Tokyo Birthdays  

リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある

私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。

東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。

#7 阿佐ヶ谷  

初めて実家から離れて住んだ街が阿佐ヶ谷だった。
とても住みやすく飲み屋も多い。駅前の老舗喫茶店でウインナーコーヒーも覚えた。
すっかり気に入った自分は、周りの友達にもオススメしていたら、仲良しが越してきた。
楽しいことはみんなでシェアした方がいいに決まっている。
彼とは、何かあると南口の広場で仕事後に集まっていた。
そんなある日、誰にも言わないで欲しいけど言わないといけない事がある、と呼び出された。
「会社クビになった。俺じゃないのに濡れ衣なんだ。」
「誰かが俺のパソコンからエロサイト観たみたいで、責任取らされた。」
真顔で親身になって聞いていたけど、良かったな、と思った。彼には当時やりたい事があって、踏ん切りがつかずウロウロしていたから。理由がどうであれ、やりたい事をやるチャンスだと伝えた。時が経てば、こんな話は笑い話になるよ、と。
翌月には彼は都内の実家に帰っていった。阿佐ヶ谷に帰る楽しみが一つ減ってしまったけれど、彼は夢に向かって進みだした。
全て落ち着いてから、ほかの友達たちに事の顛末を教えてあげた。楽しいことはみんなでシェアした方がいいに決まっているから。
夜の阿佐ヶ谷は、そんな当時の思い出に溢れている。
Ιスポットデータ
JR阿佐ヶ谷駅南口近辺

■プロフィール■
文、写真 / Kosaku Nango
1979年生まれ、東京出身。現在、会社員として働くかたわらで、写真家としても活動中。