドーに、目を奪われました。

藤田:かわいい! 校章とかのバッジだよ。学級、美化、会長…「親切」なんていうのもある!

細野:園芸も栽培もあるよ。

村田:わー、ほしい! 売っているかどうか、聞いてみようか。

▷大塚徽章 (台東区蔵前4-18-6)

村田:失礼します。こちらって小売はされてますか?

大塚徽章さん:ショーケースにある委員会のバッヂは販売していますよ。どうぞどうぞ。

村田:わーい! やったー! 失礼します。

どこか懐かしさを感じるバッジの数々。並ぶとどれも本当にかわいく、目移りしてしまいます。

大塚徽章さん:ひとつ450円です。

村田:安い!

藤田:どうしよう、どれもめちゃくちゃかわいい…。

村田:私は、「園芸」と「会長」をいただけますか。

細野:私は、「編集」と「給食」をください。

路上の園芸を見るのが好きで、「路上園芸学会・会長」を一人で名乗るSABOTENS村田は、「園芸」と「会長」を。このウェブマガジンの副編集長を務める細野さんは「編集」と「給食」を。一方のSABOTENS藤田さんは……。

藤田:……決めた! 「生活」と「親切」にしよう。ちゃんと生活して、親切でいよう。

村田:どれも素敵で迷いますね。

大塚徽章さん:これがバッジの金型です。30年くらい使っているものです。

一同:へえ〜、すごい!

村田:色はどうやって入れているんですか?

大塚徽章さん:「七宝(しっぽう)」って言って。

村田:「七宝焼」とかの?

大塚徽章さん:はい。簡単に言うとガラスなので、半永久的に色が変わらないんですよ。

村田:色のバリエーションも豊富ですね。「すみれ」に「トルコ」に。色の名前もいいな。

大塚徽章さん:昔からのものだからね。

藤田:色に温かみがあっていいですね。

村田:こちらのお店はいつから?

大塚徽章さん:大正2年からです。学校の校章や委員会バッジからはじまって、会社やホテル、ブランドなどのバッジもつくっています。オーダーでオリジナルのバッジも作れますよ。

細野:見たことあるマークがいっぱいですね。すごい。

藤田:勇気を出してドアを開けて、本当によかった。

明治22年創業の天ぷら屋・蔵前いせやさんで、ボリューム満点な天丼をたいらげる

各自購入したそれぞれのシンボルバッジを早速胸につけ、お店を後にします。

▷「親切」バッヂを胸元につける、SABOTENS藤田さん

細野:蔵前は皆さん優しいね。

藤田:私もまじで親切になろう。

村田:蔵前は職人さんのまちだね。色々な業種のお店に入ってみたいな。

細野:いいもの買えたな。こんなに嬉しいこと、なかなかない。楽しいな、散歩。

藤田:すごく充実感があるね。

村田:リュックの中が、さっき買ったおもちゃでいっぱい。

藤田:大人のリュックと思えない(笑)。

細野:あとで戦利品を広げよう。

そろそろお腹が空いてきた一行。通り沿いに天ぷら屋「いせや」さんを発見。本日のお昼は、こちらでいただくことにしました。

▷「天婦羅 蔵前 いせや」 (台東区蔵前4-37-9)

外出自粛期間中、運動不足で体重が増加してしまった3人、ランチの話題はもっぱらダイエット。おすすめのダイエット食やアプリなどの情報交換したのでした。しかし、美味しそうな天丼が運ばれてきた瞬間、あっさり食欲に完敗です。

▷「貝柱とエビかき揚げ丼(¥770)」、「味噌汁(¥220)」*ランチ時

▷穴子とエビが豪華な、大人気の「いせや丼(¥1,100*)」*ランチ時

村田:はー、美味しかった。まだまだ食べられる。

藤田:ほんと、あとワン天丼いける。なにこの食欲モンスター。

細野:いいお店だったね。

藤田:美味しかったね! お店の店頭で、勝手に呼び込みしたいくらい。

蔵前のヒップホッパー参上!

美味しい天丼に大満足した一行は、再び歩き始めます。

細野:みんな晴れ女だね。

村田:ほんとうに。今日も雨の予報が出て心配だったけど、晴れたね。

細野:蔵前は落ちもんの少ないまちだね。

藤田:きれいなまちってことだね。……あ、ラジカセとバナナの皮が落ちてる!

▷蔵前の第一落ちもんに遭遇

村田:ここ、何が起こったんだろう……。CDも入ったままだよ。

藤田:昔のヒップホッパーが肩にかついで、ここでおにぎり食べながら休憩したんだけど、重いよ!って捨てたんだよ、きっと。

村田:CD入ったまま捨てちゃったんだ(笑)。

藤田:友だちがスマホで音楽聴きだして「なんだよ、まじかよ」って。

村田:「こんな重いの持ってられねーよ」って。

藤田:タイトルは、「蔵前のヒップホッパー」。今日の第一落ちもん。

「おかず横丁」の看板に吸い込まれ、「郡司味噌漬物店」さんで味噌と漬物を買う

晴れ間が見え蒸し暑いこの日。歩いているとだんだん汗ばんできます。

藤田:6月でこの暑さだと、8月は溶けちゃうね。

細野:やばいね……。

村田:真夏にマスクしながら歩いたらきつそうだね。……あ、バランだ。

藤田:かわいい!

▷今日の第二落ちもん・バランに遭遇

村田:園芸もいっぱいあっていいな。

細野:色々と見応えのある住宅街だね。

▷久しぶりのブランコに酔う30代女たち

軒先でもじゃもじゃに生い茂ったアロエから、唐突に脱毛の話に花が咲いたり、通りがかりに見つけたブランコを漕いだりしながら気ままに歩いていると、向こうの方に気になる看板を発見。

藤田:あ! 「おかず横丁」だって!

村田:わーいい名前! 行こう行こう。

▷おかず横丁に吸い込まれるSABOTENS

村田:看板がかわいい。

藤田:いい雰囲気だな。商店街に演歌も流れていて。

昔ながらの個人店が軒を連ねる商店街。鉢植えの緑がささやかに軒先を彩っています。

村田:わ、あそこもじゃもじゃだ。ブドウがなってる!ビワの木に絡み付いてるんだ。

細野:愛がある感じだね。

藤田:あの木もすごいうねってるよ。

村田:すごい! 狭いところから生えてる! この辺は素敵な園芸が多くていいな〜。

商店街の中で、「郡司味噌漬物店」を発見。店頭に並ぶ美味しそうな味噌や漬物に惹かれ、入ってみることにしました。

▷「郡司味噌漬物店」(台東区鳥越1-14-2)

添加物を使っていない、さまざまな種類のお味噌や漬物が並ぶ店内。あれこれと目移りしながら、各自お味噌や漬物を買ったのでした。

▷たくさん買ってしまいました

藤田:最後に爆買いしちゃった。

村田:いつもこうなっちゃうね。あ、お店の看板にいい言葉が書いてある。「他のことでぜいたくするのをやめて、せめて毎日の味噌汁と漬ものは本当に良いものがほしい!!」

藤田:わかる〜。

▷心に響くメッセージ

藤田:昭和にタイムスリップしたみたいな雰囲気。

村田:すごくいい商店街だね、ここ。

藤田:おしゃれすぎるカフェより、こういう商店街の雰囲気が落ち着くね。おかず横丁、すばらしかったな。

和菓子処・東洋庵さんのかき氷で、フィナーレ

村田:暑いからどこかで休憩したいね。

藤田:水分摂ろう。

村田:……あ、「かき氷」っていう看板が見える!

藤田:イエーイ!

村田:オアシスだ。

▷菓匠「東洋庵」(台東区鳥越1-22-5)

遠くから見えたかき氷の旗に吸い寄せられるように、和菓子処「東洋庵」さんへ入店。りんごにイチゴ、レモン。それぞれ違う味のかき氷を注文しました。歩き疲れた身体に、ふわふわで冷たく甘いかき氷が染み渡ります。

▷かき氷 (各種 ¥250)

藤田:お疲れ様〜。今日は本当にいい買い物したね。毎回この企画では、けっこうな荷物で帰るよね(笑)。

細野:本当に(笑)。

藤田:散歩する前は「何かあるのかな?」と思っていたのが失礼だったくらい、充実してたな。

村田:蔵前に住むなら、マンションか一軒家、どっちがいい?

藤田:古い一軒家! で、元の雰囲気を残しつつリノベーションして住みたいな。

村田:いいね! 私も、古い工場をリノベーションして住みたいな。

細野:商店街の周辺も住みやすそうだったね。

村田:お買い物も楽しそうだよね。

細野:それにしてもこれからの季節のお散歩は、暑さが思いやられるね。

藤田:早朝に集合して、昼に解散すればいいんじゃない?

村田:それいいね!

藤田:誰も起きられなかったりして(笑)。

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

まちのミカタ 心に残る蔵前の風景

村田のミカタ:兄弟みたいに植えられていたアロエたち

藤田のミカタ
肩にラジカセを担ぐスタイルの昭和のラッパーが
平成のラッパーとストリートでガチのフリースタイルダンジョンをやって
見事に敗北し、悔し涙とともにやけ酒ならぬ、やけおにぎりを食べて
HIPHOPの世界から卒業したのであった

▷蔵前の豆知識
東京の問屋街のひとつとして知られる、蔵前。都心からも程近い場所でありながら都営大江戸線「蔵前」駅の出口のある大通りから少し歩けば、昔ながらの商店街や個人店が多くあります。また、空きテナントや古い倉庫などを改装したショップが点在し、下町の名残と新しさが混じり合います。

●取材/SABOTENS・細野 由季恵
●編集/細野 由季恵
●執筆/村田 あやこ

▷こちらの記事もおすすめ

「路上の落とし物を撮り続ける落ちもんハンター」落ちもん写真収集家 藤田 泰実さん(前編) | エイミーズトーク #12

「路上からはみ出す植物に魅力を感じて」路上園芸学会 村田 あやこさん | エイミーズトーク #13

SABOTENS
路上観察ユニット

SABOTENS / SABOTENS

2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。

LINKS