Tokyo Birthdays
リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある。
私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。
東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。
#6 お腹にいる誰かを起点とした未来について話し合うことと、自分から生まれる作品の、その価値の変化と死後を見越した長い長い先の話。
付き合いの長い女友だちとの昼食を終え、後ろ髪引かれながら私は六本木へ向かう。ここ数年お世話になっている先輩から受け取るものがあるからだ。
彼女のお腹には赤ちゃんがいて、間もなく産まれて来るその子のために彼女がここ最近準備をしていることなどを聞いた。出産への心の準備、彼女を取り巻く生活の準備、子どもが育つ環境への準備。
小田急線から千代田線へ乗り換えて乃木坂で降りる。地下鉄の階段を上がると突然、日が差し込んできた。青い空に映える黄色い葉っぱが目に入る。
先輩から必要なものを受け取ると、最近完成したという写真作品を見せてもらうことになった。大判と呼ばれるカメラで撮影され一枚ずつ手焼きされて出来たその写真プリントは、100年以上残るとされている。自分が死ぬまでの間に価値が出なくとも、「その先へと残る写真」という意識でいると先輩は話していた。
途方もなく遠い話に、私は自分に子どもができたとして、その子どもが成長した世界を想像してみる。私はどんな世界に向けて、一体今何を準備しているというのだろう。
川崎市麻生区。乃木坂駅から六本木ヒルズに行く途中。
■プロフィール■
文、写真 / 黑田 菜月
1988年、神奈川県生まれ。写真家。
*個展情報
黑田 菜月個展『友だちの写真』
場所|OGU MAG(田端)
期間|2018年12月14日(金)〜16日(日)
*黑田さんのポートフォリオサイトはこちら https://www.kurodanatsuki.com/