蒲田 おにぎり
本日のゲスト
蒲田 おにぎり / Kamata Onigiri
フリーライター
1992年生まれ。神奈川県横浜市出身、在住のはまっこ。趣味は東京都大田区蒲田エリ アを応援することで、周辺の街歩きや情報発信、街のイベントのお手伝いをしている。
村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
藤田 泰実
よっちゃん/イラストを描いた人
藤田 泰実 / Fujita Yoshimi
落ちもん写真収集家
グラフィックデザイナー/イラストレーター/落ちもん写真収集家。茨城生まれ、埼玉育 育ち。多摩美術大学造形表現学部卒。フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍しながら、路上に落ちているものから人間の背景や余韻、人間味を感じ取り、そこから妄想してタイトルをつけストーリーを作り出す「落ちもん写真収集家」として活動。落とし物は人間ドラマという発想が注目され、テレビやラジオなどにも出演。
細野 由季恵
見守り人/撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

SABOTENSのお散歩、本日は東京・蒲田編です。このまちをこよなく愛し、多いときには週6回も通うという「蒲田おにぎりちゃん」をゲストにお迎えし、お散歩しました。駅前には商店街周辺に飲食店が軒を連ね、繁華街を抜けていくと静かな住宅地が広がる蒲田。どこか下町感がある、のんびりしたまちでした。

飲食店がひしめく賑やかな駅前商店街

おにぎりちゃんと待ち合わせたのは、JR蒲田駅西口。JR線や東急線が乗り入れる蒲田駅。大きな駅舎の前には、太陽のオブジェが印象的なアーケード商店街が広がっています。

細野:駅前はビルがたくさんあるね。

村田:いろんな種類の太陽がビカビカしてる。アーケード商店街は飲食店がよりどりみどりですね。食べる場所には困らなそう。

おにぎりちゃん:行きたいところが多すぎて、逆にどこに入ろうか悩んじゃいます。

おにぎりちゃん:そういえば商店街の中にある電気屋さんは、WBC決勝時に店頭に人が集まって観戦している様子が、Twitterでバズってました。街頭テレビじゃなく、商品のテレビなんですけど(笑)。

村田:昭和的な風景ですね(笑)。

藤田:あ、「ZARA」があるじゃん……!いや、「ZIRA」だった。

村田:意外とここが発祥かもよ。

藤田:世界の「ZARA」は蒲田の「ZIRA」だった。

村田:リュウゼツラン(竜舌蘭)が縛られてる。

藤田:誰かここで刺さった人がいたのかも。

村田:立ち飲みしながら「ブスッ」て。

細野:なにこれ。

おにぎりちゃん:なんだこれ。

村田:「変」だって。

藤田:ちっちゃい“何か”が住んでるかも。

村田:開けたらピコン、っておじさんが出てきたりして。

村田:わー、このお店はすごい!

細野:コンパクトにまとまっているね。

村田:電気と緑が一体化してる。

藤田:夜になるとライトアップされるのかな。

村田:植物が照らされたところを見てみたい! 入ってみたいなあ、ここ。

村田:中央にシクラメンが置いてあるのがいいな。結界的な感じで。

藤田:細い道で、どのお店も園芸してるね。

村田:何かしら育ててるね。

園芸風景を鑑賞しつつ歩いていたら、おもむろに蒲田のマダムが話しかけてきました。

蒲田のマダム:何かあるの?

村田:植物がいっぱいあるなと思って見ていました。

藤田:皆さん創意工夫が素晴らしいなと思って。

蒲田のマダム:そうよね。お花がちょっとあるといいわよね。私もこっちの道を歩くのははじめて。戦後このへんは闇市だったのよ。

村田:そうだったんですね。今も随分にぎやかですね。

村田:「猫にエサをあげないでね」だって。この辺、猫がいるのかな。

おにぎりちゃん:白黒のハチワレ猫ちゃんが多くて。

藤田村田:会いたい!

後ほどハチワレ猫に遭遇!

飲食店がひしめく通りでは、どこからともなく美味しそうな香りが漂ってきます。

村田:ラーメンのいい香り。

おにぎりちゃん:この辺り、ラーメン屋さんも美味しいところが多くて。

藤田:見渡すと、中華料理屋さんも多いね。

細野:お腹が空いてきた。

おにぎりちゃん:このお店はたくさんテレビに取り上げられていますね。『日本テレビ』が『日テレヒ』とか『日テビ』になっているのがかわいい。

村田:『バケット(日本テレビ、2018-2023)』は『バッケト』。

おにぎりちゃん:『ヒルナンデス(日本テレビ、2011-)』が『ヒルナンデンデス』。増えてる……。

村田:お店の前は、紹興酒の空き瓶を囲むように鉢植えがぎっしり!センターで神様が園芸を守っているね。

知らない人が気さくに話しかけてくるまち

蒲田温泉のパーカーを身につけるおにぎりちゃん

ここでおにぎりちゃんについて気になったサボテンズ村田(※はじめましてから、いきなり散歩がはじまっています)。実は出身も現在の住まいも、蒲田ではないのだそう。なぜここまで蒲田にハマったのか、聞いてみました。

村田:蒲田にはいつ頃からハマったんですか?

おにぎりちゃん:4年くらい前ですね。もともと学生時代からお笑いが好きで、「ライス」という芸人さんが蒲田で行ったトークライブを見て。メンバーの田所さんが蒲田出身なんですよ。「蒲田のお店でカニチャーハンを頼んだら、写真ではカニだったのに出てきたらカニカマだった」みたいな話を聞いているうちに、蒲田が好きになってしまいました。

村田:蒲田の小ネタ満載だったんですね。おにぎりちゃんの思う蒲田の魅力ってなんでしょう?

おにぎりちゃん:まちを歩いていると、東京なのに下町感があって、昭和の景色が残っているのが楽しいです。人も本当に面白いですね。普通に歩いていたり飲食していて、知らない人と話す確率が他のまちと比較するとめちゃくちゃ高くて。知らない人も気さくに話しかけてくれるんです。

蒲田で過ごすおにぎりちゃんの日常をSNSでも発信しています

村田:確かに、さっきも話しかけてきた方がいましたもんね(笑)。

おにぎりちゃん:これまでで一番びっくりしたのは、パン屋さんの前を歩いていたら通りすがりのおじさんが「このパン屋いったことあるか?」っていきなり話しかけてきて。店の前で立ち止まっていたから怒られるのかと思ったら、「カレーパンがおいしいよ」っておすすめしてくれました。

急に知らない人がおすすめメニューを教えてくれるなんて、他のまちで経験したことないので笑っちゃいました。知らない人と話すのは結構好きなので、旅先での一期一会のような出会いを楽しむことができるんです。

細野:今は蒲田でどんな活動をしてるんですか?

おにぎりちゃん:自分が行ったお店について、SNSに写真つきで感想を投稿しています。それを見たまちの方が反応してくださって、そこから交流が広がることも。最近はまちのお店と一緒にイベントを企画したりマルシェのお手伝いをしたりと、まちとの関わりも広がってきました。

細野:すごい。いいですねえ。

おにぎりちゃん:蒲田が好きって言うと、地元の方は照れなのか謙遜なのか「なんで蒲田なんかにわざわざ来るんだい?」って怪訝な顔をするんですよ。でも話しているとだんだん、いいところを教えてくれたりして、優しいんです。

細野:今は週にどれぐらい蒲田に来るんですか?

おにぎりちゃん:大体週3日、多い時で週6日は来てますね。

細野:住む予定はないんですか?

おにぎりちゃん:今のところ予定はないんですが、先月から蒲田までの定期券を買うようになりました。まちとの関わりも増えてきたので、そろそろ住んだほうがいいのかもな、という時期にきましたね。

大田区公式キャラクター「はねぴょん」

おにぎりちゃんいわく、大田区の公式キャラクター「はねぴょん」に会える公園があるそう。早速行ってみることにします。

おにぎりちゃん:この公園の中に「はねぴょん」がいます。

藤田:あれかなあ。

おにぎりちゃん:そうです、そうです!

村田:なんで「はねぴょん」なんだろう?

おにぎりちゃん:羽田空港があるからです。それで飛行機みたいな形をしていて。

村田:なるほど!手に持っているのはお風呂セット?

おにぎりちゃん:大田区は銭湯の数が多いんです。黒湯が有名なので、桶の中が黒くなっています。

村田:ほんとだ!タオルには「はねぴょん」って書いてありますね。

藤田:襟が花びらになっている?

おにぎりちゃん:大田区のシンボルが梅の花なんです。(※昭和51年「区の花」として制定)

細野:いろんな要素を盛り込みすぎている。

おにぎりちゃん:はねぴょんに乗れますよ。

村田:せっかくだから乗り心地を試してみようかな。

村田:大人はおしりを落ち着かせるのが大変。

藤田:確かにギリギリだ。でもしっかりした胴体で、乗り心地がいい。

おにぎりちゃん:実は初めて乗りました。意外と乗り心地がいいかもしれません。

公園を後にしてしばらく歩いていくと、ビルの上に観覧車が見えました。

おにぎりちゃん:ここから観覧車が見えるんです。

村田:ほんとだ!ちっちゃくてかわいらしい観覧車。

おにぎりちゃん:東急プラザ蒲田の屋上に、『かまたえん』っていう屋上遊園地があるんですよ。都内唯一の屋上観覧車で、一度閉鎖の危機を迎えたけれど、地域の方の声で復活したそうです。愛されてます。

村田:そんな歴史が。ぜひ乗りたい!

藤田:乗りましょう!

おにぎりちゃん:今日はいい天気なので観覧車日和ですね。

村田:観覧車をお散歩のゴール地点にしよう。

世界三大花木・ジャカランダの木

ここからしばらく歩いていったところに、世界三大花木の「ジャカランダ」が見られるスポットがあるとのこと。ジャカランダを目指し、歩いていくことにします。

途中の道のりも、見どころ満載。

おにぎりちゃん:この歯医者さん、実はお気に入りスポットで。

村田:すごい!ウインドウの中に、歯のオブジェとゴムノキのディスプレイ!歯と葉の共演だ。

藤田:これはなんだろう?

細野:「上田」?

藤田:「古田」?

村田:ぷにぷにしてる。

村田:これ、ひび割れたところが服の模様みたいになってる。

藤田:最高じゃない。

村田:壁に跡がいっぱい。壁打ちの練習の跡かな。

藤田:ここで大谷翔平が生まれたかも。

村田:蒲田の大谷翔平が。

おにぎりちゃん:「蒲田の」ってつくと、急に規模が……(笑)。

藤田:ここすごいね、園芸が。

村田:ビワの大木にアロエに。これはショウガかなあ。

細野:アジサイも。

村田:「耕し人」がいるな。

おにぎりちゃん:蒲田って、結構緑豊かだったんですね。今まで全然気にしてなかった。

藤田:見て、ジグソーパズルが落ちてる!

おにぎりちゃん:ほんとだ!

細野:(近くによってみて画家「Christian Riese Lassen」の文字に気づき)ラッセンのジグソーパズルじゃない?

藤田:ラッセンか〜。

細野:ゲリララッセンアート。

村田:どういうドラマがあったんだろう? 最後のピースがはまらず、ぶち投げてしまったのか。

藤田:もう一生誰もやらないパズル。

細野:役目を果たした感じ。

細野:こっちにはスーツケースが落ちてる!

村田:持ち手が壊れちゃったのか。

藤田:すっごい腹立っただろうね。

村田:羽田空港から帰る時に壊れたのかも。

細野:中身がまだ入ってるかもよ。

藤田:財布だけ持って、捨てて帰ってたりして。

村田:「もういい、あんたなんか」って。

落ちもんから妄想を繰り広げながら歩いていたら、イチョウ並木の間でひときわ異彩を放つ大木を発見。ジャカランダです!

村田:わー、ジャカランダだ!

細野:Googleマップにもピンが打たれてるんだ。ジャカランダは世界三大花木。「紫雲木(シウンボク)」っていう和名もあるんだって。

村田:かっこいい!

おにぎりちゃん:初めて見れて感動しました。6月が見頃なんだ。あとちょっとでしたね。

村田:イチョウ並木の中に、なんで一本だけ生えてるんだろう。誰かが植えた……?

蒲田西口商店街のホームページによれば、ご近所のお店の方が植えたものだそう。

村田:どうりで!1本だけ異質な存在感を放っているもんね。

おにぎりちゃん:自治体とかじゃないんだ。

藤田:無理やりクラスの一員にさせられた感じがするね。

東京唯一の屋上観覧車から、まちを見下ろす

お腹が空いてきたので、お昼ごはんを食べに再び駅前商店街に。おにぎりちゃんが、以前訪れて美味しかったという定食屋さんに行くことにしました。

定食が美味しい壱番隊さん(大田区西蒲田7丁目63−4)

創業30年ほどになるという壱番隊さん。「昔懐かし定食や」という暖簾の通り、魚の定食や肉豆腐など、昭和の食堂を思わせるようなメニューが並びます。

さばの味噌煮や肉豆腐、西京焼き、マグロカツなど、思い思いのメニューを注文。

肉厚な魚に味噌汁、お惣菜、ご飯と、食べごたえのある内容です。

村田:美味しかったね!

おにぎりちゃん:はあー、食べました。

村田:お腹いっぱい。

藤田:「昔なつかし定食や」っていう名前がいいね。

村田:店主のお兄さんも気さくでいい方だった。

細野:美味しいお店と人に会うとルンルンだね。

お昼を食べ終わった後は、さっき向こうの方に見えた観覧車を目指します。

おにぎりちゃん:この建物の上に観覧車があります。

村田:この上なんだ!下からだと全然気づかなかったな。面白い。

村田:あったー!

細野:小さくて、かわいい。

藤田:気持ちいい場所だね。

村田:ベンチと椅子もあって。

いざ、観覧車に搭乗。

藤田おにぎりちゃん:いってきまーす!

村田:蒲田のまちを一望しよう。

おにぎりちゃん:結構眺めがいいんですよね。東急線の線路が見えたり。

村田:お散歩中に見た建物が、上から見下ろせる。建物の屋上を見るのは楽しいね。

おにぎりちゃん:あ、頂上に着きました。

藤田:きたー! いえーい! 頂上につくと嬉しいもんだね。

村田:蒲田の一番てっぺんだ。

おにぎりちゃん:あ、もう下り始めてます。

村田:だんだん地上が近づいてきた。

藤田:早い。人生のようだ。

蒲田で稼いだお金を、蒲田で落としたい

観覧車を降り、屋上デッキで本日のお散歩を振り返ります。

村田:今日はどうでしたか?

おにぎりちゃん:普段来るときとは全然違って、皆さんと歩いたから見えた景色が色々あって。見たことない新しい蒲田がいっぱいありました。ラッセンのパズルまで落ちてましたしね。

藤田:素敵なまちでした。住みたくなりました。いい意味で急いでない感じもして。

村田:駅周辺は繁華街で飲食店がいっぱいあるのに、ちょっと離れると閑静な住宅地で、のんびりした雰囲気もあったね。おにぎりちゃんのおかげで、一人で歩くだけだったらたどり着けなかった場所に色々行けてよかったです。

ジャカランダは近所の人が植えたものっていうのも衝撃でした。でもそれが地図にまで載っている大らかさがいいね。

藤田:蒲田らしさを感じるね。

おにぎりちゃん:見知らぬマダムが、自然と会話に合流してきたり。ああいう感じが好きですね。今日も一期一会がありました。

藤田:蒲田って、勝手に「第二の赤羽」みたいなイメージを持ってたけど、オンリーワンで最高のまちでした。

細野:ご飯屋さんも美味しかったね。もっといろいろな種類のおかずを食べてみたかった。

細野:おにぎりちゃん、蒲田での夢はあるんですか?

おにぎりちゃん:蒲田でお仕事して、稼いだお金で美味しいものを食べてっていうのを一生ぐるぐる続けたいですね。蒲田で自分の経済を回したい。

藤田:素晴らしい!

おにぎりちゃん:今回の企画でそれがかなったので嬉しかったです。

細野SABOTENS:おにぎりちゃん、今日はありがとうございました!

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

こころに残る蒲田の風景

村田のミカタ:フェンスの向こう側からすり抜けてきている……!?
藤田のミカタ:ここだけ重力50倍

動画公開中!

お散歩した様子を動画でも公開しています。暇つぶしにぜひ!