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「ワクワクする学びをデザインしていく」VIVISTOP NITOBE 山内佑輔さん | エイミーズトーク #37

エントリエ編集長のエイミーこと鈴木 栄弥が気になる人に、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第37回目のゲストは、新渡戸文化学園 VIVISTOP NITOBEの山内 佑輔(やまうち・ゆうすけ)さんです。

山内 佑輔(やまうち・ゆうすけ)さん

新渡戸文化学園 教諭/VIVISTOP NITOBEチーフクルー/SOZO.Ed副代表/Microsoft Innovative Educator Expert。大学職員時代、数々のイベント・ワークショップ企画の経験を積んだのち、2014年から公立小学校の図工専科の教員に。ワークショップの手法を用いて、子どもたちのクリエイティビティを育む環境をつくりだし、さまざまなアーティストや専門家、企業と連携しながら実社会と学びを繋ぐ授業を実践している。2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVISTOP NITOBEの立ち上げと運営を担当。新しい学びのあり方を模索しながら、授業と放課後の子どもたちの活動を拡張している。

VIVISTOP NITOBE 公式Webサイト

学校の中はもちろん学校の外にも飛び出して、学びの余白をデザインしている山内さん。現在は都内にある新渡戸文化学園に今年9月に新設された学びの場「VIVISTOP NITOBE(ビビストップ ニトベ)」にて、教諭兼VIVISTOPクルーとして活躍しています。山内さんが実践しているという、ワクワクを生み出す学びのデザインとその原点とは? エントリエ編集部は、「VIVISTOP NITOBE」でお話を伺いました。

「人間味を大切にしながら働きたい」小学校の先生という天職

――現在は教諭兼VIVISTOPクルーですが、以前は公立小学校で図工の先生をされていましたよね。経歴が面白いな、と。

山内さん:学生時代から先生になりたいと思っていたものの大学卒業後そのまま先生になるのは嫌で、教育に関われると考え大学職員になりました。9年働きましたが、実際の仕事は事務的な内容がメインで学生と触れ合うことは多くはなくて。「先生になっていたら、今頃自分はどうしていたんだろう」とジレンマを抱えていました。

転機は、産業カウンセラー*の養成講座に通ったこと。そこで毎週約3時間、クライエント役とカウンセラー役を交互に引き受け、話すことを7ヶ月続けました。そうすると嫌っていうくらい自分のがわかってきて。本当は小学校の先生になりたかったと気づいたと同時に、中・高の教員免許しか持っていないことがネックで足が動かなかったと気づいたんです。

*産業カウンセラー……職場でカウンセリングをおこなうカウンセラーのこと

――本来の願いと、不安があったんですね。

山内さん:その頃は息子が生まれたばかりで、「夢を追いなよ」って言えるかっこいいお父さんになりたかった。そうすると自分自身が夢を追えていないのはかっこ悪いと思い、一歩踏み出そうと決意したんです。そのあとは、通信制大学に1年半通って小学校の免許を取り、そのまま東京都の小学校教員採用試験に受かり、小学校の先生としてのキャリアが始まりました。

――なぜ中学や高校ではなく、小学校の先生だったのでしょうか?

山内さん:もともと仕事に対して、「泣いたり笑ったり喜怒哀楽があって、機械みたいにならずに人間味を持ちながら働きたい」という思いが強かったんです。その原点としては、ぼくが小学校を卒業する時に担任の先生が泣いてくれた思い出が影響していて。仕事に対する想いと小学校教員という職業が結びついたというのがあると思います。

――小学校では、図工の先生として6年間勤められていましたよね。美術やデザインは、いつ学んでいたのでしょうか?

山内さん:実は政治経済学部卒業で、美術は全く学んできていません。だから当時はいきなり「図工の先生になって」と言われて驚きましたね。おそらく大学職員時代に経験したイベントプロデューサーや子どもたちの創造・表現力をテーマにさまざまな活動をしているNPO法人 CANVASでワークショップファシリテーターをしていた実績があったからかなと思うのですが……今でも謎です(笑)。

図工を通して、どうワクワクする学びにつなげていくか。最初の数年間は本当に試行錯誤して、デザインを学ぶ教室に通ったりもしました。ここでデザインの切り口を通していろいろな人に関わったことで、図工の可能性はもっと広げられると思ったんです。最終的に、アイデアを実現するために積極的に外部の人たちを巻き込み、授業をするという今のスタイルになっていきました。

「ゴールよりも途中のプロセスが大事」学びのデザインを模索した6年間

――6年間授業をしていく中で、どのような気づきがありましたか?

山内さん:6年間の勤務で、4・5・6年生を担当していたのですが、そこから子どもたちの学びのストーリーが見えてきました。具体的に紹介していきますね。

▷タブレットを見せながら、説明してくれた

山内さん:4年生では、「図工で大切なのは、“自分でひらめく・他の人を驚かす・みんなで面白がる”の3つだよ」と毎回伝えました。そんなことを繰り返して1年経つと、上手い下手は関係ない、失敗を恐れることなく「まずはやってみる」という姿勢になる。

もちろん小学校には、学習指導要領で定められた目標があります。そこは押さえつつ、ぼくはカリキュラムごとに仕切り直すのではなく、題材同士をつなげていく「編集」に近い概念を取り入れた授業の設計を進めていきました。

▷4年生「クギ人間をつくる」

山内さん:例えば、「地図をつくる」・「クギ人間をつくる」・「船をつくる」というそれぞれの題材を「地図を見つけたクギ人間を島に向かわせようよ! どうやったら行ける? そうだ、船が必要だ!」というように。子どもたちは、どんどんストーリーを展開していってくれた。最終的には、船ではなくなって、飛行機だったり水陸両用のトロッコだったり、家をつくる子も出てくるからおもしろい。

▷4年生「船をつくる」

――同じ題材でも、ストーリーでつなげることで表現が豊かになっていくんですね。ユニークで楽しそうです!

山内さん:5年生からはただ楽しむだけじゃなくて、「なぜ図工の授業があるのか」を伝えるように心がけました。「図工では、ひとりで考えてわからなければ、みんなとアイデアを出し合っていいし、出した答えが正解か不正解かという判断がされないことも多いよね」と。

それに、世の中には「1+1=1」のように答えがひとつの問題もあれば、「戦争をなくすにはどうすればいいか?」など答えがひとつとは限らない問題がたくさんある。そのためにはみんなで考えて、これがいいかなと思ったことをまずはやってみることがとても大切。「そんな大事なことを学べる授業ってなに?」って問いかけると、「図工だ!」とみんなが気づく。ここで初めて4年生での学びには価値があるという気づきにも繋がっていくんです。

▷5年生では、「オノマトペのデザイン」も。「校内で見つけた音を、どういう文字の形で表現したらおもしろいんだろう?」という問いから文字をデザインしてもらう。最後は音が聞こえた場所にデザインされたオノマトペの文字を貼っていき、デザインで日々の視点を変える面白さを実感してもらった

山内さん:6年生になると、依頼に近いアプローチで課題解決につながるように授業を進めました。例えば「学校を描く」というテーマに「紙の工場からもらった廃材の紙を活用する」ことを組み合わせて、「捨てられてしまう材料をみんなの力で助けてあげて欲しい」と伝えると、みんなたくさん描いてきてくれる。もちろん、1枚をじっくり描き込む子もいて、それもいい。

みんなすごい集中力で、ぼくが何も言わなくても工夫して取り組み出すんです。子どもたちがどうしたらいいかを自分で考えて、発見して、時に協力しながらつくってくれたのは嬉しかったですね。

▷6年生の2学期は、校内の森の再生に取り組んだ。最初は子どもたちと一緒に土を耕し、土壌改善することからはじめ、まずはたくさん遊ぶ。「どうやったらもっと楽しいが続く?」という問いから、子どもたちはシーソーやブランコ、小屋をつくっていった

――子どもたちが授業に没頭できているんですね。

山内さん:長い期間をかけて信頼関係を築いていかなければ、場だけを設定して「あとは君たちに任せるよ」ということは成立しない。子どもたちがぼくを信頼してくれて、いいレスポンスをしてくれるから、もっといい授業にしようと頑張ることができました。子どもたちが授業をつくってくれているなと感じています。

――子どもの頃、そんな先生のもとで学べたらよかったなと思います。自分たちを尊重し、見守ってくれる安心感があるのかもしれません。

山内さん:ぼく自身、美術教育の観点で評価できないからこそ、子どものつくったものが素直に尊敬できるのかもしれません。卒業生からの手紙に、「山内先生が私たちを対等に見て、尊敬してくれているのが伝わってきました。

私自身になかったのはそこで、友達に対しても敬意を持って接すると、人間関係は変わってくるのだと気づきました」と書いてあり、思わず涙が出ました。子どもたちのクリエイティビティの原点に関われることは、ぼくにとって大切なことなんだと気づかされました。

「余白がたくさんある場で、新しい学びの文化をつくっていきたい」新天地で見つけた可能性

▷「VIVISTOP NITOBE」

――小学校の先生を経て、現在「VIVISTOP NITOBE」に携わるようになったきっかけを教えてください。

山内さん:小学校で先生をやっていた頃、知人の紹介で柏の葉にある活動拠点に伺って、すごくときめきました。一昨年からは一緒にワークショップもやって、すごく楽しくて。小学校を辞めて、ここの会社に入ろうかなと思ったくらいでしたが、学校に勤めることも捨てきれなかったんです。そしたら、VIVISTOPが中野区にある新渡戸文化学園にできるという話を聞き、タイミング良く転職できました。

――今後どのようなことをやっていくのでしょうか?

山内さん:ここは学校での学びから生まれた探究心を、授業や放課後でさらに深められる場として設立されました。ここはさまざまな工具やなどが揃っているので一見ファブスペースとして間違われがちですが、文化づくりの場だと思っています。

年齢や立場の関係なく、ものづくりを通じて世の中とつながりながら、学び合う文化をつくりたいんです。そして、ここがみんなの居場所になるように。未完成な空間で、いろんな使い方を試行錯誤できる余白がたくさんあるんです。

また、新渡戸文化学園に通う小・中・高校生や先生方、外部の人々とどう関わり、どうやって余白のデザインをしていくか。そこにテクノロジーやアート・サイエンスをどう取り込んでアップデートしていくかを試行錯誤することがぼくのミッションです。

――ワクワクしますね。「余白のデザイン」は、山内さんのテーマですがどういうことでしょうか。

山内さん:現在の学校教育は、子どもたちにとって(自由に考えることができる)余白がわずかである場面も少なくありません。「左から右にしかいけません」みたいな道筋まで決められている場面もあると思います。

そうではなく、真っ白なキャンパスのような余白の中に、目的や導入となる「問い」だけをポンと置き、それを解決するための道筋までを自由に考えられる場をデザインすることがぼくのやりたいこと。

「問い」からスタートして、余白の中でウロウロしたり積み上げたり、時には掘ったりしてもいい。ゴールに行けば学びは達成されるのではなくて、そのプロセス自体が学びだと思ってもらえるように、余白をデザインしていきたいです。

――主題に対して、答えを用意するだけでなくプロセスの幅まで考えられているアプローチですね。そのプロセスとなる余白をデザインするときに、どういったことに気をつけていますか?

山内さん:「問い」の出発点の設定と、やってみたいと思える環境づくりとですね。「なんで自分がやらなきゃいけないの?」から自分ごと化してもらうための環境づくりを心がけています。

――「VIVISTOP NITOBE」は、9月に開設されたばかりですが、どんな発見がありましたか?

山内さん:高知県の林業のと連携して、VIVISTOPの椅子を小学5年生とつくったり、コピックという画材の使い方を中学生と考えたりするといった活動もしています。ほかにも教室の本が散乱しているのを見かねた小学4年生の有志の子どもたち数人が、休み時間を使って自分たちで材料を集めて本棚をつくるなど、さVIVISTOPができたことでいろんな流れが出てきています。

文化祭前には高校生もこの場所で竹灯籠づくりに取り組んだり、綿花の種から油をとりたいという中学生が先生と一緒に悩んだり。大人も子どもも共につくり、共に学ぶというこの場でつくりたかった風景が少しずつ見えてきています。

▷放課後からは、VIVITAの笹川 萌(ささがわ・もえ)さんもサポート。2人は学外でも「つくりびととあそびびと」というプロジェクトを行っている

――確かに与えられるのではなく、自分たちで学んで暮らしを持続可能にしていくことがこれからの時代大切かもしれません。可能性のある場だと感じました。

山内さん:ここでは、「大人」は指導者や道具の使い方を教える人ではなく、子どもたちに寄り添う“クルー”と呼ばれます。ぼくも子どもたちとの関わりは先生と生徒というよりも「仲間・同士」みたいな感覚に近いんです。この仕事はぼくにしかできないと信じて、これからも垣根を越えた学びの場をつくっていきたいですね。

山内さんの至福のひとときは「子どもが寝た後のお菓子パーティー」。夫婦でその日あったことや、日中の子どもの様子を伝えあったり、ドラマをみたりしてリラックスしているそうです。

●インタビュー・文 / 宇治田 エリ
●インタビュー・編集 / 細野 由季恵

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