Tokyo Birthdays
リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある。
私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。
東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。
#3 数寄屋橋公園
数寄屋橋公園には、岡本太郎が制作した時計台がある。タイトルは、「若い時計台」。
ここを良く通るようになって、しばらくしてこれが岡本太郎の作品と気が付いた。
気が付いた、と書いたけれど、本当は同僚が世間話しているのを聞いて気が付かされた。
こんな身近なところにもあるんだ、と小さく感動したことを良く覚えている。
仕事で写真を撮ることが多くなって、楽しくてこのまま突っ走って行くんだと調子に
のっていたから、この時計台が自分を激励してくれているような、一方的なシンパシー
を感じていた。実際に作品には、若さから溢れる情熱を表現したようなことが書いて
あって、ますます自分を調子に乗らせた。
でも、良き時代は長くは続かなくて、その場所を通ることもなくなった。
自分を過信しすぎて、周りが何も見えていなかった自分は、とんでもない大バカ者で
みんな引き潮みたいにサーッといなくなってしまった。
当時の苦い記憶はそのままに、また最近この公園の近くを通ることが多くなった。
今現在は自分が通っていた頃とは時計台の場所が移動していたり、公園自体がリニューアル
されたし隣に大きな商業施設ができた。オシャレなクレープ屋さんやバーが路面に出ている。
経験した事を反省しながら時計台を眺めると、叱られているような気持になる。
「若い時計台」は、それでも自分には忘れられない大切な場所だ。
数寄屋橋公園
JR有楽町駅より、徒歩4分
■プロフィール■
文、写真 / Kosaku Nango
1979年生まれ、東京出身。現在、会社員として働くかたわらで、写真家としても活動中。