#17 伊豆編 <後編>
まちのミカタ、今回はゲストをお迎えした特別出張版! 遠征!静岡県下田市へ! 大地の成り立ちを目で見て感じられる伊豆半島で、ダイナミックな景色をお菓子で表現した「ジオ菓子」を開発、大地の魅力を伝える活動に従事する「ジオガシ旅行団」鈴木 美智子さんをゲストにお迎えし、下田のまちや大地を巡り歩きました。
創業46年のうどん店「合掌」でアイスコーヒー
前編では、下田のペリーロードからなにげなく登っていった階段の先で、植物に包み込まれた廃ホテルや、大地がむき出しの洞窟風呂跡などのダイナミックな遺構に出会った一行。 洞窟風呂の先へさらに進むと、コバルトブルーの海が見えてきました 。
細野 :すごーい!
藤田 :気持ちいいね〜。
村田 :見晴らしが最高だ。ヤッホー!
藤田 :こういうところに別荘がほしいな。
村田 :海沿いにはホテルとかワーケーションができる施設もあるね。こんなところに滞在できたらいいなあ。
海のそばに「関西風手打ちうどん・そばと珈琲の店」という看板の出たお店を発見。ちょうど歩き疲れて喉が乾いていたので、立ち寄っていくことにしました。
関西風手打 うどん そばと珈琲の店 合掌(下田市3丁目26-27)
店主さん :どこでも好きなとこ座ってええよ。
藤田 :コーヒーだけでも大丈夫ですか?
店主さん :大丈夫ですよ。
大阪弁の明るい店主さんが出迎えてくれました。店内は民芸調の落ち着いた雰囲気です。
店主さん :アイスコーヒーは3種類あるんですよ。よく冷えてるのと、普通のと、あまり冷えてないのと。
藤田 ・村田 :よく冷えてるのがいいです(笑)。
店主さん :ほんまによく冷えてるのでええんやね。
村田 :はい、お願いします!
店主さん :ほんまやな。ありがとう。
藤田 :なんで?
店主さん :よく冷えてるいうことはな、氷がいっぱい。コーヒーがちょっとでええねん。
村田 :コーヒーもいっぱい入れてください。
店主さん :いやー、冷えとるほうがうまいで〜。
「お客さんのいうとおりにさせていただきました」と、深々とおじきしながら、アイスコーヒーを持ってきてくれた店主さん。ほんのり甘く冷たいコーヒーが歩き疲れた体に染み渡ります。
村田 :いやー、暑かったからコーヒー飲むと元気出る〜。
店主さん :おいしいやろ。ダイドーのやけど。
藤田 :いわなきゃいいのに(笑)。
店主さん :ええねん別に。
今年で創業46年という「合掌」さんは、関西風のうどんすきが人気のお店。土地柄、旅行で伊豆に訪れた俳優さんなどの著名人もちょくちょく来店されるそうで、「その席にはいつも○○さんが座っている」など、豪華な面々のお名前がどんどん登場しました。
藤田 :いやー、一日中気持ちいいな。
村田 :風も気持ちよくて。
細野 :いい天気でよかったね。
藤田 :道をまっすぐにしか歩いてないのに、いろんな出来事があったね。
鈴木 :ペリーロードの、あの階段から別世界に踏み入ったね。
村田 :巨大サボテンに、猫に……
藤田 :そしてこのお店にたどり着いた。
お店の裏には立派なビワの木。
他のお客さまからホットコーヒーまでごちそうになってしまい、すっかり元気をチャージできた一行。店を出て再び歩きだすことにしました。
村田 :おいしかったです、ごちそうさまでした。
藤田 :また来ます。
店主さん :気をつけてね。
「おれ、昔はイケメンだったんやで」という店主さん。昔の写真と一緒に記念撮影しました。照れた店主さんは奥にいます。
フリーマーケットに吸い寄せられるSABOTENS
「合掌」さんを後にし、しばらく歩くと、再び先程のペリーロードへと戻ってきました。通り沿いのお店の壁面では、ブーゲンビリアが満開!
村田 :うわー、きれい。
藤田 :『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)に登場するみどりさんが住んでそう。
村田 :たしかに! 「歌声喫茶 旅路」だ。
鈴木 :ここにポスターもありますよ。「ママが育てたブーゲンビリア」だって。
村田 :約30歳なんですね。
細野 :どうやったらここまで育つんだろう。
村田 :夢みたいにきれいだね。満開じゃ。
村田 :蔵を使ったカフェもある。
鈴木 :ここに使われている石は、さっきの洞窟風呂で使われていた石に似てますね。ああやって切り出したものが、まち中の建物に使われているということですね。
村田 :なるほど、石切場で切ったものが使われているんだ。
鈴木 :よく見ると地層が見えますね。模様がかっこいい。
村田 :川を眺めながらビールを飲んだら最高だろうな。
川沿いを歩いていくと、フリーマーケットを発見! フリーマーケット好きのSABOTENSは、吸い寄せられるように立ち止まります。
藤田 :見て、フリーマーケットだよ!
村田 :カップ、かわいい〜。
店主さん :かわいいでしょ。
箸置きにカップ、石、ブローチ、学校のバッヂ……さまざまな商品が「だいたい500円」という破格のお値段。店頭に並んでいるものに次々と目移りしてしまいます。
藤田 :この石もいいなあ。最近、石に惹かれちゃって。
店主さん :なぜか中学生は石好きで、石を買ってくよ。
藤田 :私も心は中学生かもしれません……いい歳こいてるけど(笑)。
村田 :石はいいよね。
藤田 :このバッヂもかわいい。謎の造形だけど。
店主さん :謎のもん、いいよねえ。
藤田 :謎のもんって最高ですよね。
よっちゃんは石やブローチを購入。
店主さん :仕事をしながら、週末だけフリーマーケットを開いているんですよ。
藤田 :じゃあ今日来れたのはご縁ですね。
村田 :昨日だったら開いてなかったもんね。
藤田 :ありがとうございます。
村田 :いい買い物ができてよかったです。
店主さん :気をつけてね。
村田 :また来ます。
なんと店主さんには、SABOTENSのYouTubeのチャンネル登録までしていただきました。ありがとうございます!フィリピンにいらっしゃるという息子さんのYouTubeチャンネルは、こちらです。
ボホールだより
ダイナミックな砂の化石! ジオ菓子の舞台のひとつ・弁天島へ
わずかな移動距離ながら、いろんな人やものに出会い、下田のまちを満喫した一行。最後は、ジオ菓子のもとになった地のひとつ「弁天島」へ向かいます。市街地から車を走らせること約10分、むき出しの岩壁とその上にこんもりと繁る草木が見えてきました。
細野 :ついた〜! 最後の地。
村田 :大迫力! すごいね。
藤田 :ここに来ないと終われないね。
村田 :伊豆に来たからには、大地の美しさを味わって帰らないとね。
細野 :ここはどういう場所なんですか?
鈴木 :吉田 松陰(よしだ・しょういん)先生が弟子の金子 重之輔(かねこ・しげのすけ)先生と共に、世界に飛び立ちたいっていう思いで、黒船を目がけて漕ぎ出していった場所なんです。
藤田 :看板の絵みたいな船(小さな木造和舟)でいったのか。
細野 :心もとなさすぎるね……
鈴木 :村の人に舟を貸してくださいといっても、誰も貸してくれなかったの。それで、櫓(ろ)を付ける部分が壊れていた舟を拾って、ここ弁天島から漕ぎ出していったんです。
村田 :すごい話だな。こんな小舟で軍艦に向かっていくなんて。
藤田 :怖いね。しびれるぜ!
鈴木 :言葉も通じるかわからず、受け入れてくれるかどうかもわからないし、国に対しては罪を犯してるということ。それでも向かっていったんです。
藤田 :熱いな。行動力の塊だ。
鈴木 :そのあと松陰先生はペリー提督に丁重に送り返されて、自ら「私は法を犯すことをしました」と自首し、下田の内陸部の牢に入ったんです。ただ、ペリー提督は恩赦がきくようにと配慮もしてくれたそうです。スマートですよね。
鈴木さんの解説より、歴史上の壮大なストーリーへ思いを馳せながら、松陰先生が目指した海の向こうとは反対側にある弁天島へと歩を進めます。
村田 :これが弁天島か〜。
鈴木 :触ってもらうとポロポロと崩れるように、(この地層
は)結構もろいんです。島の上には植物が生えています。木の根っこがゆっくりゆっくり伸びていって、隙間に侵食して。植物の強さを感じられる場所でもあります。
村田 :よくあんなところから生えるな!
村田 :パイ生地みたいな地形!
藤田 :サクサクしておいしそう。
鈴木 :そのとおり。……はい、これをみなさんにお渡しします。
そういうと鈴木さんが、ここ弁天島の地形をモチーフにしたジオ菓子をプレゼントしてくださいました。弁天島の「斜交層理」という地形をパイで忠実に表したお菓子です。
藤田 ・村田 :やったー!
鈴木 :まさに、この場所を切り取ったお菓子です。
村田 :再現度がすごい! 「斜交層理」は、どういう地形なんでしょうか?
鈴木 :文字の通り、斜めに交差して層になっている地形なんですが、よく見ると斜めの層と水平の層が積み重なっています。浅い海で波がつくった砂の模様が、そのまま化石になった場所なんです。
村田 :砂が化石で残るなんて、不思議ですね。
「斜交層理」をはじめとする、ジオガシはこちら から購入できます!
村田 :斜交層理をお菓子にするときに、苦労した点はありますか?
鈴木 :このお菓子は、仕込みに4日くらいかかるんですよ。なおかつ、広がり具合がパイの状態によって毎回違うから、想定外の大きさになったり伸びなかったり。
藤田 :選りすぐりのものがお菓子になっているんだ。
鈴木 :そうです。失敗したのは全部私のお腹に入るの。
藤田 :すごすぎる!
鈴木 :パイの裏側は、紅茶のアイシングになっています。初代のハリス領事館が下田に来たとき、お土産で紅茶を持ってきてくれて、それが日本に紅茶が入ってきた最初といわれています。その史実をもとに下田の人が地元で栽培している下田紅茶を、アイシングにも使っています。
村田 :なんと、歴史もお菓子に詰まっているんですね。地形が再現され、地元のゆかりのものが使われていて、かつおいしい。
藤田 :アイシングがあることによって強度が増しますよね。
鈴木 :よく気づきましたね! さすが。そうなの。
藤田 :すべての要素が入っていてすごいです。
鈴木 :嬉しい。ありがとうございます。アイシングをしないと本当にもろいから、すぐに割れちゃうんです。試行錯誤する中でアイシングにたどり着いて、下田に関連するものってなんだろうと思って、それで「下田紅茶だ」って。
鈴木さんにいざなわれ、海の上から弁天島の地形を観察します。
鈴木 :遠くから見るとうねうねしているのが見えますか? 生き物が歩いた跡なんですよ。
藤田 :えー!
鈴木 :「生痕化石」といいます。
村田 :生き物が歩いた跡がそのまま化石で残っているんですね。おもしろい!
鈴木 :うにや二枚貝の化石が混ざっていたりもします。それを見つけるのもおもしろいですよ。
裏手に回り込むと、海を望むように下田龍神宮が。お参りしていくことにしました。
鈴木 :時代ごとの地層がレイヤーに重なってできてるんですね。そして植生を見ていると、自然の力強さを感じます。伊豆の山は、ほとんどが火山の噴出物が堆積したものでできています。海の向こうに見えている山々も、薄い土の上に木が少しずつ根っこを伸ばし岩を砕いていって、山の植生ができていったんです。
藤田 :近くにいったら、根っこむき出しみたいな感じなんですか?
鈴木 :そうそう。台風の時に倒れているのを見ると、根が板のような状態で倒れているんです。
村田 :根っこの島だ。
藤田 :虫だろうが植物だろうが、生きるのは大変ってことだね。みんな必死。
鈴木 :あの下田湾の沖にいた黒船を目指して、ここから漕いでいったんだと思います。
藤田 :あんな小さい、頼りない船で。距離にしたらめちゃくちゃ遠いよね。
村田 :大変だっただろうね、手漕ぎで。
鈴木 :いま黒船は見えないけれど、同じような景色を見ていたんだなと思うと、ちょっとタイムスリップをした気分。
村田 :ほんとですね。しかもその時の地形が残っていると、当時の風景をよりリアルに感じられますね。
鈴木 :そうそう、それがおもしろいところだよね。タイムマシーンがいらない。
藤田 :思いを馳せて。
最後はジオ菓子をいただきつつ、今日のお散歩を振り返ります。
藤田 :濃厚な一日だったね。植物そのものや園芸も、東京とはちょっと違って、海の近くの元気さや強さを感じられたね。
村田 :地元の個性豊かな方たちとも出会えて……たった一日の出来事だったのかっていう幻のような感じ。
藤田 :最後にジオ菓子を食べながら地形を見るっていう、クライマックス。めちゃくちゃおいしいです!
村田 :アイシングが効いてるね。バターの香りもふわっと漂って、おいしい。
細野 :また来ます。
鈴木 :また来てね! 今日はほんの入口だったから。
藤田 :一泊で来たいね。夜に飲んで。
村田 :第二弾、第三弾をやりましょう。
本日の一コマ漫画
イラスト/藤田 泰実(落ちもん写真収集家)
心に残る下田の風景
村田のミカタ :「合掌さんは、紙ナプキンもキュートでした。」
藤田のミカタ :「地域性が出るらしい海藻の干し方」
■ 著者プロフィール
SABOTENS (さぼてんず)
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実 (よっちゃん) と、「路上園芸学会」の村田 あやこ (あやちゃん) による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。
ジオガシ旅行団 鈴木 美智子(すずき・みちこ)
1971年、静岡県生まれ。多摩美術大学卒業後、東京の広告代理店でデザイナーとして活躍。2007年、ふるさと伊豆半島に関する仕事がしたいと、南伊豆町に移住。2012年、伊豆の美しい風景を切り取ってお菓子化し、現地へ誘う体験型お土産ツール「ジオ菓子」を制作。ジオ菓子を携えてその場所を楽しむツアーを行う「ジオガシ旅行団」を設立、現在、代表を務める。
お知らせ お散歩動画公開中!
「SABOTENSちゃんねる 」では、過去の「まちのミカタ」の取材中に撮影した動画を少しずつアップしています。ぜひお暇な時にでもご覧ください!
VIDEO
「まちのミカタ(新大久保編)」
●取材/SABOTENS ●執筆/村田 あやこ ●編集・お散歩見守り役/細野 由季恵