

SABOTENSのお散歩、今回は東京・入谷編です。今回はSABOTENSの藤田さん(よっちゃん)がお休み。ライター・神社アドバイザーの井口エリさんをゲストにお迎えしました。
今回のお散歩は、芸能・学問・仕事の神様が祀られている小野照崎神社(台東区下谷二丁目)を目指します。実は井口さんは、6年前からこの小野照崎神社が発行する御朱印の企画に携わっていらっしゃいます。今回は、井口さんから神社についてお話を伺いながらのお散歩という贅沢なお散歩企画! まずは井口さんが制作された御朱印を見せてもらい、お散歩をスタートすることにしました。
月替わりの御朱印を企画
井口さんと待ち合わせたのは、入谷駅近くの喫茶店。お散歩に出る前に、井口さんと神社とのつながりについて、お話を伺います。
村田:今日はよろしくお願いします。
井口:こちらこそです。
村田:神社アドバイザーとして活躍される井口さんですが、もともと神社を好きになったきっかけは?
井口:御朱印です。御朱印を好きになったのをきっかけに、足を運ぶようになり、神社っておもしろいなぁと。
村田:井口さんは、これから向かう小野照崎神社の御朱印の企画に関わっていらっしゃるんですよね。
井口:はい、小野照崎神社では6年、御朱印の企画に携わっています。これがその御朱印で……

村田:おおー、これが実物なんですね。かわいい!キラキラしてる。
井口:小野照崎神社の御朱印は、月替わりで絵柄が変わるので、毎月新たに企画しています。企画は神職さんやイラストレーターさん、文字を書く書家さん、デザイナーさんと一緒に進めています。私は世界観やテーマを考える部分で携わっています。

村田:プロフェッショナルのみなさんと月替わりで御朱印を作るなんて、すごい神社さんですね。
井口:御朱印を通じて神社を知っていただくことに、力を入れているんです。神社には月詣といって、毎月神社に行って心を落ち着ける習慣があるんですが、月替わりの御朱印があれば、神社に来るのが楽しくなりますよね。
村田:たしかに!「今月は何かな」って、ワクワクしますね。
井口:御朱印を目的に毎月来てくださる方もいらっしゃいます。楽しみを持って神社に来れるようにということと、神社の歴史や文化を知っていただくきっかけにもなればいいなと思って、続けています。
街中にもある「御札」

村田:さあ、のんびりお散歩スタートしましょう。井口さんは、入谷にはよくいらっしゃいますか?
井口:はい。御朱印の打ち合わせで、毎月来ていますね。
細野:井口さんはSNS上では、「ちぷたそ」というニックネームですよね。名前の由来は?
井口:昔飼っていたハムスターの名前が「チップ」で、それをもじって「ちぷたそ」です。
村田:ハムスターの名前が由来だったのか……!
井口:いまだに学生時代の友人には「チップ」って言われています。直らないもんですね、こういうのって。

井口:向こうに見える塔が、「恐れ入谷の鬼子母神」で知られる、鬼子母神です。

村田:あ、「入谷朝顔発祥の地」と書かれた碑も立っていますね。
井口:入谷の鬼子母神周辺では毎年、朝顔市が開催されることで有名です。朝顔市のときには、朝顔型のお守りが売られているんですよ。

村田:そうなんですね!
井口:けっこうかわいいんです。造花の朝顔がついていて。

村田:井口さんは、まちを歩いていてつい目に止まってしまうものはありますか?
井口:神社好きが高じた結果、今御札に興味があるんですけど、御札を好きになると、街中の張り紙も気になるようになりました。

村田:ああ、こういう「駐車お断り」とか。
井口:たとえばこれって人間に対して「ここに車止めないで」って示すものですよね。
御札って実は、「悪いものが入ってこないように」という魔除けの意味のものであることが多いんですけど、それって人知を超えた存在に対して「ここに入らないで」って示しているものだと気づいて。
街中の張り紙と御札は似てるじゃん!と思ったら楽しくなって。

村田:確かに、役割的には御札ですね。
井口:営業時間とか閉店のお知らせも、伝える対象が違うだけでそこを通った人に対して何かを伝える役割を持つものですよね。街中には意外と、「御札」的なものが色々とあるんです。
村田:「御札」の概念が広がって、楽しい!

学問や芸術・芸能上達のご利益がある、マルチアーティスト・小野篁卿ゆかりの神社

入谷駅から徒歩5分ほど。あっという間に小野照崎神社に到着しました。
村田:わー、ついた! お邪魔します。緑が深くて気持ちいい神社ですね。木陰に守られている感じがします。小野照崎神社は、どのような神社なんでしょうか?
井口:小野照崎神社の御祭神は、小野篁(おののたかむら)卿といって、書や絵、文章などに長けた、いうならば平安のマルチクリエイターのような方です。芸能のご利益がある神社としても知られていて、芸能人の卵の方がよく参拝にいらっしゃっています。渥美 清(あつみ きよし)さんが、この神社で禁煙を誓って願掛けして、『男はつらいよ(1969-1995, 松竹映画)』の役をゲットしたことでも知られています。
村田:そんな逸話があるんですね!

井口:私のライター仲間には、小野照崎神社にお参りした帰りに新規のお仕事が決まったという方もいましたよ。
村田:素晴らしい。私もあやかりたい。井口さんはどのようにして、小野照崎神社と知り合ったんですか?
井口:はじめは、神社を好きになった時に、ライターにご利益のある神社はどこだろう……と調べて小野照崎神社にたどり着きました。その後、とあるイベントに、神社が好き!という想いを一冊にまとめた同人誌を持っていったところ、偶然こちらの神社の神職さんとつながりのあるお客さんが来ていたんです。
はじめはそのご縁で取材に伺ったんですが、その後、御朱印をリニューアルするタイミングで神社の方が、声をかけてくださったという経緯です。
村田:それは嬉しいですね。しかも、ものづくりをする人にご利益のある神社とご縁が生まれたとは。

井口さんに作法を教えていただきながら、早速参拝します。
井口:手水では、ひしゃくで水をすくって、左手、右手の順で水をかけ、口をゆすいだ後(まねでOK)、最後に残った水でひしゃくを洗います。
細野:お参りする時は、住所まで伝えたほうがいいと聞いたことがあるのですが、実際はどうなんでしょうか?
井口:伝えたほうがいいと思います。
村田:「私は●●に住んでいる●●です」って、自己紹介するんですね。どんな内容を語りかければいいんでしょうか。
井口:神社は神様のおうちなので、呼び鈴を押すような気持ちで、鈴を鳴らします。そしてお賽銭を入れて、自分が何者なのかを告げた後、「いつもありがとうございます。よろしくお願いします」と、日頃の感謝を伝えることが多いですね。
参拝を済ませた後は、井口さんのご案内で境内を巡ります。
井口:ここが庚申塚です。猿は庚申塚の守り神で、庚申塔にはだいたい「見ざる」「聞かざる」「言わざる」の三猿がいます。

村田:本当だ。それぞれの塔に3匹ずつ彫られていますね。
井口:庚申塚の横には、太宰府天満宮からやってきた梅の木が植えられています。菅原道真公を相殿としてお祭りしているご縁で、やってきたものです。神社の一角には富士塚もあるんですよ。

村田:うわ、立派な富士塚ですね!
井口:こちらは、下谷坂本富士(したやさかもとふじ)です。毎年6月30日と7月1日の「お山開き」の期間中だけ、門が開いて登ることができます。事前に氏子青年会の方たちが草取りをしてくださるんです。桜の木も植えられているので、春は花見も楽しめますよ。
村田:いいなあ。
井口:ちなみに、お賽銭箱の角にあるハート型をしたマークが、「猪目」です。イノシシの目をモチーフにしているんです。

村田:確かにハート型をしていますね。どこの神社にもあるものなんですか?
井口:はい、高確率であります。小野照崎神社は賽銭箱についていますが、どこにあるかは神社によって異なります。猪目には魔除けや火防などの意味があって。
村田:確かに神社の建物は、木でできていますもんね。

授与品のコーナーには、井口さんが企画に関わる、色とりどりの御朱印がずらり。
村田:うわー、御朱印、こんなに種類があるんですね。これだけのものを毎月考えていくなんて、すごい。
細野:何を元に企画を練っているんでしょうか?
井口:例えば御祭神である小野篁卿のエピソードや、御配神である菅原道真公にちなんだ漢詩、中秋の名月など季節にちなんだ小話など、さまざまですね。
細野:おもしろいお仕事ですね。
村田:長く続けてもネタが尽きない、掘り下げがいのある場所なんでしょうね。
井口:神職さんの着想で、御朱印のデザインを基にしたスマホの待ち受け壁紙も月替わりで用意しているんですよ。(公式サイト:四季の旅 | 【公式】小野照崎神社)
村田:アイデア豊富!きっと御朱印を目当てに来られる方も多いんでしょうね。
井口:おかげさまで御朱印でも知られるようになったので、遠方からも来てくださるようになりましたね。

御朱印をいただき、それぞれ絵馬に願いをしたため、神社を後にしました。ありがとうございました。
視点がもりもり増えていく!

村田:せっかくなので、神社周辺のまちをお散歩しましょう。
井口:どっちに進んでも楽しいと思います。
村田:入谷は下町感があっていいですね。路上園芸ももりもりだ。
井口:朝顔市で買ったらしき、朝顔の鉢植えもありますね。
村田:やっぱりこのあたりは、朝顔が人気なんでしょうか。

細野:立派なアロエだ。
村田:あ、消火栓が「封」っていうシールで封印されている。これも一種の御札……?

村田:こっちには消火器が大集合。ガムテープでお互いくっつけられていますね。
井口:もしや封印が解けた……?

井口:あ、あそこに謎めいたお社がありますね。
村田:行き止まりの奥にお社。周りのおうちの方が作られたんでしょうか。
井口:古くから、ここに祀られていたものかもしれません。
村田:お社のある路地自体、なんだか不思議。こういう街中の異世界っぽい場所って、妙にドキドキしますね。

村田:今日はありがとうございました。
井口:すごく楽しかったです。入谷には打ち合わせでよく来るんですが、普段は通らない道を歩けて、知っているまちでも発見がありました。
村田:こちらこそ、井口さんのお話を聞きながら歩いたら、例えば街中の張り紙が御札に通じるところがあるなど、新たな目線をいただいて発見の連続でした。神社って広い概念なんだなと、視野が広がりました。
井口:この連載を続けていくと、もりもりと視点が増えて最強になりそうですね。
村田:そうなんです。ゲストさんがいらっしゃるたびにいろんな方の視点が増えていって、あちこち見なきゃいけないので大変です(笑)。同じ対象物でも、人によって見方や解釈が違うのが楽しいですね。
井口:一緒に散歩すると、人の視点で見られるのが楽しいですよね。
村田:本当に。その人のメガネをお借りするというか、脳内にお邪魔させていただく気持ちになります。
細野:またぜひご一緒させてください。
井口:ぜひぜひ。
井口さん、ありがとうございました!
SABOTENSのおさんぽごはん
この日のお昼は、井口さんおすすめのカフェ「イリヤプラスカフェ (iriya plus cafe)」さんで、ミートローフとパンケーキをいただきました。



こころに残る町入谷の風景
