Tokyo Birthdays  

リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある

私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。

東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。

#24 「私の」住むまちは、「誰かの」住むまち。


東京は、私にとっていつも「誰か」の住んでいるまちだった。

憧れの有名人が本当に存在しているまち。
上京した先輩方がキラキラと働くまち。
昔付き合っていた彼のアパートがあるまち。

 そんな東京が、この春から「私の」住むまちになった。

私が住んでいるのは、
古着屋さんとバンドマンと役者の卵と色濃い人たちが集まる、
高円寺。

 何故ここに住もうと思ったのか。
理由は、今となってはよく分からない。
好きな写真家さんが住んでいたり、
たまたまロフト付きの気に入った部屋が見つかったり、理由はそんな程度のものだったと思う。 

特に思い入れのないまちでの生活の始まり。
それが、今年の4月の初め。
あ、言い忘れていたのだけれど、私はいわゆる出不精だ。
近所のおすすめスポットをこまめにチェック、なんて夢のまた夢。
後輩が遊びに来ても、未だにおすすめのお店一つ紹介できない。無念。
いや、そんなに無念とも思ってないところが、一番タチが悪い。
あぁ、無念。

 でも、このまちについてそんなに知らない割に、私は高円寺が好きだ。
引っ越すつもりは当分ない。 

せいぜい家から半径1kmぐらいしかうろうろしたことはないけれど、このまちには、「誰か」の生活が、時間が、記憶が、いたるところに存在していると思う。

駐車場に落ちた寂しそうなタバコ。
誰が掛けたのかも分からない、フェンスにぶら下がる自転車の鍵。
道に無造作に投げられたゴミ袋。
ベランダに並ぶ、くたっと疲れたTシャツ。
玄関に並べられた、沢山の植木鉢。
電信柱に貼られた、謎のシール。

私達は、
日々目まぐるしく朝を迎えてしまう。
金曜日が来たと思ったら月曜日が来て、
あっという間に次の金曜日で。
自分の世界の中で、いつもいっぱいいっぱいだ。

 あぁ、今日もあれができなかったな。
そういえば明日、会議があったんだった。
昨日のあの人の表情は、一体何だったんだろうか。

 ぐるぐる考えながら電車を降りて、トボトボ歩く帰り道。
ふと目に留まる、「誰か」の足跡達。 

あぁ、ここに居るのは「私だけ」じゃ無いんだな。

そう気づいて、私はまた少し救われる。

 住んでいるからといって
このまちに詳しくなったわけでは、ない。
芸能人には、今のところまだ会えないし
働くことは思ったよりキラキラはしていない。
それに結局、未だに遠距離恋愛だ。

 それでもここが、高円寺が「私の」住むまちだ。

 「私の」住むまちは、やっぱり今でも「誰か」の住むまち。

 

Ιスポットデータ
高円寺

■プロフィール■
文、写真 / 山崎嘉那子
自己紹介が、書けません。境界線を見つめながら生きている社会人。演劇したり、絵を描いたり、写真を撮ったり、文字を書いたり、ヨガをしたり。自分が生きていることを社会に刻んでいます。コルクラボ所属。