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持続可能な仕組みづくりが愛される文化を育んでいく 植物専門店「REN」代表 川原 伸晃さん | エイミーズトーク #44

エントリエ編集長のエイミーこと鈴木 栄弥が気になる人に、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第44回目のゲストは、史上初めてグッドデザイン賞を受賞した植物専門店「REN」代表の川原 伸晃(かわはら・のぶあき)さんです。

川原 伸晃(かわはら・のぶあき)さん

REN Founder/botanical director/designer
創業1919年いけばな花材専門店四代目、学校法人池坊学園非常勤講師、欧州国際認定フローリスト
18歳の時、オランダ人マスターフローリスト、レン・オークメード氏に師事。2005年、東京生花株式会社へ入社、RENを立ち上げチーフデザイナーを務める。2010年、経済産業省主催のデザイナー国外派遣事業に花卉園芸界の日本代表として選出される。2011年、花卉園芸界のデザイナーとして史上初めてグッドデザイン賞を受賞。

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東京・三田にある観葉植物専門店「REN」は、1919年にいけばなの花材専門店として創業した「東京生花株式会社」を母体に持ちます。
植物が生き生きした状態で生きながらえること。そして植物を愛で育むという文化そのものが持続すること。社是の「活ける」を様々なかたちで取り入れ体現するRENでは、観葉植物の相談や植え替えだけでなく、下取り、再生まで行う「プランツケア」というサービスにも取り組んでいます。
REN代表の川原伸晃さんに、「プランツケア」を導入した経緯や、導入にあたり苦労した点、導入後の反響などを伺いました。

植物を「活ける」というまなざしを持つこと

――川原さんが代表を務める「REN(れん)」は、どのようなコンセプトのブランドでしょうか?

川原さん:RENの母体である東京生花株式会社(三田花茂)は、約100年前の1919年にいけばなの花材専門店としてはじまりました。時代の流れとともに、ブライダルのフラワーコーディネートといった事業にも着手するようになり、僕の代で新しい切り口としてはじめたのが観葉植物専門店「REN」です。

いけばなからスタートした弊社では「活ける」という言葉を社是としています。「活ける」とは人の業が前に出過ぎず、植物がより良くあるように導くこと。花はもちろん、屋外でも盆栽にはある種「活ける」というまなざしが向いています。ですが、いわゆる観葉植物と呼ばれるものは、あまりそういったまなざしが向けられておらず、「背景として緑があればいい」といった存在で、もったいないなと感じていました。

いけばなやフラワーアレンジなど花卉(かき)園芸と呼ばれるジャンルで様々な経験を積み、「活ける」ということが僕自身のアイデンティティともなっていたので、RENを立ち上げるにあたっても「活ける」は外せない要素でした。

――RENでは、観葉植物にもいけばなの美学を携えた「いけばち」を提唱されていますよね。根っこがついている植物に、どうやって「活ける」という要素を取り入れているのでしょうか?

川原さん:ミクロで見ると、「鉢の中で成長する方向に設計されているかどうか」ということ。たとえばホームセンターで売られているような植物は、あくまで素材なので土も最小限で根も張っておらず、一部の例外を除いてそのままの状態では長く育ちません。それをちゃんと植え替えて、文字通り生きる方向に持っていくことが大切です。

そして土から上の部分は、いけばな的な美学で植生の良さが伝わるよう剪定する。こうやって土の上と下と両方に手をかけることで、より自然な状況を想起させる生き生きとした見た目となります。

マクロな考え方で見ると、「ライフサイクルが持続可能かどうか」ということ。本来植物は、自然界では数百年、数千年生きるサステナブル(*)なものの象徴ですが、屋内で育てるとなった場合、その線が切れまったくサステナブルでなくなってしまう。

植物という持続可能な素材を扱い、「活ける」ということを体現してきた会社なのに、なんて非持続的なんだろうと、疑問を感じていました。そのため、本来の文化として、なんとしてでも持続可能な状態にしたいなと思ったのがスタートです。文化そのものが持続的でちゃんと回っていくようにしないと、魅力的なものにならないな、と強く思ったんです。

*サステナブルとは……「持続可能な」という意味。主に自然にある資源を長い期間維持し、環境に負荷をかけないようにしながら利用していくことを指す。(weblio辞書 より引用)

愛される文化には、持続可能な仕組みまでが設計されている

――植物のLINE相談から下取りまで行う「プランツケア」というアフターサービスにも取り組まれていますよね。このサービスに着手した経緯を伺えますか?

川原さん:根っこがあるもの全般に関し、「自分たちが責任を取り切れないものは売らない」というスタンスなので、オープン当初から同様のサービスは行っていました。植物を買ってくれた人から「どうしたらいいですか?」と聞かれた時に最後まで責任を取るのは、「活ける」という概念にも通じること。

問い合わせが来たら断らない・責任を取り切れない場合は返金する、ということをメールやLINEを使いながら続けてきた中で、段々と経験やノウハウが蓄積されていき、やることの幅も増えていって。これは何か一つのパッケージになるのでは? と徐々に束ねて体系化していきました。

――どういったご相談が多いんですか?

川原さん:様々ですね。たとえば「この植物はもうだめですか?」という種類のお問い合わせであっても、だめな場合もあれば、水をやっていないだけの場合、陽の光が足りない場合など、こちらのサポートも多種多様です。

これも続けながら感じてきたことですが、愛される文化って必ず循環するサービスとセットなんです。たとえばアップルには、ジーニアスバーという専門のカスタマーケアがあるから、安心して使い続けることができる。

――たしかに、長く使われるものにはカスタマーケアなど体制がしっかりしていますよね。

川原さん:「壊れたら捨てる」しかないと、使い続けることができないと思うんです。買った後、何か事情があって手放さざるを得なくなった時に後ろめたさがないように設計されているビジネスだからこそ、のめり込める。盆栽もまさにそうで、育てきれなくなったものがぐるぐると人の手を回っています。

文化を下支えするには、魅力的な商品をつくり続けることももちろんですが、むしろ何かあったら対応してもらえたり、ビンテージに価値が出てくるといった、目に見えないシステムを設計するほうが大事なんじゃないかと思うんです。

――観葉植物の世界だと、これまでにそういった取り組みは少なかったんでしょうか?

川原さん:水面下ではたくさんあると思うのですが、オフィシャルに取り組んでいるところはありません。一生大切にしようと思って買って、手放さざるを得なくなった時、受け皿になるものがないんです。

――以前、「引っ越す人から里子のように鉢を託されたり、閉店したお店から植物を引き取って育てている」という方がいらっしゃいました。行き場のない植物をどうにかしたい、と思っている人は多そうです。

川原さん:うちでも水面下では「育てられなくなったので、引き取ってもらえませんか」というご相談を受けていましたが、オフィシャルに打ち出さないと、なかなか後ろめたさを取ってあげることができないな、と思っていました。元気がなくなった植物でも、「うちで再生させ、次に手に取った方が育てますよ」と言われると、お客さまも手放す際に後ろめたさを感じなくてすむ。

「相談に乗ります」「治します」「運べないものは運びます」といったサービスに加えて、「下取り」ができれば一気に循環するサービスになるんです。

たとえば、元気のない植物を植え替えしてほしいと言われても、そのお家の環境で見るに耐える状態まで再生しないケースもあるんです。そこにサービスとして行き詰まりを感じていていました。「下取り」ができれば、その植物の「再生」までできる。

「下取り」は、プランツケアの最後の重要なピースでした。

――反響はいかがですか?

川原さん:ものすごくお問い合わせが増えました。下取りは、現金で買取ではなく「買い替え割引」という形で、新しい植物と買い換える時に下取り分を割り引きしています。うちで買ったものでなくても、再生可能性があれば引き取っています。

どこにいっても断られて捨てるには忍びない、と来てくださる方が多いです。これはもう、はじめから商売の成り立ちの中に入っていないとおかしかったサービスなんだなと、実感しました。

園芸界の常識をあらためて問い直した

――サービスを導入するにあたって苦労されたことは?

川原さん:下取りをオフィシャルに行うには「古物商許可」が必要でした。サービスを循環させるための最後の重要なピースとして「下取り」は外せなかったので、古物商許可を取ったんですが、取得までに一年半くらいかかりました。

古物商には宝飾品や家具などカテゴリーがいくつかあるんですが、「植物」という項目はないんです。カテゴリーに当てはまらないと申請が通らなくて、ダメかと思いましたが、「いや、ちょっとまってください、手で触って手入れするから道具かもしれません」といったふうに、管轄である警察と何度も話し合いを重ね、なんとか理解してもらって、結果的に「道具商」というカテゴリーで取ることができました。

取得するまではすごく苦労しましたが、取得しないとできないことが色々あったので、良かったですね。

――他に、大変だったことはありましたか?

川原さん:土壌についてですね。植物は大地から切り離され鉢の中に入った瞬間、自然の循環からは断ち切られるので、限られたスペースで自然の環境をつくっていかないと、本来のサイクルでは回っていきません。

たとえば人間も胃の中に様々な菌がいることで食べ物が吸収されるのと同じで、植物の根っこにも色々な微生物がくっついて生態系ができていることで、はじめて栄養が取れるようになります。その微生物を元気にすることが大事というのは、農学では常識中の常識ですが、こういったことは園芸や花屋の世界ではあまり考えてきませんでした。

――目には見えない世界ですね。

川原さん:微生物や有機物を増やしていこうという発想に立つと、化学肥料は絶対だめなんですよ。鉢の上は元気だけど、土の中は死んでいく。風邪薬を飲んで熱は下がるけれど、胃の中がぼろぼろなのと同じ現象が起こってしまいます。

風邪になったから風邪薬を飲むのではなく、そもそも風邪にならないようにしようという農学的な発想が重要。本来の意味で植物を再生させて、鉢の中で長生きさせるためにはどうすればよいか。それを考えるにあたり、園芸の専門学校に行った程度では太刀打ちできない知識が必要だったので、自分がいかに素人だったかということを勉強させられました。

▷「農家で使われるオーガニックなサプリを観葉植物にも」RENが毎日のメンテナンスで使用している植物用健康補助資材も販売している。写真:鉱物由来珪酸駅 ¥539円(税込)

――RENでは、植物を下取りして再生するにあたって、土壌改良も手がけられていますね。

川原さん:一般的に、園芸の業界では焼いた石を砕いて水を吸わせる、無菌の用土が推奨されていて、有機物をどんどん排除していく方向です。ただそれは、植物が鉢の中だけで長く生きていく上では困難な設計。人間が水だけ飲んで生きていけないのと一緒で、土の中に有機物がないと、正しく再生できないんです。

うちは古い会社なので、昔からそういったことを手がける番頭さんに相談したり、東京農業大学や東京大学農学部に話を聞きに行ったりもしました。そうやって、僕らの中では常識だったことに疑問を持ち、突き詰めていくと「こうすればよかったんだ」ということに辿り着いたんです。

購入した後も頼る先があることで、安心して植物を手に取ることができるように

――これまでにないサービスを作られてきたこととで、改めて今、どんなことを感じていますか?

川原さん:植物を育てるのが上手な人もたくさんいますが、多くの場合は何度も失敗しながらうまくなります。一回の失敗で、植物を買えなくなる人を救わないと、長く続く文化にならないので、その背中を押せると本当に喜ばれることがあるんだな、と。

下取りを含めた「プランツケア」というパッケージにしたことで、料金体系もつくってサービスの生態系が完成しました。そうやって循環するサービスになったことで、安心して買える人も増えたのかな、と思います。

またコロナ禍で家で過ごす時間が増えたことで、新しく植物をほしいという方だけでなく、もともとあった植物を毎日見ているうちに具合が悪いのが気になった、というお問い合わせも増えました。

――一緒に暮らしていた人にとって植物は家族のような存在でしょうから、枯れてしまうと、きっと家族が亡くなったように寂しい気持ちになりますよね。それを受け止めてくれるサービスにも思えます。

川原さん:下取りをしていると、30年生きていた植物なんていうのもザラにあるんですよ。ある種いびつな形でも、その場所で最適化して生きるために頑張った姿は、僕らからすると宝。欲しくても手に入らないし、むしろ仕入れさせてほしいくらい。

もちろんそのままでは販売できないので、ある程度手をかけて再生させる必要があるんですが、それでも普通に市場に流通しているもので、そんなものは手に入らない。「こんなのが」と驚く植物がたくさん出てくるので、結構楽しいんですよね。

――下取りしてから次の方の手に渡すまでは、どういうステップを踏むんですか?

川原さん:すべて植え替えをし、再生させるための自社の温室で養生して、頃合いを見て商品化していきます。

――再生していく姿を見るのも楽しそうですね。

川原さん:面白いですよ。完全に坊主の状態からどんどん形ができていくのを見られたりもするので。

――今後、力を入れていきたいことはありますか?

川原さん:植物というジャンルにも二次流通があってしかるべきだと思うので、それを牽引できるようなことがやりたいですね。

うちでは下取りして再生させたものを「リボーンプランツ」と呼んでいます。リボーンプランツを求めてくださる方も結構いるんですよ。アンティークの家具がほしいとか、中古物件に手を入れて住みたいというのと一緒で、誰かの手を経てここにしかない自分だけのものがほしい、という。

だからこそ、植物の二次流通を打ち出していきたいと思いますね。

植え替えしているときが楽しい、という川原さん。頭を開いて神経や血管を傷つけないよう手術するような気持ちで、集中して複雑にからまる根を注意深く扱う植え替えは、ヨガに近い精神統一の時間だそうです。

REN

住所:〒108-0073 東京都港区三田2-17-16
TEL:03-3456-0871
HP: http://www.ren1919.com
mail: info@ren1919.com
営業時間: 11:00-19:00
定休日: 不定休 (詳細はこちら)

●インタビュー・文 / 村田 彩子
●撮影・編集 / 細野 由季恵

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