村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
藤田 泰実
よっちゃん/イラストを描いた人
藤田 泰実 / Fujita Yoshimi
落ちもん写真収集家
グラフィックデザイナー/イラストレーター/落ちもん写真収集家。茨城生まれ、埼玉育 育ち。多摩美術大学造形表現学部卒。フリーランスのグラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍しながら、路上に落ちているものから人間の背景や余韻、人間味を感じ取り、そこから妄想してタイトルをつけストーリーを作り出す「落ちもん写真収集家」として活動。落とし物は人間ドラマという発想が注目され、テレビやラジオなどにも出演。
細野 由季恵
ゆきえちゃん/撮影・編集した人
細野 由季恵 / Hosono Yukie
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

SABOTENSのお散歩、今回は横浜・桜木町〜野毛です。商業施設が立ち並び、海の向こうに観覧車やランドマークタワーが見える桜木町駅前。昭和の風情漂う飲み屋がひしめく野毛の飲み屋街。少し歩くごとにガラリと雰囲気の変わる、大人文化のるつぼでした。

駅前にいきなり海と船!桜木町駅前

村田:まちのミカタ、今回は横浜です!JR桜木町の駅前からスタートです。

藤田:横浜、あんまり来る機会がないから、今日は楽しみ。

駅前から、まずはみなとみらい方面へ。駅前広場から海の向こうの商業施設をロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマエアキャビン)」が結んでいたり、観覧車や商業施設が見えたりと、テーマパーク感が漂います。
駅のすぐそばでは、大きな船が停泊していました。

村田:1930年に作られた「帆船日本丸」だって!

細野:あらためて見ると迫力があるな。

藤田:すごいね! 映画の『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウばりに、船の上に立ってみたい。

村田:あの音楽が脳内で流れてくる……

船のすぐそばでは、パイレーツ・オブ・カリビアンのBGM……ではなく、ダンス音楽を流してTikTokかなにかの撮影に興じる女の子たちがいました。

日本丸のほど近くに、機関車の車輪のような大きな機械が展示されていました。調べてみたところ、かつてこのあたりの造船所で使われた、アメリカ製のエアーコンプレッサーだとか。
このエリアの歴史を物語るものに次々と出会った後は、駅を挟んで、海とは反対側に進んでいくことにします。

村田:桜木町駅近くはキラキラデートスポットっていう感じだけど、歩いてすぐの場所に、野毛の飲み屋街。もう少し行ったところにある日ノ出町駅は、駅前に場外馬券場とかストリップ劇場があって。ちょっと歩くだけでガラッと雰囲気が変わるのが楽しいね。

藤田:いいね!野毛の飲み屋街、行ってみたいな。

村田:行こう行こう。

車道の上を覆うネットに、ふと目が留まるSABOTENS。

ネットの下には車が通っていました

藤田:見て、下の道路に人が落ちないようにカバーされてるのかな。

村田:人が落ちない代わりに、石とかペットボトルとか色んなもんが落ちてるね。

藤田:猫だったらこのネットの上を歩けるかも。でも超怖がるだろうけど。

村田:最初のうちはしばらくじーっとして、様子を見てるだろうね。

藤田:大きい音が苦手だから、車の音でびっくりしちゃいそう。想像するだけで、やっぱりかわいそう……。

※車道を覆うネットは、主に落石防護や動物の横断支援などの目的で設置されるそうです。落石から車道を守るためのものや、野生動物が安全に移動できるように設置されているのだとか。

村田:「おかげさまと生かされ ありがとうと生きる」。

藤田:大事なところに点が打ってあるね。

細野:ルビまで振ってある。

村田:生きていることに日々感謝ですな。

村田:あ、「グリフィン」だ。前に横浜を散歩していて思ったんだけど、横浜、「グリフィン」っていうマンションをいたるところで見かけるんだよね。書体がインパクト満点。

藤田:そういえばハリー・ポッターに「グリフィンドール」って出てきたよね。

細野:寮の名前だよね。

村田:前に亀有をお散歩した時、「グリフィンドール」って書かれたトレーナー買ったことあったな。あったかくて、毛玉ができるまでヘビロテしたよ。

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買い物魂に火がついた、まちのミカタ #05 亀有編

藤田:見て、不思議な水道がある。

村田:何も植えられてない植木鉢もある。

藤田:RPGの「聖なる泉」みたいだ。

村田:ひねったら何が出てくるんだろう。

崖の上にある「野毛山不動尊」

しばらく歩いていくと、道の向こうに「成田山」と書かれた赤い旗が見えます。

藤田:あ、「成田山」だって!

村田:行こう、行こう!

藤田:行ってみよう!

細野:横浜って急に崖があるね。

村田:桜木町駅前の風景から想像つかないけど、意外とアップダウンがあるよね。まちのすぐそばに山があるなんて。

「成田山横浜別院延命院(神奈川県横浜市西区宮崎町30)」は千葉にある成田山の横浜別院で、「野毛山不動尊」という通称でも親しまれています。崖を利用した境内が特徴的。入口脇の階段をひたすら上り、高台にある境内を目指します。

階段の踊り場から、ひしめくビル街を見渡せます。眼下の家並みを見ながら、「三角形の空き地、どんな家が建つんだろう」「あのおうち、地上げされないか心配」など、勝手な妄想が膨らむSABOTENS。

さらに階段を登っていくと、お線香の香りが。ようやく境内にたどり着きました。お参りを済ませた後、おみくじを引きます。

藤田:うわっ!

細野:はっ!

藤田:がーん、「凶」……。

村田:今まで「凶」ってあまりなかったよね。

藤田:「このみくじにあう人は 能力ありながら時流に合わせず 自分の才智のみで世に処すれば却って禍いが生じる」だって。

村田:でも「神仏を信じ 慎み深ければ その才能が認められ 幸せの途も開ける」って!完全に悪くはないよ。

細野:才能はあるって言われてるし!

村田:私は……「半吉」。「正しくよい心を持ちながら 万事意に任せないが 神仏を信じ 身を慎み 時節を待てば 今を底としやがて幸せが与えられる」。なかなか手厳しいけど、よろしくお願いします!

村田:ゆきえちゃんは……お、いい文字がチラ見えした!

細野:大吉だ!

藤田村田:よかったね!

細野:でもアドバイスが、ざっくり……(笑)

村田:恋愛よし。縁談よし。売買よし。確かにざっくりしてる(笑)。「世の為 人の為 心して努めれば 幸せな一生となる」。これは嬉しい!

藤田:みんな色々あるけど、健康に気をつけて。無理せずに。心と体が元気だったらどうにかなるから。

細野:ほんとだよ。

お線香をお供えしたり、お地蔵様にお祈りしたりと、それぞれの平安と幸せを祈願しました。ちなみに野毛山不動尊では、境内のバリアフリー化のため、エレベーターの設置も進んでいるんだとか。

エレベーターホールの上の方に、まるで横浜のまちを見渡すように飾られているオレンジの物体は、不動明王像?

これは完成後に実物を見てみたいぞ。

ひしめく野毛の酒場に目移り

野毛山不動尊を後にした一行は、飲み屋が連なる野毛のまちへと繰り出します。

村田:野毛山不動尊、崖の上にある面白い場所だったな。

藤田:登ったり降りたりと、地形がすごかったね。

藤田:このへんのまちの雰囲気、いいね。福岡の中洲のあたりを思い出すな。あの看板のふぐ、かわいい!

村田:カネノナルキもたくさん。

藤田:「金」が増殖してるんだよ。

村田:金運パワーをいただこう。

野毛の飲み屋街の一角に、雰囲気のあるお菓子屋さんを発見しました。

御菓子司 もみぢ(横浜市中区野毛町2丁目64)

店頭には、ご近所の子どもたちが作ったのか、かわいい「せんでんポスター」が貼られていました。

藤田:かわいい!

村田:「ぼくたちはにしむらさんのねりきりがだいすきです」だって。

細野:ねりきりがあるんだ。

藤田:買っていこうかな。

野毛の老舗和菓子店「御菓子司もみぢ」さん。お団子やねりきり、おまんじゅうなどの和菓子を販売されています。吸い寄せられるように入店し、草餅を購入。もっちり歯ごたえがあり、優しい味のあんが美味しい!

細野:御菓子、美味しい!

村田:ほんと、美味しい!

藤田:「頑張ってね」ってご主人に言ってもらえたよ。優しい。

村田:優しい。建物の雰囲気も素敵だったね。

村田:飲み屋さんがどこまでもあるね。

藤田:美味しそうなお店ばっかり。

村田:おでんにジビエにおにぎりにラーメンに……毎日どこかに通っても回りきれなそうなくらい、店がある。

藤田:あ、演歌が流れてる。……え、店からじゃなくて、道のスピーカーから流れてるよ!野毛の公式放送なのかな(笑)

飲み屋街をしばらく進んでいくと、大岡川という川に沿うように建っている「都橋商店街ビル」が現れました。

「夕闇に包まれる頃、大岡川の水面に仄かな灯りを落とすこの建物」という趣あるフレーズとともに始まる看板によれば、1964年の東京オリンピックの開催に合わせ、露天商を収容するために道路を活用して建てられたビルだそう。

藤田:うわ、めちゃくちゃいいね!1階にも2階にもお店があるんだ。

村田:前にこの中の一軒のお店に入ったことあるけど、美味しかった!

村田:見て。ビルの向かいに、演歌歌手の方のポスターが貼られているよ。

藤田:いいねえ!

村田:「今宵、アンタと…」「雨のバル」。このまちの雰囲気にぴったりな曲名だ。

人情や情愛の詰まった演歌は、このまちで繰り広げられる様々な人間模様を歌い上げているのでしょうか。

横浜の出版社「星羊社」の直売所

路地という路地に酒場がひしめく野毛のまちの一角にあるのが、「星羊社 stockroom NOGE」。横浜を拠点に、地域の魅力が詰まった本やオリジナル雑貨を作るご家族二人の出版社「星羊社」さんは以前マガジン内でもインタビューをさせていただきました(記事はこちら)。ここ星羊社 stockroom NOGEは、倉庫兼直売所です。

店頭には、星羊社の刊行本やオリジナル雑貨を始め、星羊社のお二人が選んだ書籍や民芸品、手作り作品などが並びます。

一つ一つ時間をかけて、各地の職人さんと丁寧にやり取りしながら作った雑貨は、見た目だけでなく使い心地も抜群。筆者・村田も、グラスや入浴剤など日々の生活の中で愛用しております。
3人それぞれ、本や雑貨などを購入。閉店間際に関わらず快くご対応いただき、ありがとうございました!
お店を後にしようとしたところ、星羊社・成田さんから、「近所のお店の裏手に時々、あやこさんちの猫に似た猫がいますよ」という貴重なタレコミ情報。お散歩のラストに、猫に会いに行ってみることにしました。

藤田:素敵なお店だったね。

村田:星羊社さんとは、横浜で飲んだことがあるんだけど、いつも呑兵衛の心をくすぐるようないい酒場に連れて行っていただけて。楽しかったな。

細野:ありがたい猫情報もいただけたね。

村田:……あ、見て、教えていただいた場所に猫のものらしきお皿がある!

藤田:爪とぎグッズまである。

村田:お皿と爪とぎが、傘で守られてるね。猫のための場所だ。

細野:優しさを感じる。

藤田:今日は猫、いないみたいだね。寒いもんな。

村田:どこかであったまってるといいな。

細野:いつか会えるといいね〜。

日ノ出町駅前のストリップ劇場を前に、お散歩終了。桜木町駅前のきらびやかな感じから、崖の上の成田山、路地という路地に酒場がひしめく野毛の飲み屋街。見どころがぎゅっとつまりすぎた、大人な散歩でした。

村田:この辺で住むとしたら、どういうところがいい?

藤田:……オートロックがちゃんとしたマンションに住みたいな(笑)。

村田:確かに……酔っ払いがふらふらと入ってこないようにしないとね(笑)。成田山みたいな見晴らしいいところもいいかも。

細野:掘りがいのあるまちだったね。

本日の一コマ漫画

イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)

こころに残る横浜・野毛の風景

村田のミカタ:かわいい!サボテンのディスプレイ
藤田のミカタ:上手い事言っているけど、一体何の店が全く分からない謎の店