佐々木 敦子
ゲスト
佐々木 敦子 / Sasaki Atsuko
「Lanka.」主宰
20代より看護師として勤務。50代半ばで手織りと出会い 北海道の冬を体験している中から生まれたストールの制作を始める。2020年、娘とともにLANKAを立ち上げ、道内の百貨店や小樽で展示会を開催。2023年道外のクラフト展出展を機に活動の場を広げる。自然素材の糸で気持ちの良い風合い、色彩にこだわり、日々の暮らしに寄り添う手織り作品を制作している。
村田 あやこ
記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
細野 鴨
編集・撮影
細野 鴨 / Hosono Kamo
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

看護師としての長年のキャリアを経て、50代で織物作家の道へと進んだ佐々木 敦子(ささき・あつこ)さん。織物ブランド「Lanka.」を立ち上げ、娘の渡来 摩愛(わたらい まい)さんや友人たちのサポートのもと、自らの手で織り上げたストールを北海道から全国各地に届けています。
「織る時間はご褒美」と語る、佐々木さん。
思い切って進んだ作家としてのセカンドキャリアで、人との縁を紡ぎながら、新たな世界をどんどんと広げていらっしゃいます。
好きなことと出会い、それを形にしていく喜びについて、お話を伺いました。

50代で始まった、人生の第二章

──50代で手織りの道に入られたと伺いました。手織りの道に進もうと思ったきっかけについて伺えますか?

佐々木さん:30年近く看護師として働いてきたんですが、55歳のときに長く勤めていた病院が閉院になったんです。ふと立ち止まって「これからの人生をどう生きたいだろう」と考えました。今後60代、70代と歳を重ねていくなかで、本当に好きなことを始めたいなと思ったんです。
妹とは以前から、「お互いの好きなことを活かして、いつか一緒になにかできたらいいね」と話していました。
あらためて自分の好きなものを振り返ると、肌に負担がなく心地良い天然素材の衣類に惹かれることに気づいたんです。
「まずはつくり方を習いに行こう!」と、最初は洋裁教室に通いました。ところが、妹がどんどん上達する一方、洋裁が苦手な私はなかなかうまくいかなくて。先生に「あなたは洋裁に向いていない」とまで言われてしまいました。

そんなとき、百貨店で若い作家さんの手織り作品を見かけ、織り目の美しさに魅了されて、「私も織ってみたい」と思ったんです。その作家さんに先生を紹介していただいたのが、手織りとの出会いでした。

──どのようにして、技術を習得されていかれたんでしょうか?

佐々木さん:実は、通い始めて半年も経たないうちに先生が急逝されてしまったんです。機織り機の使い方も十分に覚えておらず途方に暮れていたところ、別の生徒さんが声をかけてくださって。そこから月に一度集まる手織りのグループに参加するようになりました。
私は今65歳ですが、その会では一番若手。手織りのみならず帽子づくりや洋裁など、ものづくりを極めたベテランの先輩方に教えていただきながら、少しずつ手織りを習得していきました。

佐々木さんの制作部屋にある、大きな機織り機を見せていただきました。

──ものづくり仲間の皆さんとの交流を通して、学びを深めていかれたんですね。

佐々木さん:十分にスキルをお持ちなのに、70代、80代になって籠づくりなど新たなテーマに挑戦される方もいらっしゃって。年齢なんて関係なく日々チャレンジし続けている先輩方に、エネルギーをたくさんいただいていますね。

──ご自身が「つくる側」になってみたことで、どのような発見がありましたか?

佐々木さん:お店には売っていない唯一無二のものを家族や友人にプレゼントできることが嬉しいですね。洋裁はだめだったけど、手織りはできた。それもすごく嬉しかったです。

娘たちとともに立ち上げた織物ブランド「Lanka.」

──「Lanka.」立ち上げのきっかけについて、教えてください。

佐々木さん:ストールが織れるようになったのが嬉しくて、夢中でつくっていったら、家中ストールだらけになってしまって(笑)。娘にプレゼントすると、最初は喜んでくれていましたが、あるとき真剣な顔で「そんなにつくってどうするの?」と言われたんです。
「北海道だけじゃなく、もっと色々な地域の人に、私がつくったストールを見てもらいたい」と伝えたところ、「ただつくっているだけでは誰も気づいてもらえないんだよ」と言ってくれて。

(画像提供Lanka.)「Lanka.」チームのみなさん。左から、ハッチさん(フォトグラファー)、馬場 慶子さん(妹さん、販売サポート)、摩愛さん(娘さん、ディレクション)、佐々木さん、吉橋 稚乃さん(クリエイティブデザイナー)。また、ご友人である久保田 明子さんがバック造りサポートを担っています。

──娘さまの一言が、きっかけになったんですね。

佐々木さん:娘は空間デザインや、撮影の仕事に関わっているんです。後々Lanka.のメンバーになってくれる娘の幼馴染である稚乃さんが、「あなたがお母さんを手伝ってあげればいいじゃない」と背中を押してくれたそうです。
そしてブランド「Lanka.」を立ち上げることになりました。

今は、私が制作を担当し、娘がSNS発信、稚乃さんがパッケージや空間演出を担当してくれています。若い二人の力がなければ、今の活動はありませんでした。本当に感謝しています。

(画像提供Lanka.)「Lanka.」はフィンランド語で「糸」の意味。名前を考える際、稚乃さんが「糸」や佐々木さんの思いに重なる言葉をいくつか調べて提案、その中から佐々木さんが選んだものです。

──最初はどのようにして活動を重ねていかれたのでしょうか。

佐々木さん:娘たちから「今はInstagramで作品を知る人が多いから、まずはきちんと写真を撮ったほうがいいよ」とアドバイスをもらったんです。
そこで、娘たちの知り合いのご縁を辿って場所をお借りし、ハッチさんに作品を撮影していただきました。自分の作品が素敵な空間の中で美しく撮影されていく様子を見て、感激しましたね。夢のような一日でした。

(画像提供Lanka.)
(画像提供Lanka.)

──そのお写真を使った発信、反響はいかがでしたか?

佐々木さん:百貨店やものづくりの作家さんからイベントを持ちかけられるなど、早速反応をいただいて驚きました。信じられないくらい嬉しくて、飛び跳ねたくなるような気持ちでしたね。そこから少しずつ、活動の幅が広がっていきました。

(画像提供Lanka.)

──「好き」で始めたことが、少しずつお仕事へ。気持ちの変化はありましたか?

佐々木さん:もともとは、自分がつくりたいものをただつくっていただけでした。だから最初は、「私なんかがつくったものに、値段をつけていいのかな」という不安もあったんです。
そんなときも、「こんなに素敵な作品なんだから、自信を持たなきゃだめだよ」と、娘たちが背中を押してくれました。

二人ともアイデアが豊富で、考え方も柔軟なんです。例えば、ネクタイくらい細いストールを見て、「頭に巻いてみたら素敵じゃない?」と提案してくれたことがありました。私には思いつかない発想で、新鮮でしたね。
世代の違う二人と一緒に活動することで、自分一人では見えなかった世界が広がりました。新しい視点をもらえることが、自信にもつながっています。

織る時間はご褒美

──作品づくりで、大切にしていることは何ですか?

佐々木さん:手織りの大先輩から、「手織りは準備が7割で、織りは3割。織る段階はご褒美だよ」と教えていただいたことがあります。
本当にその通りで、準備にはとても時間がかかるんです。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が何本必要かを計算し、必要な数百本の糸を整糸し、1本づつ織り機に通し、結ぶ作業を繰り返します。細かな作業の連続なので、無心になって向き合います。

準備が終わり、ようやく緯糸が通せる段階になると、そこからはご褒美の時間です。

私は、「織り手のエネルギーが作品に宿る」と信じています。できるだけマイナス感情を持たず、穏やかな気持ちで織るように心がけています。
織り始める前は頭の中が色々なことでいっぱいでも、織っているうちに不思議と忘れてしまうんです。楽しい気持ちで織った作品の方が、手に取った方にも何か伝わるものがあるのではないかと思っています。

──制作の中で、一番楽しい瞬間はどんなときですか?

佐々木さん:織っている最中は、自分が今織っている部分しか見えません。織り終えた後、機織り機から作品をシュルシュルと取り出した瞬間に、初めて全体像が見えるんです。
その瞬間が一番楽しいですね。思い描いていた通りの色になっていたり、経糸と緯糸の組み合わせによって予想もしなかった表情が生まれていたり。完成した姿を見るたびに新しい発見があります。
制作中は、「どんなふうに仕上がるんだろう」とワクワクしながら織っています。

──作品の色合いも印象的です。糸はどのようにして選んでいるのでしょうか。

佐々木さん:私が住む北海道は冬が長く、冬になると黒やグレーを身にまとう人が多くなりがちです。だから冬物のストールをつくるときは、落ち着いた装いに自然に馴染みながらも、身に付けると気持ちが明るくなるような色合わせを意識しています。
春物のストールは冬の間に織ることが多いのですが、黄緑やロイヤルブルー、オレンジなど、自然と鮮やかな色を選んでしまいます。きっと私自身が、春の訪れを待ち望んでいるんでしょうね。

糸屋で質感に惹かれた糸を手に取り、そこから配色を考える。ウールの刺激が苦手な方のことも思いながら、自身の首に当てて肌当たりを確かめてから素材を選ぶそうです。

誰かの日常に寄り添う1枚を

──つくったものを誰かが身につけている姿を想像するとき、どんな光景が浮かびますか?

佐々木さん:少し変わったたとえかもしれませんが、冬の満員電車で、私のストールを巻いた方がドア付近に立っている様子を、ホームのベンチからそっと眺めているような場面を思い浮かべることがあります。

その方とストールが自然に溶け合って、美しい佇まいになっていたらいいなと思うんです。そんな光景を想像しながら織っています。

──身につけている方の装いまで、具体的に思い描いていらっしゃるのですね。

佐々木さん:そうですね。取ってつけたような存在ではなく、まるで以前からその方が持っていたかのように自然と馴染んで、日常使いしていただけたら嬉しいですね。

手織りを始める少し前、40代後半の頃に私生活で大きな変化がありました。当時、自分自身を整えるためにセルフケアに取り組み、その一環としてオーラソーマ(イギリス発祥のカラーケアシステム)を学んでいた時期があったんです。
オーラソーマには、「自分が惹かれる色は、自分の内面を映し出している」という考え方があります。その経験を通して、色が人の気持ちに与える影響について考えるようになりました。

例えば、白い糸を織っているときはどこか神聖な気持ちになりますし、グリーンの糸に触れていると呼吸が楽になるような感覚があります。
あくまで私自身の感覚ではありますが、お客さまがストールを手にしたとき、その色から何か前向きなものを感じ取ってもらえたらいいなと思っています。

(画像提供Lanka.)vokkoさま(滋賀県彦根市)でのポップアップの様子
(画像提供Lanka.)vokkoさま(滋賀県彦根市)でのポップアップの様子
(画像提供Lanka.)小樽ゆるり庵さま(北海道小樽市)でのポップアップの様子
(画像提供Lanka.)小樽ゆるり庵さま(北海道小樽市)でのポップアップの様子

──長く携わってこられた医療の世界から、ものづくりの世界へ。どんな変化を感じていますか?

佐々木さん:これまで医療の世界しか知らなかったので、新たに始めるなら、あえて医療とはかけ離れたものにしたいなと思ったんです。まったく別の世界に飛び込んで、それまでとは、違う世界の人たちとも出会いたかった。
その思いの通り、以前の仕事とはガラッと違う世界を楽しんでいます。

織っている時間は、静かな部屋で黙々と作業を続ける、とても静かな時間です。一方、ポップアップショップや展示会に出ると、たくさんの方と出会うことができる。その「静」と「動」の両方があるところも、この仕事の魅力だと思っています。
催事のときは、できるだけ店頭に立つようにしています。お客さまと直接お話しながら、色や素材のこと、作品づくりへの思いを自分の言葉でお伝えできる瞬間は、大きな喜びを感じていますね。

鳥のオブジェや花など、おうちの中をお気に入りのもので好きなように飾り付けするのが、至福のひとときだという佐々木さん。お茶を飲みながら好きなものを見ている瞬間は、ご機嫌になるそうです。

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