Tokyo Birthdays
リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある。
私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。
東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。
#13 森の萌芽
最初に東京タワーを見たのが何年前だったか、もう忘れてしまったが、末広がりで真っ赤な巨体がふいに視界に飛び込むと、今でも無性に心踊ってしまう。
巨大なタワーの周辺には、アップダウンのある地形の上に、ビルに混ざって神社や寺をはじめさまざまな宗教施設が点在する。日常から異界がちらちらと顔を見せているような、独特の雰囲気のまちだと思う。
大通りをぶらぶら歩いていると、通り沿いに廃業した美容院があった。以前は入口を囲むようにずらりと植木鉢がならび、ちょっとした花畑状態だったが、今はきれいさっぱり片付けられてしまった。
建物の向かいをふと見ると、歩道の植栽部分に、元の家主が置いたらしき植木鉢から花が咲いていた。きっとかつての家主は、この植栽エリアを自分の庭のように使っていたのだろう。ここで営まれていた暮らしの名残を感じる。
大通りから一歩なかに入ると、ピカピカのビルやマンションと、さっきの美容院のように古くからここにありそうな建物とが、同じ視界のなかに混在している。あちこちで建物が壊されては建てられており、ちょっと歩くと工事現場の真っ白な囲いに出くわす。工事現場の囲いの下では、アスファルトの隙間からいろんな種類の植物が顔を覗かせていた。
その向かい側には古い民家があり、軒先に置かれた植木鉢から植物の根っこが地中に根ざし、大きく成長していた。
火山の噴火などで生物がまったくいない裸地の状態から森が形成されるまでのプロセスを、植生遷移という。
植物にとって、人工物に覆われたまちの環境は、岩場のような環境という話を聞いたことがある。アスファルトの隙間から顔を出す植物は、パイオニア植物と呼ばれる、遷移のはじめに見られるような植物が多いそうだ。
環境や条件さえバッチリ合えば、わずかな隙間に生えた植物から、巨大な森ができる可能性だって秘めている。
植木鉢からはみ出し地中に根差す根っこを見ると、そんな森の兆しを感じ、無性に興奮してしまう。
まあ、はたからみたら、しゃがみこんで根っこをまじまじと見る私は、不審者以外の何者でもないことだろう。
ビル群の中にたたずむ寺社仏閣や古い民家。建物の新陳代謝に呼応するようにまちの隙間から生え、根差す植物。
何気ないまちの風景のなかには、いろんな時間軸を背負ったものがぐちゃぐちゃと混在している。まちに現れたものから、ふとそれを感じると、良く見知ったような場所が、また違って見えてくる。
東京都港区虎ノ門界隈
■プロフィール■
文、写真 / 村田あやこ
福岡出身。路上で威勢よく生きる植物に魅せられ「路上園芸学会」名義にて、その魅力を発信。