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「どんな人にでも刺さる本棚を」 おんせんブックス 越智 風花さん | エイミーズトーク #31

エイミーことエントリエ編集長の鈴木 栄弥が気になる人に、自分らしい暮らし方や生き方のヒントをいただいてしまおうというこのシリーズ。第31回目のゲストは、大学時代に「おんせんブックス」という古書店を開店した、越智 風花さんです。

どんな人にでも刺さる本棚を

越智 風花(おち・ふうか)さん

1993年愛媛県出身。信州大学にて地域福祉を学ぶ。2016年長野県松本市にて「おんせんブックス」オープン、2019年5月閉店。2019年6月結婚を機に上京、のち「平井の本棚」スタッフになる。facebook twitter

大学時代に、長野県松本市の温泉街にある築90年のシェアハウスの一角で、古書店「おんせんブックス」を開店した越智風花さん。2019年に上京した後は、江戸川区の「平井の本棚」で書店業務を担っています。開店の経緯や、お店を続ける上で大切にしていることを伺いました。

大学時代に、自宅のシェアハウスで本屋開業

――大学時代に「おんせんブックス」という本屋さんをなさっていたと伺いました。開店の経緯は?

越智さん:信州大学在学中、大学4年のときにはじめました。周りが就職活動をはじめ、自分自身も仕事について考える中で、“一番好きなこと、空気を吸うように続けられること”として、本に関わる仕事がしたいなと思いました。

当初は「将来隠居した時に本屋をできたらいいな」くらいに思っていたのですが、当時住んでいたシェアハウスの大家さんに「将来本屋になりたいです」ってお話したら、一番路面に近くて居住用に貸し出す予定じゃない部屋があるから自由に使っていいよ、と言ってくださったんです。家賃も言い値で決まりました(笑)。

――なんて太っ腹な。

越智さん:大家さんには、その場でFacebookページをつくって、開店日を先に決めて告知してしまおうって言われて。で、一ヶ月後に開店することになりました。

――急激な展開ですね! そこからはどうやって準備を?

越智さん:下宿にもともと放置されていた家具を使ったり、ホームセンターで木材を買ってきてDIYで棚を作ったりました。図面は大家さんが引いてくれて。

――大家さんはどういう方だったんですか?

越智さん:大学で建築を学んだ後、市役所で働きながら、もっとまちに関わることをしたいとゲストハウスやシェアハウスを作られた方でした。

――建築のプロなんですね。

越智さん:いちから電気工事士さんに図面を引いてもらって電材の用意や設置までしてもらうとすごくお金がかかるんですけど、ある程度こちらで用意しておけば、格安でやってもらえるらしいんですよ。

その点、大家さんはゲストハウスをご自分でつくっていたので、いろんなノウハウを教えてもらいながら、一緒に準備しました。

――素晴らしいスペシャリストがバックアップについていたんですね。ただ新しく買ってくるのではなく、古いものや味わいのあるもののをうまく生かして場所をつくる。

越智さん:そうなんです。

――本はどうやって集めたんですか?

越智さん:地元の方やFacebookページ経由で寄贈を募って、基本的には寄贈いただいた本で成り立っていました。

――開店のためのコストも抑えられたんですね。

越智さん:そうですね、かなり安くすみました。

温泉街の築90年の建物で「おんせんブックス」

――そもそも、シェアハウスは、どういう場所だったんですか?

越智さん:もともと大家さんのおばあちゃんが大学生向けの下宿を営んでいて。おばあちゃんが亡くなられてからはしばらく空き家だったんですが、貰い手が誰も決まらなかったら壊すとなったタイミングで、今の大家さんがどうしても残したいと購入したんです。

――味のある、素敵な建物ですね。

越智さん:戦前からある、90年近い建物でした。

――内部はどういうつくりだったんですか?

越智さん:全部で14部屋くらいありましたが、台所が一つしかなかったので、住める人は最大で8人位でした。周りが温泉街なので、お風呂はもともとついていません。

――温泉街の中にあったんですね!

越智さん:歩いて一分くらいのところにある共同浴場と契約して、月3000円くらいで、かけ流しの温泉に入り放題でした。

――「おんせんブックス」という屋号もそこから来ているんですか?

越智さん:そうです。Facebookページをつくるにあたって名前が必要で、周りが浅間温泉という地名だったので「おんせんブックス」にしました。(仮)としてつけた名前でしたが、一ヶ月経つとしっくり来ました。

――響きもいいですし、建物の雰囲気ともすごくマッチしているなと思いました。お風呂も本も毎日触れる身近なものだけど、組み合わせると新鮮ですね。

越智さん:私は長風呂しながら読むのが好きだったので、結構いい名前だなと思っています。名前には助けられていますね。

――どちらも心がほっと解放されるようなものですよね。「おんせんブックス」をされていた部屋は、どれくらいの広さだったんですか?

越智さん:六畳一間でした。そんなにたくさんは棚を用意しなかったので、全部で1000冊も置いていない状態ではじめました。

――お客さんはどういう方がいらっしゃったんですか?

越智さん:Facebookを見て来てくださる方が多かったですね。

――Facebook経由だと、本好きや、本屋さんになりたい人が来ていたんですか?

越智さん:そうですね、そういう人が多かったです。

同じ本棚でも、人によって響くものが違う面白さ

――越智さんは、もともと本はお好きだったんですか?

越智さん:好きでした。父や母も本好きで、家に本が溢れていました。

――小さい頃から自然に本がある環境だったんですね。仕事にするにしても、苦じゃない。

越智さん:もう、全然。

――本に携わる仕事の中でも、本屋さんがいいなって思ったのはなんでですか?

越智さん:本に携わる仕事だったらなんでもよかったので、最初は出版社か取次に行くと、だいたい全部のことが分かるだろうと思っていました。でも、先に本屋を開業してしまったので、やりながら考えようと思ったんですが、本屋が楽しくて。

――どういうところが楽しかったですか?

越智さん:来たお客さんがどういう本に興味を持つかが、人によって異なるのが面白かったですね。「おんせんブックス」では扱う本のジャンルをバラバラにしていたのですが、1000冊しかない同じ本棚のなかでも、みんな違うものを手に取る。

――同じ本棚を前にしても、人によって心に響くものが違うんですね。

越智さん:例えば、路上でも、みんな見てるものがバラバラなのと近いですね。

――確かに。植物を見ている人がいたり、マンホールを見ている人がいたり。世界の凝縮って感じがしますね。

越智さん:それに、FacebookとTwitterしか告知手段がないのに、それに反応して来てくださるっていうのが、まず奇跡。さらに来た人が何を選ぶかも興味深い。二段で面白かったです。日々、すごいな世の中って思ってました。

どんな人の心にも刺さる本棚に

――お店で扱っていた本は基本的に寄贈とおっしゃってましたが、ある意味自分で選ぶよりは、色んなジャンルの本が入ってきそうですね。

越智さん:そうなんです。ただ、買取の場合も何が入ってくるかわからないので、買い取った本によって棚が変わっていくのは基本的に一緒かな、と思います。ジャンルは設けず、小説以外に、歴史や実用書、料理の本、スピリチュアル系も置いて、小さい中でもなるべくバラバラになるように置きました。

――ジャンルを決めないのは意識されていたんですか?

越智さん:はい、あえてそうしていました。わざわざFacebookで調べてきてくださったお客さんが、欲しい本に出会えなかったらいやだな、と思ったので。

――お客さんを限定せず、どんな趣味でも刺さってほしい、ということですね。

越智さん:それが最低限の誠意かな、と思いました。東京みたいに本屋さんが密集していると、たとえば「映画だけの本屋」みたいに好きなジャンルに特化した本屋はできるかもしれません。

でも、おんせんブックスがあったのは、松本駅から車で30分の繁華街ではないエリア。特定のジャンルに特化できるほど、周りに本屋があるわけではありませんでした。電車とバスを乗り継いで来たお客さんが「僕はミステリーは読まないのに、ミステリーしかないのか」となってしまうのはいやだな、と思って。

――遠くから来る方もいらっしゃいましたか?

越智さん:はい、いらっしゃいました。一番遠いのは、北海道の方です。

――北海道から! どういう方だったんですか?

越智さん:塾長さんをされている方で、塾の一角で子ども向けの古本屋さんをやりたいということで、参考に見に来られました。

――ありがたいですね、わざわざ。

越智さん:あとは、名古屋か静岡からいらっしゃった方もいました。お子さんが学校に行けなくなっちゃって、家にいるんだったら小さく本屋でもはじめたらどうかな、とご家族で見学に来てくれました。

コミュニケーションが得意じゃないから、座っているだけでもコミュニケーションになるような場所を家族でつくりたいって。

――素敵なご家族ですね。越智さんが大学生ながら身近な空間に本屋をつくったことは、色んな人の希望になったでしょうね。わざわざすごいお金をかけて物件を借りたりしなくても、出来る方法で工夫すればやれるんだって。

越智さん:そうみたいです。

――自然体でやっていらっしゃったのもよかったんでしょうか。

越智さん:無理しても続かないじゃないですか。どこまでいっても学生だったのと、それを本業にしようと思ったらもっとお金がかかるなって思ったので。基本的にずっと週一回だし、アルバイトや学校に支障が出ないよう、無理がない範囲でやっていました。

「人は本屋に来て、こんなに話すのか?」
まちの面白い人たちが集う、日常風景

――#28のエイミーズトークでお話を聞いた「平井の本棚」さんですが、関わりはじめた経緯は?

越智さん:もともとTwitterでは知っていたんですが、「平井の本棚」で一ヶ月限定でやっていた「一箱古本市」に訪れたのがはじめてで、そのときに店主の津守 恵子さんともお会いしました。その後、偶然平井に引っ越してくることになり、共通の知人を介してあらためてつないでいただきました。

――平井へ引っ越されたのは偶然ですか?

越智さん:偶然ですね。夫の職場が御茶ノ水になったので、なるべく近くて安いところで探しました。引っ越しに伴い「おんせんブックス」の実店舗を閉めた段階で、その後の活動についてどうしようかと考えあぐねていたときでした。

そのタイミングで、店番に入っていた知人が抜けなければいけなくなり後任を頼まれ、店主の津守さんにも専業で入ってほしいとおっしゃっていただき、今に至ります。

――色々な偶然が重なったんですね。平井に来て気づいたことはありますか?

越智さん:あらゆることが違いますね。平井の本棚では、江戸の歴史や、東京街歩きみたいな本がよく動きますね。東京のこういう本って、東京で売れるんだなって思いました。

――独自に選書する本もあると思うんですが、選ぶ際になにか意識していることはありますか?

越智さん:私がすごく尊敬していた松本の古本屋さんが「何が売れるかわからないから、何でも並べてみるんだ」っておしゃってて、それはなるべく心がけています。自分にとっては読まないなと思う本でも、求めている方がいれば必要な本なので。

――今後やってみたいことはありますか?

越智さん:今は「平井の本棚」で手一杯ですが、もう一回、十年後くらいに自分のお店を持ちたいとはぼんやり思っています。

――「平井の本棚」のお仕事は、相当面白そうですもんね。

越智さん:はい、日々面白いです。津守さんが博識で興味の幅が広いので、さまざまな著者の方の本や、ジャンルごとに定番の本など、知らないことを色々と教えていただいたことで、知識や読む本の幅が広がりましたね。

――越智さんによって、平井の本棚がこれから変化していきそうですね。

越智さん:本屋として売上が立って回るようになると良いな、と思います。最近は買取が良くなってきているので、手前味噌ですが、面白い本棚になりつつあるなという感じています。

もっと面白い本が並ぶようになるといいですし、足を運んでくれた方に「こういうのを探してた、ちょうど読みたかったって」って思ってもらえるといい。あとは、さまざまなイベントも出来る場所なので、自分自身でも興味があることはイベントにしたいです。

――「平井の本棚」さんでは、温泉やお風呂のイベントも行っていますよね。越智さんの発案でしょうか?

越智さん:はい、そうです。津守さんと初めてお会いしたときに「私がよく湯治に行っている鳴子温泉に、いつか本棚をつくりに行きたいのよね」っておっしゃっていて。そうしたら、鳴子で本を選んだり、旅館に合わせて選書するイベントが実現したんです。

越智さん:これをきっかけに、平井でも報告会を行いました。その際に、愛読していた『しみじみシビレる! 名湯50泉 ひなびた温泉パラダイス(山と溪谷社 、 2017 )』の著者である、岩本薫さんをゲストにお呼びしました。おんせんブックスのあった浅間温泉をはじめ、あまり日の目を見ない温泉を取り上げた本で。文章もとても面白いんです。

――「おんせんブックス」でのご活動が色々とつながっているんですね。

 

越智さんの至福のひとときは「古本を磨く作業をしているとき」。雑巾に水で薄めた洗剤をつけてひたすら磨く、そんな「考えているようで考えていない時間」がお好きだそうです。

イベントのお知らせ

(3.13追記)下記イベントは延期になりました。

狸だらけのトークイベント「タヌキ大学」を開催します。
狸好きのあなたもそうでない方もディープな狸話で盛り上がりましょう!
2回目となる今回は「タヌキ哲学・タヌキってなんだ?」というテーマでトークを繰り広げます。

■日時 2020年3月14日(土)14:00〜17:30
1500円(ワンドリンク付き)、参加申込はこちらから
■場所 平井の本棚 2F(東京都江戸川区平井5丁目15)

「平井の本棚」
【WEB】https://hirai-shelf.tokyo/
【twitter】https://twitter.com/hirai_hondana

●インタビュー・写真 / 村田彩子
twitter ▷ https://twitter.com/botaworks
●編集 / 細野 由季恵

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