Tokyo Birthdays  

リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある

私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。

東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。

#5  境界線

中央線で家路につく時、立川から日野の間で多摩川を渡る。

川は昔も今も世界中で境界線になっているように、
自分にとってもひとつの区切りとして
ずっとある。

個人的には、仕事と生活という認識だ。


「もうすぐ家だな」ただこれだけのことを思う。
でもこれが境界を越えて自分のテリトリー
に戻ってきたことを実感させてくれて、妙にホッとする。

いつからか下り電車の左側で、等間隔に灯るライトがあることに気が付いた。

オレンジ色の正体は、多摩都市モノレールが通る立日橋のライトだった。

高架橋の音と遠くに見える幻想的なライトの相乗効果で、願い事なんかしてみたくなる。

実際、何度か下らないお願いをしたこともある。この記事のために写真を撮りに行こうと決めてからは、

「ドラマチックな写真が撮れますように」と何度もお願いしてきた。

実際歩いた立日橋は、特に特徴があるわけでもなく、近年造られた綺麗な橋だった。

あまりドラマチックな写真が撮れていなかったから、もう一度お願いしておいた。

こんな願い事なんて、ほとんど叶わないことはわかっている。

「晩ご飯が3日連続カレーじゃありませんように」
「明日のテストが無くなりますように」
「もう一度彼女とやり直せますように」

ことごとく叶わなかった。
わかってた、だけどわかりたくない。

願い事は、自分で境界線を曖昧にしたい時の
ただの言い訳なのかもしれない。

帰り道、日野駅近くでスマホを空に向ける親子とすれ違った。振り返ってみると、ドラマチックな瞬間が広がっていた。

Ιスポットデータ
立日橋(多摩川に架かる橋)
多摩モノレール 多摩モノレール立川北駅〜柴崎体育館駅間

■プロフィール■
文、写真 / Kosaku Nango
1979年生まれ、東京出身。現在、会社員として働くかたわらで、写真家としても活動中。