出産を機に、子どもの頃から好きだった手仕事への思いが再燃し、日用品づくりを始めたという稻田はるなさん。草木染めとロウ引きを組み合わせ、二つとして同じ表情のないバッグを制作されています。その背景にある、ものづくりへのあたたかな姿勢をうかがいました。

ある時、子どもと一緒に参加した玉ねぎ染めのワークショップで、初めて草木染めを体験したんです。同じように染めてもみんなそれぞれ違う出来栄えに、「これは面白い」と心が動かされました。日用品づくりや化学染料での染色など、それまでの体験がひとつひとつ自然につながり、草木染めロウ引きバッグ「haruna inada」へと結びついていきました。

草木染めの魅力は、洗練された化学染料とは違い、けっして毎回同じ色には染まらないこと。その移ろい定まらないプリミティブな色を、バッグに落とし込むにはどうすればよいのか。現代的なデザインと組み合わせても違和感がなく、経年変化を楽しみながら長く使えるものにしたい。そんな想いで試行錯誤を繰り返した結果、染めあがった生地に蜜ろうを引くことで色が鮮やかな状態で定着し、二つとして同じ表情のないバッグが生まれました。知識をさらに深めるべく4年間草木染めを学び、2020年から販売を始めています。

最初は「この色を染めてみたい」という気持ちのままに染めていました。草木染めは紫外線に弱く、色が移ろっていく。そのゆらぎの儚さに魅力を感じる反面、経年変化をバッグとして成立させたいという気持ちもあり、最近では耐久性のある色を選んで染めることが多くなっています。
嬉しいことに染色をしていると、剪定したミモザや梅の木、アボカドの皮や種など、染料となるものを貯めておいてくれる人もいらっしゃいます。季節の一期一会を大切にしながら、染め続けています。

染料ミモザ

つくることは、表現であり、出会いでもある

子どもの頃からの好きなものづくりを、今も続けられていることが一番の幸せです。「誰かのこと」を思い浮かべながらつくってきたことが人とのご縁を繋いでくれて、今の私があります。自分のことを話すのはあまり得意ではないので、つくることは表現であり、人と出会うためのものであり、なくてはならない存在です。

同じ工程を繰り返し制作していると、無意識のうちに流れ作業になってしまうことがあります。同じ染料で染めても、同じようには染まらない。色のゆらぎや布の表情、染めている時間の微かな違いにきちんと反応できる自分でありたいと思っています。また制作では、誰かの存在を思い浮かべることも大切にしています。使うひとの時間や気持ちに寄り添えるものになればいい。そのためには、常に好奇心を持ち続けるように心がけています。

布を染液にくぐらせる時。何色にも染まっていない布が、ゆっくりと色を吸収していく時間は、いつも新鮮さと驚きがあり刺激的です。ロウを引き終わり、バッグを広げる瞬間。柔らかな布がロウを引くことによりハリ感が生まれ、新しい形となって立ち上がっていきます。その変化が面白くて、ロウを引き続けています。

手仕事の背景ごと、受け取ってもらえる喜び

草木染めロウ引きバッグは「Reji」から始まりました。誰もが一度は使ったことのあるレジ袋の形なら、親近感を持ってもらえるのではと思い選んだ形です。ロウ引きならではのハリ感がある時はその表情を楽しみ、使っていくうちにブロード生地は手触りよく柔らかくなる。折りたたんでサブバッグとして持ってくださる方もいて、それぞれのスタイルで自由に取り入れてもらえることが嬉しいです。

以前、着物好きの年配の女性が作品を手に取った時、最初は少し迷われている様子でした。そこで布を染めること、ロウを引く工程、ひとつずつ手で重ねていることをお話しすると、「話を聞いて、納得しました。」と涙を浮かべてくださいました。手仕事の背景や積み重ねた時間まで受け取っていただけたことが、心に残っています。

これから先も、変わらずつくり続けていきたい。暮らしの中で楽しみながら、新鮮な気持ちで。その積み重ねの先に、思いもよらない景色があるような気がしています。

ポップアップのお知らせ

haruna inadaさんの作品を直接手に取れる機会のご紹介です。

日時:2026年10月9日(金)〜10月20日(火)
場所:鎌倉のギャラリーショップ | amanai(鎌倉市由比ガ浜3丁目1−2)
詳細はインスタグラムをご確認ください。
☑ Instagram @amanai

haruna inada/草木染めロウ引きバッグ
ひとつひとつ手染めした生地に蜜蝋を引き、バッグを制作しています。草木がもつ柔らかな色と、ロウ引きによるハリのある質感が特徴です。使いながら、時とともに変化していく心地よさを大切にものづくりをしています。
☑ Instagram @hi.harunainada