SABOTENSのお散歩、今回は東京・町屋編です。ゲストは、エントリエでライターとしてコンテンツ制作をお手伝いいただいているイトウヒロコさん。駅前にはバラの間を走り抜ける都電。味わい深い路地の周りに民家やお店がひしめき、どこか「昭和」の残るまちでした。
バラの中を走り抜ける、都電
ヒロコさんと待ち合わせたのは、町屋駅前。以前entrie MAGAZINEにも登場いただいた、手書き地図推進委員会さんの書籍『Q&Aで地域を再発見! 手書き地図の教科書』(学芸出版社)が出版されたばかりということで、本を手に駅前で記念撮影します。(手書き地図推進委員会 赤津 直紀さんインタビュー記事はこちら)
季節は6月。都電荒川線の線路沿いでは、色とりどりのバラが咲き誇っています。
村田:今日はよろしくお願いします! 駅前、すでにいい雰囲気だねえ。バラの向こうを都電が走り抜けていく。
イトウ:これが町屋の日常風景なんですねえ。あ、このバラ「楽園」という品種だそうですよ。
村田:まさに楽園! 三途の川みたいな幻想的な風景。
藤田:例えがこわい……
村田:都電が走る様子は、のどかでいいですね。
イトウ:都電荒川線は「東京さくらトラム(※)」といって、路線のマークが桜の柄なんですよ。
村田:本当だ!
イトウ:特別感がありますよね。
村田:都電沿いには桜で有名な飛鳥山公園もありますよね。
イトウ:飛鳥山公園もいいですよねえ。
村田:荒川区、北区は、いま個人的に熱いスポットです。
イトウ:下町の風景がちゃんと残っている感じがしますね。
村田:ヒロコさんは、もともとご出身も東京なんですか?
イトウ:はい、新宿区の出身です。
村田:新宿!
藤田:シティガール!
イトウ:めちゃくちゃ言われます(笑)。全然そんなことないんですよ。新宿区って、繁華街以外はただの住宅街で。
村田:確かに新宿は、繁華街もあれば雰囲気のいい住宅地もありそうですね。
イトウ:そうなんです。最寄り駅をいうともっとシティガールって言われるんですが、神楽坂で。
村田:いいなあ!
イトウ:むしろ今住みたい。子どもの頃は大人のまち過ぎて。「文壇バー」とか「芸者さんがいる料亭」とかに、小学生じゃ行けないですよね。
村田:たしかに(笑)
※都電荒川線の沿線に桜の名所がたくさんあるので、「東京さくらトラム」という愛称がついたそう。
藤田:あ、落ちもん発見!
村田:メガネだ。落としたら困るやつだね。
細野:ヒロコさんは、落ちもんを見つけると目が止まりますか?
イトウ:結構見ちゃいますね。
村田:普段お散歩はしますか?
イトウ:実は、ひとり旅と散歩は苦手なんですよ。でも普段歩いているとき、変な看板に目が止まったりします。今日見たいのは、渋いコインランドリー! チェーン店ではなく、昔からありそうなコインランドリーを見つけたいです。
村田:見つけましょう! 私、コインランドリーの匂いが大好きなんです。乾燥するときの匂いが、特にいい匂いで。
イトウ:わかります。
村田:コインランドリーがあると入口まで近寄って、匂いをかいじゃいます。家でなかなかあの匂いにならないんですよね。
細野:そういえば前にお散歩したときに、あやちゃん、コインランドリーの匂いを嗅いでた(笑)。
村田:変態っぽいね(笑)。
猫にいざなわれ、路地へ迷い込む
藤田:あ、見て、猫だ、猫!
村田:え、どこどこ?
藤田:アパートの階段を見て。とってもかわいい。
村田:いたいた! かわいい〜! 日向ぼっこしてるのかな。
線路の向こうに猫を発見。しょっぱなから猫にも出会えて、幸先いいスタートです。
猫がいた場所を目指し、歩き始めます。都電沿いに広がる緑豊かな小道。紫陽花も満開でした。わさわさ生えた植物の一角で、穴に隠れる小さな猫を発見!
イトウ:見て、猫だ!
村田:あ、いたいた!
藤田:こっちをすごい見てる。
村田:にゃんにゃん。怖くないよ。猫好きの一味だよ。
イトウ:ちっちゃい。半分こちらを覗いてる。
藤田:『家政婦は見た』みたい。
細野:いい場所だねえ。
村田:のどかだねえ。猫がいるわ、バラが植えられているわ、最高だ。
駅前だけですでに見どころ満載な町屋。ここからはいつもどおり嗅覚に従って、気になる方向へと進んでいきます。真っ先に吸い寄せられたのは、ひしめく住宅の間にある、細い路地。
細野:「この場所に●●●を置かないでください」。大喜利みたい。
村田:赤で書いた部分が消えちゃったのかな。空白に入る言葉はなんだろう。
イトウ:ラップみたい。
細野:確かに……「不衛生」と「非常識」が韻を踏んでるっぽい……(笑)。
藤田:見て。猫よけのチクチクがポールに貼ってある。
村田:猫があそこまで駆け上っていくってこと? アクロバティック。
藤田:こんなツルツルのポール、駆け上がっていける?
村田:そんな猫がいたらすごいね。……まさかさっきの猫が……?
藤田:見て、忘れ去られた折りたたみ傘の袋。
村田:落ちたやつを誰かがかけたのかな。「落ちもん」ならぬ「かけもん」だ。
細野:壁と同化してるね。
村田:ちょうど同じ色だ。
路地を抜けると、雰囲気のいいお店が次々と現れます。
イトウ:全然進まない散歩ですね。
村田:ながらスマホよりも進まない。
村田:見て。「初歩」ってなんのお店だろう?
藤田:いいねえ。
村田:今日は路上からメッセージをもらえるかもしれない。
藤田:これ、呪文みたいな壁じゃない?
村田:本当だ。何かの文字が隠れてそうだね。
藤田:どこかを押したら開いたりして。
村田:秘密のボタンが隠されているかも。
藤田:見て、ダイイングメッセージみたい。
村田:「ア〜〜〜〜」っていう叫びが聞こえてきそう。
イトウ:何があったんだろう。
村田:こういうフェンスに覆われた何もない場所もいいなあ。
イトウ:何から何を守ってるんだろう。
村田:赤いコーンが2体、戦いに敗れたように倒れてますね。
村田:これなんだろう?
藤田:一瞬、「片手袋」かと思った。
村田:コンクリートか。
イトウ:質感がありますね、コンクリなのに。
村田:人工芝が引いてある! これは広く言えば「ビル毛」の一種?
細野:小堺さん(※)に判定していただきたいね。
藤田:「これは植毛です」って言われるかも。
※小堺さん……五反田編でゲスト登場してくださった、ビルの上から生えた植物を「ビル毛」と呼んで鑑賞する小堺丸子さん。ちなみに小堺さんに確認したところ、ビル毛は、「ビルの上に生えてる木」を基本としていること、そしてこちらは人工芝であることなどを鑑みて、惜しくもビル毛認定ならずでした。散歩の様子はこちら。
町屋の治安を守る「目」
どこか「昭和」な雰囲気の漂うかわいい建物に、細い路地。下町的な雰囲気にワクワクする一方で、チラチラと視線を感じます。何かに見張られているような、妙に目力の強い「目」があちこちに……。
藤田:なんだか「目」が多いまちだね。
村田:確かに……。あ、ここにもシルバーの「目」!
思わず目に止まった、美容室の看板の「目」。お店に声をかけてみた所、品の良い店主さんが表に出てきてくださいました。町屋駅から徒歩数分のところにある、サロン・ド・アリスさん。美容室のほか、予約制で四柱推命の鑑定もされているお店です。
サロン・ド・アリスさん(以下、アリスさん):目立ちます? この看板。
村田:はい。遠目で見て、思わず気になってしまいました。「アリス」さんというお名前には、なにか由来があるんですか?
アリスさんさん:去年亡くなられた谷村新司さんが好きなので、バンド名の「アリス」を名前にしたんです。
村田:そうなんですね! 素敵な由来。
細野:こちらのお店では、占いをされてるんですか?
アリスさん:もう20年くらい、四柱推命をやっていますよ。自分の生まれた年と月、日にち、生まれた時間という4つの柱から、運命を推し量るんです。
お店の向かいには、きれいな紫陽花が植えられていました。
村田:紫陽花、きれいですね。
アリスさん:ここに植えて、もう25年くらいになります。「墨田の花火」っていう品種です。ずいぶんお嫁に行った子もいますよ。
アリスさん:皆さんからは、なにか力強いものを感じますよ。やる気を持っていらっしゃるから。
村田:その言葉に元気をいただきました。
帰り際にとても嬉しい言葉をいただきました。サロン・ド・アリスさん、開店準備のお忙しいところ、お話を聞かせていただきありがとうございました!
藤田:さて。次はどっちに行こうか。
村田:全部の路地が気になるね。
細野:ふたりが歩いている様子、小学生みたいだ。
村田:確かに。小学校の帰り道みたいだね。「こっち行ってみる?」って寄り道しまくる感じとか。
村田:この道、ブロック塀になんか書いてあるよ。「自転車は右」だって。
イトウ:じゃあ右に行くしかない。
藤田:壁から怒りを感じるね。
村田:これを書くに至るまでに、いろいろな出来事があったんだろうね。何かを勝手に置いちゃう人間への警告に、猫よけに、「目」に……。平和に見えるけれど、実はまちのいたるところで、いろいろな戦いが繰り広げられているのかも。
藤田:もしかして線路沿いのバラも、線路に入らないように植えられていたりして……。
村田:バラ=有刺鉄線みたいな役割?そういえばトゲトゲしたアロエも植えられていたね。
藤田:有刺鉄線だと怖いけど、植物なら最高だね。
藤田:でも見てご覧、「ハピネス」だよ。
村田:本当だ! ハッピーになりたいという祈りを感じる。
しばらく歩いていると、神社を発見。
細野:あ、神社だ。
藤田:ご挨拶していこう。
村田:ハピネスを祈って。
イトウ:この神社もビデオで監視されている。
村田:ここにも悩める方が、またひとり……。
神社を後に、しばらく歩いていた所、駄菓子屋さんを発見。創業60年になるというトミー商店さん。駄菓子やタバコを扱うお店です。
藤田:ガチャガチャがある!やってみよう。
イトウ:見てると懐かしくてキュンとなっちゃった。
細野:お菓子のチョイスもいいなあ。全部美味しそう。
イトウ:懐かしくて泣きそう。
細野:わー、この「ソフトグライダー」、子どもが大好きなんだ。買っていこう。
村田:良かったね、喜ぶね! 私も「さけるグミ」買おうかなあ。
藤田:みんな何かしら買っていく。
スプリングおもちゃに、スライムに、飛行機のおもちゃに、お菓子に。それぞれの戦利品を手に、記念撮影。トミー商店さん、ありがとうございました!
「営み」が漂うまち
駄菓子屋さんを後にし、駅まで向かいながら今日のお散歩を振り返ります。
村田:いい路地がいっぱいあるまちでした。
イトウ:「昭和」が残っていましたね。
村田:町屋に住むなら、一軒家やマンションなど、どんな家に住みたいですか?
イトウ:アパートに住みたいですね。「ガタンゴトン」っていう都電の音を聞きながら、2階に布団を干したいです。
村田:ああ、いいですね。都電の線路脇には、雰囲気ある建物がいっぱいありましたよね。時々猫をひなたぼっこさせながら。
イトウ:そうそう。私道を通る人がいれば、戦いも辞さずに。
村田:手書きで張り紙を作って。
イトウ:「営み」という感じがしました。人がいっぱい住んで、営んでいる感じが。
藤田:濃厚なまちでした。
村田:想像を超えた、思いもよらない発見の連続でした。