Tokyo Birthdays
リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある。
私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。
東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。
#2 後悔と失恋と将来と
高校時代は野球部だった私の一大イベントは「夏の甲子園予選」だった。
最後の夏は地元の八王子市民球場(現ダイワハウススタジアム八王子)だったので、
中学時代のチームメイトや近所の少年野球をやっている親子が観に来てくれた。
ピッチャーだった私は、気になるあの子に
「最初のバッターを三振にとるから」とひどく恥ずかしいセリフを言いふらしていた。
蓋を開けてみれば、宣言通り最初のバッターを三振に仕留めたものの、コールド負け。
「恥ずかしい」と思った。中学以来会っていなかった元チームメイトやご近所さん、気になるあの子に晒したふがいない姿の自分が恥ずかしかった。
きっと、本気で練習していたら、そんな情けなさも感じず胸を張って泣けていたはずだろう。
恥ずかしくて、情けなくて泣いたのは、これが最初で最後だった。
次の日からは本気で大学受験の勉強に没頭した。同じような後悔はしたくなかったから。
本命の大学にはことごとく受からず滑りどめにしか引っかからなかったけど、同じ後悔はしないで堂々と大学の入学式を迎えることができた。
気になるあの子から、試合の数日後に熱い手紙を受け取ったから
多分、作戦成功だったけど、大学受験を選んで後悔はなかった。と思う。
JR八王子駅より、バスで6分
ダイワハウススタジアム八王子
■プロフィール■
文、写真 / Kosaku Nango
1979年生まれ、東京出身。現在、会社員として働くかたわらで、写真家としても活動中。