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失敗を求めて旅に出る。『月刊降りない駅​』希戸塚 一示さん 小坂タイチさん | エイミーズトーク #57

エントリエ編集長のエイミーこと鈴木 栄弥が気になる人に、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第57回目のゲストは、フリーペーパー「月刊降りない駅」制作者である希戸塚 一示(きとづか・かずとき)さんと小坂タイチ(こさか・たいち)さんです。

“なにもないように見える風景やまちに光を当てたい”。そんなコンセプトで、いったことのない駅を毎月旅するフリーペーパー『月刊降りない駅』。制作者の希戸塚 一示さん(文章担当)と、小坂タイチさん(イラスト担当)に、創刊の背景や制作の裏話を伺いました。

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小坂 タイチ(写真左)

「月刊降りない駅」イラスト / デザイン担当。1977年 大阪府生まれ。デザイナー/イラストレーター。主な仕事は、雑誌・書籍、教科書、広告などのイラストレーションの制作とグラフィックデザイン全般。

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希戸塚 一示(写真右)

「月刊降りない駅」文章担当。1977年 大阪府生まれ。『死神K ~あなたの夢を終わらせにきました~(めちゃコミックオリジナル)』『さくらのはなみち(ジャンル不問コミックサイト めづ)』原作。小説家。

地元も年齢も好きなものも一緒。
偶然の出会いから誕生したフリーペーパー

──『月刊降りない駅』立上げの経緯を伺えますか?

希戸塚さん:偶然の出会いからなんですよ。

小坂さん:三鷹にあるギャラリーが併設されたカフェで、僕が展示をしていたんです。販売していたグッズのなかに、地元 堺市(大阪府)の仁徳天皇陵や路面電車を描いたポストカードがあったのですが、偶然カフェに来た希戸塚さんの目に止まったそうで。

希戸塚さん:僕も地元が堺だったので、ポストカードを見たときに同郷であると確信したんです。しかも、二人とも三鷹に住んでるんですけど、それまで知り合いでもなかった。

──ポストカードのイラストを見て、同郷だ、と。

仁徳天皇陵を描いた、実際のポストカード。(写真提供:小坂さん)

小坂さん:仁徳天皇陵は、上のアーチ部分がきれいに丸くなってなくて、ポコポコっと飛び出た部分があるんですよね。

希戸塚さん:それを知ってる人は、絶対に地元の人やと。ちょうど在廊していた小坂さんに「すみません、僕、堺出身なんですけど、同じですよね?」って話しかけて。話していくうちに同い年で、僕の親友とも偶然知り合いっていうことまでわかって、それで一回ご飯食べましょうって。お互い古い建物や豆腐屋が好きだとか、似ていることもわかりました。

小坂さん:「ちょっと手前で降りて目的地まで歩いたりしてるんですよ」っていう話をすると「僕も僕も」って。いろんなことが一緒だったんです。それからちょいちょい会っているうちに、「いつか何かやりたいですね」っていう話を5年くらいしていました。

──堺で出会わなかったのが不思議ですね。『月刊降りない駅』の創刊は2022年3月ですが、この時期になったのには契機があったんでしょうか。

希戸塚さん:コロナの影響でお店がどんどん潰れて、「あの店もなくなったのか」ということが加速度的に進んだことが、大きなきっかけです。

小坂さん:それで「あそこもいかないとね」っていう話をしている中で、アーカイブしておきたい気持ちが出てきたっていうのはあるかもしれないですね。

手に取るまでの「旅」を楽んでもらう

──ホームページやブログなど、さまざまな発信の仕方がある中で、あえて紙の冊子で、月刊という形にしたのはなぜでしょうか?

小坂さん:ウェブだと楽だしみんなが見られるよさはあるんですけど、冊子だと設置店に取りにいかないといけないじゃないですか。家から設置店までの道のりを楽しむ機会になればいいなあと思って、アナログな冊子の形にこだわっています。

希戸塚さん:冊子名は僕が、『月刊降りない駅』っていう言葉の語呂がいいなと。ただ、“月刊”なんて甘く考えてつけちゃったために……

小坂さん:すごい苦しむっていう(笑)。

──(笑)。行き先はいつもどのように決めてるんですか?

希戸塚さん:超適当ですね。グーグルマップや路線図を見て「ここいきます?」ぐらいの感じで決めています。

──イラストと文章という違うアウトプットだと、同じまちを歩いていても「こんな見方をしていたのか」と、お互いの発見がありそうですね。

小坂さん:僕はイラストレーターなんで、絵的におもしろいものを探しがちなんですよね。でも希戸塚さんの場合は、文章で読んでおもしろいところを見つけます。送られてきた文章を読んだときに「こう見ていたのか」「こんな思い出があったんだ」っていうのを知れて、すごい楽しいです。

希戸塚さん:僕も僕で、絵を見て「こんな感じだったのか」って。

フリーペーパーの文字とイラストで構成された1ページ。(写真提供:小坂さん)

──たしかに拝読していると、お二人それぞれの視点がミックスされているところが楽しいです。お二人が歩くとき、つい注目してしまうものはありますか?

小坂さん:僕は昭和の残骸的なものが好きなので、そういうものを探してしまいますね。ひび割れとか。昔のものって、なんでここにドアがあるんだろう? この階段はどこに上がるためのものなんだろう? とか、そういうものが残っているのがおもしろいんですよね。いまはモノでもコトでも、すごく効率よくする世の中になっているので。

希戸塚さん:我々は昭和生まれなので、昔あったまちの残骸を見ちゃいますね。『月刊降りない駅』をきっかけに、注目されないようなところにすごく価値があるっていうのを再発見してほしいっていう思いもあります。

「失敗」こそがおもしろい!

──創刊号で、希戸塚さんが「失敗することはおもしろい」というメッセージを書かれていたのが印象的でした。「失敗」を大切にされている背景は?

希戸塚さん:実は僕、普段は教員として働いているんですけど、いまの子たちってすぐに調べて答えを出しちゃうんです。だから失敗したがらないし、親も失敗させないようにする。それでずっときてるから、一回失敗したらすぐにポキっと折れて立ち上がれない。僕らが学生時代のときよりも、そういう感覚が強いんです。教員をしていると、それを肌で感じるんですよ。

でも受験に失敗しても大学に行けなくても、人生成功できるわけじゃないですか。失敗したほうがおもしろいっていうのは生徒にずっと伝えたいと思ってるんですが、『月刊降りない駅』でも「失敗してもいい」ということをテーマにしています。

小坂さん:おすすめメニューも、今は調べたらすぐ出てきて。でも、こんなメニューあったのかと後から発見したり、じゃあまた次こようとか、お店の人としゃべりながら何がおいしいのかを探ったり、そのおもしろさを表現したいっていうのはありますね。

希戸塚さん:「食べログで何点だからこのお店に入る」という人も多いんですが、ハズレでもお店を探すこと自体がおもしろいし、点数に関わらずおいしいお店もあるだろうし。

──「失敗してもいいんだよ」といってくれる先生がいるって、心強いですね。視野が広がって、心も楽になりそうです。

小坂さん:成功させてくれようとする先生はいっぱいいるんですが、希戸塚さんみたいな視点の人っていそうでいないなと、僕は思っています。

インタビュー中、制作過程の修正の多さを小坂さんに指摘され思わず頭を抱え込む希戸塚さん。

──いまはネットやSNSでいろんな情報が出てきますが、『月刊降りない駅』を読んでいると、あらかじめ決めた場所をスタンプラリー的に周るのではないところに、旅の醍醐味を感じます。毎号、訪れるまちでの個性豊かな人との出会いがすごいですよね。食堂で居合わせた人に急に話しかけられたり(笑)。

小坂さん:希戸塚さんがいろんな人を引き寄せるんですよね。一緒にいるとすごい楽しいんです。

希戸塚さん:たしかに、よく声をかけられる。前に一人で熱海を歩いていたときも、路上生活者の人に話しかけられてめっちゃ意気投合して、ただで試食できる干物屋や安全に荷物を隠せる場所を教えてもらったことがありました。

かわいらしい人で、「俺にいってくれたら花火の場所取りやってやるから」っていってくれたり。あんまりきれいじゃないタオルを使ってたんで、あとでこっそりその人の荷物にきれいなタオルを置いて帰りました。

──フラットに先入観なく、人間同士のコミュニケーションを楽しんでいるからこそ、いろんな人との出会いが引き寄せられるように思います。

まちの味わいに光を当てたい

──『月刊降りない駅』をはじめたことで、ご自身の暮らしやお仕事でなにか変化はありましたか?

小坂さん:イラストレーターの仕事はこもって作業していることが多いので、外に出歩ける機会を得たのはよかったですね。仕事でイラストルポやイラストマップをつくることが結構あるので、その宣伝にもなるし、取材したものをまとめる練習にもなっています。

希戸塚さん:僕は旅が好きで、結婚する前は奥さんと九州縦断や四国一周などをよくしていたんです。子どもが生まれてからはなかなかできなかったんですけど、一ヶ月に一回、小旅行にいけるっていう楽しみになっています。

人がいかないようなところを見て、泊まるところ以外決めないでいきあたりばったりの出会いをおもしろがるっていうのは、どこへいっても同じなので、小さくてもそれができて形になっているのが楽しいですね。この活動があると、見せる文章を書く練習にもなります。

小坂さん:仕事ばかりやっていると精神的に追い詰められて、結構しんどいなと思いながらいくこともあるんですけど、帰るときにはめっちゃ楽しかったなあって、逆にすごいリフレッシュするんですよね。取材中はあえて仕事の連絡も無視して、集中しているからすごく楽しくて。仕事する上でもこういうのって大事だなあと思いますね。

3号から表紙に現れた小坂さんの描くイラスト。車窓を通して、何かに気づいた様子です。

──月刊で、しかも紙の形で出すという適度な縛りが、いいリズムを生み出していそうですね。今後『月刊降りない駅』さんとしてやってみたいことはありますか?

小坂さん:まずは12号まで出して一周したいですね。12号までいったらまとめ号やカラー版をつくることも考えていますけど、あくまで趣味の延長なので、自分たちが楽しめるかどうかで決めたいです。

コロナが落ち着いたら、Twitterで見てくれている人たちと一緒にまちを歩く企画もやってみたいです。現地集合、現地解散で、途中参加・途中抜けもOKで、ただ歩くっていうことができたらおもしろそうです。

希戸塚さん:東京以外のまちにもいってみたいですね。もっとなにもないところがいっぱいあると思うんです。そういうところに光が当たって活性化して、そのままの雰囲気で残ってほしいっていうのが、僕の大元の願いなんですよ。再利用やリノベーションして、中身は変わっても外見だけは一緒にしてもらう。そうやって、まちをみんなで考えてデザインしていきたいなっていうのが、僕の勝手な理想です。

小坂さん:高齢化が理由でもう閉めますっていう店でも、若い方でそのまま継ぎたい人はいると思うんですよね。そういうマッチングをしたいっていうことも、前からいっていますね。

希戸塚さん:だいぶ壮大ですが、『月刊降りない駅』を通してそのお店を知ってもらって、この店を継いでほしいという思いと、継ぎたいという思いのつなぎ目になれたらいいですね。

──今後のご活動の広がりが楽しみです。

至福のひととき

写真提供:小坂さん

釣りが好き、という小坂さん。海へいって堤防で腰掛け、餌の付いた釣り竿を垂らしてぼーっとしているのが、癒やされる時間だそうです。

一方の希戸塚さんは、深夜に外に出て誰もいないベンチに座って、コーヒーとアンパンを片手に考えて、物語のアイデアが出てくる瞬間が一番楽しいそうです。

インタビュー・文 /村田 あやこ
●編集・撮影 / 細野 由季恵

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