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時間の痕跡を作品に乗せる。デザインスタジオ「余地」主宰​・佐藤 洋美さん | エイミーズトーク #56

エントリエ編集長のエイミーこと鈴木 栄弥が気になる人に、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第56回目のゲストは、デザイナー・コラージュ作家の佐藤 洋美(さとう・ひろみ)さんです。

「絵のように観る時計」をコンセプトに、経年変化した古紙の風合いを活かした一点物の時計を制作する、デザインスタジオ「余地」主宰・佐藤洋美さん。本ウェブマガジンの連載「SABOTENS まちのミカタ#16 霞ケ関(埼玉)編」では、SABOTENSでアトリエにもお邪魔しました。デザイナー・コラージュ作家として活動する佐藤さんに、現在のご活動や、その背後に連なる思いについてお話を伺いました。

▷photo: Joji Suzuki

佐藤 洋美

デザイナー/コラージュ作家

福島県出身。多摩美術大学 造形表現学部卒業後、GRAPHに入社。北川一成に師事。現在デザインスタジオ 余地|yoti 主宰。
高校在学時、環境問題のポスターを制作中に自身が紙のゴミを出していることに矛盾を抱く。それがきっかけで、大学進学後、使われなくなった紙(私にとっては宝)などでコラージュの制作を開始。
GRAPH在籍中より「捨てられない印刷物」づくりに携わってきた一方で、現在は「捨てられた印刷物」も日々蒐集しながら、紙を駆使した手触りのあるデザインを提案。2014年より1点もののコラージュ時計ブランド Time Lagを開始。
最近は、表装と紙漉きに夢中。紙の循環をめざした制作を心がけています。

時間の蓄積そのものを刻んだ時計

▷経年変化で焼けた古紙をコラージュした時計「Time Lag」(photo: Joji Suzuki)

──現在佐藤さんは、デザイナーとしてのご活動のほか、作家としてコラージュ作品も手がけていますね。もともとコラージュをはじめたきっかけはありますか?

佐藤さん:昔から絵を描くのが好きで、高校はデザイン科に進学しました。高校時代に環境問題のポスターを制作中に何度も描き直す中で、紙ゴミをたくさん出してしまったんです。技術取得のために必要な過程ではありましたが、環境問題のポスターをつくりながら机の周りにゴミが増えていくことに矛盾を感じていました。

それがきっかけとなり、その後進学した美術大学で紙やプラスチックごみ、廃材などを使ったコラージュの制作をはじめました。

▷大学時代、海外旅行の道中で出会った紙をコラージュした本(photo: Yuichiro Tamura)

──「Time Lag」という作品では、古紙のコラージュを取り入れた時計を制作されています。学生時代から大切なテーマとして持ち続けていたコラージュが、どのようにして「Time Lag」につながっていったのでしょうか?

佐藤さん:卒業後も継続して、仕事の合間に古い雑誌や使われなくなった紙などを素材に「時間」、特に過去をテーマにしたコラージュの作品を制作していました。2014年に地元の福島で開催した個展では、震災以降に改めて感じていた家族への思いや記憶として残っている景色を制作したのですが、その個展がきっかけで、木工作家さんから、“一緒に時計をつくってみませんか”と声をかけていただいたことが、「Time Lag」のはじまりです。

たとえば古い雑誌からなにかを切り取ったとき、切り抜いた周りの部分にも、数十年かけて自然と生み出された紙焼けのグラデーションが残っています。時計は主に“今の時間”を確認する道具として使われていますが、こうした古紙を使うことで、今だけでなく、過去を回想したり、未来を想像したりと、様々な時間に想いを馳せる時計になると良いなと思いました。

もともとコラージュのテーマでもあった「時間」と「時計」が、私の中でぴったりと合致したんです。コラージュに使用している紙素材と時計との相性の良さも感じました。

誰かが過ごした時間に対する安心感

▷埼玉県川越市にある佐藤さんのアトリエ「余地」

──佐藤さんのアトリエ「余地」は、商店街の古い建物に手を加えていたり、長い間使われてきた道具を受け継いでいたりと、時間を経て育まれたものの味わいを大切にされているのが印象的でした。作品でも、ものの背後にある時間の広がりを大切にされているんですね。

佐藤さん:昔からずっと古道具が好きでした。いまアトリエで使っている棚は、高校時代に学校で廃棄予定だった棚を引き取って、DIYが得意だった祖父に修理してもらったものです。傷や痕といった、誰かが過ごしてきた時間があるということに、すごく安心感を覚えるんです。

──作品制作の過程についてお伺いします。Time Lagに使用しているのは、どのような紙でしょうか?

佐藤さん:経年変化で紙焼けした紙を使っています。作品に使用する紙は、骨董市や古本市などで日々収集しています。友人や知り合いの方が、「おばあちゃんの家の蔵にあったよ!」と紙を送ってくれたりすることもあって嬉しいですね。

たとえば日本のわら半紙だと黄色っぽく焼けますが、海外の雑誌などはピンクがかった紙焼けだったり、国によって違ってくるのも楽しいです。基本的には、ひとつの作品に対して、同じ色味に焼けた紙でつくるようにしています。

──モチーフや描きたいものは、どうやって決定していくのでしょうか。

佐藤さん:つくりたいものが先にあるというよりは、素材が先にあります。ピンときた色や形を集めて、それらを組み合わせて文字盤をコラージュしていきます。たとえば数字は「大きな数字を探す」のではなく、図柄や地図の一部などを切り貼りしてコラージュします。「よりグッとくる8や2にするには、どこを切り取ればいいかな」というふうに探して、全体をコラージュで組んでいくという作業ですね。

▷木枠には、鳥や虫が空けた穴を治癒した跡が残る国産材を使っている

──2014年に「Time Lag」の制作をはじめた当初から振り返ってみて、思いがけない広がりは生まれましたか?

佐藤さん:もともと時計の木枠は外国産材を使っていましたが、いまの木工作家さんとご一緒するようになってから、鳥や虫が開けた穴を木が自分で治癒した跡が残っている木目の材を使っています。

このような木目は百貨店などでは「均等ではない」とはじかれてしまうこともあると聞きます。一般的には使いづらいとされていますが、私としては木が自分で治癒してできた跡にむしろ個性や生き様を感じ、Time Lagのコンセプトにも合っているとも思えました。

──高校時代、環境問題のポスターに取り組んでいるのに紙ゴミが出てしまうことに矛盾を感じた、と伺いました。Time Lagのコンセプトや時計で使用する木目にも、その思いは重なりますか?

佐藤さん:はい。高校時代の思いは軸として根本にあるので、すべてつながっているなと思っています。

暮らしの「余地」が、質のいいものづくりにつながる

▷古本の紙片や生活の中で出る紙​​を使って手漉してつくったレターセット(photo: Hiromi Sato)

──佐藤さんは作家と並行して、デザイナーとしてクライアントワークも手掛けていらっしゃいます。ご自身の制作活動とクライアントワークは、相互にどう影響しあっていますか?

佐藤さん:自主制作がクライアントワークにつながることは、結構ありますね。

たとえばコロナ禍で家にいる時間が増えたことがきっかけで、不要になった紙の破片を使って紙漉きをはじめたんですが、それを見たクライアントさんが、漉いた紙をパッケージに使いたいといってくださったんです。

福島県楢葉町にある「NARA ROMA」という、地元の特産品である柚子でジュースをつくる際にでた皮を蒸留してアロマスプレーやバームをつくっているアップサイクルのブランドで、もともとロゴやウェブ、パッケージなどを含めたブランディングを担当していました。

手漉きした表情の違う紙に活版印刷を施したものを手作業で両面テープ貼りと断裁をして、一つ一つ手貼りしてもらうという家内制手工業的な方法でパッケージを制作しました。私自身、大量消費する製品というよりかは、少部数でも循環していくようなものをつくりたいと考えています。量が多いと大変なので部数は要相談ですが(笑)、機会があれば今後もこのようなご依頼は受けていきたいですね。

▷手漉き紙を使用したパッケージ(photo: Joji Suzuki)

──NARA ROMAさんの商品コンセプトとも合っていますね。

佐藤さん:そうですね。コンセプトと合っていなければもちろん採用はされないと思うので、いい関係性でうまくつながってよかったなと思います。

──ものを大切にする視点が作品とつながり、周りの人との関係性からご活動が広がっていくのが素敵です。「余地」としてのご活動とご自身の暮らしはどのような関係性にありますか?

佐藤さん:暮らしの中で、散歩をしたりぼーっと景色を眺めたりして過ごしている中で、つくりたいものが生まれる事が多いので、そうした隙間を大切にしています。それが「余地」という屋号にもつながっています。

──たとえば1週間の過ごし方など、意識していることもあるんでしょうか?

佐藤さん:そうですね。クライアントワークとアトリエでの制作はある程度曜日を決めてはいますね。2週間に一度、掛け軸教室に通っているのですが、周りの方々とのお話を通して紙や昔からの伝統的なものの考え方を教えていただくこともあります。インプットをするための時間は、意識してつくるようにしています。

▷作業後に、アトリエ2階の和室で窓の外を眺めながらビールを飲む時間が好きとおっしゃっていた、佐藤さん

──インプットときくと、美術館にいったり本を読んだりする時間が最初に浮かびがちですが、佐藤さんの場合は、人との関わりも大切な時間なんですね。余地さんとして、今後挑戦してみたいことはありますか?

佐藤さん:引き続き、少部数で一癖あるものづくりに取り組んでいきたいですね。いま興味があるのは、製本。ひとつひとつ表情の異なる本を仕立ててみたいと考えています。いつか表装の個展もできるようコツコツとつくることを続けていきたいです。

──ご自身の中で大切にしたいものをしっかりと持ちながら、押し付けがましくないところが素敵だなと思います。あえて、周りに伝えたいメッセージはありますか?

佐藤さん:そう言っていただけてとても嬉しいです……! 最近は特に、自分がつくりたいものだけをつくっている感じなので(笑)。つくったものに対していいと思ってくれる人がいたら嬉しいなと、シンプルにそれくらいです。

ただ、私はたまたま紙に注目しているので紙の循環が気になっていますが、紙を無駄にしないことについて考える時間が増えると、その流れで自然とプラスチックごみも減っていくように感じます。そうやって、一つのことだけをやっているつもりでも、いつの間にか自分の思考が少しずつ変わっていくものだな、というふうに思います。

──暮らしが軸にあり、それが質のいいものづくりにもつながっていく。暮らしとつくることがいい循環で回っているんですね。

佐藤さん:「なにかをつくらなきゃ」ということで頭がパンパンになってしまうと、生まれるものも生まれない、ということは多々あると思います。ただ笑って過ごせるものといかに触れ合えるかは大事ですね。

▷シジュウカラがひまわりの種をついばんだ跡(photo: Hiromi Sato)

庭の金木犀の木に設置した餌台に、シジュウカラがやってくるという佐藤さん。ひまわりの種をかわいらしくついばんでいる様子を見ているのが、至福のひと時だそうです。

●文 /村田 あやこ
●インタビュー・編集・撮影 / 細野 由季恵

entrie times ebisuにて
余地 POP UP SHOPのお知らせ

この度、恵比寿にある「entire times ebisu」にて、お話を聞かせていただいた余地 佐藤さんによるPOP UPイベントの開催が決定しました。ぜひ作品に直接触れ、経過した時を感じてください。

イベント名 : 余地|yoti   POP-UP SHOP
開催期間 : 2022.10.14(金)− 16(日)12:00−17:00
場所:entrie times ebisu(〒150-0022東京都渋谷区恵比寿南1丁目11-12The HONDA ARMS 101)

余地|yoti は、川越・霞ヶ関のデザインスタジオです。紙を駆使した手触りのあるデザイン、コラージュを提案。今回のPOP-UP SHOPでは、経年変化しグラデーションに紙焼けした古紙を使った1点ものの時計ブランド「Time Lag」と、部数限定で制作したアートポスターを展示販売いたします。

URL
yoti.jp
timelag.jp

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