村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『た のしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。「散歩の達人」等で連載中。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。
佐々木 知幸
ゲスト
佐々木 知幸 / SASAKI Tomoyuki
ネイチャーガイド、造園家、樹木医
ネイチャーガイド、造園家、樹木医。1980年埼玉県生まれ千葉県育ち。千葉大園芸学 部緑地・環境学科緑地生態学研究室卒。都市に生物多様性をもたらす庭づくり&ランドスケープデザイン。北鎌倉たからの庭みちくさ部長/ハルメク花さんぽ講師。
細野 鴨
細野/撮影・編集した人
細野 鴨 / Hosono Kamo
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

まちのミカタ。今回は、ネイチャーガイド・造園家・樹木医の佐々木知幸さんをゲストにお迎えしました!散歩の舞台は渋谷〜恵比寿。2026年4月に発売したばかりの佐々木さんの新刊『みちくさ手帳 いつもの道の「あの草なに?」がわかります!』(文一総合出版)を片手に、大都会の片隅で生きる「みちくさ」たちに目を向けながら歩きました。(今回、SABOTENSよっちゃんはお休みです。)

どこからやってきた?ショカツサイ

出発地点は渋谷。佐々木さんと、村田さん

村田:『みちくさ手帳 いつもの道の「あの草なに?」がわかります!』、早速読みました。道ばたで自然と生えた草花だけでなく、樹木やシダ、脱走した園芸植物など、“身近に出会える植物”たちが広くカバーされていて、植物観察の入口としてすごく参考になるなと思いました!

佐々木:まさに新刊でこだわったポイントです。分からない植物があった時に、いろいろな図鑑を見なきゃいけないのは面倒ですよね。

村田:まさに、そうなんです!あとこの本では、草むらとか空き地とか、生息地ごとに特徴的な植物もピックアップされていて、楽しかったです。

ブロックの目地にコケを見つけるふたり

村田:渋谷の植物たちはどこにいるんだろう……あ、ブロックの目地にコケが!

佐々木:こういう継ぎ目にはコケがいますね。むしろ、こういう目地に生やさないようにする方が大変なんです。

ハルジオンをながめる二人

佐々木:ここにはハルジオンが生えてますね。ハルジオンって、ちぎってみると香りがいいんですよ。ヨモギっぽい香りです。

ハルジオン(春紫苑)(キク科ムカシヨモギ属)
画像提供:佐々木知幸さん

村田:本当だ!爽やかで青臭い香りですね!

佐々木:花が咲くと、甘い香りがするんですよ。

村田:へえ〜!

村田:あ、渋谷川沿いのフェンスについてるのは、フェイクのツタでしょうか。その上の壁には本物のツタ。フェイクとリアルがコラボしてますね!

佐々木:フェイクの植物は、黄色や赤の色素が早めに分解されるから、どんどん青くなっていくんですよ。

村田:へえ〜!こころなしか、フェイクのツタは青みがかっているような。

村田:植え込みには、紫色の花が生えていますね。

佐々木:ショカツサイです。オオアラセイトウやムラサキハナナ、ハナダイコンという別名もあります。「ダイコン」と入っていますが、ダイコンほど立派な根っこにはならないですね。

ショカツサイ(諸葛菜)(アブラナ科ショカツサイ属)
画像提供:村田あやこ

村田:なんで1本だけ生えてるんでしょうか。

佐々木:風で周りから種が飛んでくるだけじゃなくて、植木屋さんの畑に種が混ざっていて、木と一緒に運ばれて植えられる、という場合もあるんです。

村田:へえ〜!そんなパターンもあるんですね!

佐々木:「なんでここにいるの?」っていう植物、実はいろんなところで見かけるんですよ。

都会で輝く草・ニワサキタネツケバナ

佐々木:あ、僕を悩ませ続けた植物がいます。

村田:え!気になります。

佐々木:これはタネツケバナという植物の仲間の、「ニワサキタネツケバナ」です。

村田:『みちくさ手帳』にも載っていますね!

佐々木:タネツケバナの仲間は、街なかでも何種類か見かけることができます。特によく出てくるのが、「ミチタネツケバナ」と「ニワサキタネツケバナ」。ただ当初、ニワサキタネツケバナが何なのかよく分かっていなくて。よく見かけるのにミチタネツケバナとも違うし一体なんだろう……と思っていたんです。

村田:へえー。ミチタネツケバナと、どういう点が違うんでしょうか?

佐々木:たとえば、実の向く方向です。ミチタネツケバナは、まっすぐ上に向かって実をつけるから、「お手上げ!」という感じ。一方でニワサキタネツケバナは、「万歳!」とゴールテープ切るような感じ。

お手上げのミチタネツケバナと万歳のニワサキタネツケバナの気持ちになってみるふたり

佐々木:『みちくさ手帳』をつくるにあたって、「みちくさ」と銘打っているので、道端で出会うものは外せないなと思いました。それで一生懸命調べたところ、謎だった草が「ニワサキタネツケバナ」だとわかったんです。

村田:佐々木さんは、分からない草に出会った時、どうやって調べるんでしょうか?

佐々木:まずは普通の図鑑に当たるんですが、当然すべては載っていません。その次は、都道府県ごとにまとめられている植物誌を確認します。ニワサキタネツケバナは、神奈川の植物誌で見つけました。それでも情報が見つからないときは、詳しい方に聞いています。

村田:へえ〜!ちなみに「ニワサキ」という名前は、文字通り「庭先」が由来なんでしょうか?

佐々木:庭先の鉢植えのように、ちょっとジメジメして土が硬いようなところを好むので、この名前が付いたようです。だから、都会ほど輝くんです。

村田:都会で輝く草!

佐々木:踏まれて硬いところや、エアコンの排水が落ちる場所に生えています。

村田:都会によくありそうな状況ですね。

佐々木:ニワサキタネツケバナがすごいのは、かわいい花が一年中咲いているんですよ。

村田:そうなんですね!

佐々木:おそらく、すごく短いサイクルで咲いては枯れているのだと思います。

3倍体雑種タンポポは西島秀俊さん

佐々木:この木は、葉がテカテカしていて、木の形が面白い。おそらくカワヅザクラですね。

カワヅサクラ(河津桜)(バラ科サクラ属)の葉
画像提供:佐々木知幸さん

村田:ソメイヨシノにカワヅザクラに。桜にはたくさん種類がありますが、見分けるポイントはありますか?

佐々木:葉も重要な要素ですが、最終的には花の周りの形が大事ですね。カワヅザクラについては、葉のツヤ感に加えて、花の周りの苞葉(ほうよう)の形や、お花の萼(がく)も重要です。

村田:そうした膨大な情報をもとにした「検索表」が、頭の中にインプットされているんでしょうか。

佐々木:検索というよりは、いろいろな情報が圧縮されることで、パッと見て「これだ!」と分かるようになります。例えば僕が村田さんに会ったとしても、「メガネをかけていてベレー帽をかぶっているから村田さんだ!」って、いちいち要素を分解しないじゃないですか。

村田:なるほど!何度も接するうちに、特徴がギュッと圧縮されていく。

佐々木:人間でも、あまり会わない人は忘れちゃいます。でもよく会う人であれば、髪型が変わってもその人だと分かりますよね。

村田:植物にも人にも、「よく会う」ことが大事ですね(笑)

村田:あ、タンポポが咲いてますね。『みちくさ手帳』にも、タンポポの見分け方が載っています。

佐々木:タンポポは、最近は雑種が多いんです。パッと見たときに、お刺身に付いてくる食用菊のようなこんもりした花をしているのは、セイヨウタンポポか雑種ですね。またタンポポを見たら、まず裏返してみることがポイントです!

佐々木:花を支える総苞外片という部分がグッと反り返っているのが、セイヨウタンポポ。一方、総苞外片が反り返ってもいないし、ぴたっと花にくっついてもいない、中途半端にもじゃもじゃしたものが、3倍体雑種タンポポです。例えるなら、俳優のムロツヨシさんや西島秀俊さんの髪型です(笑)

村田:一気にイメージできるようになりました(笑)

おしゃれ上級者なセイタカアワダチソウ

村田:いやー、歩き出してわずかな距離だけど、「みちくさ」に注目したら、これだけ見どころがあるとは!ちなみに、本のタイトルに入っている「みちくさ」とは、どんな植物たちのことを指すんでしょうか?

佐々木:そのへんで出会える植物は、みんな「みちくさ」です。命名の由来になったのは、一般の方に自然の楽しさを伝える「みちくさ部」という観察会です。2010年にはじまって、もう16年になりました。

村田:「雑草」という言葉には「邪魔な草」というニュアンスもありますが、「みちくさ」という言葉は、いろんなタイプの草木をフラットにとらえているのがいいですね。

佐々木:もちろん田畑で雑草に困っている方もいらっしゃいます。ただ、あえてフラットに捉えたほうが「この子はこういう子だから」と植物ごとの特徴が分かって、意外と対策が取りやすいのではとも思っています。

村田:渋谷川の護岸にも、いろんな「みちくさ」たちがはみ出していますね。

佐々木:コンクリートのすぐ上にある大谷石がいいですね。境目にユウゲショウが咲いています。

佐々木:面白いのが、護岸の隙間から生えているユキヤナギ。もともと自然の中でも、渓流に生える植物です。奥多摩では、岩の隙間からもじゃーっと生えています。

村田:一方ここは渋谷川。似た環境に生えているんですね!

佐々木:街なかでは公園によく植えられています。おそらく、そういったところから飛んできたんでしょうね。

村田:車道沿いのガードパイプの下は、賑やかですね!

佐々木:雨が降ると、ガードパイプを伝って水が滴り落ちるので、下に植物が生えているんでしょうね。

村田:街路樹の根元。だいぶ賑やかです。

佐々木:笹の仲間ですね。これも植木の土と一緒に運ばれてきた可能性があります。競争相手がいないから、どんどん広がっちゃったのかな。

村田:一箇所、人の形に凹んでいるように見えますね。酔っ払った人が寝ちゃったんでしょうか(笑)

佐々木:そういうとこ、時々あるんですよ。植木がちょっと凹んでいて、絶対にいつも酔っ払いが寝てるじゃん!っていう(笑)

村田:あ、ここもガードパイプの下に!

佐々木:ナズナですね。実は舗装のインターロッキングブロックって、工事の時に道の形に合わせて切って、サイズ調整するんです。でも、どうしても隙間が生まれてしまう。隙間さえあれば、植物は生えるんです。

村田:そこに隙間さえあれば……!

佐々木:ここでは、植えられたものに混ざって、セイタカアワダチソウが生えてますね。

村田:「元からいましたけど」みたいなふりしてますね。

佐々木:こういうふうに、勝手に生えているだけなのに馴染んでいるみちくさがある状態のことを、ほんとは草取りが追いついてないだけなんですけど、、仲間内で「お目が高い」とか「おしゃれ上級者」とか言っています(笑)。

ビルの裏側=じめっとした崖?コケやシダたち

佐々木:あ、ドバトちゃんが休んでますね。植物があると、虫や鳥などの生き物たちもやってくるんです。鳥は植物の実を食べて、種を運んでくれます。植物はなかなか自分では動けないので、どうにかして種を運んでもらうんです。人間も散々運ばされています。

村田:運び屋として……。

村田:あ、なんか生えてますね!

佐々木:アオギリですね。風で種が飛ばされてきたんだと思います。

佐々木:冬芽がかわいいですね。

村田:触り心地がベロア調です。

佐々木:今は減りましたが、昔はアオギリが街路樹として植えられていたんです。……あ、向こうにアオギリがありますね!おそらく植えたものだと思います。

村田:おお!あのアオギリを“発信源”に、こっちに飛んできたんでしょうね。……あ、渋谷川の中で何か作業している人がいますね。

佐々木:洗浄していますね。だからこれだけ川底がすっきり保たれているんですね。

村田:こうやってメンテナンスされてるんですね!

村田:ここでは、フェンスの中でシダがわしゃわしゃ生えてます!

佐々木:シダは、自然界でもこういう暗くてジメジメした場所によく生えています。

村田:その植物が本来好む場所によって、生えている種類が違うのが楽しいです!

佐々木:よく見るとコケミズも生えてますね。コケミズも、例えば鎌倉ではジメジメした水が滴るような崖に生えているんです。一方で都会だと、暗くてどこからか水がしたたってくるような場所。一見すると違うように思えますが、ミクロな環境としては似ているから生えているんですね。

村田:鎌倉の崖と、渋谷のビルの裏側が同じ環境。

佐々木:そこに種さえ来れば生える。

村田:面白いですね!

佐々木:「世界の村で発見!こんなところに日本人」っていうテレビ番組を思い出しますね(笑)

そこに隙間さえあれば……!

村田:まっすぐ歩けば15分くらいの距離。あっという間に1時間以上経ってしまいました。わずかな距離でも「みちくさ」に注目するとこんなに見どころだらけとは!

佐々木:みちくさは、もうどこでも楽しめますからね。

村田:あらためて、佐々木さんの目線で、都心のみちくさを楽しむポイントについて伺えますか?

佐々木:みんながすごく都会だと思っている場所でも、意外と隙間に生えてます。新しいまちの隣には古いまちがあるから、そこではまた違うものが生えている。渋谷というまちでも、想像以上にディープで面白いんです。渋谷でも、新宿でも、大阪でも、仙台でも、みんなそう。みちくさを楽しめば、まち自体も面白く感じるんです。

村田:植物たちを細かく観察すると、少し場所が変わるだけで生えている種類が違うんですね!渋谷というまちひとつとっても、のっぺりと一様ではなく、植物にとっては多様な生息地があるんだなと、解像度が高まりました。

佐々木:再開発の様子を見ると、アイロンで塗りつぶしていくように見えますが、みちくさ目線で見ると、やっぱり隙間はあるんです。

村田:植物目線だと、「よっしゃ!いい場所見つけた!」と勝ち誇ったような気持ちになれますね(笑)。

編集後記(細野):
佐々木さんと一緒にお散歩している途中、私が通う金継ぎの先生がおっしゃっていた言葉を思い出しました。最初は全部同じ器に見えても、さまざまな器を見て、目が慣れてくると、だんだん違いが分かるようになってくる、と。まちの植物でも同じような感覚を味わえるのかと気づいて、ときめきました。
そんなお話しをすると村田さんが「まちのひび割れや隙間を埋めるように生える植物たちは、まさに金継ぎのようでした!」と言ってくださったのも印象的。どんな世界もどこかでつながっているんだなと、しみじみと感じるお散歩でした。

こころに残る渋谷の風景

村田のミカタ:どうやって描いたの?想像が膨らむビルのグラフィティ

村田あやこさん出展作家 金沢21世紀美術館『路上、お邪魔ですか?』展のお知らせ

エントリエの連載「SABOTENS まちのミカタ」でもおなじみの村田あやこさんが、出展作家として参加する展覧会が開催されています。金沢21世紀美術館『路上、お邪魔ですか?』展では、日常のなかにあるささやかな風景や、つい見過ごしてしまいそうな路上の気配に光が当てられています。

会期中、お近くに立ち寄る機会があれば、足を運んでみてください。

【開催概要】
会期:2026年4月25日(土)〜9月6日(日)
時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
※休館日は美術館のホームページをご確認ください。
会場:金沢21世紀美術館 展示室7〜12、14、デザインギャラリー、レクチャーホール
詳細は金沢21世紀美術館公式サイトへ:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=65&d=1852

展示の詳細や見どころについては、村田さんご本人の言葉で綴られたnoteもぜひご覧ください。

SABOTENS
路上観察ユニット

SABOTENS / SABOTENS

2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。

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